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「お友達になりましょう」

「お疲れさまでした、ポートマルリンカーさん。試験は合格です」

ルネラン先生はさらっとそう言った。

「ほえ?」

あまりにあっさりだったので、つい変な声が出た。

「次の試験は予定通り3日後となります。時刻は本日同様です。場所は第一戦闘試験場で執り行います」

ルネラン先生は淡々と続けた。

「なにか、質問はありませんか?」

「は、はい!ありません」

私は姿勢を正し返事した。

「よろしい。では今度は遅刻なさらないように気を付けてください」

「は、はい……」

「それでは本日の試験はこれで終了です。お疲れさまでした。退室を許可します」

私は軽くお辞儀をすると、ぎこちない歩き方で扉の前まで歩いた。

そして、扉の前で振り返り、再びルネラン先生にお辞儀をした。



「一つよろしいですか?ポートマルリンカーさん」

私が扉を開けようとすると、ルネラン先生が声をかけてきた。

私はあわてて振り返り返事した。

「は、はい。な、な、なんでしょうか?」

「単純な疑問なのですが、あなたは何故急に今回の試験を受けようと思ったのですか?」

「と、友達が冒険者になるんです。そのお手伝いをすることになって……。それで……です」

「友達?その人は……何者ですか?本校の生徒なのですか?」

「い、いえ!友達はプントドロップ通りで鍛冶屋をしています。昔、助けてもらってそれで……」

「その人は信用に足る人物ですか?」

ルネラン先生の目つきが鋭くなった。

「は、はい。とてもいい人です」

「そうですか。まぁいいでしょう。しかし忘れないでくださいね。この試験に合格するということは、あなたは伝統あるシャリオン校の名前を常に背負うことになるのですからね。それに見合った行動をこころがけてください」

