報告1と2!
「まずは当時の状況から説明します」
イヅナはそう言って手帳をぱらぱらめくった。
「当時、祖父は40歳でした。今から25年位前ですね!父がまだ私くらいの年の頃でした」
「相当前だな」
25年前……俺がちょうど火を操り始めたくらいだろうか。
「祖父は素材を求めて南部魔界へ定期的に繰り出していたそうです。そして或る日南部の酒場で昔の友人に会ったそうです」
「友人……」
「はい!その人こそかつてタイルスローン鉱山で働いていた元炭鉱夫の一人です。その人と意気投合し、地底湖の情報とそしてこれを貰ったそうです!」
イヅナはそう言うとポシェットの中から古びた紙を取り出し、机に広げた。
日に焼けたその紙には、手帳よりも精巧な坑道図が記されていた。
「おお、すごいな」
タイルスローン鉱山は広く地下五層目まであった。
紙には五層までの道のりが記されている。
もちろん、地底湖までの道もばっちり記されていた。
地底湖は広い炭鉱の地下三層目にあるようだ。
地底湖発見により、それより先は採掘を中止したと書かれている。
「これはいいな。おじいさまの手記と合わせれば……迷うことはなさそうだ」
「はい!ですが、この鉱山ですが、祖父が行った時はもう手入れはされていなかったそうです。それを祖父が補強しながら数年かけて攻略したといっていました」
やはりか。
鉱山ダンジョンはそういう難点がある。
基本的には採掘目的の企業がイレギュラーに対処するために冒険者を入れる。
それを個人でやろうとすると数年は十分かかるだろう。
「やはりか。その後何度かは補強に訪れたそうですが、ここ20年はどういう状況かはわからないそうです」
「まぁ手入れはされていないだろうな。そこらへんは俺もこの一週間で冒険者酒場に行って情報を集めたが、そっち方面に行ったって奴は見つからなかった」
「一人もですか?」
「ああ、基本はやっぱり中央鉱山か、ビックス鉱山しか行ってないな」
ビックス鉱山は、南部の炭鉱夫組合が作った組織が開いた炭鉱だ。
政府管理の中央鉱山と並ぶ、魔石の採掘量を誇る民間企業が運営している。
大体政府用命か、ここの雇いでしか南部魔界には行かない。
「ちなみに……この鉱山の運営会社はまだあるのか?」
「祖父がレアドロップを発見し一度は再開発の話が上がったらしいですが、ストライキを発端にして経営が悪化していたようで……数十年前に廃業したそうです」
「そうか……」
なら完全な廃鉱山であることを覚悟せねばならない。
鉱山ダンジョンは主に二種類ある。
狭い道が続くダンジョンと広い道があるダンジョン。
単純だがかなり大きな差だ。
そして、その差が生まれる理由は、人間が一から採掘したか自然の穴を広げたかの違いがある。
まぁ、歴史の長い坑道だとそうも言いきれないが……。
地図を見る感じタイルストーンは後者のようだった。
元は魔物の巣であったが古の冒険者達がダンジョンを掃除し安全を確保されたので、そこから広げて鉱山にしたようだった。
そういう成り立ちゆえに、常在の冒険者がいたりしたようだ。
「その話は祖父からも聞きました」
「うん。それで何と言っていた?」
「地底湖が光っていたそうです。やはり蛍灯の鈴と同じ薄白い光だったそうなのでそれのせいで魔物がいなかったのでは?と言っていました」
魔物は地下の奥深くから湧いて出るタイプの奴もいる。
どういうルーツかは不明だが……。
「そうか……ならば先に決めておこう。三階層以下は何があっても足を踏み入れない。これは決定事項にしよう」
「一応、理由をお聞きしてもいいですか?」
「おじいさまの話を信じても、三階層までしか地底湖の効果が及ばない可能性がある。もしかしたら一、二階層も坑道の入り口や奥のほうには魔物が住み着いている可能性もある」
「なるほど」
「地底湖があるから下からは上がってこないだろうという想定ってわけだ。しかし、その下はどうなっているかはもうわからん。上と下は別世界と考えたほうがいいだろう」
「わかりました。そこは絶対に守ります。誓います」
イヅナがそう言うとほかの二人もうなずいた。
「よし、決定だ」
「次に水が引くって奴はどういうことだったんだ」
「新月の夜に引くらしいです。鉱山で使っていた水を取り除くなにかの装置が作動するらしいです」
「何かの装置?」
「鉱山作業で使うらしいです。そこは詳しくはわからなかったです」
「そうか……。水をねぇ?」
「あっあ、でもあるらしいです」
ドクダミちゃんが口を開いた。
「あるって?そういう装置があるのか?」
「鉱山で岩盤を発破する時に水を抜くんです。穴をあけて空気で中の水を排出して……爆薬を詰めるんです」
「そうなのか?でもそんなの鉱山で使ったら崩れないのか?」
「そこは計算されていたようですね」
「へーなんでそんなこと知ってるの?調べたのか?」
