小さな冒険と贈り物
「なんかすごいお店やったね~」
ビーガーから中央に戻る乗り合いの馬車でレイシーちゃんはそう言った。
「おじさんも、インパクトがすごかったね」
「文房具屋の風体やなかったよね。なんで文房具屋なんてやってるんやろ……」
「ふしぎだよね」
「もしかしたらマフィアがやってるカモフラージュ為の表稼業かもせーへんね」
「そんなぁ……悪い人ではなさそうだったけどね」
そんな話をしながら、私達はクッキーを食べた。
このクッキーは、帰り道にドーソンさんにもらった。
「このクッキーおいしいねぇ」
「そうだね!でも……長かったね」
「うん。長かったねぇ……」
ドーソンさんにこれを貰った後、1時間くらい世間話でつかまっちゃった。
買い物リストの残りと、シルアさんが料理する時間とか考えると……結構時間が厳しくなってた。
「う~んどうしよう……」
「手分けするぅ?」
「そ、そ、それは……」
私は言いよどんだ。
レイシーちゃんはせやね~と返した。
「ま、さっさと回ればいけるか~」
レイシーちゃんは上を見ながらそう言った。
一瞬それに……と言いかけたような気がした。
そう、明日は……試験だ。今度は本当に本当だ。
だから、あんまり遅くなって明日に影響が出るのは絶対に避けたい。
そう思うとまた心臓が痛くなってくる。
苦しくて、自分の腕を思いっきり握ると、手汗でべたついていた。
私ってどうしてこうも弱いんだろう。本当に自分が嫌になる。
「ほんでー、次はどこに行く?」
レイシーちゃんは明るい声でそう言った。
そして水筒からお茶を入れて手渡してくれた。
何も言わずにいてくれるのありがたかった。
私はそれを一口飲んで、深呼吸した。
汗は引いた。震えも。もう大丈夫だ。
「うん。いっきに行こう。生鮮食品は最後だからまずはプントドロップ通りでパイプ葉とワインとお肉買って、バルトウォーターで魚。一回お家に帰って、残りの衣服を買いに行こう」
私は顔を上げてそう言った。
レイシーちゃんはうんうんとうなずいてくれた。
「でも、その前に……」
私はレイシーちゃんを見た。
「お昼だね!」
私がそう言うとレイシーちゃんはにやりと笑った。
「へへへ!だね!」
馬車を下りた後私達はプントドロップ通りに行った。
そこでお昼にパスタを食べた。すごい量でおいしかったけど食べきれなかった。
レイシーちゃんは私が残したのも含めて全部食べた。
お昼を食べた後、私達は一気に買い物を済ませた。
まずは、煙草屋に行った。
煙草屋は独特のにおいがしていて、狭かったけど、お客さんも何人かいた。
ほとんどは白髪のおじさまばかりだったから、すごく見られた。
そのお店の店主さんは若いお姉さんで、なんでかすごく気に入られちゃった。
「マルリンカーちゃん、かわいいねー」って言われながら頭をずっと撫でられた。
どうでもいいことでけど、後で知った。なんとあのお姉さんは、私と同い年だった。
次に行ったワイナリーはイヅナちゃんの家の近くだった。
会いたかったけど、時間が心配だからワインを買ってすぐに店を出た。
お店の人にできるだけ日光には当てずに、冷やしてくれって言われたから布にくるんで、冷凍魔法をかけた。
お店の人は目を丸くして、ほめてくれた。
そこから、香辛料、ハーブ、お肉を買って走ってバルトウォーター通りに行った。
バルトでは魚介類を買いあさった。
お父さんは海産物が好きで特に貝類が好きだった。
私は正直苦手だけど……。
それらを買って私達は足早にお家に帰った。
お家に着いたのはちょうどおやつの時間で、私達はシルアさんに買い物かごを渡すと、ご褒美として出されたお茶とクッキーを食べた。
また、クッキーだねなんて笑いながら話した。
食べ終わったら、最期の買い物をするために、今度は魔術通りに向かった。
お父さんのお仕事は魔界に近いお仕事だ。
特にお父さんは見回りとかもするらしいから魔物との遭遇リスクは高い。
