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追放

「実は思うところがあってね。PTを再編成することにしたんだ」

アルが何かを言っている。

「といっても、補助術師を変えてみようという事だけどね」

酔いがすっと引いて行くのが分かる。しかし全く頭に入ってこない。

「その麻袋の中身が多いのはそう言う理由さ。補償とまぁ退職金と言うかそういうもの込みだ。それで納得してほしい」

「なんでだ」

納得してほしいで納得できるはずがなかった。

「え?」

「理由が聞きたい」

俺は、姿勢を正し、まっすぐアルを見た。

「冷静に聞いてほしい。まず君を外すのは僕のわがままで君に非はない。そこは分かってほしい」

俺は黙っている。

「僕は君を評価しているし、冒険者として尊敬している。僕らの冒険のこれまでの成果も君なしでは達成できなかっただろう」

俺は冷静だ。周りのことも、良く見えている。

「だけど、一つ忘れないでもらいたいのだが、僕たちの契約は半永久的に有効という事ではないだろ?」

「確かにな。だから、いきなりクビか」

「急になってしまったのは、すまないとは思っている。だが、補償はそれで十分だと思う」

アルの言う事は正しい。

冒険者PTなんてのはメンバーが変わるなんて事はざらだ。

だけど、俺が気に食わないのは……この雰囲気と周りにいるこいつらだ。

この話が始まってから、ステラもウーティも何も言わない。

そしらぬ顔してあらぬ方向を見ている。

こいつらは知ってたんだ。

俺が外されるのを知っていた。

俺だけが、ここに来た奴らの中で、俺だけが……


それが気に食わなかった。


「ウーティは知ってたのか?」

アルとにらめっこしていても時間の無駄だ。

俺はウーティに話を振った。

「お?あーまぁな。手紙に……書いてたからよ」

ウーティは柄にもなく目を泳がせていた。

決して俺とは目を合わせなかった。

「ステラもか?」

俺は聞いた。

「どうしてそんな事聞くのですか?特に意味は……」

「いいから、答えろよ」

俺は少し乱暴に言った。

普段ならアルが言葉を挟むところだろうが、アルは何も言わなかった。

「……ええ、知ってましたよ。あなたもご存知だと思ったのですがね」

ステラの返答を聞き、そうか、と俺はちいさくつぶやいた。


「ということは、満場一致ってことか」


「わかった。それが分かればそれでいい」


俺は立ち上がった。

そして、アルから差し出された麻袋を掴み、中身をテーブルの上にぶちまけた。

中身は想像以上に豪華だった。

金貨が20枚銀貨が50枚以上。

ちなみに俺が月に貰っていた金額は、銀貨20枚だ。

それでもまぁ一人なら少しばかり贅沢できるくらいの金だった。

俺はその中の金貨を二枚だけ取った。

「まぁふた月分と補償いれてこんくらいあれば十分だろうな」

俺は金貨をポケットに入れ、傍らに置いていたカバンを背負い皆に背を向けた。

「悪いな。邪魔した」

俺はそう言うと、店から出ようと歩き始めた。


「待ってくれ」

アルの声が聞こえ、俺は足を止めた。

「これは僕の気持ちなんだ。どうか受け取ってくれ」

「ありがたいが、気持ちにしては多すぎるな。それに、気持ちを差し出すのは自由だが、受け取らないのも自由だろ」

俺は振り向きもせず言った。

その後に言葉はなかった。

あきれられたか怒られたか。


どちらにしても、もう、俺には関係ない。



店を出て、店の明りから外れた所で俺はため息をついた。

また、こうなってしまったか。

まぁうまく行かないのは、もう慣れっこだ。

今度は深く息を吸い、そのまま空に全部吐いた。

頭上には満天の星空が広がっていた。

魔界で見たあの空よりかはいくらか少ないが、心を落ち着けるには十分だった。

少しばかり言い過ぎたかもとも思ったが、正論だとは言えあまりにもひどい扱いだ。

俺の態度は間違っていないはずだ。


少しばかり空を見上げているとだんだん落ち着いてきた。

なってしまったものはしょうがない。

諦めて帰ろう、そう思い顔を前に向けると、目の前に眼帯をつけた男が立っていた。

「よぉ、兄さん」

店のマスターだ。

マスターの声は初めて聴いたが、見た目通り低く落ち着きのある声だった。

「今夜は散々だったな」

なだめるような話し方だった。

そんなに、怒っているように見えたか……。

少し反省した。この歳でそんなに感情を出すことになるとは……。

「コースの締めだ。俺は最後まで料理を出す。たとえ何があろうとな」

マスターはそう言うと、手に持っていた小包を差し出した。

俺は両手を差し出し、マスターから包みを受け取った。

デザートにしては重量のある包みだった。

包みの外装には片目に眼帯をつけて片目をつぶった兎の絵が描かれていた。

その兎の目元には星が描かれていて、恐らくこの所作はウィンクしているのであろうと思われた。

眼帯つけてウィンクって……えらく独創的だ。

それに包みの口にはかわいい赤いリボンがくくられている。

これはもしかしたら、贈答用の包みかもしれないなと思った。

わざわざ包んでくれたのかと思うと、見た目とは違いずいぶんまめな人なんだなと思った。


「あ、ありがとう……ございます」

俺が礼を言って、顔を上げるとマスターはもうそこにはいなかった。

あれ?っと思った瞬間、背後で鈴の音がした。

店の扉についていた鈴の音だ。

俺は驚いて振り返ると、そこにはもう誰もおらず暗い通りとぼんやり灯る店の光だけがあった。

一瞬で現れて、音もなく消えた……ほんとに何者なんだ。


俺はもう完全に素面になっていた。


もう何度目かもわからないため息をついて、俺は前を向いた。

家に帰ろう。

そして、明日のことを考えよう。


俺は一人、酔客でにぎわう大通りの喧騒の中に消えて行った。

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