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蠢く影

俺はその場に立ち尽くしていた。


木にぶら下がる四人を見て、俺は動くことすらできなかった。


しばらくそうしていると、火にかけられていたポットが、からからと音を出した。

どうやら中身が少なくなって空焚き状態になっているようだった。


俺はその音を聞き、正気を取り戻した。


ポットに火をかけたということは……時間はまださほど経過していないはず。

もしかしたら……まだ!


俺は反射的にポットを蹴り飛ばすと、叫んだ。


「イヅナ!すぐに来てくれ!」

叫んでいる途中、俺は少し怖かった。

もしも……返事がなかったら……なんて考えが頭をよぎった。

「え?!は、はい!」

俺の心配をよそに外からイヅナの声がした。

そしてすぐにイヅナが茂みの向こうから姿を見せた。

「モリー様?一体何……が……」

イヅナはセーフゾーンに飛び入ってきて、すぐにホークアイの四人を目撃した。

イヅナは何が起きてるのかわからないって表情わしていた。

しかし、だんだん状況を理解すると、表情を曇らせて、一歩後ろに引くと、大きく息を吸った。

悲鳴をあげる......そう思った。


「生きてる!」

俺は確証はないがそう言った。

きっとここでイヅナが叫べば外の二人も入ってくる。

それは……よくない。

出来ればあまり、こういうものは見せたくない。

それはイヅナにだってそうだ。

だが、こういう役割を任せられるのは……イヅナしかいない。

「イヅナあのロープを切れ!」

俺がそう言い終わるよりも早く、イヅナは俺の方に飛び乗っていた。

「はい!」

イヅナは俺の方の上で返事すると、雷のような速度で刀を抜いた。

何かが切れる音がした。

その後、刀が鞘に収まる音が聞こえるよりも先に四人が地面に落ちた音がした。

「イヅナ!首のロープを頼む」

「はい!」

俺は落下したホークアイの四人を、一人ずつ木の下からセーフゾーンの中に引っ張り込んだ。

イヅナは一人一人の首からロープを切り外した。

「ドクダミちゃん!レイシー!来い!」

四人を助けると、俺は叫んだ。

「は、はい!」

外に残した二人は返事をすると恐る恐る中に入ってきた。

「こ……これは?!」

「く……首……な、ななな、なんでぇ?」

横たわる四人とロープの残骸を見て二人も何があつたのか?を理解したようだった。


「まだ生きてる!救命措置を頼む!二人はモフルさんとクリスを!」

俺はすぐに指示を出した。

考えさせたらだめだと思ったからだ。

「あ……うあ、はい!」

「は……はい!」

二人は怖がっているように見えたが、俺の生きているという言葉でどうにか動けるようだった。

「イヅナ、俺達は……」

俺はそう言うと、倒れている二人を見た。

ホークはまだ血色のある顔をしていた。

しかし、モルドは……。

「こ、これ……も、もう?」

イヅナはモルドの真っ青になった顔を見て震えていた。


俺は迷った。

どう見ても急を要するのは……。

だが、助かりそうなのは……。

「モリー様?!」

イヅナが心配そうな声を上げた。

「イヅナ!救命措置だ。やり方は分かるな?タイミングを合わせるぞ」

俺はそう言うと、ホークの気道を確保した。

「は、はい!」

イヅナはホークの上に飛び乗ると心臓を両手で押した。

「1.2.3!1.2.3!」

イヅナは一定のリズムで心臓をおした。

