超重力場のお姫さま
「いくよ!ドクダミちゃん!!」
「こ……こぉい!」
青々とした芝生が広がる大きな庭に二人の少女の声が響いた。
すぐに青白い稲光がイヅナの体を包みこんだ。
しばしの沈黙の後、イヅナが構えた。
そして、次の瞬間……ぽーんという音が聞こえそうなくらいきれいにドクダミちゃんの体が宙に放り投げられた。
「うぼぉばああああぁぁぁぁ」
ドクダミちゃんは悲鳴を上げて、木の葉のように大空から落ちてくる。
「まずい!!」
俺は全力で走って、なすすべなく落下してくるドクダミちゃんを受け止めた。
すごい勢いで落下してきたので俺はキャッチした衝撃で地面に倒れた。
「いってぇ……。あー大丈夫か?」
「は、は、はいぃぃぃぃぃ」
ドクダミちゃんを立たせて、俺もよろよろと立ち上がると、イヅナがこちらに駆け寄ってきた。
「あのぉ大丈夫ですか?!」
「ああ、なんとかな……」
俺はズボンを払いながら言った。
「というか、お前ね、もうちょい手加減とかできないのか?!」
「す、すいません……気合が入りすぎちゃって……」
イヅナはそう言うと舌を出して笑った。
「あのなぁ……」
俺はため息をついた。
ドクダミちゃんはふらふらとこちらに歩いてくると、構えた。
「おっ!やる気だねぇ?!」
「大丈夫なのか?」
「は、はいぃぃ、大丈夫れすぅ」
ドクダミちゃんはよわよわしかった。
休憩した方がいいのではないかと思ったが、本人がやる気なので見守ることにした。
昨日のことだが、突然ドクダミちゃんから手紙が届いた。
俺は荷物運びのバイト中で、ちょうど昼頃にドーソンさんがサンドイッチと共に運んできてくれた。
そのまま昼飯を食いながら、ドーソンさんと世間話のついでに中身を見たのだった。
中には先日試験に合格したこと、そして戦闘訓練と魔物との戦い方を教えてほしいとのことだった。
俺は快諾することにした。
「すぐに返事書きなさいよ」そう言ってドーソンさんは封筒と便せんを渡してくれた。
「手紙なんてしばらく書いた記憶ないですね」
俺がそう言うと、ドーソンさんはすごくいろいろ教えてくれた。
「丁寧に書くのよ」と、100回は言われた気がする。
そうして今日を迎えたわけだ。
ドクダミちゃんの家に来てみれば、すでにイヅナがいて、すごく張り切っていて、やる気まんまんだった。
何を食えばこいつは朝からこんなに元気になれるんだ?と思った。
「私!今日はやりますよ!!」と開口一番、鼻息を荒くしてそう言ったイヅナを見て、俺は若干不安な気持ちになった。
話し合った結果、ドクダミちゃんの提案でまず、実戦訓練をしてみることにした。
「私は戦ったことがないので……とにかくそれに慣れたいのです」
俺が思うにドクダミちゃんには確かにそれが一番必要なことのように思えた。
満場一致でその提案を受け入れると、みんなで庭に出た。
そして、とりあえず俺と訓練する予定。……だったのだが。
「ボス!味見は私がやりますよ!ボスはその後で行きましょう!!どっしり構えててください!」
イヅナが元気に立候補した。
すーーーーごい不安はあったが、まぁイヅナの実力も見たかったしちょうどいいかと思い、俺はその提案を受け入れた。
それで冒頭の騒動となったのだった。
仕切りなおして、俺はドクダミちゃんの後ろに位置取る。
「よし、じゃ気を取り直してもう一回やろう」
俺は向き合う二人に声をかけた。
「何かあれば俺がすぐに助けるが……イヅナ!絶対手加減はしろよ」
俺は向かい側にいるイヅナに注意した。
「はい!ボス!!わかりました!今度は大丈夫です!」
イヅナが元気に返事する。
こいつ、いつも返事だけはいいんだよな。
俺は頭をかきながらため息をついた。
「よし、じゃいくぞ!よーい……はじめ!」
俺は二人に号令をかけた。
「いくよ!ドクダミちゃん!」
