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実技魔法試験

一息に3教科分の試験を終わらせた午後1時過ぎ、私は遅めの昼食をとっていた。

グランドの端っこの木陰にあるベンチに腰掛けてシルアさんからもらった弁当箱を開いた。

中身は大きなサンドイッチと、小さなサラダ、そしてフィッシュフライだった。

私は水筒からお茶を出して一口飲み、食事を始めた。

遠くの方には選手たちがクリケットの練習をするのが見える。

選手たちも食後なのだろうか、軽い運動をしているようだった。

私はもぐもぐしながら、テキストを広げていた。

試験に出て気になった点や微妙な点を確認する。

次の試験は、採点などの関係上、15時より開始となっている。

2時間くらいは時間があるので、その間に食事しながら、自己採点中というわけだ。

試験はそれぞれ早めに終わらせたし、見直しも完璧にした。

自信はあるほうだった。

その自身の通り、自己採点の結果は9割解答できていることを確認できた。

少し安心した。

私は一息ついて、食事に向き合った。

せっかく作ってくれたんだからきちんと食べないとな。

日差しは強いが、風もあり涼しい午後だった。



気が付いたらチャイムが鳴っていた。

え?っと思って体を起こす。

どうやら、いつの間にやら昼寝していたらしい。

昨日の買い物の疲れか、緊張感からか満腹感からか分からないけど、とにかく寝てしまっていた。

「い、い、今……何時?」

冷汗が出た。

すぐに校舎についている時計に目を向けた。

14:55分……?さっきのは、15時の予鈴だったみたいだ。

私はすぐに走り出した。ここから実習場までは……わかんないけど間に合うかどうか微妙だ。

正直に言うと先生方は今回のインターン試験については後ろ向きな姿勢だと感じている。

元々校内には、冒険者を下に見る傾向がある。

伝統ある魔法学校を出て、泥にまみれるフィールドワークなんて……って雰囲気だ。

それに合わさって私自身の評価も……正直低いと思う。

そんな状況であるから、もしも、万が一遅刻なんてしたら……きっと一発アウトだ。

私は脇目も振らずに走った。

気が付いた時には実習場の前まで来ていたが、時計の針は15時を指そうとしている。

すでに秒針の世界だ。

私はあわてて、実習場2階にある、魔術実習場に駆けた。

この学校は様々なマナーがある。

その一つが教室に入る際はノック&お辞儀であいさつだ。

教授が先に中にいる可能性がある場合は必ずやらなければならない。

私は着くや否や、ドアをノックした。

そして本当はマナー違反だけど、返事を聞く前に扉を開けて、お辞儀した。

「ポートマルリンカーです。失礼いたします」

私はそう言って、実習場に入ろうとした。

すると……

「お待ちなさい」

実習場の中から私を制止する声が聞こえた。

顔を上げると実習場の中央に先生が一人背中を向けて立っていた。

先生はゆっくりと振り返るった。

顔を見せたのはルネラン先生だ。

ルネラン先生は、魔法史の先生で学生指導員も兼任している。

つまりは、一番厳格で、融通が利かない、怖い先生だ。

ルネラン先生は無言で入り口で棒立ちになっている私に近づいてきた。

下手な行動はできない。何が導火線になるか……わからない。

ルネラン先生は私の前まで来ると、ため息をついた。

そして無言で、私の頭についていた葉っぱを取ると、実習場の中に戻っていった。

ルネラン先生は実習場の中央で振り向くと言った。

「何を呆けているのです。時間はもうとっくに過ぎていますよ」

私はそれを聞いて、慌てて入室した。

そして先生の前まで行きお辞儀をした。

「申し訳ございませんでした。本日はよろしくお願いいたします」

私が顔を上げるとルネラン先生は眉をひそめて私の顔を見ていた。

そして首を振ってもう一度ため息を吐いた。

「ポートマルリンカーさん。正直申し上げますとあなたの今回の行動は校内ではあまりよく思われておりません」

まぁ……そうだろうとは思っていたけど、面と向かって言われると少しつらかった。

「よって、本来ならばこの時点で即刻試験中止……としたいところ……ですが」

ルネラン先生は一呼吸置いた。

「午前中の試験結果が良好だったこと及び、マナーには問題はありましたが、一応!試験開始時間前に入室を済ませたということ、そして試験資材の提供したということで今回は特例として試験を受けることを許可します」

