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脱出計画

ウーティが魔術で土で簡易の屋根と長椅子を作った。

その中で気を失った、アルとステラをとりあえず休ませ、俺達は事後処理をすることにした。


と、いっても俺も結構こたえてはいるのだが……。

「いやー真っ白だな。見ろよ旦那、山脈が凍ってるぜ」

ほんと、元気なのはこいつだけだ。


「それにしても……すさまじいな」

「ああ、ホントに味方でよかったぜ」


俺達を守った壁をどけてみると、そこにはすさまじい光景が広がっていた。

とりあえず、俺達が渡った細道は完全に崩壊していた。

その先にいる例のスライムは完全に凍り付いて……というよりこれはもう氷柱となってしまっている。

問題はその氷柱が巨大なスライムのそのまた3倍近くに伸びていることだ。

それにより、ゲッコーへの唯一の道は氷の壁に完全に塞がれていた。


「なぁこれ、ヤバくないか?」

「大丈夫だろ、今、夏だし。すぐ解けるんじゃない?」

「いや、そうじゃなくて、道が完全になくなってるだろ。これ政府にバレたら……って絶対バレるけど、ヤバいだろ」

「そういやそうだな。公共物破損ってどんくらいの罪だっけ?」

「覚えてるのだと、確か2年くらい前に酔っ払いがセーフポイント壊して島送りにされたとか聞いたな」

「嘘だろ?」

「正しくは、冒険者ライセンスの停止及び3年間の公共事業奉仕義務みたいなやつだったと思う」

「3年?!3年も政府の奴隷しなきゃなんねぇのかよ!そりゃ勘弁だ」

「まぁ、これ、3年ですめばいいけどな……」

そんなことを話しながら俺達は途方に暮れていた。


「で、旦那、あんたはこれからどうすべきだと思う?」

ウーティが珍しく真剣な感じで聞いてきた。

「成す術は無いな。アルとステラの回復を待って、撤退するしかないだろう」

「そうだよな。となると……今日中にどこまで戻る?」

「最低“駅”までは戻らないと、ヤバいかもしれない」

「あの状態の嬢ちゃんと大将を連れてか?それにあんたも結構堪えてるだろ?無茶だぜ。セーフポイントまでじゃダメか?」


ウーティの言う事には一理ある。

どんなに急ごうと、目的地までは、4時間近く歩かなければならない。

正確な時間は分からないが、陽の高さから見て今はだいたい昼過ぎぐらいだろう。

日没までにけケガ人を二人抱えて行軍できるとは思えない。確かに危険だ。

しかし、深刻な問題があった。

一つは、早急にこの事態を政府及びアカデミーに報告しなければならないこと。

基本的に、事故とはいえこういう違反行為をしてしまった場合、即時報告しなければならない。

報告が遅れれば遅れるほど、ペナルティも大きくなる。

それに、万が一、今、ゲッコーに冒険者がいた場合……人命に関わる事態になる。

被害者が出ようものなら、最悪俺達の冒険者人生は終わる。


もう一つ重要な問題がある。

それは俺の荷物もスライムと一緒に氷漬けにされてしまったことだ。

あれさえあれば選択肢的には、セーフポイントに戻って野営という事もできたが、流石に道具も食料も寝具も何もない状態で夜を過ごすのはあまりにも危険だ。

残念だが、撤退しかない。


「撤退するしかない。最低限本国と連絡が取れる場所まで戻らないと、下手すれば俺たち以外の人命に危険が及ぶ可能性がある」

「確かにな。多分今の時期言ってる奴なんていねぇとは思うが、巻き込まれて、誰か死んだんじゃ、洒落にならんからな」

「下手すれば、一生塀の中かもな」

「冗談きついぜ。ちょっと真剣になっちまうじゃねぇかよ、そんなん言われたら」

「ウーティ二人抱えれるか?」

「まぁ行けるぜ。ただし旦那の炎が必要だ」

「そうだよな……」

「限界かい?」

「俺の分はいける。でも他人にかけるほどの魔力は残ってない」

「旦那は二人は無理か?」

「普段ならいけるんだけどな」

「そうか、そうだよな」


そう言ったきり俺達は沈黙する。

いい手立てが思い浮かばない。


「陰気になってても仕方ねぇや。コーヒーでも……ってそれもあん中か」

ウーティがため息をついて、氷柱を見る。

「ああーくそ!俺らしくねぇぜ。どうすることもできねぇ!」

「落ち着けよ」

「だめだ!旦那俺はちょっと毛皮刈ってくるぜ!!」

「何をいってるんだこんな時に」

「ああー!無茶なのは分かってるよ!でもよぉなんかやってねぇと落ち着かねぇんだよ!」

「元気なのは結構だが、どうせ持って帰れないし、無益な狩猟行為も罰則対象だぞ」

「固い!規則よりも平穏が大事だろ?!このまま帰ったら、俺狂っちまって手当たり次第に女を襲うかもしれねぇぞ!」

「何言ってるんだ、不安は分かるが落ち着け。大体お前どうやって下りる気だ?道具は無いぞ?」

「ああー?氷いっぱいあるだろ。コレをそ“ソリ”にしてぴゅーって滑ってけば一瞬だよ!」

「それ、どうやってのぼってくるんだよ」

「気合いだよ気合でゴーっと行く……んだよ?」

ウーティがそう言って、固まってしまった。

「どうした?」

「いやよ、凍ってるならある程度ソリで下れば帰れるんじゃないか?」


