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希望に向けての発進

男3人で、斜面の近くまでソリを持っていく。

氷は冷たく、そしてすごく重かった。

斜面からソリの先を出すように準備する。

一仕事終わっても油断はできない。

次が本番だ。

俺は自分に火をつける準備をした。


「よし、一発勝負だ。乗る順番を決めよう。まずはモリーだ」

アルが仕切りを始めた。

「ああ」

俺は返事した。

「次にウーティ」

おうっとウーティは返事した。

「次は迷うが、僕が行く。最後はステラだ」


「乗り方についてだが、このソリは深くできているから、まずモリーが底に足を延ばして乗ってくれ」

アルが解説を始める。

「すぐに僕等三人が順番に上に乗る。少し重いだろうが申し訳ないがそこは耐えてくれ。全員が乗り込んだらすぐにウーティの力でソリの後部の地面を持ち上げて僕の風でソリを押し出す。あとは……運を天に任せよう。みんなも無事にあの飛び出し台まで滑って行って着地できることを祈ってくれ」


「順番はざっとそんなところだが、この作戦には問題点が一つある」

アルがそう切り出した。

「それはモリーが燃えていることだ。それにより僕らの箱舟たるこの氷のソリは正直長くはもたないだろう」


俺の火は主に二種類ある、内部を燃やすものと外部を燃やすもの。

それぞれ効果が若干違うが大きな違いがあるとすれば、それは影響の及ぶ範囲だ。

内部を燃やせば長時間持続的に強化が入るが自分だけしか効果がない。

外部を燃やせば短時間しか持続しないが、影響は炎のふれる範囲すべてだ。



「そうだな。俺の火は魔術だからただの水では消えないし威力も衰えない」

「ただの氷じゃあ良い意味でも悪い意味でも「影響は抑えられない」と言う認識でいいね?」

「ああ、その通りだ」

「この氷はよ、魔力帯びてんじゃねぇの?」

ウーティが疑問を口にした。

「まぁそうだがこれくらいの残存魔力なら影響はないな」

「このソリどれくらい持つと思う?」

「さぁな。でも正直長くは持たないだろうな」

「さっき運んでみても分かっただろうが、このソリは非常に冷たい。僕たちの搭乗時間はそんなに長くはないだろうがこれ以上無駄な負傷は避けたい。なので僕らはモリーの火のおこぼれをもらうように密着しなくてはならない訳だが、全員に火が点くといつまでもつかわからない。これは超スピード勝負になると予想される」