ルネラン先生は私から回収した葉っぱをくるくるさせながら、あきれたって感じでそう言った。

「は、はい。先生のご温情に深謝致します」

「ふん。よろしい。では、探究者インターン試験を執り行います。本試験では魔界を行く探究者として必要な技量を有するかを見ます」

「は、はい」

「本試験では、補助具を用いることを許可します。しかし魔力増強剤などは許可しません。違反は発覚次第即落第です。後日検査の結果で、使用が発覚した場合も同様です。例外はありませんので注意ください」

「はい。承知しました」

「では、試験の概要を説明します。この試験では、あなたの主属性以外の魔術を操れるかどうかを試します。つまりは魔法を使えるかどうかということです」

ルネラン先生はそう言うと持っている杖を軽く振った。

すると、実習場の中央に電気の溜まり場が発生し、閃光と共にテーブルが現れた。

ルネラン先生は懐から取り出したコップを机の上に置くと、水を空間から出してコップを満たした。

そして、その上にさっき私から、回収した葉っぱを一枚浮かべた。

「では、ポートマルリンカーさん、魔術とはなんですか?」

ルネラン先生は机越しにそう聞いてきた。

「魔術とは、道具などを用いて己の魔性を発現する術です」

「よろしい。では、魔法とはなんですか?」

「魔法は魔力変換の法則を操り、己の魔性を超えて魔術を発現する術です」

「その通りです。魔法とは自律と知識により発現されます。己を律し、魔力の流れを知ることで初めて人間は超常的な能力を得れるのです」

ルネラン先生は続ける。

「魔法を見れば、術者の程度が知れます。知識不足ならば魔法は不安定なものになるでしょう。自律が甘ければ魔法は暴走します」

「はい」

「魔法は強力です。無知や不安定な心は破滅を招きます。そのことを常に心がけるように」

「はい」

「よろしい。では、今から魔法実技試験を開始いたします。どうぞ前へ」

ルネラン先生にすすめられて、私は前へ出る。

「ポートマルリンカーさん、あなたの主属性は水でしたね」

「はい」

「わかりました。では、今からこのコップに水以外の属性で魔法をかけて頂きます」

「はい」

「主属性以外ならどの属性を選択するも自由です。あなたの操る魔法でこのコップと葉っぱに3つ以上の変化を与えてください。ただし、事前にどういう変化を起こすのかを申告してください。その内容と再現度により採点をします。一定基準以上の技術を有すると認められた場合のみ合格となります」

