ロックラック・レプタジョー
「よし決まりだ。さっさと行くぞ」
高慢ちきなリーダーがそういった。
「余裕だろ、さっさと終わらせようぜ」
気障な魔術師がそれに続く。
こいつらは、仕事とはいえ正直あまりかかわりたくないタイプだった。
「おいぐずぐずするなよ。はやく行けよ」
リーダーは後ろでおどおどしていた探知役に向かってそう言った。
「お、俺?俺が先頭なのか?」
探知役はそう言った。
どこか、こいつは不安そうだった。
「お前以外誰がいるんだよ」
リーダーは探知役をにらんだ。
こいつは特殊な魔具で電磁波を操り、危険な場所や、レアなアイテムの場所、敵の弱点を索敵できる便利な奴だった。
その技術で行く先の安否を確認するのがこいつの役目だった。
だが、気弱な性格からなのか、その前からの何かのせいなのか、使いパシりのような扱いを受けていた。
この三人はどういう繋がりかはわからないが、旧知の仲のようだった。
「な、なぁやっぱりやめないか?」
探知役が突然そう言いだした。
「やっぱ、モリーの言う通り危険だと思う」
「あ?」
「いやだってさ、嫌な予感がするんだよ」
「それを予見して回避すんのがお前の仕事だろうがよ」
「いや、だから、やめようっていって……」
「じゃあよ、どうすんだよ。これっぽっちの成果でよ。こんな遠くまで来てよ。え?どうすんだよ。おめおめ帰って路頭に迷えってのか?」
「おい、やめろよ」
リーダーが今にも掴みかからん勢いで探知役に迫ったので、俺が間に入った。
探知役はただ目線をはずして後ずさっただけだった。
その姿が、あまりにも弱弱しかった。
「部外者はひっこんでなよ。それともあんたの給料さっぴいてもいいんなら、考えてやってもいいぜ?」
「横暴すぎるだろ」
「雇ってんのはこっちなんだよ。職なしの厄介者を拾ってやったのはどこの誰だよ?」
「それは……そうだが」
「なら従えよ。金が要るんだろ?それにもう決まったことだろうがよ。そいつもさっきは賛成してたぜ?」
リーダーは吐き捨てるようにそう言った。
「ここでうだうだやってるほうが危険だろ?ほら行きなよ」
リーダーに続いて魔術師がそういった。そして暗闇の先を手で指示した。
「どうぞ。レディファーストだ」
「いざとなったら守ってやるから安心して行きなよ。“お嬢ちゃん”」
言われ放題のまま探知役は坑道を進んだ。
嘲るような顔でリーダーたちはそれについて行った。
俺はいつもどおり、最後尾につき、危険に備えた。
しばらく行くと道は3つに分かれていた。
おかしい。俺はそう思った。
こんな道は……坑道図にはなかった。
「ど、どうする?」
探知役が立ち止まりそういった。
「どうするって、お前が決めろよ」
「いや、それはそうだけど。どういう道に行く?」
「あーまじでイラつく。そんなん知るかよ。どの道がどうなってんだよ。お前しかわかんねーだろーがよ」
「あ、そ、それは……」
リーダーは明らかにイラついていた。
探知役は確かに時々要領を得ない質問をする。
それでイラつく気持ちはわかる。
でも……
「とりあえず、危険性が低いところに行こう。不足分が賄えれば十分なんだから、危険を冒す必要はない」
俺が提案した。
「まぁそうだな」
魔術師が同調した。
こいつはまだ冷静のようだ。
「んー?じゃあそれで」
リーダーは興味なさそうにそう言った。
「じゃ、じゃあこっちだ」
探知役は、それを聞いてまっすぐ進んだ。
俺たちはそれに続いた。
しばらく進むと、開けた場所に出た。
そこは、広場のようになっていて、そしてまた左右と中央に道が分かれていた。
「またかよ」
リーダーは気怠そうな声を出した。
「で、どっちだよ?」
「いや、まて、おかしいぞ」
俺は探知役を急かすリーダーにそういった。
「なに?おっさんビビってんの?」
「違う。さっきのもそうだが、こんな道、攻略本にはなかった」
「だから?」
「引き返すべきだ。ここは危険な気がする」
「あー?」
リーダーは苛立った声をだして、探知役を小突いた。
「おい、安全な道を行くんじゃなかったのかよ?」
「い、いや安全だよ魔物の気配はない!それは確かだ!」
探知役はそう言った。
「だってよ、おっさん」
リーダーがそういってきた。
俺は探知役を見た。
探知役は……小さくうなずいた。
「そうか、わかった。すまない」
俺は彼を信じた。
「でぇ?どっち行くんだよ?」
リーダーに焦りが見えたような気がした。