「は、はい」

「理解いただけたら幸いです。では、お気をつけて。引き留めてしまって申し訳ないですね」

私は、はいと返事して退室した。



部屋を出ると校舎は静まり返っていた。

遠くから聞こえていたクラケットを練習する声も、もう聞こえない。

いつのまにか日は傾き周囲を茜色に染めている。

窓の外に目を奪われていると、鳥の鳴く声がどこかから聞こえてきた。

ああ、もうこんな時間なんだ。

窓から吹き込む風が妙に涼しくって気持ちよかった。

それで初めて気が付いたけど、私、全身汗でびっしょり濡れていた。

帰ろう。

私は、階段に向かった。

その時にはっと気が付いた。

そういえば……私、お弁当のバスケットをベンチに置きっぱなしだった。

まずい。誰かに取られてるかも……。

私は焦って、走りだしてしまった。

そうなるとたいていの場合は……いいことにはならない。

案の定、私は廊下を曲がったところですぐに誰かにぶつかってしまった。

やっちゃった。

前を見ていなかったから……。

私は、慌てて立ち上がり、頭を下げた。

「す、す、す、すいません。急いでいて……その、あの、あの……あ、あ、あれ?」

私の目の前にいたのは、先生でも生徒でなかった。

客員の方だ。

首から許可証を下げているから間違いがない。

でも、その、何というか見覚えがあるというか……嘘だ、この人は……。

「え、ええ、私は大丈夫ですよ。あなたの方こそおケガはありませんか?」

白いてかてかした魔法衣を着た女の人が私に声をかけてくれた。

「は、はい!大丈夫です」

「そうですか。それはよかった」

女の人はそういうとにっこり笑いかけてくれた。


正直言うとこの時私はもう、頭の中がぐわんぐわんしていた。

目の前にいるこの人!間違いない、この人は……。

すごいいい匂いがする。それにすごい、きれいだ。

なのに体は、ぶつかった時すごくしっかりしていて、すごく大きく見えた。

それに体から放出されるこのオーラ!後光がさしているように見える。

間違いないこの人は……ステラ様だ。


「あ、あ、あの。失礼なんですが、その、もしや……あなたはステラ様ですか?」

私は足をがくがく震わせながらそう聞いた。

するとステラ様はきょとんとした表情で私の顔を覗き込んだ。

「ええ、私はステラですが。私をご存じなのですか?それに様というのは……?」

「う、う、ううひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」

私はたまらなくなって悲鳴を上げた。

足が私の意思と関係なく左右に大きく揺れた。

もう、立っているのも、やっとって感じだ。

「だ、大丈夫ですか……?」

ステラ様は眉をひそめた。

「ら、らららららら、らいろうぶでふうううう」

もう呂律も回らなかった。

呼吸も浅くなってるのが分かる。

顔もきっと真っ赤だろう。すごく熱い。

「そのようには……見えません。とりあえず、落ち着いてくださいねぇ」

そう言うとステラ様は懐から飴を取り出して渡してくれた。

「これをなめると落ち着きますよ」

私は、あわわしながら受け取り震える手で飴を口に運んだ。

飴はすっごく甘くて、それでいて、すーっと抜けていくような感覚があった。

「どうです?落ち着きましたか?」

「は、はい。ありがとうございます。すごくおいしいです」

「よかった」

ステラ様はそう言うとまた私に笑いかけてくれた。

もう私は泣き出しそうだった。

「わ、わたし、ずっとステラ様みたいになりたくて……」

「え?そうなのですか?」

「は、はい。わ、わたしアルガートン様に昔助けていただいたことがありまして……」

「そうですか」

ステラ様はやさしいお顔で私の話を聞いてくれた。

「まだ、冒険者パーティを組む前でしたけど、ずっと好きで……」

「ええ」

「それと別で、シャリオン校にいたステラ様の噂も聞いてて……それであこがれてて」

「ええ」

「で、そのあとアルガートン様のパーティに、ステラ様が!私もうすごくうれしくてぇぇ」

「ええ」

「わ、わ、わ、私もわたしも、ああなりたいって、それで、この学校に入って……それで今冒険者になるための試験を受けてるんです!」

「そうなのですか?あなたも冒険者に?」

「は、はい!わたしずっとあのステラ様の卒業スピーチを聞いて涙が出て、それから、ずっと!」

「ありがとうございます。あなたのやさしさはよくわかりましたよ。冒険者になれる事、私も応援しています」

「あ、あ、あ、ありがとうございます~」

私の目からは、自然に涙がボロボロこぼれていた。

何を言ってるのか、要領を得ない説明だったけど、それで、それでも応援してもらえるなんて……夢みたいだ。

「試験には合格できそうですか?」

「はい~、みっかごにぃ……うっぐ、戦闘試験ですぅ~」

「え?そうなのですか!すごいではありませんか!」

「はぃいいい~、合格したら、北部魔界に簡単な作業をしに行きます~」

「もうそんなに話が進んでいるのですか?!今、何年生なのですか?」

「に、2年ですぅ~」

「本当にすごいですね。失礼ですが、お名前は?」

「ドクダミですぅ、ドクダミ・ポートマルリンカーと申しますぅ~」