「1.2.3!モリー様!」

俺はイヅナの合図と同時にホークに人工呼吸をした。

「もう一度だ!」

俺が言うと、イヅナは再び措置を始めた。

そして、俺もイヅナと動きを合わせて人工呼吸を繰り返した。



何度か救命措置を試みたが……結果は芳しくなかった。

「も、モリー様!なんだか……だんだん冷たく……」

「くそ!イヅナ!電撃を放て!」

「え?!大丈夫ですか?!」

「もうそれしかない!ドクダミちゃんも!電撃を与えるんだ!」

俺が指示すると二人は電撃を手に集め始めた。

「いけます!」

二人は同時にそう言った。

「殺す気でやれ!」

俺の号令と共に、二人は電撃を放つ。

すると電撃を受けた、モフルとホークの体が跳ね上がった。

「もう一度!」

「はい!」

俺の号令で二人は再び電撃を放った。


「がは!あっ!あっ……!」

「ホーク!」

二度目の電撃を受けたホークが息を吹き返した。

「あっ?も……モリー?」

ホークは混濁した目で俺を捉えたようだった。

「モリー様!やりましたね!」

イヅナが喜んでいた。

「まだだ!もう一人!」

俺はそう言うと、慌ててモルドの気道を確保した。

「い、いきます!」

「おう!」

イヅナが電撃を放つ。

モルドの体が跳ねる。


「モ……モルド?」

ホークが体を起こした。

「モルド……君?クリス……君?」

隣からモフルさんの声がした。

「わ……私達……一体?!」

二人は事態が飲み込めていないようだった。

俺達は、救命措置を続ける。

「もう一度だ!」

「モ……モリー様……」

「イヅナ!はやく……」

「モリー様!」

イヅナが叫んだ。

俺はイヅナを見た。

イヅナは目に涙をいっぱい貯めていた。

俺がイヅナの顔を見ると、イヅナは泣き始めてしまった。


俺はモルドを見た。

そしてすぐに……目を閉じた。

直視することができなかった。

「モルド……」

俺は拳を握った。



「ごほ!おっほ!ああ!」

誰かの嗚咽が聞こえた。

声の方向を見るとクリスが目を覚ましていた。

「クリス……」

「クリス君!」

ホークとモフルは力なく倒れるクリスに駆け寄った。

「だ、大丈夫か?!」

「あっ……あ?ホ、ホーク……さん?」

クリスは虚ろな目でホークを見た。

「な……なにが、あったんですか?」

「わ、分からない……ただ……」

ホークは俺の方を見た。

「助けられた」

「そ……そうですか……」

「クリス君!大丈夫?」

レイシーがクリスの顔を覗き込んだ。

「れ、レイシーさん。は、はい。大丈夫です」

クリスはそう言うと力なく笑った。


「ホーク、何があったんだ」

俺はホークの肩を掴んだ。

「な……何って……?」

「何じゃないだろ!なんで、お前ら!首なんか……!」

俺はつい声を荒げた。

ぽかんとしたホークの顔に苛ついたからだった。

「い……いや……俺にも分からない」

「分からないじゃないだろ!」

俺が凄むとホークはうろたえていた。

「あ、えっと……」

ホークは言葉が出ないようだった。

その様子を見て、俺は事情を聞きだすのをあきらめた。

「も、モリー様!」

俺がこの後どうするか思案しているとドクダミちゃんが声を上げた。

「なんだ?」

「と、とにかく……こ、ここは危険です。戻りましょう」

「分かってる!」

俺は叫んだ。

そして、はっとした。

顔を上げてみると、ドクダミちゃんが泣きそうな顔をしていた。

馬鹿野郎……。

俺が冷静さを失ってどうする!

