最後の始まり
冒険者PTは大方の場合4人で構成される。
戦士、魔法使い、タンク、補助役の構成だ。
魔界開拓の黎明期では、数十人規模の大隊を組んでいたそうが、それでは問題点が多すぎた。
第一に食糧問題、その次に魔獣による奇襲への対処、それによるけが人の処置。
この危険領域で大隊が維持できるはずがなかった。
サバイバルは、知識と経験のある少人数で行った方がよいということだ。
現在の主流は4役で構成するPT。
その名も「マンダリアン・パーティ」。
その昔、北部地域を大開拓した、英雄の名前から取ってそう呼ばれる。
基本的な戦闘方法は盾役であるタンクが守り、戦士が攻撃する、隙ができたところで大砲をぶちこむといった流れだ。
その成功率を高めるために補助役がいる。
一口に補助役と言っても種類は様々だ。
回復、治癒を得意とする「ヒーラー」
身体強化、能力強化を得意とする「バッファー」
その他の様々な効果でPTを補佐する「スペシャリスト」だ。
ちなみに俺は「バッファー」だ。
自身と味方の身体強化を施す。
俺の魔術の長所は、身体強化のみならず魔力の強化もできるし、自己治癒治能力も強化できるので、若干の傷も回復できる。
なので、一応「ヒーラー」とのハイブリッドってことで売っている。
と言っても専門職には及ばない。
でも、ま、無いよりかはましかなと思っているし、事実なのでそう書いている。
でも、ま、俺はいわゆる器用貧乏って奴だ。
でもそのいい意味で言うとこの汎用性ってのが俺の売りだ。
今のところ魔物の8割以上はこのマンダリアン構成で対処できるとされている。
もちろん、冒険者のレベルにもよるが、攻略本に掲載されている対処法をこの四人でやれば、対処できない魔物はいない。
アルの号令と共に皆が働き始めた。
俺はテントの設営
ウーティは狩りへ
アルは周囲の清掃
そして、ステラは鈴に魔力を込めていた。
ほとんどのPTがマンダリン構成になるもう一つの理由は、セーフポイントの維持義務だ。
特に蛍灯の鈴の魔力補給は冒険者にとっては結構な重荷になる。
十分な魔力の持つ術者はめずらしく、要請通り魔力を込めてたらあっという間に魔力切れして動けなくなるからだ。
政府要請で義務化されているとはいえ、昔は、サボりや形だけ行っている冒険者が多かった。
しかし、蛍灯の鈴は文字通り、冒険者たちの生命線だ。
「マンダリアン」はそのことにも注目していた。
安全性、そしてその環境を維持すること。
どんなに力があろうとも、結果魔界ではこれ以上の成果を出せる手段がなかった。
テントの設営が終わり、俺は焚火用の薪を収集に向かった。
帰ってきた頃には全員が仕事を終えてセーフポイントに戻っていた。
到着時よりも日はだいぶ沈んでいたが、セーフポイントは別の場所のように綺麗になっていた。
前のPTが残した炭が消え、鬱蒼としていた茂みも短く刈られてさっぱりしていた。
茂みの奥には魔力いっぱい輝く蛍灯が見え、昼間のように明るく周囲を照らしていた。
「よぉ旦那。デスウサギが捕れたぜ」
セーフポイントのあまりの変わりように、目を丸くしていた俺を見て、ウーティが自慢げに獲物を見せつけてきた。
デスウサギ……人類が初めて発見した魔物。
狂暴化したウサギである。
グロテスクな見た目ではあるがこれが結構うまい。
繁殖力が強く、脚力も強い。
その速度は魔界でも随一とされているが、溜めが長いのでこれが結構簡単につかまる。
魔物化して巨大になっている上に普通に食えたので、今では冒険者達にとって重要な食材となっている。
でもまぁ、命名した奴は何を考えていたんだろうなとは思う。
「よし、調理する。すまないがばらしてきてくれるか?」
「ああ、もちろんだ。任せてくれ」
アルがそう言うと、ウサギを持って川に下りていった。
俺は薪を組み、懐からマッチを一本取り出す。
服の袖でそれを擦り、火をつける。
俺はマッチを口に近づけてふっと軽く吹いた。
マッチの火は棒から離れ、火の玉だけが薪に向かって飛ぶ。
火が落ちたのをみて、俺は薪に手をかざす。
火は勢いを増し、薪に炎を灯した。
冒険者は魔術を使う。
魔術は自然界の力を借りて、様々な恩恵を人間にもたらす技である。
俺は火の魔術を扱う。
と言っても、ステラのように爆発が起こせたり、火柱を上げるといったことはできない。
火をある程度コントロールするくらいだ。薪に火をつけるには便利だけどな。
大方は自分に合った1属性を習得する。
稀に様々な属性を扱う者もいるが、そういう者は魔法使いと言われている。
我がPTでは、ステラがそうだ。
ステラ曰くその説明は正確でないそうだが良くはわからない。
自分の火を眺める。
熱は十分のように見えたので、準備したフライパンを火にあてる。
薪拾いのついでに採取してきた香草を洗い、手でちぎる。
そうこうしているうちに、アルがデスウサギをさばいて帰ってきた。
きれいに皮がはがれ、肉は全て一口大に揃っている。
相変わらず見事な剣さばきだ。
「さすが。迅速な仕事に敬意を払うよ。いい腕だ」
「ありがとう。これが僕の自慢だからな。お次は君だ。思う存分腕をふるってくれ」
「ああ、すぐにつくるよ」
飯を待つ男というのはなんでだかな、子供みたいで、なんというか、ほほえましいものだ。
俺は油をひき、香草と共にデスウサギを炒める。
味付けは塩のみ、それだけのシンプルな料理だ。
料理のミソは、ごちゃごちゃした調味料じゃない。
素材の良さと火加減だ。
香草の香りが高くなり、肉の香ばしい匂いが充満する。
そろそろ頃合いだな。
俺は火を弱め、皿を出し、料理をよそった。
皿が全員にいきわたると、荷物からコップを出し、そしてワインを開けた。
俺たちの冒険はこのワインと料理ではじまる。
「よし、これで準備ができたな。では頼むよ」
俺がそう言い、席に着く。
それを見たアルがコホンと咳払いし立ち上がる。
「諸君それでは、我々リカオンの三回目の冒険の成功と無事の帰還を祈って」
アルが胸に手を当て、コップを掲げる。
それを見て全員がコップを掲げ、声を合わせる。
「乾杯」
そうして、俺たちの最後の夜が始まった。




