試験当日
朝が来た。試験の朝だ。
準備万端、体調も完璧、ばっちり起きた朝7時。
私は大きく息を吸い込むと、両手で頬を叩いた。
よし。頑張ろう!
「おはよう。気合ばっちりやね~」
隣で寝ていたレイシーちゃんも起きだした。
「今日こそやね。二日連続でパーティできるって信じてるから」
「ありがとう。でも……試験は今日だけじゃないからね」
今日の試験は学科と実技試験。
いわゆるペーパーテストが3教科、歴史に、法律、魔術学。
その後、魔術の実技試験で出された課題をこなさなければならない。
実技課題の内容はわからないが、最低要項が3つ以上の属性を操ることだ。
正直言うとすごく難易度は高いと思う。
それが終われば最終試験である、実戦試験がある。
「せやね。でも、信じてるから。だから、ケガだけはせんとってね」
「うん。がんばる」
私がそういうとレイシーちゃんが頭を撫でてくれた。
最近なんか、すごい褒められるようになった。
家にこもってった時は何にもなかったのに……。
「ほんなら、身支度しますか」
「うん!」
私達はそう言うと部屋を出て洗面所に向かった。
ばっちり髪をセットして、しっかり制服に着替えて、ダイニングに向かった。
ダイニングにはもうすでにシルアさんが朝食をそろえて待っていた。
「おはようございます。どうぞ召し上がってください!」
「ありがとう!」
私は席に着いて食事を始めた。
しばらくしたら、お父さんが起きてきた。
「お父さん、おはよう!」
「ドクダミ、おはよう。調子はどうですか?」
「うん!ばっちりだよ」
「そうですか」
「お嬢さん、今日はえらい元気ですねぇ!合格の暁には私も頑張らせてもらいますからね!」
「ありがとう。シルアさん」
「ははははは、これで落ちたら笑われへんなぁ~」
レイシーちゃんがそう言った。
空気が固まった。
「あ……あう……」
「おい。あんたは~!ほんまに~!空気を~!読め!!!」
「いっいたいいたい!!!暴力反対!」
シルアさんはレイシーちゃんの頭をぐりぐりした。
私とお父さんは、はははと笑った。
「でも、そうだね。まだ、受かったわけじゃないから……油断しちゃだめだよね」
私はそう言ったけど、二人には届いてないみたいだった。
二人はわちゃわちゃとずっとじゃれあっていた。
「それで……結局それはなんの試験なんですか?」
お父さんがそう言った。
また食卓が凍り付いた。
そういえば、お父さんにはまだ何も言ってない。
私は隣でレイシーちゃんにヘッドロックをかけているシルアさん相手に言葉を発さずに、目でコンタクトを取った。
(どうしよう……?)
(これから説明して、理解を得るのは難しいかと思われます。ここはやんわりとかわしてください)
(了解!)
(阿呆は私が黙らせときますゆえに!)
そんな感じのやり取りがあった感じがした。
「あのね、魔術の……お店するための、資格の試験なんだ」
「お、お店?の資格ですか?!ドクダミおまえお店を持つつもりですか?」
「う、うん。いろいろ考えたけどやっぱり何かしないといけないし、私知識はあるし、できるかなって……」
私がそう言うとお父さんはゆっくりとうなずいた。
「そうですか。君がそんなことを考えているとは……うっ、大人に……なりましたね」
お父さんはそう言うと涙ぐんだ。
すこし、心が痛くなった。
私達はその後も明言は避けて、なあなあでやり過ごした。
食事が終わると私は部屋からカバンを取り、そして……玄関に向かった。
玄関にはみんながいた。
「ふぁいと!」
「リラックスして、全力であたればいけますからね」
メイドさん二人はそう言ってくれた。
シルアさんは、手に持っていたかごを手渡してくれた。
「お弁当です!気合入れたんで、楽しみにしててくださいね~」
「ありがとう。シルアさん。レイシーちゃん。私、頑張る」
私はそう言って学校指定の靴を履いた。
「ドクダミ」
玄関に手をかけたところで、お父さんが声をかけてくれた。
わたしは、はいと返事して振り向いた。
「いってらっしゃい」
お父さんは笑顔で、そういった。
「いってきます」
私は返事をして、玄関を出た。
通りは静かだった。
少し前なら大きな荷物をもって歩く冒険者や、制服を着て歩く学生たちがいたけど、今日はその日常が嘘だったかのように誰もいなかった。
それもそのはず、もう学校は先週から夏休みに入っている。
みんな今頃家でゆっくりしてたり、寮の子たちは、実家に帰ってゆっくりしているころだと思う。
石畳にこつこつと私の足音だけが響いている。
なんだか深海の底に通りが沈んだみたいだ。