俺は握りこぶしを作ると自分の額を思いっきり殴った。

……鈍い音がした。

俺の額から一筋の血が流れた。

「も、モリー様!」

三人が心配そうな声を上げた。

「大丈夫だ」

俺がそう言った。

「で、でも……」

「血ぃでてますよ!」

「大丈夫だ。頭に血がのぼってたから、これくらいでちょうどいい」

俺はそう言うと、懐からタオルを出し、額に巻いた。

「こうしてれば大丈夫さ」

俺はそう言うと、心配そうにしている三人に微笑んだ。

「ごめん、ドクダミちゃん。怒鳴るなんてことはもう二度としない。許してくれ」

「い……いえ!は、はい。大丈夫です……。わ……私、分かってますから」

「すまない」

俺はそう言うと、立ち上がった。



「あっ……確かぁ……」

俺の後ろから突然モフルさんが声を上げた。

「朝ごはんの後……お茶しようとしてたら……」

モフルさんは息苦しそうにしていた。

「香りがして……それで……いつの間にかあの木が……」

モフルさんはそう言うと、頭を抱えてうずくまった。

「木……?!」

悪寒が走った。

「そ、そうだ……あの奇妙な木が……」

ホークは声を震わせていた。

「お、俺達を呼んで……!」

俺は恐怖に震えるその顔を見て……思わず木の方向を見た。

しかし……そこに、木はなかった。

忽然と……いつの間にか木はそこから姿を消していた。



俺は危機を感じた。

奴はまだ……どこかに……。

なら、ここにいるのはかなり危険だ。

俺は力なくへたり込んで地面を見ているホークの腕を引っ張った。

「立てるか?とりあえずここから出よう。ここは危険だ」

俺がそう言うと、ホークは俺を見た。

「も、モリー……。モルドは?」

ホークはそう言うと、俺の背後で眠ったように地面に倒れているモルドを見た。

「ホーク、残念だが……」

俺は首を振った。

「モルド……。いや、モルドはそんな……まだ……」

ホークは俺の腕を払い、地面に倒れこんだ。

そして四つん這いのまま、モルドに向かっていった。

「モルド!起きろ!帰るぞ……モルド……」

ホークは冷たくなったモルドの体をゆすった。

俺は静かにホークの肩を叩いた。

「気持ちは分かる……だが……」

「モリー!モルドがまだ!」

俺は狼狽えるホークの頬を思いっきり殴った。

「しっかりしろ!何のためにお前を助けたと思ってんだ!お前はリーダーだろ!」

「で……でも……」

「他の二人も殺す気か!?」

俺が叫ぶと、ホークは、はっとした顔をした。

そして、俺の後ろにいる、モフルさんを、クリス君を……そしてその傍で心配そうにしているイヅナ達を見た。

「す……すまない、モリー。そうだな。俺は……リーダーだ」

ホークはそう言うと、俺の腕を掴んで精一杯の力で立ち上がった。

「いけるか?」

「ああ、もう大丈夫だ」

ホークの目が定まったように見えた。

「みんな、撤退だ。拠点に戻って、応援を呼ぼう」

ホークはそう言うと、上着を脱ぎ……モルドにかけた。

そしてしばらくモルドの顔を見ると……顔を上げた。

「行こう」

「おう」

俺はその声に応えた。



「行けるか?」

俺はみんなに聞いた。

「大丈夫です」

イヅナは元気がなかった。

「いけますよ」

レイシーも沈んでいた。

「は、はい!」

ドクダミちゃんは……頑張って立っていた。


「モフル……」

「大丈夫だよぉ」

モフルさんはそう言うとホークの手を握った。

「大丈夫……だよ」

「ええ、はい」

ホークはそう言うと、地面に倒れたままのクリス君の元にいった。

「クリス、立てるか?」

「ほ、ホークさん……」

弱弱しい声だった。

「ホ、ホークさん……ぼ……僕……」

「無理しなくていい。俺の肩に手を回すんだ。抱えよう」

「あっ!私も手伝います!」

ホークとレイシーはそう言うと、クリス君の手を肩に回した。

「ぼ……ぼく、立てません……」

クリス君は今にも消えそうな声でそう言った。

「大丈夫だ。待ってろ、今俺が火を……」

俺はそう言うと、懐からマッチを取り出した。

「そ……そう言うことではないんです……」

クリス君は俺を見て言った。

「僕……足の感覚がありません……」



悲痛な空気が俺達を包んだ。

クリス君のその言葉に、俺達は誰一人として、言葉を返せなかった。

クリス君の足はまるで壁につられた操り人形のように力なくうなだれていた。

とても……自由が利いているようには見えなかった。

しばらくして、クリス君が笑った。

「はは、なんて顔してるんですか……皆さん?でも、生きてますから。だから、まずは生き残りましょう」

