楽しい昼食
イヅナの話を聞いて、分かったことがある。
こいつは……向う見ずで衝動的で行動力はあるが怖いもの知らずで、なのに計画性は無いし考えも甘い。
だが、目的の為なら手段は選ばない。
そして……平然とうそをつける奴だ。
俺は悩んでいた。
それは俺の冒険者としての、主義と言うか、そういう物と相反したことをしないといけないと思ったからだ。
俺は考えた。
何を言うべきか、と。
「大方の話は、分かった」
俺はそう言った。
「はい……」
イヅナが応えた。
「あーまだわからない部分が多すぎるから、聞いてもいいかい?」
「は、はい!」
「まず……」
そう言ったとき、隣から腹の虫が大きく鳴くのが聞こえた。
ちらりと横目で見ると、イヅナがお腹を押さえていた。
「あー、もしかして昼まだか?」
俺は目線を外し、そう言った。
「う、あ、う、はい……すみません」
「いや、まぁ、うん。そうか」
「ほんなら!まずは、ご飯にしましょか~!」
レイシーが立ち上がりそう言った。
「腹が減ってはなんとやら言いますしね!」
「そうだな。それにうまい飯をご馳走してくれるって聞いてきたしな」
「シ、シ、シルアさんのお料理、お、お、おいしいです」
「そうか。期待してるよ」
俺はそう言うと、イヅナの肩を叩いた。
「行くか」
「は、はい!」
イヅナは顔をあげて、眼元を拭った。
「それじゃみんな!ご飯だ!」
イヅナは立ち上がると笑顔でそう言った。
階下に下りるとすきっ腹をくすぐるいい匂いがしていた。
確かにこれは期待できそうだ。
皆と一緒に食堂まで下りると、そこには素朴で小さいテーブルがあった。
小さいと言っても……6、7人掛けと言ったところだった。
もっとこう何十人も座れるような長テーブルを予想していたので意外に素朴で安心した。
「ど、どうぞ」
ドクダミちゃんが椅子を引いてくれた。
俺は一礼して椅子に腰かけた。
しばらくすると、奥のキッチンからシルアさんがいろんな料理を運んできた。
ビーフシチュー、チーズスフレ、ミートパイにプティング、そしてフランベされた肉。
パンも暖かく、いいにおいがする。
こんな料理は食ったことがない。
「おお、こりゃ豪華だ。いただくのが悪いくらいだな」
「そぉんなほめてもなんもでませんよ~」
なんて言いながら、シルアさんはうれしそうだった。
「おねぇちゃん頑張ったねぇ!」
「まぁねぇ!その分夜は質素やからね。覚悟して腹いっぱいお食べ!」
シルアさんがそう言うと、子供たちは、はーいと返事した。
「ほんならいただきましょうか~」
「はい!」
「で、では……」
ドクダミちゃんは姿勢を正し、手を組んだ。
「父よ、あなたのいつくしみに感謝してこの食事を頂きます。ここに用意されたものを祝福し私たちの心と体を支える糧として下さい……」
三人は祈りをあげた。
俺も手を合わせた。
「いただきます!」
そうして食事が始まった。
食事が始まった直後にシルアさんはキッチンから山盛りのパスタ皿を持ってきた。
それも……2つも。
「ほい、レイシーはこっちもねぇ~」
「おうい、ありがとうね~」
そう言うと二人は山盛りのパスタを仲良く並んで食べ始めた。
俺は言葉を失っていた。
「二人は、ほ、本当に、その良く食べるんです」
ドクダミちゃんが恥ずかしそうにそう言った。
「ああ、すごいなこりゃ」
また一つ……不安要素が増ちまったな。
料理はどれも驚くほどうまかった。
俺もイヅナも、ドクダミちゃんも夢中になって食べた。
皆、黙々食べていた。
ちらりと目を見やると、ドクダミちゃんが必死にもぐもぐしていてなんだか、かわいかった。
イヅナは意外に上品に食事していた。ときどき隣のドクダミちゃんの口元を拭ってあげたりしていた。
レイシーとシルアさんは、なんだかもう自分との闘いって感じだった。
なんていうか、平和だった。
「おかわりもありますよ~。遠慮せんでくださいね!」
食事もひと段落と言ったところでシルアさんに声を掛けられた。
「ああ、どうも。でも、もう流石に腹いっぱいです」
「おお?そうですか?体大きいのに意外と小食なんですねぇ」
小食って……大食いの人がいるからってのもあったが、3人前は食ってしまってる。
流石に遠慮なさ過ぎたかと、反省していたところだったが、まさかもっと食えと言われるとは。
「いやお恥ずかしながら、食い意地はっちゃって頂きすぎちゃったと思ったくらいですよ」
俺はそう言った。
「シルアさん達が食べすぎなんですよ!」
イヅナが笑いながら言った。
「う、う、うんうん」
ドクダミちゃんが頷いた。
「そうかな~?普通ちゃう?」
レイシーが満足げな表情で言った。
「もう少し入るけどな~」
「化け物かよ」
「まぁ私、バニラボーンですしねぇ」
レイシーがあっけらかんとそう言った。
俺は少し驚いた。
バニラボーンとは魔力を変換できない人間のことを言う。
大抵の人間には魔力が宿っている。
魔力は魔力タンクと呼ばれる見えない器官に溜められているらしい。
