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ロックス文房具店

「あんたらねぇ!!」

一騒動の後、お風呂場でシルアさんの説教会が始まった。

私達は、きちんと並んで正座した。

「レイシーあんたは落ち着きがなさすぎる。私が曜日の管理もできてないとおもとるんか?あんたは右も左も見んと、思い込みだけですぐに飛び出していくんやから!そいうところを直しなさい!」

「は、はいぃぃぃぃぃ」

「はいを伸ばすな!」

「はい……」

レイシーちゃんはうなだれている。

「しかもあんた!雑すぎるわ!お嬢さんをそのままお風呂に投げ込むなんて!何考えてんの?!偶然水が残ってたからよかったものの掃除中やったりしたらどうすんの?!」

「すいません。でも……」

「そこは見てるって?ほんまか?あんたほんまに見てたか?」

「いえ、はい。すいません。ノールックでした」

「あ?」

「すいません」

レイシーちゃんが謝ると少しの間、シルアさんは何も言わずにレイシーちゃんを見つめていた。

しばらくして、シルアさんは大きくため息をつくと、こっちに顔を向けた。

「お嬢さんも、もう子供やないんですからね。大体今日が何曜日かわからないってのは人間として問題ですよ」

「はぃぃぃぃ。注意しますぅ……」

「これは注意とかそういうのじゃないんですよ。生活習慣の話です。みんな曜日に気を付けたりなんかしてません!普通に生きてれば普通にわかるものですからね!」

「お、おっしゃるとおりですぅぅぅ」

「でしたら!明日から夜更かしは禁止です!夜食も、もう作りませんからね!」

「ええ?!」

「そんなぁ!おねぇちゃんそれは殺生やで!」

私たちの生活習慣は朝ご飯食べてお昼まで寝て、お昼ご飯食べて、お昼寝して、おやつ食べて、遊んで、夜ご飯食べて、その後は勉強。

そして勉強が終われば朝方に寝る。その間のお楽しみ……それがシルアさんの夜食だ。

「あ、あれがないと、勉強がはかどらんよ~」

「おだまりなさい。私は本気ですからね!」

「あ、あ、あ、あう~」

深夜に食べるあの背徳の味!あれがあるから頑張れたのに……それがなくなるなんて、そんなの!