「うん?確か……に?」

「行けるだろ?」

「でも、そんなの可能なのか?」

「おう、こんだけあれば余裕で作れる」

「材料の話でなくだな。そも、どうやって作るんだ?」

「俺の魔術で一瞬だ」

「氷魔術も使えたのか?」

「あん?地魔術だよ。俺には“同化”がある」


ウーティはこう語った。

地の魔術は“同化”の副属性がある。

というか、地面と同化して使うのが地魔術だから正しくは同化魔術であると。


「しょぼいやつは地面を纏うぐらいしかできねぇが、俺クラスになると俺が地面になれるんだ」

要は地に足がついてさえいれば、地面に潜れるし地面の形も変えれるという事だ。

スライムから脱出できたのも鎧を脱ぎ捨て、地面に潜って抜け出した、という事らしい。



「軽々しく行ってるが、それってとんでもないこと言ってないか?」

「おう?何?やっと俺の凄さを理解したの?てか、“俺様”にやっと気がついちゃったって感じ?!」

こいつの余裕の根源が見えた気がした。



やるか、そう言うと、ウーティは地面に手をつき、一瞬で氷のソリを作ってしまった。

本当にやれるとは……。

本人はその出来に大変機嫌をよくしたみたいで、子供のようにはしゃいでいた。

ウーティは相当うれしかったのか、勢いよくソリに飛び乗った。

しかし、ソリは予想外に冷たかったらしく、勢いそのまま今度はソリから飛び出して地面をゴロゴロ転がり始めた。

「ちべてー!できたけどよ!こんなのぜってー乗れねぇよ!」

「乗るんだよ。もうそれしかない」

俺はため息をついてそう言った。

「旦那!だいたいこれさ、どっかで木とかにぶつかったらどうすんだよ!ブレーキもねぇし絶対ヤバいって!なぁ止めようぜ?」

何言ってんだこいつ、お前が初めに言い出したんだろ……

「やるしかない覚悟決めろ」

「火つけてくれる?」

「俺しか無理だ。できるだけ体を寄せあおう」

ウーティは愕然とした表情で固まってしまった。


「やぁ、楽しそうだね。なにかいいことでもあったかい?」

男二人でじゃれあっていたら、いつの間にやらアルが起きてきていた。

「おう、大将!起きたか。気分はどうだ?」

「ああ、おかげさまで、だいぶ良くなったよ」

アルはそういうが本調子とはいってない様子だった。

ウーティの作った小屋を見ると、ステラも起きている様子だった。

ステラは小屋の中で目をつぶって、後頭部を壁に当ててちょこんと座っていた。


「それで、これは何だい?」

「おう!ソリだ。これで凍った山をぴゃーと下ろうって寸法だ」

それを聞いて、顎に手を当ててアルが考える

「なるほど。とりあえず今の状況を教えてくれないか?」

「スライムは御覧の通りだ。ついでに荷物も氷漬け。ゲッコーへの道は完全崩壊」

「なるほど。それで撤退しかない、と」

「歩くのは嬢ちゃんが限界だろ?でも荷物もねぇから野営もできねぇ」

「野営できないなら、駅まで戻らないといけないってことだね」

アルが空を見上げる。

「うん。確かに今から僕らが歩いても、夜通し歩くことになりそうだ。それは無理だね。その上この寒さだしね」

「旦那ももう限界らしい。自分だけなら燃やせるみたいだけどな」

「他人を燃やせるほどもう余力はないな。このソリすごい冷たいみたいだが、なるべく俺が寒さを被るよ」


アルは軽く頷くと、山の凍った斜面をみた。

爆心地の周囲の木々は完全に氷になっていた。

その先の木々はなぎ倒されて重なっている。

その重なった木々にうっすら氷が乗っており、ちょうど飛び出し台のようになっている箇所があった。


「あそこまで行けたら、一気に下れそうだな」

アルが目算をつける。

「いやいやいやいや、おいおいおいおい、大将あんなの飛んだら、そりゃ死ぬぜ?」

ウーティが全力で静止した。

「大丈夫だよ。僕の風で着地はある程度保証できる」

「いやーそうじゃなくってだな?ほら、でもあぶねーじゃん?」

「もしかして、あなた怖いのですか?」

ステラがいつの間にかそばに立っていた。

ウーティがびくっと体を震わせる。

「え?そうなのかい?あんなに高いとこから落ちてきたのに……」

「あ?いや、別に怖くはねーよ?ただ危険だって言ってんだよ」

「着地は任せてよろしいのですよね?」

「ああ、もちろんだ」

「で、あるなら問題はありませんね?」

「いやー……旦那はどう思う?」

「うん。俺は早く戻ったほうがいいと思う。少しの危険をおかしてでも行くべきだ。ここに留まる方が危険な気がする」

「確かにね。ここには魔力が残留しているね。これを餌にする魔物が集まってくる可能性がある」

「ああ、それにここはゲッコーの近くだ。あいつみたいのがまだいるかもな」

俺達は氷漬けになっている赤いスライムを見た。


「あいつ新種だよな?」

「恐らくそうだろう」

「死んでるよな?」

「わからない。何しろ新種だしね」

俺達を顔を見あわせた。


「やろう」

アルが言った。


そして、俺達はソリの準備を始めた。

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