必然的に身を守るために着る衣服も普通の物じゃなく、魔法繊維の物になる。
「この道来るたびに思うけどなんか頭よさそうな空気流れてるよね~」
「な、なにそれ……」
「ん~なんやろ、わからんけど、こう……頭よさそう!」
そんな話してると道行く人に笑われた。
「てへ!笑われてもうた」
「感じ悪いね……」
「かわいいって思われたんやって!」
「うう~、まぁ確かに、嫌な笑い方ではなかったけど……」
「も~気にしいなんやから」
そんなこと言いながら魔法繊維のお店に向かった。
魔術通りの本通りを一本入ると魔法繊維を使うブティックが集まる地域がある。
私達は有名なブランド店の並ぶ通りを素通りして、さらに裏の筋に入ったところに洋服店がある。
魔術洋服店「クラフトワークス」だ。
無骨な名前の通り、作業用の魔術服を主に取り扱う。
私も子供の時に何度か父と一緒にお店に来たことがある。
「懐かしい。まだあったんだ」
レンガ造りのお店は古い証拠だ。
重厚感のある扉に小さい看板が引っ掛かったいる。
看板には、「魔女謹製」とだけ書かれていた。
私達が扉を開けると、鈴がからからとなった。
お店の中はしんとしていた。
古い雰囲気とにおいがするけど、不潔ではなかった。
時間が飴色に固まった、そんな感じの雰囲気だった。
その音に反応して、奥のほうから、人が歩いてくる音がした。
「いらっしゃい」
奥から優しそうな顔のおばあさんが出てきた。
真っ白の髪を長いみつあみにして、でも、腰は曲がったりしてなくて、背筋を伸ばして立っていた。
「おや、あなた、ポートマルリンカーさんのとこのお嬢さん?」
「え?あっはいそうです……」
「ずいぶん大きくなったわね」
「ええ、はい」
おばあさんは私のことを覚えてくれていた。
子供のころ何度かしか来たことがないのに……。
私がそう言うと、おばあさんはなんだか嬉しそうに「お客さんが少ないからね」と笑っていた。
「そう、それで買い物に来てくれたのね」
「はい!」
私は父が今大変なこと、そして今日久しぶりに家に帰ってくることを話した。
「それにしてもねぇ。熱心なのは結構だけど、あの子は子供を置いてまで仕事なんてね……」
「お、お父さんは、みんなのために頑張ってるから……」
「でもね一番大切なのは家族よ。ほったらかしは感心しないわね」
「だ、大丈夫です。お父さんはきちんと帰ってきます。それに、私達を守るために働いているし……一番つらいのはきっとお父さんだし……」
「あなた、いい子ね」
「そ、そんな!」
「でもね、わがままになってもいいと思うわよ。抱え込みすぎないかおばさんは心配よ」
「大丈夫ですよ~!そこは私が今すんで!」
「あらあなたは?メイドさん」
「そうです!」
「レイシーちゃんは、家族です」
私はそう言った。
レイシーちゃんは笑ってた。
それを見て、おばあさんもにっこり笑った。
「そう……。お節介だったわね。いやよね。年を取るとどうしても説教くさくなっちゃうわ」
「い、いえ……そんな」
「それで、何をご所望かしら?」
「あ、はい」
私は、おばあさんにリストを見せた。
おばあさんは首筋に下げていた老眼鏡をかけてリストを眺めた。
しばらくすると、少し待っててと言って奥に消えていった。
お店は商品棚もなく小さなカウンターのあるだけのお店だった。
壁には何枚かの布が垂れ下がっているだけで、服は一着も飾ってなかった。
部屋の真ん中には机といすが二つ。
机の上にはカタログと花瓶が置いてあるだけだった。
カウンターの奥は工房のようで、作業台の上に古いミシンや大量の布にお針子道具が見えた。
しばらくすると、おばあさんが大きな袋を持ってきてくれた。
「はい。肌着と下着、ご注文分よ」
そう言うとおばあさんは私んに袋を手渡した。
「ありがとうございます」
私はそれを受け取りお礼を言った。
「もうすぐ、暗くなるわ。早くお家にお帰りなさい」
おばあさんはやさしい笑顔でそう言った。
私達は、はいと返事して、扉を開けた。