「おねぃちゃん待って!いま私達は本気で勉強しててぇ~。しかもこれは超重要なやつで~!」

「知ってます。それなら遊んでないで、昼に勉強しなさい」

「うぐ!」

返す言葉がない。おっしゃる通りです。

「わかりましたね?これからは昼に勉強で夜は寝てくださいね」

シルアさんは私達をにらんだ。

私達は力なく「はい」と返事した。

それを聞いたシルアさんは大きく息を吐いて、懐をごそごそし始めた。

「ほんなら、とりあえず、これお願いします」

そう言うとシルアさんは懐から取り出した紙を手渡してきた。

「こ、これは?」

私はそれを受けとると中身を確認した。

どうやら買い物リストのようだった。

「実はですね、今朝方、旦那様からお手紙が届きましてね」

「え?!」

「お父さんから?!」

「そうです。今日の夕方に一時帰宅ということで帰って来るらしいので、これはその歓迎パーティ用の買い物リストです」

確かに、中身を見てみるとワインやらパイプの葉やらが含まれている。

「寝癖直したことやし、ちょうどええタイミングやと思いましてね。結構品数も多いので、二人に頼もかな思てたんですよ」

「え?え?これ、でも私達で買えるかな?」

「ああ、大丈夫ですよ。全部なじみの店なんで、マルリンカーやっていえば買えますよ。それに事前にもう話は通してますから」

「ほえーおねぇちゃん、準備万端やん。今日帰ってくるって分かったのに何で?」

「あんたねぇ……近々帰ってくるとは連絡あったしね。だから、事前にちゃんと準備してただけやからね」

「ほえー」

「あんたねぇ!私達はただの居候やないんよ!自覚しなさい!」

「はいぃぃ」

シルアさんはそう言うと、レイシーちゃんの頭をぐりぐりした。

レイシーちゃんはうげーとうめき声をあげた。

ほんとに二人は仲よしだなぁ。

ちょっとうらやましいなって思う。

そんなことを考えてたら私はくしゅんとくしゃみした。

二人は同時に私を見た。

「あっ、ほら!あんたが濡らすからお嬢さん冷えてもうたやないの!」

「ドクダミちゃん!大丈夫~?!」

「ははは、大丈夫だよ。おおげさ……」

途中で私はまた大きなくしゃみが出た。

二人は青ざめた顔で私をタオルで包むとごしごしし始めた。

「レイシー!!はよ着替えさせてきて!」

「あいよ!」

レイシーちゃんはそう言うとまた私を抱え上げて猛烈な勢いで部屋まで運んで行った。



「ほんなら、お願いしますね~」

一連の騒動の後、私とレイシーちゃんはお部屋で外行きの服に着替えることにした。

途中でシルアさんが新しいメイド服をもって部屋に来た。

そして泡だらけのレイシーちゃんの服を脱がせると、それをもってさっと帰っていった。

なんだか、動きに迷いがなくてかっこいいなって思った。

裸にされたレイシーちゃんはへへへって照れ笑いしながら着替えてた。

そんなこんなで、着替えた私達が、階段を下りて行くとシルアさんが、玄関前でかごを持って待っていた。

「はい、ここん中にお金入れてますから、よろしくお願いしますね」

シルアさんはそう言って少し大きなかごをレイシーちゃんに渡した。

私達は行ってきます!と元気に返事すると一緒に玄関を出た。



「日用品に食料に……これは結構あっちこっちいかなやねぇ~」

「だ、だねぇ……」

私達は買い物リストを見ながら、中央に歩いて行った。

「どうする?どこからいくぅ?」

「うーん、そうだねぇ」

買うものは、食料品、お父さんの着替え、お父さんのパイプにワイン、それに、ペンとか雑貨も含まれていた。

お父さんは魔術鉄道の駅員だから、何かあれば帰ってこないこともざらだ。

そういう時は、職務で使ういろいろな備品を定期的に補充しに帰ってくる。

今回もそういう感じだろうと思った。

「まずは……ビーガーから行こう。一番遠いし、買うものも少ないからはじめに行っちゃおう」

「おっそうやね~」

「ビーガーに向かってる間にほかのルートを決めよう」

そうやって、私達はずっとおしゃべりしながら、ビーガー通りに向かった。



ビーガーに着くころには大体のルートは決まっていた。

私達は慣れた足取りでぐんぐん通りを進んでいった。

そしてビーガー通り2番地の十字路のところまで来た。

「あっ!モリー様!」

レイシーちゃんが十字路の近くで箒をもって掃除している大きな人を指さした。

「おっ?お前たち何やってんだ?」

この人は今度私達と一緒に旅に出てくれる冒険者のモリー様だ。

いつ見ても大きくて、すごく頼りがいがある。

私はあんまり、男の人とは交流がなくて、男の人ってだけで緊張するけど、モリー様はすごく優しくて……好きだ。

「お買い物しに来たんですよ~。今日なんと、ドクダミちゃんのお父さんが帰ってくることになりましてね~」

「ああ、そうなのか」

「モリー様はお掃除ですか~?」

「ああ、昨日の夜泊まってた客が、ひどいよっぱらいでな……。一通り騒いで、散らかしてったから、俺がしりぬぐいだな」

「ほえ~大変ですねぇ!」

「まぁこれくらいはな。で、おまえらはこんなとこまで何買いに来たんだ?」

「ああーペン先ですね。旦那様のペン先は絶対に消せない魔法ペンなんですよ。それの特殊なペン先がビーガーにしかないらしくて……」

「魔道筆か。確か、鉄道員だったよな?」

「旦那様ですか?そうですよ!」

「お偉いさんなのか?」

「ああー、なんかそうらしいですね。確か?職長?やったっけ?」

「えーと?現場監督とかじゃなかったかな?」

「現場監督って……それ建築関係の人のことじゃないのか?」

「そ、そうですか?」

「ああーそおんなきはしますねぇ」

「ま、まぁでもなんかそんな奴です……」

「そんな奴ですね~」

「お前らな……」

モリー様はため息をついた。

私達はてへへへっと笑った。



「ちなみに、その店はここ曲がって5分ほど進んだとこの煤けた店だ」

モリー様にお店の場所を教えてもらった。