いつもは本を読みながら誰とも目を合わせないようにしているけど、今日は違う。
静かで、涼やかな建物の影を歩いていく。
するとすぐに大きな門が見えてきた。
私の通うシャリオン魔法学校。
普通の学校が丸々3つは入りそうな広大な敷地に学生や魔法の研究者が集まる。
建物は大きく、私達の教室や、実験室はもちろん、最新の研究設備を持った研究室やトレーニングジムや、工房まである。
その昔、グランマと呼ばれる偉大な魔法使いが設立して、霧の時代に偉大なる指導者「グランマ・アーシュラ」によって広げられたと聞いてる。
それまではこんなに大きくはなかったらしい。
校門の前で私は大きく息を吸った。
そして姿勢を正し、校門をくぐ……ろうとしたが、夏休みなので当然閉まっている。
私は事前に通知されていた通りに裏口まで周った。
校内も人がいなかった。
遠くのグラウンドの方から、部活動の声が聞こえる。
この学校はいろんな部活動があるけど一番人気はやっぱりクリケットだ。
今日も遠くから選手たちの声が聞こえる。
クリケット選手はみんな紳士的だから好きだ。
今日は夏の大会前の練習だろうか。
いつもなら少し覗いていくんだけど、今日はまっすぐに教室に向かった。
荷物をロッカーに入れて最低限の物をもって、教室に入るとちょうど試験10分前だった。
トイレもすましたし、飲み物も用意した。筆記用具も万全だし事前の最終調整も……問題ない。
大丈夫だ。
そう言い聞かせて、目をつぶって心を落ち着かせる。
精神を整え、魔力の流れを操るのは魔法の基本。
人間の魔力の根源でさる、魔力タンクは心臓の近くにあるとされている。
私は胸の前で手を組んで、瞑想する。
私の心臓を通して、魔力が血管を流れるているのを感じる。
体が熱くなるのを実感する。
頭にも血が巡る。そして、思いっきり深呼吸すると、頭がい骨を開けて脳に直接風を入れたように頭がすっきりした。
その状態でしばらく待っていると教室の扉が開いた。
「はい、おはようございます」
入ってきたのは今日の試験監督で、数学や図形魔法学のバンドコークス先生だ。
小柄で、いつもせわしなく動いてて、高めの声で早口でしゃべるからみんなからは、“バードコークス先生”なんて呼ばれてる。
「時間通りに着て、準備を済ませて、瞑想ですか。関心ですね。試験というのはやはり自分との戦いですから、心身調整するのは正しい行いですね」
大きい眼鏡をいじくりながら、バードコークス先生は続ける。
「近年の学生ときたら、寸前までテキストを開くわ、ぺちゃくちゃしゃべるわ。嘆かわしいことです。試験の準備というのは通常前日にはすでに終わらせていけなければならないものですからね。直前にやるのは“整える”ということです。それが作法というのに……本当に……」
先生は何か嫌なことがあったのかずっとぶつぶつ言っていた。
一通り終わった後、先生は大きく息を吐き、そしてもっていたファイルから数枚の紙を取り出した。
「無駄話が過ぎましたね。さて、ポートマルリンカーさん。ここ一か月間の探究者インターン講習お疲れさまでした。ただいまより最終試験を開始したいと思います」
先生がそう言うと私は、姿勢を正した。
「まずは、学科試験を行います。内容は、魔界で活動する基本となる「知識」「歴史及び法令」「魔物の生態」の3科目です。1教科につき100問ほど回答していただきます。時間は1教科につき100分です」
内容は予想通りだ。
「以上の内容は、講習で履修したものかと思いますので、さほど難易度は高くないでしょう。一応の合格ラインとしましては正答率8割以上となっております」
うん。大丈夫だと思う。
「今日はあなた一人なのであり得ないとは思いますが、試験中の私語及び不審な動作などを確認した際は、違反行為と判断し即試験は終了となりますのでおきをつけて」
それも大丈夫だ。
「説明は以上です。何か質問などなければ今から回答用紙と問題を配布いたします。その時点で試験開始となり、以降の発言は違反とされます。今のうちに何か質問はございますか?」
「ありません」
「よろしい。では、問題を配布いたします。終了次第、退室頂いても結構ですが、少しでも席を離れた瞬間にその科目は終了となります。また、ないとは思いますが……万が一、カンニングなどの不正行為を確認した場合は即すべての試験を停止し、処罰の対象となりますので注意してください」
先生が言い終わると私の席まで問題をもってきた。
先生がそれを机に置くと、私を見下ろして言った。
「では、これより試験を開始します。終了時刻になりましたら声を掛けますので……ご健闘を」
そうして、私の試験が始まった。