「え?あーなんででしょう?なんかの本で読んだような気がしますぅぅ……ごめんなさいぃぃぃ」
「なんで謝るんだよ」
「間違ってたらぁぁ!もうしわけなくってぇぇぇぇぇ」
「いや、実際どうだったかわからないが重要な情報だよ。ありがとう。知識として持っておこう。忘れないでくれ」
「はい!」
「それと現場に行ってだ、火薬っぽいものを発見したら絶対に触らないこと。近づかないこと。すぐに知らせること。いいな?」
「はい!」
三人はそう返事した。
うん、こいつら返事だけはいいんだよな……。
まぁこれはこれからも繰り返し言うことにしよう。
「最後にですね。これを貰いました」
イヅナはそう言うと小さな方位磁石のようなものを取り出した。
見た目はほぼ同じだが、針があらぬ方向を向いていた。
「これはなんだ?」
「これはですね、魔力探知機らしいです」
「魔力探知機?」
「ええ、一定範囲で強い魔力のある方向を指すんだそうです。祖父はこれを頼りに地底湖を見つけたそうです」
「そうか、でも地図があればいけるんじゃないか?」
「道が埋まっていたそうです。それで使ったと言ってました」
「なるほど。うん、一応持っておこう。だがこれの信頼性は薄いから、基本的には地図に従って行こう。もしもこいつが地図の方向とあらぬ方向を示したときはそっち側には近づかないようにしよう」
「はい!」
元気に返事をした後イヅナは方向は以上ですと言った。
なかなかの情報量だったと思う。
「これでいけますかね!?」
「正直言うと今でよくて5割くらいかな。冒険ってのは何が起こるかわからないからな基本は100%行けると踏んでから出るのが理想だ。時間がないのはわかるが、ドクダミちゃんの件もあるし、ここはじっくりと準備を徹底しよう」
「はい……」
「焦る気持ちはわかる。しかしな。死んじゃ何にもならんからな。そこは肝に銘じてくれ」
「魔界は遊びじゃ済まないんだ」
「話題に出たからそのまま聞くけど。ドクダミちゃんのはどうだい?講習うまくいってる?」
「うっ!!」
俺がドクダミちゃんの進捗を聞くといきなりドクダミちゃんが叫んだ。
「お、おい?!」
「だ、大丈夫です。私は逃げません……にげませんんんん~!」
「そ、それはわかってるよ。君を信頼してる」
「あ、ありがとうございますぅぅううううう」
ドクダミちゃんは顔を赤くして、もじもじしはじめた。
そして、うぅぅぅへっへへへぇぇぇっと気味悪く笑った。
この子はいちいちなんだか心配になる。
「で、あーどうなんだ?」
「あ、あ、はい。えーっととりあえず講習は終わりました。次は試験です。来週に学科と実技があり、その二日後に戦闘試験です」
「戦闘試験もあるのか?」
「は、はい!」
戦闘試験……苦い過去がフラッシュバックした。
俺は目をつぶる。
あの三人チームで試験に挑んだあの日のことが瞼の裏に移る。
魔物を目の前にまごまごちまちまやろうとしていたチームメイトにイラついて……俺は一人で突っ込んで……もう思い出したくない。
「そうか、大丈夫そうなのか?」
「うー、自信はないですぅぅぅ。でも、がんばりますぅぅぅぅ」
「一人で魔物に挑むのか?」
「はいぃぃぃ。確かキラースズメか何かだったと思います」
キラースズメ……魔界でよく見る魔物トップ3に入る魔物だ。
少し速く強いスズメだ。危険度は低いし冒険者によく焼かれて食われている。
しかし、このスズメ群れると危険だ。
1羽、2羽、は脅威じゃない。しかし、3羽そろえば牙をむく。
羽ばたきで発する魔力が三羽そろえば強力な暴風に変化して襲ってくる。
油断は決してできない魔物だ。
「一人では、少し骨が折れそうだな」
「はい、本物と対峙するのは……は、は、はじめてでぇ……」
「ドクダミちゃんそれならアドバイスだが……無茶はするな。ちくちく確実に1羽ずつやれ。絶対に焦るな」
「は、はい!」
「一羽倒せば脅威は一気に減る三羽相手にするのはよせ。あとそんなに攻撃を連発はできない。隠れてちくちく確実にやれば大丈夫だ」
「が、がんばります!」
「あとは、ペーパーのほうは大丈夫なのか?何か懸念点とかは?」
「あっそっちは大丈夫です」
即答だった。
「そ、そうか。実技試験ってのは?」
「蛍灯の鈴への魔力注入とか、自分の属性の魔術の簡単な実技と、後は主属性以外で2つ以上の属性の魔術試験ですね」
「え?主属性以外にも2つも操らなきゃダメなのか?」
「はい」
「そんなことできるのか?」
「はい」
これも即答だった。
そんなことできる奴……ステラしか知らない。
ドクダミちゃんは以外に大丈夫そうだった。
次はレイシーの話の番だが、うすうす気になっていたことがある。
話にも少し出たので、俺はこのタイミングで聞くことにした。
「なぁうすうす気になってはいたんだが、お前たちは……戦えるのか?」