私達はお礼を言って、そっちに向かうことにした。

言われた通りの道を少し行ったら茶色いレンガのお店が見えてきた。

レンガは煤で黒く変色していて、掲げている看板も真っ黒で見にくかったけどロックス文房具店と書いているのが読めた。

「なんか……文房具って感じせぇへんよな」

「そうだねぇ。ちょっと入るのがこわいね」

そんなことを言いながら軒先でうろうろしていると、奥から怖い顔のおじさんが歩いてきた。

白い顎髭に、坊主頭で体は大きくっておなかが出てて、顔に大きな傷があって、威圧感があった。

私はとっさにレイシーちゃんの陰に隠れた。

おじさんは透明なガラスの扉を開けて私達のところまで来た。

目の前で見ると余計大きい……。

身長だけならモリー様くらいあるかも。

「こ、こんにちは~」

無言で仁王立ちするおじさんに、レイシーちゃんがこわごわあいさつした。

「ああ。こんにちは」

おじさんは腕を組みながらそう挨拶を返した。

「お前ら、冷やかしか?それとも客か?」

おじさんは単刀直入に聞いてきた。

「きゃ、客です客です!お客さんです~」

レイシーちゃんが答えた。

私はリストを後ろから見せた。

おじさんはそれをのぞき込むと私たちの顔をみた。

「ポートマルリンカーの旦那のとこのか?」

「はいそうです!私はポートマルリンカーのメイドで、こちらはお嬢さんのドクダミちゃんです」

レイシーちゃんがそう言うと、おじさんは大きくうなずいた。

「シルアとかいうメイド以外にもメイドがいたのか」

「ああ、シルアは私の姉です。お使いを頼まれまして」

「そういうことか、それなら話は聞いてる。入りな」

おじさんはそう言うと重そうなガラスの扉を開けて私達を中に招いた。

「お邪魔します~」

私達は恐る恐る店の中に入っていった。



お店の中は独特な世界が広がっていた。

店中が石を使った物であふれていた。

商品を並べる棚も石、床も石、壁と天井は気だけど、蠟燭台まで石でできていた。

「すんごいお店やね~」

「そ、そうだね」

並んでいるのは、普通の商品ばっかりだったけど、一部は特殊な商品を取り扱ってるようだった。

ほとんどなにに使うのかもわからないものだったけど、真っ白な石で作られたペンだったり、うっすら金色に光るハサミだったりだ。

贅沢品なのかな?それとも、特殊な鉱石を使った道具なのだろうか。

私はこういう物が好きだから、ついつい見ちゃう。

「そんなに珍しいかい?お嬢さん」

いきなり後ろから話しかけられたから、私はひゃっと悲鳴を上げた。

「そいつらは……高いぜ?」

「そ、そ、そそうなんですか~」

「まぁお嬢さんなら、裏通りに行けばすぐにでも買えるかもな」

そう言って、おじさんはにやりと笑った。

「あ、あ、あ、あわわわわ」

「ちょっと!おじさんセクハラやでそれ!!」

レイシーちゃんがあわあわする私を助けてくれた。

「冗談だよ。気を悪くしたならすまない」

レイシーちゃんの態度を見ておじさんはすぐに謝った。

このおじさんはいい人そうだ。そう思った。

「これはな。貝殻で作ったペンだ」

おじさんは真っ白いペンを見ながらそう言った。

「東部の列島近くで取れる貝殻を砕いて固めて作ったペンだ。すごく珍しい貝でこれを作るのに、100年かかったらしい」

「へ?」

「ひ、ひゃくねん……?」

予想外すぎて、変な声が出た。

その反応があんまりにも間抜けなだったのか、おじさんはにやりと嬉しそうに笑った。

「ソゼって奴にもらったんだ」

「もらったの?!」

「そ、そ、その人何者?!」

「ソゼか?ただの酒飲みだ」

「え?」

「千枚のソゼって呼ばれていてな。自分では魔物を千枚に卸した腕前からそう呼ばれてたとか言ってたな。まぁそんなの信じる奴はいなかったな」

おじさんは顎髭をさすりながら、遠いどこかを見ながら話してくれた。

「千枚の由来は誰も知らなかったが、奴は酒もやる女もやるギャンブルもやる。そんで朝方になって帰っていく。そんなだから、あいつは金貨千枚分の借金があるとか、次から次に冗談口が出てくるから、舌が千枚あるとかいろんなこと言われてやがったな」

「そ、それって……」

「まぁそういうことさ。これも俺がポーカーで大勝ちしたときに3代かけて作った珠玉の逸品だとかぬかしていた。誰も信じちゃいなかったがな」

「そ、そうですよね」

「俺は信じてるがな」

「え?どうして?」

「奴の目を見て、そう思った。それだけだ」

「そ、そんなぁ」

「まぁ、謎の多い奴だったしな」

「その後、聞いたりしなかったんですか?」

「そうだな気になるし、向こうに行ったら聞いてみるかな」

「え?」

「ある日馬車にひかれて、な。殺しても死なねー奴だと思ってたが、最期はあっさり逝きやがった」

「……」

「俺が若造の服を着てた時の話さ」

「素敵……ですね」

私がそう言うとおじさんは目を丸くした。

そして声をあげて笑った。

「お嬢ちゃん、名前……なんてったかな?」

「ドクダミです。ドクダミ・ポートマルリンカー」

「ドクダミか。俺はガーフィールだ。パイク・ガーフィールだ」

おじさんはそう言うと私の頭をぽんと叩いて、カウンターに向かった。

そして、台の下にもぐると小さな金属製の箱を取り出した。

その中には何本かのペン先が、区切られてきれいに収まっていた。

ペン先は、それぞれ薄く白とか金色とかに光っていた。

「ほら、ご注文の品だ」

そういうとおじさんは、金色に輝くペン先をカウンターに置いた見せた。

レイシーちゃんはそれを受け取るとおじさんにお金を渡した。

金額を確かめた、おじさんはペン先を柔らかい袋に入れて渡してくれた。


「毎度。かび臭い話が気に入ったんなら、贔屓にしてくれ」

おじさんは店を後にしようとする私達にそう言った。

私達は会釈を返して、扉を開けた。

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