号令をきいてイヅナが戦闘態勢に入った。
イヅナは雷を体に帯電させて身体能力を上げることができるようだった。
その速度は今しがた初めて見たのだが、結構なスピードであった。
あの速度を見極めれる冒険者は少ないと思う。
「こ、こおぉぉぉい!」
ドクダミちゃんが迎え撃つ構えを見せた。
ドクダミちゃんは前回の反省を生かし、今度は相手が動き出す前に魔法の準備を始めていた。
ドクダミちゃんの周りに風が集まる。
「旋風……」
「遅い!」
それを見たイヅナが、ドクダミちゃんの詠唱を待たずに飛びつく。
「うぎやぁ!」
ドクダミちゃんが悲鳴を上げる。
イヅナはドクダミちゃんに組み付くが、ドクダミちゃんも今回はやられてばかりじゃなかった。
「もごもご~~!」
何を言ってるか分からなかったが、ドクダミちゃんの集めた風は威力を増し、ドクダミちゃんを守るように集まりだした。
そして風は渦まき、イヅナを引きはがそうと突風となり襲い掛かった。
「あわわわわ!やるなぁ~!でも、甘い!」
イヅナはそう言うと、帯電していた電気を手に集中させて、ドクダミちゃんに向けた。
「あびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃ!!」
イヅナが放った電撃でドクダミちゃんが感電する。
俺はすぐにドクダミちゃんに駆け寄る。
数秒の放電の後、風は散り、ドクダミちゃんはその場にゆっくり倒れた。
「ふっ……私の方が一枚上手だったね……ドクダミちゃん!」
イヅナが勝ち誇る。
俺は倒れるドクダミちゃんをぎりぎりで支え、すぐに勝ち誇るイヅナを小突いた。
「お前!やりすぎだって言ってんだろ!!」
「いたい!すいません!ついやっちゃうんですよぉ~!!」
「こいつ……」
俺はイヅナを掴もうとした。
イヅナは軽やかにそれを躱し、そして走って逃げてった。
「こいつ~!よくもやりよったな~!!」
逃げるイヅナを、端で様子を見ていたレイシーが追いかけはじめた。
イヅナはきゃーっと悲鳴を上げて、二人の追いかけっこが始まった。
あいつらな……。
俺は、ドクダミちゃんを見る。
ドクダミちゃんは俺の手の中で、目を見開きあへあへ言いながら、よだれを垂らしていた。
俺は懐からハンカチを取り出しドクダミちゃんの口元をぬぐった。
なんでこの子はいつも目を全力で見開くんだ……目を閉じてたらかわいらしいところもあると思うが……。目を見開くと、とにかく目力が強くて怖い。
何度見ても、目を見開いて悶える姿はすごく不気味で、どっちかって言うと魔物に近いとすら感じる。
「だ……大丈夫ですかぁ?」
しばらくすると、仲良く追いかけっこしていたレイシーがイヅナをヘッドロックで捕まえて引きずりながら様子を見に来た。
「あー、ダメそうだな」
俺がそう言うとレイシーがイヅナを締め上げた。
「ほんま、や・り・す・ぎ・やで~、イヅナちゃん!!」
「いでででで、すみません~」
「まぁとりあえず休憩するか。その後は……うん。もう俺が相手するよ」
「それがええですね~」
「ええ?!私はクビですかー?!」
「そりゃそうだろ」
「そりゃそうやで、イヅナちゃん」
「う、うううううう」
少ししたらドクダミちゃんが意識を取り戻したようだった。
「よぉ、大丈夫か?」
俺が極力何事もないように、声をかけた。
「ら、らいりょうぶれふううう」
どう見ても、大丈夫じゃなさそうだった。
「うん。よし。とりあえずいったん休憩しよう。このバカにはもう任せられないから、元気になったら次は俺とやろう」
「う、うう、う、は、はい」
ドクダミちゃんは小刻みに震えながら、そう言った。
「とりあえず、立てるかい?」
俺がそう言うと、ドクダミちゃんはうなずいたので、俺はゆっくりと立たせてみた。
ドクダミちゃんはなんとか立ち上がることができたが、生まれたての小鹿のようにぷるぷるぷるぷるしていた。