実際、周囲の気温も戻ってきているのを感じる。

通常の気温なら、恐らくあの氷の壁とて2、3日でとけて無くなってしまうだろう。


「ということは……だ。僕たちに残されたチャンスは一回きりだ」

アルがそう言い、深呼吸をした。

「そして失敗したら、僕たちの命はないだろう」

皆が静まった。

「だが行くしかない。覚悟を決めてくれ」


アルがそう言うと、ウーティは頭をがしがしかきむしった。

そして、よしっというと目の前の凍った木を根っこからぶっ飛ばした。


「発射口を広げたぜ。これで出発は楽になったろ?俺は覚悟できた。いつでもいいぜ」


それを聞き、俺も深呼吸をし、そして、火をつけた。


「じゃぁ乗り込むぞ。みんな一気に来てくれ」

俺はそう言うと勢いよくソリに乗り込んだ。

乗るや否や俺は足を思いっきり延ばしぴったりソリの底に収まった。


「よし、乗った。次……」

乗っていいぞと言い切る前にウーティが俺の腹に乗っかってきた。

話してる途中にいきなり来たので息ができない。

「お前……」

「よっしゃー!!来い!!」

文句を言おうとしたら、ウーティが叫んだ。

ウーティの声は、若干だが上ずっていた。

こいつ予想以上にビビってやがる。



「お邪魔するよ!」

掛け声とともにアルが飛び乗る。

「全員乗ったらスタートさせてくれ!頼んだぞ、ウーティ」

「お……おう!」

そこから一瞬だけ間が開いた。

俺達は全員ステラの方を見る。

「何してる?早く乗ってくれ」

「嬢ちゃんまさかビビってのか?」

「もしかして具合でも悪いのか?」


「どれも違います。あなた方、目を閉じてください」

ステラは着ているぶかぶかのシャツをめいっぱい下に伸ばしながらそう言った。

ああ……と全員納得し、目をつむった。


「絶対に目を開けないでくださいね」

そう言うと、彼女はソリに乗り込んだ。

想像以上に冷たかったのかひゃっと小さく悲鳴が聞こえた気がした。

なんだか、そういう面もあるんだなとこんな時だが思ってしまった。


「よし、行こう。頼む!」

「おう!」

ウーティが掛け声とともにソリのヘリを叩いた。

ソリの後ろの地面が盛り上がり、ソリは斜面に沿うように傾いた。


俺達は斜面に沿って前につんのめった。

俺達はずりずりと、下の方に引っ張られる。

危うく転落と行きそうな雰囲気だ。

覚悟はしていたが、こう、いざ斜面に出てみると、迫力が違った。

自分の意思とは関係なく、重力により下の方向に引っ張られる。

崖から片足を出した時のような浮遊感が俺達の体を包んだ。


「おっと、これはまずそうだね。このままだとひっくり返りそうだ」

アルはそう言うと両手をソリから出し、手のひらに風を集め始めた。

「0と言ったら発射する。ウーティ、操舵は任せた」

アルはそう言うと5、4、3……と数え始めた。

彼の掌の風は渦を巻き、球状に固まっていく。

「なぁこれやっぱりちょっとさ、大将あれだよやっぱその、なぁこれは……」

ウーティがもごもご何かを言い始める。

そんな彼を無視して容赦なくカウントは続き、そしてついに。


「0!」

アルはそう言うと勢いよく掌の風を後方に向け爆発させた。

その勢いに乗り、ソリははね飛び、着地と同時に斜面を滑り始めた。

ソリの速度はみるみる上がっていく。


ウーティが拓いたスタート地点はある程度は平たんだったが、そこを抜けるとソリは激しい振動に襲われた。


「うおおおおお」

ウーティが叫ぶ。

「おい!これ、ホントにもつのか?」

俺のケツに伝わる振動がだんだん不穏な雰囲気に変わってきている。

「わから、ない、けど……信じるしかない」

アルがそう言った。確かに俺達に打つ手はない。

もう信じるしかない。


そう思った瞬間だった。


ソリが木の根に乗り上げ、勢いよく飛び上がった。

きゃっとステラが小さく声を上げた。

ソリは勢いそのままに軌道を変え、横に大きくそれた。


「おいおいおいおい、このままじゃ木に突っ込むぞ!」

ウーティが叫ぶ。

「ぐぅううう!」

アルが手に風を集めブレーキをかけようとふんばった。

しかし、ソリの速度は全く落ちる気配がない。



真っ白に固まった木々が目の前まで迫る。

俺は完全にアタマが真っ白になっていた。

「おらぁ!」

ウーティが叫びソリの側面を叩いた。

地面が小さく隆起し、ソリは軌道を再び変え横滑りのような状態になった。

それでもルートは戻らず、横滑りの状態で側面から木々に向かい始めた。


「あれにぶつかったら……終わる」そう思った時だった。

俺は無我夢中で腕を目いっぱい伸ばし、近づいてきた木を思いっきり殴りつけていた。

火事場の馬鹿力と言うのか、俺の“どつき”は大きな衝撃を生み、それによりソリは小さくはね、奇跡的にルートを元に戻した。


「まじかよ!やるな、旦那」

「ナイスだ。モリー!」


一旦速度を落としたソリは、再び勢いに乗りぐんぐん速度を上げていく。

さっきとは裏腹に、俺達は吸い込まれるように目的地である“自然の飛び台”に向かっていく。


そして……


「くるぞくるぞくるぞくるぞくるぞくるぞく……」


ウーティが念仏のように唱えたかと思うと、俺達は高く大空に放りだされた。

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