クリス君のその顔を見て、俺は唇をかんだ。

そして、俺はホークアイの三人に火をつけた。

「行こう。クリスは俺が抱える」

俺はそう言うとクリス君をお姫様だっこした。

「安心しろ。俺はプントウールーから大人を抱えて下山した実績がある。お前一人くらい余裕さ」

俺はそう言って、精一杯の虚勢で笑って見せた。

「すみません……よろしくお願いします」

クリス君はそう言って、苦笑いした。


「行こう」

俺がそう言うと、全員が頷いた。

その顔からは不安の色が見て取れた。

「ホイッスルは用意しとけよ。そうすればすぐに応援が来るから大丈夫だ」

俺は虚勢を張った。

「そうですね。行きましょう」

ホークがそう言うと、俺達は順番にセーフゾーンから出た。


最低限の荷物と武器だけをもって俺達はセーフゾーンを出た。

他の荷物とモルドは置いてきた。

拠点を目指して俺達は行進した。

先頭をイヅナが歩いた。

その後ろにホーク、モフルさん、ドクダミちゃん、レイシー、そして一番危険であろう最後尾を俺は歩いた。

先頭のイヅナは力いっぱいホイッスルを吹きながら歩いた。

静かな森にはその音だけがこだましていた。


「それで、あの木には見覚は?」

重い空気の中俺はそう言った。

何か話していないと……いけない気がしたからだ。

「いえ……見覚えはありません」

俺の腕の中のクリス君が言った。

「あ、ああ、俺も見ていない」

「そうか。実は俺は見ていたんだ」

俺がそう言うとみんなが振り返った。

「え?!いつですか?」

「初めのポイントあったろ?あの時さ、俺、忘れ物ないか確認したんだ。その時に確かにあいつがいた」

「あいつ……」

ホークが何かをかみしめるかのように言った。

「あの木は何者なんですか?」

レイシーがそうきいてきた。

「ストレンジツリー……だろうな。恐らく……にしてはでかすぎる気がするが……」

「それは無いと思います」

ホークがはっきりそう言った。

「なぜそう言える?」

「移動が速すぎます。それにストレンジツリーなら、モフルの魔術でケアしていました。我々がやられるはずがない」

「魔術?」

「あっ、はい。私の魔術は……匂いを操るんです」

モフルさんの声には覇気がなかった。

「東部で取れる花の蜜を使います。それで魔物除けをしたり、ストレンジツリーみたいな香りで誘う魔物の魔術を無効化できます」

「ああ、それで……。確かにあのセーフゾーンはいい匂いがしたな」

「そうでしょう?」

「モフル……さんは、それでストレンジツリーの強個体も無力化した実績があります。だからその線は……考えられません」

「じゃあ……」

レイシーが心配そうな声を出した。

「あれはなんなんです?」

「……わからない。しかし、脅威であることは確かだ」


「それで……何があったんだ?」

俺がそう言うと全員が黙った。

「……分かりません。僕が覚えているのは、モルドさん……」

クリス君は苦しそうに言った。

「急にモルドさんが立ち上がって……ロープを……僕はなんとなくそれを手に取って……そこからは覚えてません」

「そうか……。すまない」

「いいえ」

「その時、何か変なことは?」

「変……?」

「ああ、何か変わったこととかなかったか?例えば……」

俺がそう言うと、俺達の頭上に影が射した。

見ればそこにいきなり背の高い木が“動いて”きた。

「こんなふうに木が動いてきたとかさ……!」

俺はそう言うと、戦闘態勢を取った。



「こ……これは?!」

イヅナが叫んだ。

見ると周囲の木が騒がしく動いていた。

そしていつの間にか俺達はとり囲まれていた。

俺の脳裏には再びいやな記憶が蘇っていた。

「あの時と同じだ……」

俺はつぶやいた。

「南部魔界で奴に出会った時と……同じだ!」

「奴?!奴ってなんのことだ?!」

ホークは叫んだ。

「魔物だ!ロックラック・レプタジョー!奴もこう言う風に自分の好きなように周囲を動かしていた!」

「ロックラック……?!Bランクの魔物ですよ……!深層にいる魔物!そのレベルだというのですか?!」

「可能性はある!」

俺が叫ぶと、頭上に大きく飛び出した木から突然蔓が伸びてきた。

その蔓は正確に、そして素早く、ドクダミちゃんを捉えた。

「ドクダミちゃん!」

「きゃあああああ!」

レイシーが叫ぶと同時にドクダミちゃんは遥か頭上に巻き上げれた。

蔓はドクダミちゃんの四肢を縛ると、体にその蔓を食いこませた。

「う……うあ……あ!」

ドクダミちゃんが苦しそうな声を出す。

「この野郎!」