探知役は、一人ふらふら道の真ん中まで行くと、立ち止まり、上を見上げた。
「おいなにやってんだよ」
「み、みんな。上を見てくれ」
探知役がそう言うと、俺たちは言われるままに上を見た。
そこには天井一杯に輝く、白銀の鉱物が柱のようにかたまっていた。
「お?まじか?なんだあれ?もしかしてレアドロップか?」
リーダーがうれしそうな声を出した。
「お前、たまにはやるじゃねぇか。おい!あれ落としてくれ。俺が運びやすくぶった切る」
リーダーがそういうと、魔術師が前に出た。
「あー結構あぶねーからあんたらは下がっててくれ」
魔術師はそう言うと、杖を構えて詠唱を始めた。
俺たちは安全なところでそれを見守ろうと坑道に引き返そうと歩き始めた。
その瞬間、探知役が急に走り去った。
リーダーと俺の脇をすり抜けて、今来た道を全力で……。
すれ違いざまに見た奴の顔は……恐怖に引きつっていたように、も、見えた。
「あっ?!お前どこ……」
リーダーがそういうより早く、背後から魔物の声がした。
振り返ると、横道から魔物が飛び出してきていて、そして、魔術師を嚙みちぎっていた。
一瞬の出来事だった。
魔術師はうめき声も上げずに宙に舞った。
そして壁にたたきつけられて……そのまま床にずり落ちた。
床に横たわる彼は、上半身だけしかなかった。
目の前にいたのはでかいワニだった。
だが、半身を固い石の中にもぐらせていた。
砂を泳ぐ魔物はこの大陸には多数いる。
こいつもその類のように見えた。
俺とリーダーは、とりあえずその場に立ち止まり動かなかった。
これは経験からくる行動だった。
こういうやつらは……大抵、目が悪い。
視力以外のなにかで獲物を視ている。
それを観察する。それがここで生きる一番の秘訣だ。
「音か?」
リーダーが声を殺して話しかけてくる。
「動きかもしれない」
「匂いの可能性は?」
「あるな。今は……奴の血で鼻が利いてない可能性がある」
「なんもわかんねーってことかよ」
リーダーは少し苦しそうだった。友人が死んだんだ。心中は察する。
「ゆっくりと後ずさろう」
俺は冷静にそう言った。
こういう場合は冷静な奴が行動を起こすべきだ。
「ああ」
リーダーはそれだけ返した。
そして、俺たちはゆっくり後ずさった。
静かに、音もなく、慎重に後ずさる。
暗く、静かな坑内にはワニが食事をする音が響いていた。
不吉な水音に、固いものが砕ける音。
聞いてるだけで、ものすごい不快感が襲ってくる。
気持ちが逸る。
俺は数字を1から数えていた。
意味はない、頭を空っぽにするために数えた。
しばらくして、背後の音が消えた。
心臓が凍り付いたようだった。
汗が出る。呼吸が荒くなる。
後ろからリーダーが俺をぐいぐい押してきた。
気持ちはわかるが……おちつけ。
まだ奴がこっちに来るとは限らない。
状況から考えると、おそらく魔力かそれか音か動きに反応するのだろうと考えられる。
ならばゆっくりと行けば、気づかれない可能性が高い。
そんな期待をしながら歩く。音を殺してゆっくりと。
しかしそんな淡い期待は、すぐに砕かれた。
背後から何かが這い寄る音がしてくる。
首筋を唾液だらけの舌でなめられたような、悪寒がした。
恐怖で足元がふわふわしてきた、呼吸が浅く早くなり、頭が回らなくなる。
俺はただ深く呼吸をすることだけを、意識してそれだけをつづけた。
他は何にも考えなかった。この状況が続く限りは、このまま行く。
それが最善手だった。
だが、そう思っていたのは俺だけだった。
這い寄る音は確実にこちらに向かってきていた。
歩調がすこし速くなる。
一回目の分かれ道が目前に見えかけたところまで来た。
そのとき……背後から小さく鳴き声が聞こえた。
おそらく、あいつのだ。
俺はたまらず、背後を振り返る。
しかし、道は暗いままで、何も見えなかった。
俺は前を向きなおし、少し急いだ。
おそらく俺たちはまだ捕捉はされていない。
あいつが襲ってきた速度を見れば、明らかだ。
捕捉されてるんならとっくに奴の腹の中だろう。
南部の魔物は自らの生活圏をあまり出ることをしない。
この先、あそこまで行けば、もしかしたら生活圏を抜けれるかもしれない。
だから、奴はこっちに来るかどうか迷っているのかもしれない。
まだ希望はある。そう思っていた。
だが、次の瞬間、背後から急に何かがぶつかってきた。
え?っと思った瞬間、腹に温かい感覚が広がっていた。
襲われた?
