さらば
「さぁ、着きましたよ」
ポッポが馬をとめた。
いつのまにやら馬車は巨大な壁に行きついていた。
目の前のレンガ造りの大きな壁に、重くるしい重厚感のある門。
ここは魔界に進出を目指す人類が作り出した魔界攻略の拠点。
魔界と人間界とをつなぐ玄関であり砦だ。
名は「拠点、ガリア」
様々な用途があることから、ただの拠点と言われる。
この門の先に魔術列車の乗降口である駅がある。
クレッドから魔界に向かう途中には、人類を守る盾たる壁が2枚ある。
一つは世界が未だ霧に包まれていた時代に建造された。
クレッドに残った魔術師が人間界と魔界の間に、地面で巨大な壁を作った。
今もその壁は、人類最後の要として現存している。
“ビッグ・O”はその壁と、この街をつなげる。
「拠点、ガリア」は急増で作られたまだ若い街だ。
街と言うには少々不格好だが……
というのも、拠点ガリアは現在も建設中だ。
最終目標は大陸を隔てる壁にするつもりらしい。
それに合わせてその背後に木造りの建造物の集合体が街を形成している。
というか、街の方は勝手に増改築を繰り返されている。
ガリアには、あまり明確な規定はない。
正確には、ガリアとはこの壁を指すものであり、駅と拠点の間の空白地帯はガリアではない。
この空白地帯に、拠点の兵士相手に商売を始めた商人達がいつのまにか住み着き作り上げたのがガリアの街だ。
ガリアのルールは3つ。
本国同様に法律は守らねばならない。
ケンカはご法度
駅までの道には障害物を置かない。
以上だ。その規定さえ守れば、どんな建物でも建築できることになっている。
ここには、自由がある。
本国では決してみられない、構造物の数々、謎のモニュメント、見たことも無い魔物食。
治安は決して良くはないが、ここは人間界のパラダイスだという者もいる。
基本的には、商売のために滞在する者はいるが、定住は許されてはいないし、住民登録も許可は下りない。
しかしもちろん、住みついて帰らない者も多数いる。
街を抜けた先には“駅”の時計塔がある。
高くそびえたつこの時計塔は、昔からこの場所に立っていた。
かつてはクレッドの観光地として、他国から訪れる者もいたそうだ。
由緒があるらしいが、その所以は分からない。
現在は時計塔を改造し、駅の入り口になっている。
「鉄道員ポッポです。戻りました」
ポッポが巨大な門に向かって叫ぶ。
その声に反応したかのように、ガリアの門からランタンの光が見えた。
「ご無事で!その方々は?」
壁の守衛が見張り窓から声をかけてきた。
「こちらの方々は冒険者PTリカオンの方々です。道中遭難しているところを拾いました」
守衛が何か確認しているような動きを見せた。
「そうですか。承知しました。少々おまちください」
しばらくすると、重い門が音を立てて開いた。
軍服を着て長槍を持った男が一人顔をのぞかせ、手を振ってきた。
ポッポは馬を進め、門をくぐる。
「いや、ありがとうございます。それから変わりはありませんか?」
ポッポは馬から降りて兵士の男と話す。
「ええ、冒険者たちは納得していない様子ですがね。酒を飲んだら少しは収まりましたよ。市場の方は今少し騒がしいようですが、そのうち酔いつぶれておとなしくなるでしょう」
ポッポはそうですかといい荷台に顔を向けた。
「とりあえず、拠点につきましたが、いかがいたしましょう?」
ポッポが尋ねる。
「そうだね。どうしようか」
アルはそう言いながら、ステラを起こした。
ステラはうあっと声を上げて目覚めた。
「や、寝てましたか。ここは?」
「ガリアだ。到着したよ」