「ポートマルリンカー?というとまさか、あなたポッポさんの?」

「は、はい~。ポットランジア・ポートマルリンカーは私の父です~」

「そうですか!それは、それは!以前、私、お父様には大変お世話になりまして……」

「それって、北部魔界の件ですか?」

「ええ、そうです。あの時は本当に命の危険もありましたから……」

「はぃい、大変だったとはモリー様からもぉぎいでまずぅう」

「ええ……あの時みんな、大変でした、あの人も……」

ステラ様はそう言うと急に表情が暗くなった。

「え?」

ステラ様は眉をひそめて、そう言った。

私達はしばらく、無言で見つめあった。

その間ステラ様は表情を何度か変えながら、何かを考えているようだった。

そして、何度か言葉を飲み込んで……、しばらくすると、真剣な顔を私に向けて語り掛けた。

「もしかしたら、聞き間違えかもしれませんが、今、モリーさんといいましたか?」

「ううう、う、う、う、はいぃ。すいません……」

私は反射的に謝った。

「謝ることではありませんよ。それで?あの方とはどういった関係ですか?」

そう言う、ステラ様の顔が信じられないくらい冷たかった。

「あ、あの、と、友達がそのぉそれで……」

「ええ」

「こ、こ、こ、今度一緒に冒険に行くことになってましてぇ……」

「そぉおうなのですかぁ」

ステラ様はそう言うと大きくにっこりと笑った。

とっても、怖い笑顔だった。

「わかりました。ありがとうございます。それで、あの……」

ステラ様は私をまっすぐ見て言った。

「ドクダミさん。よろしければなのですが……私達、お友達になりませんか?」

「ほえ?え?え?ええええ?!」

夢にも思わなかった言葉だった。

「だめ……ですか?」

「い、い、い、いえ!そ、そ、そ、そぉんなことは!!で、で、ででも、そんなの恐れ多くってぇ……」

「そんなことありませんわ。同じこのシャリオン校の魔法使いではないですか。そして共に冒険者。でしょう?」

「で、でもぉほんとうに、い、い、い、いいんですかぁ?」

私がそう言うとステラ様は一呼吸を置いて、真剣な顔をした。

「正直に言いますとね。冒険というのはあなたが思っている以上に危険なのですよ」

そういうステラ様の視線が……すごくまっすぐで、それで……。

「あなたが優秀で素晴らしい方だというのはなんとなしですが、わかりました。でも、このまま魔界に……例えそれが簡単な任務だとしても、何が起こるかはわかりません」

ステラ様の話は、モリー様から聞いたそれと一緒だ。

「確かにテキストはありますけど、経験に勝るものはありませんわ。ですので、ね。私がそのお話をしたいんです。もちろん私も同じ理由でドクダミさんの冒険のお話も聞きたいんですよ」

「う、う、う、ううううう」

「それに、私なんかだなんておっしゃいますがね?ドクダミさん、あなたは大変貴重な人材なのですよ?」

「そ、そんなぁ……」

「これは嘘とか媚売りで言っているのではありませんよ。本心です。もちろんご存じだとは思いますが、この学校を出て冒険者になる人はほとんどおりません」

ステラ様の言葉に私はうなずいた。

「冒険者の中には魔法を使える人が貴重です。スポット的に仕事をすることはあっても、それを生業にする人はいません」

「は、はい」

「同じ境遇の人がいる。それは何にも代えがたい価値があるのです。私にとっても、もちろんあなたにとっても」

「う、う、う、うううううう」

「だから、ね?お友達になりましょう?もちろん、よければですが……」

ステラ様はそう言って私に手をさしだした。

「よ、よよよよよよよよよよろしくおねがいいたしますうううううう」

私は一秒でその手をつかんだ。

涙で前が見えなかった。

うれしさで心がいっぱいになった。

涙でゆがむ目でステラ様のお顔を見ると、微笑んでいる顔が見えた。

なんだか、すごく悪そうな顔に見えたけど……きっと気のせいだと思う。


私達は固い握手をし、再開の約束をして、私達は別れた。

私はふらふらと帰路に就いた。

ぽかんと口を開けて、上を向きながら歩いた。

お家に着いた時、シルアさんとレイシーちゃんが玄関前で出迎えてくれた。

二人にその姿を見られて、私はすっごく心配された。

「どうしたん?!あへあへ言って!!まさか、落第したショックでおかしなってもうたん?!

「まさか!お嬢さん、変な男に変なもん打たれました?!許されへん!」

そんな感じですっごく心配された。

私は誤解だと伝えて、そして今日あったことを話した。

二人はすっごく喜んでくれた。

「そんあことあったら、お弁当なんて忘れてもうて当然やね!しゃあないしゃあない!」

シルアさんが、声を上げて笑った。

「す、すいません……明日取りにいきますぅぅぅ……」


その後は祝勝会だった。

そして、私とレイシーちゃんは夜中まで次の試験のためにいろんな話をした。

途中シルアさんが部屋に来て、怒られるかと思ったけど、特別ってことで夜食を置いてってくれた。


私達は、出て行こうとするシルアさんを引き留めて、そしてその日は眠くなるまで三人で話しをした。

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