「ダメそうだな……。まぁしかたない」
俺はそう言うと懐からマッチを取り出し、ドクダミちゃんに火をつけた。
俺が放った火は一瞬でドクダミちゃんを包みこんだ。
するとドクダミちゃんの震えはぴたりと止まり、そして……。
「こっコアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
突如、閑静な中庭にドクダミちゃんの咆哮が轟いた。
「な、なんだぁ?!」
俺は困惑する。
「ど、どうしたの?!」
「急になにぃ?!」
二人も驚いたようだった。
「こおおおおおおおおおおおおおおおっ……ぱああああああああああああああああ」
ドクダミちゃんは力を溜めるような動作を取ると、すぐに今度は胸を張って大空に向かって叫んだ。
それと同時に俺が付けた火は高く燃え盛り、炎となって天を貫いた。
「ボ、ボスぅ!こ、これは一体?!ドクダミちゃんに何が起きてるんですか?!」
「い、いや、わ、わからん」
この時ばかりは俺も珍しく、何が起きてるのかわからず、立ち尽くしてしまった。
「うおおおおおお!ドクダミちゃんが燃えとる!燃え盛っとるぅぅぅぅ!」
レイシーが騒ぎ立てる。
「わ、私のカオスが目覚めりゅっりゅっりゅうううううううう」
ドクダミちゃんはそう言うと首をかくかく細かく何度も左右に振った。
ドクダミちゃんの髪が逆立ち炎が黄金にまばゆく輝き始めた。
「まぶしくて……もう直視することもできないぃぃぃぃいぃーーー!」
「うおおおお!?産まれる!新たな何かが産まれよるぅぅぅ!!」
二人がわけのわからないテンションになり始めた。
「ああああああああ!と、特異点が私の中に流れくるぅううう!いっいっいぃぃぃぃ!!超新星の輝きが!私の中に時間軸を形成するぅ!!重力場のニュートリノがホール化の波にのまれて、有象無象の魚介類が揮発性の記憶域から導かれる情報が私の中でビルドスクラップぅぅぅぅう」
ドクダミちゃんが叫ぶ。
それに呼応して黄金の炎がドクダミちゃんを中心に集中し始める。
「な、なにが起こるんだぁぁあああああ」
「あ、あれはもう、今までのドクダミちゃんやない!それを超えた存在や!スーパードクダミちゃんの誕生やぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
二人のテンションもピークに達しようとしていた。
「あああ、事象の地平線が地底から湧き出る!神は魔王と取引中!!魔王の供物は神の子供!死の王子が世界を揺らす!勇者が事象の地平をもたらし、そして、ひ、ひもが揺れる!ひ、ひ、ひもが回る!回る!!ひゅんひゅんひゅんひゅんとっとっとぉおおおお」
ドクダミちゃんがさらに訳の分からないことを叫ぶ。
「こ、これが!!超重力場の!お姫様ぁぁぁぁあぁあああ!!」
俺は静かにドクダミちゃんの火を消した。
「ぽああああああ!!あっあっ……あ、あっ、あ、ああ……」
火が消えたら、ドクダミちゃんは脱力し、膝から崩れ落ちた。
そして、両膝を地面につき、空を見上げて……動かなくなった。
俺は恐る恐るドクダミちゃん近づいて様子を見た。
ドクダミちゃんは目を見開いたまま真っ白に燃え尽きていた。
「う、うん。あー、その……あんまり太陽を見ると……危ないぞ」
俺はそう言うとドクダミちゃんの瞼を手で撫でて閉じた。
そして背中から抱え上げると、横で騒いでいた二人を見た。
「とりあえず……一旦部屋に戻ろうか?」
「あ、はい」
「う、ううい」
俺は頷くとドクダミちゃんを部屋に運んだ。
周囲には静けさが戻っていた。
遠くから小鳥の鳴き声が聞こえてくる、玄関を開けるとシルアさんの作る料理のいい匂いが鼻腔をくすぐった。
日差しは強いが、涼しい風が遠くから吹き込んでいて、庭の芝生は青かった。