魔力タンクは心臓のちょうど真下辺りにあると考えられていて、人間はそこから魔力を引っ張り発現している。
魔力は心臓の鼓動で吸い上げられているらしい。
血流に乗り魔力は全身を流れるのだ。
なので心拍数が高いほど魔術は早く出て、足よりも手から発現する方が速いとされている。
正直、そんなの気にもしたことはない。
大体、足で魔術なんて使えないしな。
吸い上げられた魔力はどこかでその人の持つ性質に変換される。
正確には、その人のもつ一番強い性質になるらしい。
俺なら火だ。
それで、難しい学問では、変換前の魔力をバニラと言うらしい。
それをいろいろ制御していろいろできるらしいが詳細は知らない。
その無色の魔力を吸い上げて、自分の色に変換される場所は、おそらく、心臓なのではないかと言われている。
だが中には、魔力タンクを持つがその変換機能を持たない人間がいる。
それがバニラボーンだ。
バニラボーンは魔術を発現することができないが、バニラ状態の魔力をそのまま血流に乗せられるらしい。
それにより、普通の人間よりも筋力や身体能力が何倍も高いとされる。
本物はあまり見ないし、まして女の子のバニラボーンは初めて見た。
「バニラボーン?ほんとか、珍しいな」
「お!ご存知ですか?」
シルアさんが驚いた様子だった。
「ええ、まぁ仕事で何度か見たことはありますが、女の子は初めてです」
「まぁ昔はよく驚かれましたねぇ。二人で牛一頭丸々食べたり、大人10人抱えたり」
「鬼の子や~いわれてなぁ。懐かしいねぇ」
「失礼よなぁ!こんな美少女捕まえて!いうにそれかいって!」
「ほんまにな~」
なんていうか、ほんわかしているなこの姉妹は……。
それにしても……両親は大変だったろうな。
バニラボーンが珍しいのには理由がある。
彼等は魔力をコントロールできない。
高い身体能力を維持するのには大量の栄養が必要だ。
彼等の死因のほとんどは栄養失調。
それも、生まれてすぐがほとんどだ。
彼等は自身の魔力をうまく消費して生きなければならない。
そのため事故も多い。
なにかと心配を掛けなきゃいけない。
それが……二人も。
モーキンス?聞いたことは無いがもしかしたら名のある出自なのかもしれない。
まぁなんにしても、大変だったろうな。
「それにしても、流石アカデミー出ですねぇ。ようもの知ってはるわ」
「いや、そんな。無駄に長く生きてるだけですよ」
「ご謙遜を~!」
うん?なんだ?今のやり取りは何だか違和感があったような?
「それで、どんなこと教えてくださってるんですか?」
シルアさんが身を乗り出してそう言った。
「え?」
俺は聞き返した。
「お嬢の勉強見てくださってたんでしょ?なんでも、アカデミー史上最高の成績を出して、グランアカデミアも確実言われてたのに、後進の冒険者のために自らの魔術を磨き、数多の冒険者パーティを救いながら、独自の観点から魔物の研究を進めて学会を沸かしているすごいお方や聞いてますよ!」
は?
俺はイヅナの方を見る。
イヅナは、俺と目を合わせようとしなかった。
ドクダミちゃんもそうだった。
「あっ!おねぇちゃん!そろそろほらデザート用意せなあかんのちゃう?この後も、ねぇ?いろいろ教えてもらわなあかんし!」
レイシーが立ち上がりそう言うと、シルアさんはきょとんとした。
「そうやね!無駄話して、お時間取らせたら悪いわね。すぐ準備します~」
そう言ってシルアさんはいそいそとキッチンの方に消えて行った。
直後に俺は咳払いした。
「す……すいません……」
イヅナは居心地悪そうにそう言った。
「ずいぶん、ふかしてくれたな」
「その、あの、つい……」
「で、あの人にも秘密なのか?」
そう言うと、三人はしばらく沈黙した。
「説明は、あとで必ずします。なので、今は話を合わせていただけると……」
しばらくしてイヅナがそう言った。
すごく、申し訳なさそうだった。
「わかった」
「え?」
「わかったよ。とりあえず家庭教師って事にしてればいいんだろ?」
イヅナは泣きそうな顔で俺をみてきた。
「いいんですか?」
「ああ、もう乗りかかった船だ。今日は最後まで付き合うよ。そのかわり後で全部話すんだぞ。嘘、偽りはもう無しだ」
「はい!」
俺は腹をくくった。
いいさ、どうせ、もう失う物なんて何もない。
俺は大きく深呼吸した。
「ああ、先に言っとくけどな……」
俺はイヅナの方を向き直し、言った。
「俺、嘘は下手だからな。期待するなよ」
そう言うと、イヅナは無邪気に笑った。
人の気も知らずに……ったく、こいつはいいよな。
おれは頬杖をついて思案した。
どうすっかなー。
キッチンに目をやると、ポッドが白い蒸気をあげ始めたのが見えた。
時間はあんまりなさそうだな。
助け船も……期待はできなそうだ。
なんとか、やりすごすか。
もうずっと面白いほどに、先行き全てが霧の中だ。
そんな俺達を昼下がりの暖かい陽気が照らしていた。
ほんとになんだか夢みたいだな。
なんて、くだらないことを考えてると、自然と笑ってしまっていた。