「そうですか」
ステラは目をこすった。
アルはそれを見てポッポの方をみた。
「ポッポ一つ確認なんだが、まだ列車はあるかい?」
「ええ、臨時の奴ですがもう次で終電車になりますが、残ってはいますよ」
「と、いうことだ。諸君我々には二つの道がある。停泊するか帰還するかだ」
「帰ろう」
俺は即答した。
アルは頷いた。
「俺も旦那の意見に賛成。金も無いしな」
「私も、早く着替えたいです」
「決まりだな」
アルは膝をポンと叩いた。
「ポッポすまないが駅まで送ってもらえないだろうか?」
「ええ、ええいいですよ。どうせ私も駅に帰るのです。乗って行ってください」
ポッポはにこりと微笑んだ。
「ありがとう」
アルが頭を下げた。
「ありがとうございます」
ステラも続いた。
「今度いっぱいおごらせてくれよな!」
ウーティが親指を立てた。
「恩に着るよ」
俺も頭を下げた。
「いえいえ、礼には及びませんよ」
ポッポはそう言うと再び馬を進めた。
拠点から駅までの道は石畳が数km続く。
その左右を、レンガや木で作られた様々な建物が並ぶ。
少し進むとひらけた場所に出る。
ここは広場になっており、元々はここに商売に来た商人達が店を並べた場所だ。
「ガリア中央広場」ここの両脇には無数の商店が並ぶ。
商店と言うか、屋台をそのまま横に縦にめちゃくちゃにつなげた不格好な建造物だ。
通称「ガリアダンジョン」
ダンジョンは屋台で構成され、そこかしこから、酒や肉や何かを煮込んでいる匂いが充満している。
屋台は行き交う人々の多さのせいか建物が常に若干揺れているように見える。
店からは料理の煙や客たちの喧騒、店を照らすランタンの光が絶え間なく夜でも明るく輝いく。
見上げると足をぷらぷらさせて飯を食う冒険者や、何かしらを熱く語りあう者たちの姿が見える。
この喧騒や匂い等から巨大なモンスターが二頭並んでけたけた笑っているようにも見えた。
石畳を馬を進めていると、ダンジョンのどこかから、ポッポーと叫ぶ声が聞こえてきた。
ポッポがそちらに顔を向け、手を振る。
「あんたのせいで大忙しだ、ばかやろー!」
なんともいえない怒声と共に、ワインのボトルと、熱々の肉まんじゅうが飛んできた。
「驕りだー!」
何とも乱暴な方法だがそれがここの流儀だ。
ポッポは慌てて手を構えた。
するとポッポの腰に着けていた水筒から水が触手のように伸び、投げられた食料を巻き取るようにキャッチした。
「すいませーん、いただきます!」
ポッポはそう言うと、肉まんじゅうをかじった。
「どうです?皆さん。私は職務中なので……」
ポッポはそう言うと、ワインをアルに差し出した。
「おお、ありがとう。いただくよ」
アルはワインを手に取ると、風で器用にコルクを抜いて見せた。
「ラッパするけどいいかい?」
俺達は頷いた。
アルは、グイっと一口飲むと大きく息をついた。
「うまい!いやー生き返るね」
「俺も俺も!」
ウーティが言うと、アルがボトルを差し出した。
「ういー、うめぇな」
ウーティは大袈裟そうに言って見せた。
こいつのこういうのはポッポに対する気遣いもあるのだろうと、分かり始めた。
「旦那もいっとけよ」
「ああ、ありがとう」
俺はウーティからボトルを受け取った。
ぐいっと一口飲んでみると、なるほどこれはうまい。
「あーよかったら、ステラもどうだ?」
返答は火を見るよりも明らかだったが、一応ステラにも声はかけた。
「いただきます」
まぁ、いりませんと言われるだろうとは思った。
まぁでもしかたないよなこの流れで言わないってのも……?うん?