扉を出て振り向くとおばあさんは小さく手を振っていた。
私達は扉の外でもう一度お辞儀して、帰路についた。
「おつかれさまです。汗かいたでしょ?先にお風呂入っちゃってくださいね」
買い物から帰り、品物を確かめたシルアさんはそう言った。
そしてせかせかとキッチンに戻っていった。
キッチンからはもういい匂いがしていた。
「たのしみやね~」
レイシーちゃんはけたけた笑いながらそう言った。
すごく愉快そうだった。
私達は、一旦私の部屋に向かった。
そこで、私は着替えを用意してもらった。
「ほい、ドクダミちゃん。お先にどうぞ~」
レイシーちゃんはそう言った。
私は着替えを受け取ってじっとレイシーちゃんを見た。
「どないしたん?私の顔なんかついてる?」
「あの、レイシーちゃん」
「うん?」
「一緒に入ろう?」
そう言うとレイシーちゃんは一瞬固まった。
そしてすぐに下卑た笑顔を見せた。
「ええ?ええのん?ぐへへへへほんまにええのん??」
レイシーちゃんは舌なめずりした。
正直、少し怖い……。
「う、うん。い、いいよ。もっとおしゃべりしたい」
「先言っとくけど……揉むよ?」
「そ、それは困るけどぉぉぉ。でも、もう少しだけぇぇぇ」
「冗談やって、泣かんといてよ~」
「な、な、泣いてないよぉ」
私達は一緒に部屋を出て、一回のレイシーちゃんの部屋に行き、そのままお風呂に入った。
お風呂ではレイシーちゃんに背中を流してもらった。
気持ちよかったけど、少し恥ずかしかったし、手つきが怪しかった。
直でもまれることはなかったけど、結構つんつんされた。
お風呂上りには私の髪の毛を乾かしてくれた。
「ドクダミちゃんの髪の毛って光ってるんやね」
レイシーちゃんは髪を梳きながらそう言った。
「え?ほんとう?」
「うん、ほんとうよ。気が付いてなかったん?」
「そっか……」
私はにこりと笑った。
「ん?なんなん?もとから光ってたこれ?」
「ううん光ってなかったよ。でもずっと光らせようとしてたの」
「そうなん?」
「うん。魔力がね成長すると女の子は髪の毛が光るの」
「へーそうなんや。じゃドクダミちゃんまた最強の魔法使いに近づいたんやね!」
「ははは、そうだね」
「でも、不思議だな~。ずっと修行してるときは光らなかったのに何で今光るんだろ?」
「そうやね~踏み出したからちゃうかな?」
「え?」
「学校、行き始めたやん。それだけでも驚きやのに、今度は難しい試験に挑んで、ほんで冒険にも出ようなんて……!信じられへん」
「うん。レイシーちゃんのおかげだよ」
「私ぃ?イヅナちゃんやないの?」
「それもあるけど、でも、近くでいつでもいてくれるから、安心できるんだ」
「そうなんや」
「でも、イヅナちゃんがいなかったらずっとレイシーちゃんに甘えてた。モリー様がいなきゃ冒険なんて行こうとも思わなかった」
「そんなこと……」
「ううん。きっとイヅナちゃんの話を聞いてもいろんな理由並べて私は行かなかったと思う」
「思いつめんといてよ……」
「ううん。思いつめてるんじゃないんだ。自分を客観的に見れるようになったんだよ。変わった、とまではいわないけど。少し前向きにはなったよ」
「・・・・・・」
「だからね。明日の試験も大丈夫。私は絶対に受かるよ。だからね、安心してレイシーちゃん」
私はそう言って思いっきりのけぞって、レイシーちゃんの顔を見た。
レイシーちゃんは少し涙ぐんでた。
「な、なんなん?急に」
「ねぇレイシーちゃん。座って」
私は立ち上がりレイシーちゃんを鏡の前に座らせた。
「目をつぶって待ってて」
私はそう言うと、隠し持っていた紙袋を持ってきた。
「な、なに?なんなん?」
「もういいよ。はいこれあげる。もらって」
買い物の途中、こっそり買ったプレゼント。
レイシーちゃんはしばらくあたふたしてたけど、思い切って紙袋を開けた。
中には赤いきれいな櫛が一本入っていた。
「これぇ……」
「知ってるよ私のお古使ってるんでしょ。でもあれもう、何本か歯が欠けちゃってるでしょ?」