腹に目をやると……剣が、刺さっていいた。
「な……なにを?」
そう思った瞬間、リーダーが俺を押しのけて全力で走っていった。
「ま……」
走り去る背中に、俺は空しく手を伸ばした。
届くはずはない。
だけど、伸ばさずにはいられなかった。
俺は死を覚悟していた。
力がだんだん抜けていく。
俺は最後の力を振り絞り、剣を引き抜いた。
そして、自分に火をつけて、傷口をおさえた。
薄れゆく意識の中で俺は生きることだけを考えた。
瞬間、目の前の壁をワニが泳いでいった。
平面の中を音もなく、すごい速度で。
そしてしばらくして、ワニは再び帰ってきた。
その口には、逃げたリーダーだったものが引っ掛かっていた。
ワニは満足そうに口元をゆがめ、そのまま暗闇に消えていった。
幸運があったとすれば、俺がすべての荷物を持っていたことだ。
自分の生命力というか、しぶとさにあきれるが。
痛みに耐えて、飲み物飲んで、飯を食って何とか耐えていたら、運よく後続の冒険者に救助された。
救助後は鉱山の病院にひと月入院して、帰った。
刺された後のことを医者に言ったら、ケガだけで済んだのは奇跡だとあきれられた。
後に、調べたのだが、俺たちを襲ってきた奴は、「ロックラック・レプタジョー」であったということが分かった。
鉱山の下層にいる危険度の高い魔物だ。
岩を操り、通路などを変化させ獲物を迷わせる。
そういうやつを狙うらしい。
そして、予想通り視力は無く、動きを感知するという性質があるらしかった。
なんで、そんな奴があんな上層にいたのかはわからない。
ただ……魔界ではそういうことも起こりえる。
「ということだ。そういうことも起こりえる」
「壮絶というか……すごいお話ですね」
イヅナは俺の話を聞いてそう言った。
「怖いなぁ...仲間やのに、死の恐怖でそうさせたんや」
レイシーが自分の肩を抱いてそう言った。
「確かに怖いです。で、で、でも、それは、その人の人格の問題もあるかと思います」
ドクダミちゃんがそう言った。
「確かにな。でも、俺が見ている感じ奴は粗暴な感じはあったが、あいつはそんな簡単な人間じゃなかったよ」
「そうなのですか?」
「少しやんちゃだったが、な。でも、悪人ではなかった」
俺がそう言うと、イヅナは黙って考え込んだ。
「もちろんみんなが同じような行動をするとは思わないがな」
「はい」
「だが、体が固まったり、反射的に手が出たり、逃げたり……まぁそんなことは考えられるだろ?」
俺たちは三人を見た。
三人は心当たりがあるって風だった。
「すべてを予想することはもちろんできない。だが、考えられる可能性はすべて考えるべきだ」
「そして、危険は覚悟しろ」
三人はうなずいた。
その後はこれからの話をいくつかした。
俺たちは次に会う時までにやることを確認した。
昼頃にドーソンさんが料理をもって部屋にやってきた。
俺たちは大量の飯を食いながら、冒険の話をした。