「え?ああ。おう」
聞き間違いかと思ったが、ステラが手を伸ばしていた。
俺はボトルを渡した。
するとステラもぐいっと一口、二口、三……全部飲み干した。
「おう嬢ちゃんいけるねぇ」
ウーティがひゅうっと口笛を吹いた。
「これ普通のワインじゃないですね」
「おう、うめーよな。やっぱこう疲れてると一入っていうか……」
「毒入りです」
ステラがすぱっとウーティの言葉をさえぎってそう言った。
「ええ?!」
俺達は同時にステラを見た。
「冗談ですよ。こんなのに騙されるなんて、ほんとうにマヌケですね」
ステラはそう言ってボトルを振って見せた。
「やるねぇ……」
「仕返しを考えないとね」
「楽しみにしてますわ。まぁ無理でしょうけど」
俺はホッと一息ついた。
「つきましたよ」
しばらくすると、ポッポが馬車を停めた。
荷台から外をのぞくと、大きな時計塔と赤レンガの建物が見えた。
駅に到着したようだ。
「ありがとうポッポ。この恩は忘れないよ」
荷台から降り、アルがポッポと握手をした。
「これが私の仕事ですから。礼には及びませんよ」
「また今度、呑もうぜ!おごるぜ」
ウーティが肩を叩く。
「お世話になりました。お返しはいつか、必ず」
ステラはそう言うと上着をポッポに差し出した。
ポッポは持って行ってくださいと言ったが、ステラは引き下がらなかった。
最後にはポッポが折れて上着を受け取った。
「ありがとう。感謝するよ」
俺も頭を下げた。
「皆さん……光栄ですありがとうございます」
「光栄だなんて……」
「なにを!あの“リカオン”の手助けができたのです。それくらい当然ですよ。あなた方は希望なんですから」
そういわれて、アルはいやーと頭をかいた。
「そんな大それたものではないよ。でも、君にそう言われたんだ。期待にこたえられるようにがんばるよ」
「ええ、ええ、是非人類に希望をもたらしてください。お待ちしておりますよ。いつでも私が迎えにあがりますので」
俺達は何度目かわからない握手を交わし、汽笛が響く駅に急いだ。
駅に入ると、まぁひどい有様だった。
そこかしこに書類やゴミが散乱し、さらには吐しゃ物や血液のようなものまで見えた。
落ちている書類のほとんどは魔界への冒険計画書だった。
俺達はそれらをなるべく踏まないように乗車口まで進んだ。
列車の乗車口であるホームには二台の列車が並んでいた。
人間界発つ魔界行きの赤い列車と、魔界発つ人間界行きの青い列車。
前者が「マンダリアン号」、後者は「ファーウィ号」と言う。
マンダリアンはかつて魔界から初めてレアドロップを持ち帰った伝説の冒険者の名前だ。
後者は勇者の相棒で、勇者の聖剣をクレッドに持ち帰ったという伝説の大鷹の名前から取られている。
魔術列車は、魔炎石を動力にし動いている。
魔炎石というのは火にくべると魔力を出す石である。
これを大量に燃やし膨大な魔力を出してすすむ。
燃やした後の石は魔石炭という物になる。
この魔石炭は魔力をため込む性質がある石で、本国で加工され蛍灯の鈴の材料などになる。
俺が愛用している研石も材料に魔石炭が使われている。
乗車ホームにたどり着くと、若い女の駅員が慌てて手を振った。
「クレッド行き、最終のファーウィ号はまもなく出発いたしまーす!」
アルはポッポから受け取った四人分のキップを掲げ駅員に見えるように振った。
「おおーい!待ってくれ!僕らも乗る!」
「あ!あなたはアルさ……アルガートンさん!?後1分で発車です!急いでください!!」
アルは猛ダッシュしキップを駅員に投げ渡した。
「乱暴ですまない!四人分だ!」
駅員は若干あたふたしていたが四人分のキップを器用にキャッチした。
「ナイスキャッチ!」
アルが叫んだ。
「は、は、は、は、は、はははははいいぃいい!」
駅員がおかしな返事をした。
「お嬢ちゃんさんきゅー!」
ウーティが飛び乗る。
「ありがとうございます」
ステラも続いた。
「恩に……」
俺が言い終わる前に扉が閉まり始めた。
俺は無理やり体をねじりこみどうにかこうにか列車に乗り込んだ。
「無理な乗車はおやめくださーーい!」
駅員の叫び声を背中に列車は動き始める。
アル達はすぐに座席に回ると窓から体を乗り出して、手を振った。
「ごめん!今回だけだ!今度来るときはお行儀よくするからね!」
そういうと駅員は顔を真っ赤にして下を向いた。
あいつはどうやらアルのファンなようだ。
「もてるねぇ、大将」
「からかうなよ」
そんなこんなで、俺達の最後の旅は終わった。




