天才!ドクダミちゃんの努力、と苦悩
手帳には、様々な場所のメモが残されていた。
その情報から考えるに確かに一番可能性があるのは今回のタイルスローン鉱山だろう。
だが、怪しい。
なぜならこのタイルスローンはレアドロップもあるし、魔物もいない。
しかも、港から結構近い上に競合が主に行くだろう鉱山ダンジョンとは真逆に位置する。
俺も攻略本は穴が開くほど見たが、こっち側に行った記録はあんまり見た記憶はない。
新しい素材は値踏みが難しいが、需要はあるのでドロップは捌けやすそうでもある。
ルートを確立さえすれば、攻略本に情報を提供できるかもしれない。
そうしたら冒険者パーティとしての評価もついてくる。
正直この情報は値千金だ。おいしい話しかない。
しかし気になるのはやはり、魔物がいないという情報だ。
イヅナの言う通り、この手記にはその情報はない。
だからと言って、いないと断言してもいいのか?
俺の懸念はそこだ。
魔物がいない理由。
鉱山という状況を考えると可能性は様々だ。
イヅナの言う通り魔力が多すぎて魔物が寄り付かないという可能性はある。
しかし例えば毒ガスが発生していて生存環境にないという可能性もある。
なによりも……魔力があふれているということは……強力な魔物がいる可能性があるということ。
強力な魔物の発生は環境に影響を与えることもある。
ダンジョンで魔物がいないとなると、冒険者が一番初めに怪しむのがそれだ。
おじいさまが、運がよかった可能性もある。
なんにしてもこの中の情報だけで、ほいほい冒険に出るのは早計だ、と思われた。
俺は手帳を閉じて顔を上げた。
「なるほど。大体は分かった」
「うんぐぅ」
俺がそういうとイヅナがびっくりして物を詰まらせたようで、むせていた。
「おいおい、大丈夫か」
「うんぐぅん、す、すいません」
俺は落ち着くのを待って、話をつづけた。
どうでもいいことだが机の上の大量にあったお菓子はもうほとんどなくなっていた。
「この行先は、うん、悪くないと思う。しかしここに行くとしても条件がいくつかある」
「条件……ですか?」
「そうだ。まずはこの情報をより正確なものにしたい。確かおじいさまはまだ……」
「あっはい。今は東部の実家のほうに祖母といます」
「であるなら、この話を直接聞きに行ってくれ。特に鉱山の状況と、魔物の有無は詳しく聞いてくれると嬉しい。あとは、当時の装備とかもしれたらありがたいな」
「わかりました!聞いてみます!」
「地底湖の水が引くという情報も重要だ。実際言ってダメでしたじゃ厳しいからな」
「そうですね」
「ここの情報が確かなら急ぐ必要はない。綿密に計画を練るほうがいいだろう。俺も冒険者として情報を調べておく。また一週間後くらいに情報を共有しよう」
「はい!」
「何か思いついたことがあったら相談してくれ。できれば手紙か何かで事前に来る日程を教えてくれるとありがたいかな」
「はい……すいません」
さて、この件については一旦これでいいか。
あと気になることは……。
「それでだ。ちょっと確認しときたいんだけどさ。ドクダミちゃんが言ってた専用ライセンスってあれ、本当に大丈夫なのか?」
俺がそういうと、もぐもぐお菓子を食べていたドクダミちゃんが、止まった。
うん?どうした?そう思ったとき、ドクダミちゃんがすごい汗をかいているのが見えた。
「おい、大丈夫か?」
「あーそれにつきましては……」
イヅナがなんだか申し訳なさそうにそう言ってきた。
「うーん、どこから説明してよいのやら……」
レイシーが腕組み目をつぶった。
「う、ううううう」
ドクダミちゃんはかたかた小刻みに震え始めた。
だんだん顔色が悪くなっていっているようにも見えた。
「ドクダミちゃん。無理するな。一旦箱に入ってもいいからな」
「だ、だ、だ、大丈夫です。大丈夫です」
ドクダミちゃんは大きく息を吸うと自分のほほを叩いた。
「ほんならまぁこの一週間のことをかいつまんで説明させていただきますね」
レイシーはそう言い、話を始めた。
「あの後、イヅナちゃんがこの手記をもってきて、冒険の目標が決まりました。ほんで時間もあるしあかんとこをつぶしていこうって話になったんです」
「ああ」
「調べるうちに、ドクダミちゃんの言ってたライセンスでは危険度イエロー以上のゾーンは入れないことに気づいたんです!」
うん。予想通りというか、あり得るだろうなとは思っていた。
そういう特別ライセンスは、例えば鉱山関係者とかに帯同する経営会社の重役用の特別パスみたいなもんだ。
危険度の高いとこに行く必要はないし、許可も出されないだろう。
資本を持つものが、政府の認可外で自由にすることを禁じる手の一つだ。
「じゃどうするんだ?」
「ええそれで、ドクダミちゃん学校に通いはじめまして」
「学校?冒険者アカデミーか?」
「あーいえ、実はドクダミちゃんこう見えてあのシャリオン魔法学校の生徒でしてね」
「そういえばそんなこと言ってた気がするな」
「ええ、しかもドクダミちゃん、あのエリート校でさらになんと飛び級してるんですよ」
「え?」
にわかには信じられない。
入学することがまず天才じゃないと不可能といわれるくらい狭き門である伝統校なのに、飛び級?
そんなのあるのか?