レイシーが目にもとまらぬ勢いで、動く木に向かって走った。

「待っ……!」

俺が静止しようとした瞬間、レイシーは木に向かって、拳を突き付けた。

「おらぁ!」

大気が揺れた。

レイシーの怒りの拳はものすごい衝撃を放った。


その拳を受けて、木が生き物のように大きく揺れた。


俺は、咄嗟にクリス君を地面に降ろした。

「こんのぉ!」

再びレイシーが木を殴る。

みしっという不吉な音と共に、木には亀裂が入った。

「おおうらぁーー!」

レイシーは拳に火をすべて集めた。

そして……力いっぱい木を殴った。

炎の突風のような衝撃波が周囲に走った。

「きゃあ!」

イヅナとモフルさんが悲鳴を上げた。

「ぐぅ!」

俺は顔の前で腕をクロスして、耐えた。

ものすごい衝撃で気圧されたが、必死に耐えながら……俺は頭上を見ていた。

「ぐぎゃああああ!」

木が叫んだ。

密集してきていた木は叫び声と共に散っていった。

そして……ドクダミちゃんに絡まる蔦もみるみるほどけていった。

俺はそれを見て飛び出した。

「ドクダミちゃん!」

イヅナが叫ぶと同時に俺は落下するドクダミちゃんに向かって、ジャンプした。



俺は死ぬ気でダイブした。

なんとしても、ドクダミちゃんを助ける。

その一心だった。

俺は無事にドクダミちゃんを空中でキャッチした。

「よし!」

思わず声が出た。

「ナイスキャッチ!」

イヅナも叫んだ。

「ドクダミちゃん!」

着地した俺の元にレイシーが駆け寄ってきた。

「モリー様!ドクダミちゃんは?!」

「ああ、無事だ」

ドクダミちゃんの体には薄くあざが残っていたが、俺の火のおかげか、さほどダメージは無いようだった。

だが、レイシーもドクダミちゃんも火は完全に消えていた。

「この火……すごいですね。やっぱモリー様はすごい……」

レイシーは微笑みながらそう言った。

何だか安心したようだった。

「お褒め頂きありがたいがね。今はそんな場合じゃない」

俺はそう言うと、レイシーにドクダミちゃんを託した。

ドクダミちゃんはショックからか、気を失っているようだった。

「レイシーお前は、その子を守れ」

俺はそう言うと懐からマッチを取り出した。

「多分、これが最後だ。次、火が消えたら……今日はもう重ね掛けできないと思ってくれ」

俺はそう言うと、レイシーとドクダミちゃんに火をつけた。

「あっ……ほんまや……なんや少し熱い気がする……」

「そうなんだ。重ねるとそうなる。気を付けろよ」


「モリー!」

俺の背後からホークが叫んだ。

安心する暇もなく、再び木が俺達を取り囲んでいた。

俺達は集合し、クリス君を囲むように背中合わせに円陣を組んだ。

「どうなってる?!」

ホークが弓を構えた。

「分からん!でも向こうさんはまだ……やる気だ!」

「こいつ!まだ懲りへんのか!」

「気を付けて……!」

「ううう……ドクダミちゃんの仇!」

「きゅああ……」

イヅナが刀を構えると、どこからともなく鳴き声のような音が聞こえた。

俺は身構えた。

今……声がしたのは……。

俺はイヅナの方向を見た。



俺の目線の先、イヅナの頭上に……不吉な影が見えた。

「イヅナ!」

俺は咄嗟に叫んだ。

「え?」

イヅナがその陰に気が付いた時、影はイヅナに向かって、大きな口を開けた。

「なにっ?!」

イヅナは奇襲に見事に反応し、電撃を影に放った。

「きゅああああ!」

影は奇襲に失敗し、痛い反撃を受けると叫んだ。

そして……口から何かを吐いた。

「うわあ!」

それは……イヅナに直撃した。


イヅナは力なく、そこに立ち尽くしていた。

影は、がさがさと蠢き、木の影に再び隠れた。

一瞬の出来事で、何が起きたのか、俺達は把握できていなかった。

「イヅナ!無事か?!」

俺はイヅナの近くに行き様子を伺った。

「は……はい」

イヅナは力なくそう答えた。

いきなりの奇襲で驚いたのか、イヅナは呆然としていた。

俺はその反応に違和感を覚えたが一見無事そうなので、ひとまずは安心した。

「い、今のは?!誰か何か見えたか?」

ホークがそう言った。

「ほ、ホーク君が見えないならだれも見えないよ……!」

「そ、それはそうだけど。俺もよくは見えなかった。いや、見えた。見えたのは見えたが……真っ黒な塊だった」

「真っ黒な塊……」

俺がそう言うと、俺の近くで刀が落ちる音がした。



「ん?イヅナ?」

俺がイヅナの方を見ると、イヅナは自分の喉元に刃を突き付けていた。

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