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一難去ってまた一難

ステラと一緒にとぼとぼと歩く。

とりあえず数十メートルほど先に転がっている氷のソリに向かった。

少し進むと足元にじゃりじゃりした感覚があった。

足元を見ると氷の欠片が所々に散乱していた。


「こんなとこまで……」

俺はつぶやいた。

まだ本体までは30m以上はある。

相当な衝撃だったようだ。

「これは相当な速度が出ていたようですね」

ステラがどこか他人事のようにそう言った。

「ようって……。お前いつから意識がなかったんだ?もしかして、ずっと……?」

「ええ、ずっとですよ。ソリが飛び出したあたりから記憶が全くありません」

「よく無事だったな……」

そんなことを話しながら歩いていると、頭の上からがさがさと葉の揺れる音がした。

俺は咄嗟に身構えた。

さっきみたいにスライムがいきなり降ってくるかもしれない。


「おうい。誰かいるかい?」

木の上から聞き覚えのある声が聞こえる。

「アルか?どこにいる?無事なのかー!」

俺が樹上に向かって叫んだ。

「無事だ……けど、そうとも言えないかもしれない。服が木にひっかかって身動きが取れないんだ」

ちょうど真上にある太い枝のせいで上が見にくいが、目をこらしてみると樹上に動く影が見えた。

どうやらあれのようだ。


アルの引っかかった木は周囲のものよりも二回りは大きかった。

そのためか葉も多く、クッションになったのだろうと思われた。

それ自体は幸運だったが、アルはけっこう高い所にいるようで、とにかくもう木に登らないと話にならなかった。

俺の体を燃やしていた火は完全に消えてしまったが、どうやら内部の火はまだ残っているようだった。

その内燃機関がある内はまだ余力がある。

木に登ることは問題なくできそうだが、どうやって下ろせばよいのか。

いい案が浮かばなかった。


「風は使えないのか?」

「もう魔力がすっからかんだ。ちなみに腕にも全く力が入らない。成す術なしだ」

俺は周囲を見渡した。

雑木林には何もなかった。それに陽がもう大分傾いてきている。

迷っている暇は無さそうだった。

「どうしますか?ちなみに私ももう何もできませんよ」

悩む俺に、ステラがそう言った。

「それはわかってる。どうするもこうするも……俺が登るしかないな」


俺はステラを木の根元に座らせた。

ストレッチをし頬を叩き気合を入れた。

「最悪、飛び降りるかもしれない。その場合は安全そうなところを教えてくれ」

俺はステラにそう言うと、木に手をついた。

こういうのは勢いが大切だ。

俺は大きく息を吐き、上を見つめ、一気に……

「旦那ぁ、大丈夫?手伝おっか?」

いきなり横から話しかけられた。

驚いて振り向いてみるとウーティがいた。

「お前、いたのかよ。というか、こんな時に脅かすなよ」

「おお、すまねぇ」

全然反省の色は見えなかった。

「手伝うってまだ魔力が残ってるのか?」

若干あきれ気味に俺が聞いた。

「まぁ踏み台作るくらいはあるぜ」

「そうか。それじゃ、あの真上の枝まで押し上げてもらえるか?」

「おう、まかせろ」

そう言うとウーティは地面に手を付けた。

「行く前に確認だが、降りるときもお願いできるか?」

「おう、いけそうだ」

「わかった。アルを助けたら声をかけるから、その時は頼んだ」