「い、い、いやいやそんな偶然だよ」
「でもまぁ飛び級は事実やしね。ほんでですねぇ、2年生以上のシャリオン校の生徒は冒険者アカデミーのライセンス等級の証書を得れるんですね」
「そうなのか?それじゃいちいち親御さんのライセンスなんて必要ないじゃないか」
「そうなんですけどね~ドクダミちゃんはほら、あの~なんていうか~」
「いじめられてるんです」
ドクダミちゃんがはっきりとそういった。
「私、こんなだし、それに周りは上級生ばっかりでなじめなくて、それでいつの間にやら自然と、そうなって……」
「ほんでイヅナちゃんと出会った半年くらい前にひと悶着ありましてね」
「それで、休学してます。テストのときは行きますけど、それ以外は……家で勉強してます」
「それで、落第してないのがドクダミちゃんのすごいところなんですよ!」
「そ、それくらいしないと、だって私人間としてだめだから、せめてそれくらいはって……」
「そんなことないよ!」
「素敵な女の子やで~!」
「う、うううう、ありがとう。ふたりともぉおおおおおおおおおお」
そういって、ドクダミちゃんは泣き始めた。
二人はドクダミちゃんのもとにより両脇から抱きしめた。
仲いいことは美しきことだな。
落ち着くのを待って、俺は話し始めた。
「それで、さ。ライセンスをもらうために学校に行ってるってことか?」
「はい。ひと月の講習がありまして、それを受講して合格したらライセンスがもらえます。それは……普通の冒険者ライセンスと同様のものです」
「そうかならそれでドクダミちゃんは行けるわけ、か」
「はい」
ドクダミちゃんは、はっきりとそういった。
「それで、限界を迎えたのか」
「はいぃぃぃぃぃ。すいません。うんんんんん~~~!」
ドクダミちゃんは下唇をかみながら悶えた。
いろいろ堪えているようだった。
俺はその姿をみて、少し安心した。
ドクダミちゃんのこの情緒の不安定さと、弱さは正直言って冒険に向いてない。
向いてないというよりかは、できないといってもいい。
冒険者は常に覚悟を持たなければならない。
そして最後の極限の極限のことを考えねばならない。
この子はそれを乗り越えられない子だと思っていた。
それは仕方がない。
人間はどうしてもできないことがある。
どうしても立ち向かえない、戦えない人間もいる。
それは弱いとか根性がないとかじゃない。
そういう性をもった人間なのだ。
これは変える事ができない。
理解するしかないのだ。
だが、冒険となると、そういう性を持つ人間がどうなるのか。
俺は知っていた。
そして、それを本当に理解しない人間がいるとどうなるのか。
それも俺はよく知っていた。
それは、今も痛いむほど、よく知っていた。
「この話は、するかどうか迷っていたけど……。今しよう。聞いてくれ」
俺は抱き合う三人に向かってそういった。
「ちょうど6年ほど前になるかな。俺も南部魔界に行ったことがある」
そういうと三人は椅子を並べて、俺に向かい合った。
「今から話す事はな。そうだな、覚悟の話だ。覚悟のない者が魔界に行ったら何が起こるかの話なんだ。といってもあんまり重くとらえないでほしい。だけどこれは俺に降りかかった事実なんだ。それだけは知っててほしい」
俺はそう言うと立ち上がり、服をめくり腹を見せた。
「うふぇぇ!?」
「おふぅ、いいからだぁ……」
「ええ~急になんですの~!」
三人は思い思い何か口にした、しかしすぐに食い入るように俺の体を見た。
そこには大きく深い傷が一つあった。
「こ、これは……なんですか?まるで剣か何かで刺されたような……」
イヅナがそういった。
「ご明察だ。いきなり後ろから刺されたんだ。それも一緒に冒険していた仲間からな」
「え?」
俺は椅子に掛けて、そして続きを話し始めた。
「あれは、簡単なダンジョンだった。深部に行く予定もなく、そこに出てくる魔物に対処するアイテムもそろえていた。事実俺たちは危うげなく目的地まで行き仕事を終えたんだ」
遠い過去のようだが、あの光景は今でも、俺は鮮明に思い出せた。
「だけどな、問題が出た。そのパーティは俺を含めた4人で構成されてた。剣士と魔術師と俺と探知とかく乱要因の4人だった。俺は臨時の雇われで南部魔界に行くから大量に荷物を運べる奴がいいってな。俺に声がかかったわけだ」
そういえば、あいつらの名前はなんて言ったかな?なんて思いながら俺は続ける。
「目標を達成したら帰るのが冒険者の鉄則だ。だけど、奴はリーダーの剣士はこういったんだ。採算が合わない、もう少し深部に行こう、と」
三人は黙って聞いている。
「俺はもちろん反対した。計画にないことをしても碌なことがない。これは冒険者のジンクスだが、経験上外れたことがなかった」
俺は話しながらあの時のことを考えていた。
「だが、あいつは反対した。ほかの二人もそうだった。奴の意見はこうだった。物資に余裕がある、それに事前にこの先の情報も入れている対処ができると」
どうしたらあの時、あの先に行かずにすんだのかと考えていた。
「確かに言ってることは正しかった。目的地の奥から魔物が上がってくることなんてざらにあることだし、そういうことも含めて事前に用意はできていた」
「それにな。その時、成果が予想より少なかったんだ。運が悪くて、前のパーティに結構いかれていたんだ。その上俺を雇っているし、何なら一人、その前の段階で道具を破損していた。その損失の補填も考えたら、ここで引けば赤字は確実だった」
「それでだ。金の分は働けと、奴の意見はそうだったんだろな。俺の魔術も相まって、いつもより体力に余裕があったんだろうな。それでいけると勘違いしたんだ」
俺はため息をついた。
うん。無理だったな。あいつらを止めるのはおそらく俺には無理だった。
方法があるとすれば……一人で逃げるしかなかったか。
「俺は、ついていくしかなかった。不安だったがな。でもここで口論するよりも早くいって帰ったほうが安全だと踏んだんだ」
「その判断ミスで俺は死にかけたし、一生モノの傷を負うことになった」