「ええの?ほんまに?こんな高価そうなもん」
「うん全然いいよ。それに、ごめんね。私気が付いたの、今まで一度もお礼をしたことがなかったって」
「そんなこと……」
「プレゼントも贈ったことなかった。私はいっぱい貰ってたのに。気が付かなかったの昨日までは、私それだけ自分のことしか考えてなかった」
「・・・・・・」
「それがすごく恥ずかしくなったの。イヅナちゃんやモリー様と話すようになっていろいろ考えるようになって、やっと気が付けたんだ」
レイシーちゃんは無言だった。
「だから私気が付いたのレイシーちゃん無理してるって……今日も無理やり明るくふるまって……。前からそういう時あったけど、不安だったんだよね。ごめんね。気が付かなくて。だから今まで、本当に……」
ごめんと言おうとした瞬間、レイシーちゃんが抱き着いてきた。
「謝らんとって、私のほうこそ助けてもらってばっかりよ。ほんと頼りがいなくてごめんね」
「そんなぁ、私こそいつも甘えてばっかりで、一度だってレイシーちゃんの気持ちなんて……私の方こそごめん。そして、今までありがとう」
「え?!そんな!!」
レイシーちゃんはすごく驚いたような顔をした。
「もしかして!私クビ?!」
「ええ?!そんな!そんなことあり得ないよ!」
「ほんまに!?ええこになるからそれだけは!!私を捨てんといて~」
「あ、あ、あ、あり得ないよ~。私レイシーちゃんがいないと本当にダメだから~。これからもお世話してよ~!」
「する~。いっぱいお世話するから~」
そんなわけのわからないやり取りしながら、私達はわんわん泣いた。
しばらく泣いたらお互い顔がぐしゃぐしゃで、ひどい顔だねって一緒に笑った。
「いつも梳いてもらってるから、今度は私が……」
私はそう言うとレイシーちゃんを座りなおさせた。
そしてゆっくりレイシーちゃんの髪を梳いた。
「いたた、ドクダミちゃんもっと力抜いて~」
「ええ、ご、ごめんなさい~」
始めて他人の髪を梳いたけど、すっごく難しくって、すごく幸せだった。
お風呂を上がってすぐに庭にいるフリンデルバルトが騒ぎ始めた。
私達は顔を見合わせて、玄関に向かった。
玄関の向こうから、聞き覚えのある笑い声と足音が聞こえる。
そして、すぐに玄関が開いた。
「ただいま!今帰りましたよ!」
「おかえりなさい!」
私達はそろってお父さんを迎えた。
「おお、三人とも元気そうでなによりだ」
お父さんはそう言って笑った。
「お父さん」
私はお父さんの前に出た。
「ドクダミ。どうしたんだい君、見違えたね」
「う、うん。見て私髪の毛が光ったよ」
そう言って私はさっききれいに梳いてもらった髪の毛を見せた。
お父さんはそれを手で受けてじっと見ていた。
「ほんとうだ!ドクダミ、やったじゃないか」
お父さんはそう言って私の頭を撫でた。
「いい子だ。君ならできると思っていたよ」
「う、うん。ありがとう」
「でもどうして急に?去年あれだけ頑張ってダメだったのに。なにかあったのかい?」
「うん。私……いろいろあって今学校に通ってるの!」
「そうなのか?!えらいじゃないか」
「あ、ありがとう」
「そうか学校に行けたか……。よかった」
おとうさんはそう言うと私の顔をじっと見た。
とても誇らしいそんな目だった。
それがすごくうれしかった。
「学校は楽しいかい?」
お父さんが聞く。
「つ、つらい……」
私がそう言うと、お父さんは微妙な表情をした。
「そ、そうか。じゃ友達はできたかい?」
「ひ、一人もいない」
「そ、そうか……」
「でも、目標ができてね。それで明日……試験があるの」
「本当かい?」
「うん。いっぱい勉強したから、絶対に合格するね。そうしたら今度は私がお父さんのところに行ってもいい?」
私はそう言った。
「もちろんだとも。そのときは列車に乗せてあげますよ。君はまだ乗ったことないだろ?」
「うん。絶対に乗るよ!」
私はまっすぐそう言った。