俺は軽く屈伸した。

そしてウーティに合図を送った。

「いくぞ。せーの!」

ウーティが力を入れると、俺の足下の地面がせり上がった。

俺はどんどん押し上げられたが、2mほど隆起したところでウーティが根を上げた。

「もう無理ぃ!行ってくれ旦那」

まぁ……正直全然足りないが文句は言えない。

俺は思いっきりジャンプし、精一杯腕を伸ばして、何とか真上の枝に掴まることができた。

掴まってみて思ったが、うん、これは結構いけそうだ。

俺は一気に力を入れて枝の上へと登った。


枝の上に立ってみると、思ったよりも枝は太く足場は安定していた。

一安心して顔を上げると、すぐ目の前にアルがはりつけになっているのが見えた。

「やぁ、モリー。どうやら悪い魔女に掴まっちゃったみたいだ」

アルは服の一部が枝に引っかかっり、手足をプラプラさせていた。

まるで無数の糸で吊り下げられた操り人形のようだった。

「どうも余裕そうだな。そんな冗談を言えるくらいなら、もしかして俺の助けは不要かな?」

嫌味ったらしく言ってみた。

「いやいや、もう見事に限界さ。まさしく手も足も出ないんだ」

「それならそういう風にしててくれよな。よし、まぁ時間もないしそろそろ下ろすぞ」

「悪い魔女が帰ってくる前に頼むよ」

俺はアルを掴むと思いっきり引っ張った。

アルは服のどこか一部が引っかかっていたようで、何かが破れる音と共にアルが降ってきた。

俺はアルを両手でキャッチする。

「ナイスキャッチ!おや?こう言うのはもしかして本日、二回目かな?」

「ああ、そうかもな」

「君はいい王子様になるだろうね」

「そうか。なら国に帰ったら城にでも仕えてみるよ」


そんなどうでもいいやり取りがあった。

それはいいねとアルが笑う。

本当にこいつはよくわからん奴だ。


俺は下にいるウーティに声をかける。

ウーティが返事をすると、土がせり上がる音がした。

俺はアルを抱えたまま土台に飛び下りた。

ウーティはそれを見ると、ゆっくり沈めるように土台を下ろした。


「やぁみんな無事か?」

「おう。大将も大丈夫か?」

「ああ、おかげさまでね。一張羅はダメになっちゃったけど、いい経験をした。悪くなかったよ」

こんな時でも、こいつらはいつも通りのゆるさだ。

正直、言うといい加減、俺はイラついてきていた。


「ところでステラはどこだい?」

「ステラならこっちだ」

俺は降りてすぐにステラの様子を確認していた。

ステラは木に寄りかかりながら眠っているようだった。


「悠長に構えている暇はないぞ。助かったはいいが、ステラはもう限界だ。陽も、もう大分傾いてきてる」

事実、周囲はだんだん暗くなり始めている。

夕闇が近づき、気温も再び下がってきているのを感じる。

そしてもう火はつけれない。

今、燃えている内側の火が消えれば、俺ももう歩けるかどうかわからなかった。

「俺達にはもう余力はない、時間の無いし、おまけにここがどこかもわからない」

「言いたいことは分かるが、落ち着こう。大丈夫だから」

大丈夫?何を根拠に……楽観的すぎやしないかと、思ったが、流石にこいつも馬鹿じゃない。

もしかしたら、この場所がどこなのかアルには分かってるのかもしれない。

急に冷静さを欠いた自分の言動を恥じた。


「すまない。もしかしてここがどこか分かるのか?」

「いや、分からないよ。見たこともないね」

え?

「だが大丈夫だ」

は?