「はい」

「では、何か質問はありますか?」

「3つの変化は一つの属性で起こしてもよろしいですか?」

「もちろんです。ほかに何か質問はありますか?」

「いいえ、ありません」

「よろしい。では、始めてください。健闘を祈ります」



私は深呼吸をした。

水は魔力と親和性が高い。

魔法をかける事自体は簡単だろう。

しかし、小さなコップだ。

先生は言わなかったがおそらく替えのコップなどはない。

壊してしまったら、アウトだと思う。

この課題は評価が分かりにくい、魔法を使うものとして何をすればいいのかを考えればいいとは思ったけど、正解が見えなかった。

ただわかってることは、チャンスは3回あるってことだ。

私は目をつぶりとりあえずは感覚に身を任せて見ることにした。

最初に浮かんだ像は……やっぱり、火だった。

「では、まずは火を使って水を沸騰させます。ただし葉っぱは燃やしません」

「よろしい。では、どうぞ」

私はコップを見た。

そして手を胸の前で組んだ。

「灯火発起」

私は、唱えて、ゆっくり手を離した。

ちょうど小さなボールひとつ分くらいの隙間を作り、私はそこに魔力を集めた。

「杖法錬気」

魔力を小さな杖の形に変化させる。

自分の中から発現した魔力は一旦杖の形にすると安定する。

それを変形し事象を起こす。

自分で言うのもなんだけど、杖を持たずに魔法を発現させるのはかなりの技術を要する。

どんな小さなことでも、これを成功させれば技術は認められるはず。

私は杖を丸いオレンジ色の球状にし掌の上に浮かべた。

私の握りこぶしよりも一回りちいさくかわいい光だ。

「火魔法、熱球綿火」

私は熱球をコップに向かってふっと吹いた。

熱球はふわりと浮かんでゆっくりと飛び、そしてコップを包んだ。

熱球はコップの半分ほどを包み、ゆっくりと熱した。

しばらくすると水が白く濁り、気泡が上がり始めた。

数分もすると、水はぐらぐらと揺れ動き、白い煙を出した。

私はそれを確認すると熱球をひっぱりだし、掌の上で吹いて消した。

ルネラン先生はそれを見てうなづいていた。

「次は冷やします」

私はそう言うと同じやり方で今度は氷球を作り上げた。

「氷魔法、蒼蟲氷花」

私が作った氷球は熱球と同じ動きでコップを冷やした。

形は少しテントウムシによせた。

意味はあんまりないけど、水の形状変化と属性変化を同時に起こさせるのを見せる為に一応そうした。

氷魔法は分類的に水魔法とは別に考えられるから……多分大丈夫だと思ってこれにした。

現に先生は何も言っていない。

もう少し詳しく言うと、これは氷と風を合わせた混合魔法だ。

だから、大丈夫だろう。

そんなことを考えていると、氷蟲はコップを徐々に冷やし、そしてゆっくりと結晶を作り始めた。

全体がある程度固まったのを確認して私は氷蟲を引っ張り出し、掌の上で吹いて消した。

ルネラン先生は無言だった。

よし、次が最後だ。

今までの様子では、いいのか悪いのかよくはわからない。

だけど、魔法だけは自信があるんだ。

いや、自信がなくてもいい、受からなきゃいけないんだ。


私は深呼吸し、考えた。

校風から考えると、単純で暴力的なことは評価につながりにくい傾向にあると推察できる。

それに戦闘的なスキルなら次の実戦試験で見るはず。

うん。今までやったことは間違いじゃない。

それなら……。

「最後は、コップから氷だけを移動させます」


他属性の副属性の発現。

成功させたのは何回かしかない。

今も成功率はよくて50%くらいだと思う。


ここで失敗したら、ダメかな?

そんな危ない橋を渡らなくても、簡単なものを成功させたら合格できるかもしれない。


でも、私は……冒険者だから。

ここで挑戦するんだ。

私の目的は、超えていくことだ。

過去の私を、嫌いな私を、助けられてばかりの私を、超えたい。

ここを超えてもまだ足を引っ張らってないってだけでしかないから。

だから、これくらいの試練を……乗り超えなくちゃ話にもならないんだ。


そう思うと涙が出そうになった。

手足が震えてきた。

今までは興奮によって、マヒしていた感覚が平常に戻ってきた。

呼吸が荒くなる。

ルネラン先生はまっすぐ私を見ている。

視線を外さず、まっすぐと、私を見ている。

心臓が高鳴る。

いいんだ。これで魔力がみなぎる。

私は大きく息を吐いて、そして手を構えた。

「閃光疾駆」

私はイヅナちゃんを思い浮かべる。

そして掌を帯電させた。

イヅナちゃんはすごい。

いつだって私達を置いて遥か彼方に走っていく。

まるで羽が生えているかのように、軽々しい足取りで、どこまでも駆けていく。

そのイメージだ。

重力の存在を忘れさせるような、すぐに消えていくあの背中を、流れる髪を、思い浮かべるんだ。


ごく自然に。

それができて、当然と、そう思う。


私は閃光が走る右手でコップをつかんだ。

そして、左手をすぐ横にかざした。

「つかむというよりは……ぶっ飛ばすイメージだよ。掌からぶっ飛ばす!そういうイメージ」

イヅナちゃんの言葉が脳裏をよぎった。

ぶっ飛ばすか……。


そう思った瞬間、私は一息に魔力を掌に注いだ。

まばゆい閃光が掌から放たれた。

あまりの光に私はとっさに目を閉じる。

そしてすぐに、バチンという音がしたかと思うと、次の瞬間には、左手の上に冷たい感覚があった。

私は目を開ける。

確かに左手にはさっきまでコップの中にあった氷が乗っていた。

成功だ……。

私はまた泣きそうになった。

やったー!と声を上げそうになった。

しかし、これは試験。

私は氷を机の上に置くと、ぺこりとお辞儀していった。

「以上です。ありがとうございました」


そう言った瞬間、全身から汗があふれ出た。

そのまま崩れ落ちそうになったが、何とか耐えて顔を上げた。

ルネラン先生は、ゆっくりと会釈を返してくださった。



そうして、私の初日の試験は終了したのだった。

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