「なんでそう言える?」

「僕は風使いだからね。道は風が教えてくれる」

何言ってるんだこいつは。

「つまりは勘か?」

「100%ではないよ。上空から見た情報を基にある程度の進行方向は分かる」

「ここは森だぞ」

「言いたいことは分かる。しかしもうそれしか頼るものがない」

アルのいう事は正直言ってその通りだ。

俺達には地図もコンパスもない。

それに時間を気にするなら、今誰かを責めてるほうが時間の無駄だ。

俺達は博打に勝っただけで、まだ助かった訳ではない。

いやむしろ状況は悪化している可能性もある。

道が分かれば夜通し歩けばどうにかなった可能性があるが今はそれもできない。


アルの言う通り。ここはもうリーダーを信じるしかない。


「そうだな。すまない。ちょっと焦ってしまったみたいだ」

「仕方がないよ。状況が状況だ。君の心配も分かるけど、そこは僕を信じてくれ」


俺はステラを起こしに行った。

ステラの元に行き肩を軽くゆすり、声をかける。

ステラは、はっと目を覚まし恥ずかしそうに口元をぬぐった。

「う……ん。すいません、少しうとうとしてしまいました」

「いや大丈夫だ。それよりも歩けるかい?」

アルが頭を抱えているステラに聞く。

どう見ても歩けそうにはない。

「大丈夫です」

ステラはそう言うとフラフラ立ち上がった。

どう見ても大丈夫そうには見えない。

「無理はするな」

俺が言う。

「大丈夫です。このくらい……」

ステラはそう言って1、2歩歩いて見せた。

しかしすぐに顔をゆがめ、膝を崩した。

「大丈夫か?」

アルが倒れるステラを抱き止めた。

「うん。大丈夫じゃないな」

「強がりはもうよせ。意味がない」

俺はそう言ってステラの近くによった。

「俺がステラをおぶって歩くよ」

「それは助かるが、君は大丈夫なのか?」

「ああ、まだ内側の火は残っている。といっても時間の問題だけどな」

俺はステラの前まで行くと、彼女に背を向けて屈んだ。

「そら、おぶされ」

「結構です。勝手に決めないでください」

ステラが言った。

俺はため息を堪えた。

嫌われたものだな……。

だがしかし、今はそんな下らない強がりを聞く余裕はない。

「いい加減にしろ。そんなこと言ってる場合……」

「こんな格好でおぶられるくらいなら、死にます」

ステラが被せるように言ってきた。

顔は見てないが、本気って感じだろう。

「おい、言いすぎだ。君だってわかってるだろ?」

「やめてください、そんな言い方。私もプロです。冒険者です。死ぬ覚悟はできてます。どうぞ置いて行ってください。数日位なら一人で生きれますので」


俺は立ち上がった。

性別とか関係性とか育ちとか強い弱いとか、そんなの関係なくステラをぶつつもりだった。

そんなことできないって分かっていて無理難題を言ってくる。

そう言う根性が気に食わなかったからだ。

いい加減にしろ。時と場合をわきまえろ。

そう言う気持ちだった。

俺達だって命懸けだなんだ。全員が団結しないと乗り越えれない。


俺は無言でステラの方を振り返った。

アルが何かを察したのか俺とステラの間に入るように立った。

「落ち着け。君はさっきから何か、冷静さを欠いているぞ」

「どっちがだ?俺かそいつか?」

「言いたいことは分かる。しかしこう言うなら仕方がない。ここで野宿をしよう」

「それで?次はどうする?そこらの獣を取ってきて皮で靴でも作ってやるのか?」

「私は一人でも……」ステラがつぶやく。

「いい加減にしろ。そうして、万が一お前が死んでみろ俺達はそのまま殺人者だ」

「おい」

「事実だ。それにそいつはできないって分かってて言っている」

「そんなこと」

「わかった。すまないな気が回らなくて」

俺は靴を脱いで、ステラの前に投げた。

「それがほしいんだろ?他は?ズボンも脱ぐか?」

「いい加減にしろ。君の発言は行き過ぎている」

「どっちが先だ。俺からすればこれ以上のことを先に言われている」

俺とアルはにらみ合った。


「客観的に考えろよ。俺以外誰がこいつを運ぶんだ?」

「言葉を改めろ。こいつじゃない。ステラだ」

「そうかじゃそのステラ様をどなたが運ぶ?お前か?森から白い馬でも見つけてきてお前が膝に乗せて運んでやるとでも言うのか?」

「どうしてそういう言い方をするんだ」

「そんなのどうでもいいだろ?答えろよ。どうするんだ?」

俺が訊ねると、アルは一拍置いた。

そして深く息を吸いこみ、ゆっくりはいて口を開いた。

「君は正しい。認めるよ。しかし……」

「おいじゃぁよ、お姫様だっこ……なんてどうだ?」

背後からいきなり声がする。振り返るともちろんウーティがいた。

「なぁ聞けよ。俺さ、変かもだけど、全員の意見分かるんだよ。旦那の時間がないってのも事実だし嬢ちゃんの態度がひどいのも事実だ。だけども俺が年頃の女だったらと考えたらだ、確かにそんな裸みてーな恰好で大股広げるってのも恥ずかしくてできないって心も分かる。だから無茶を言ってる嬢ちゃんを庇う大将の意見も分かるんだ」

ウーティはつらつらと話す。

「先に言うが、勘違いしてるのは旦那だぜ?嬢ちゃんはこういう奴だがよ。女だから男は優しくしないとねぇ。誰が何と言おうと俺はそう思うぜ。しかも、嬢ちゃんは旦那に助けてもらいたくないとは言って無いだろ。おぶられたくないって言ってるんだ。だからよ、間を取ってお姫様だっこすればいいんだよ。裾が絶対めくれないように押さえれるし後ろよりも前にいる方が危険も少ない。それにおんぶよりもだっこの方が楽なんじゃないか?」


どうだ?とウーティが確認してくる。

彼の意見は正鵠を射っている。

確かに俺が悪い。

「確かに。その通りだな。アルの言う通り、俺は冷静じゃなかったようだ」

「わかってくれた?」

ウーティがにこりとする。

俺はウーティに頷き、ステラを見た。

「ステラ、悪かった。俺が君を抱えるのではだめかな?」

俺はできるだけ優しくそう言った。

「私も、こんな時に……すみません。ですが、余計な気使いは結構です。普通にしてください」

ステラは俺から目を逸らしながらそう言った。

「あと、抱えていただけるのでしたら、その、そちらの方がありがたいのですが……」


こいつはホントにどうしようもないが、まぁいい。

プライドがあるというのは、素晴らしいことだ。

俺はとうにそんなものは捨ててしまった。

捨てた?いや、違う。

無くなってしまったのだ。

いつの間にやら。初めからそんなものなかったかのように。


「わかった」

そう言うと俺はズボンのベルトを外した。

それを見たステラが身をすくませた。

「何もしないよ。シャツの裾を縛るだけだ。どうせ抱えるんだからそうしてくれた方がやりやすいし、めくれる心配も無いだろ?」

「ああ、はい、そうですか。それなら……」

俺はステラの太ももの下で彼女のシャツを縛った。

ステラは膝をそろえて棒きれのように直立した。

それでも結構無理してるように見えた。

早く抱えてやろうと不意に彼女の足元を見ると、血がにじんでいるのが見えた。

爪は何枚か剥がれてしまっていたし、指の隙間に浅い裂傷があるのも見えた。


うん。それは痛いよな……。

俺はステラを抱え上げた。


「すまなかった。俺に言いたいこともあるだろうが、とにかく今は時間が惜しい。先に進もう」

「僕の方こそすまない。無茶を言った」

「いや、お互い様だ。だから……俺はステラを限界まで運ぶ。行く先はお前にまかせる。頼んだぞ、大将」

俺がそう言うとアルがにこりと笑った。

ウーティもここぞとばかりににこりと笑い、親指を立て、自分の顔を指してきた。


俺達はウーティの顔を見て冷めてしまった。


「行こう。こっちだ」

アルはウーティを無視して歩き始める。

俺もそれに黙って続いた。

「おいおい!俺に感謝の言葉とかは無しかよ!」


背後で何か聞こえた気がしたが……まぁ気のせいだろう。

俺達は一顧だにせず、薄暗がりの中を歩いて行った。

すいません。ほとんど読み返さずだします。おそらくやばいので後で修正します。

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