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魔界の朝

四角い小さな風呂が川辺にぽつんと置かれていた。

周囲にはお湯がまき散らされた跡があり、風呂の水位も半分ほどに減っていた。

あいつらどんだけはしゃいだんだ……。

俺は近くに置いていた風呂桶兼追い水用のバケツを持って川に向かった。

俺はそのバケツに水を入れると、風呂に水を足した。

その時だった。

俺はなんだか妙な気持ちになった。

別に何がどうとかじゃないが……さっきまであいつらがここに入ってたと思うとなんか……ダメな気がしてきた。

「ここに入るのは……まずい……よな?」

俺は自問自答した。

ダメだな。

なにがどうとかじゃないが何かがダメだ。

俺は気を取り直し、風呂の水を全部捨てた。

そして風呂に新たに水を足していた時に俺はステラに怒られたことを思い出していた。

「うん。確かに、女の子が入った後の風呂にそのまま入るのはよくない」

俺は気持ち悪い独り言をしながら、風呂に火をつけた。


風呂が温まるまで、俺は川で顔や体を洗った。

冷たい水を体に浴びると、言いようのない心地よさがあった。

「ああ……俺、結構疲れてたんだな」

アドレナリンが出ていたのか、自分の魔術のせいなのか、今まで疲れを感じていなかったが、こうして水を浴びると汗と共に疲れがにじみ出てくる感じがした。

一通り体を洗うと、ちょうど風呂があったまったようだったので、俺は小さな風呂桶に無理やりでかい体を押し込んだ。

「思ったより……狭いな!」

俺は体を折りたたんだが、尻をいれるのが精いっぱいだった。

温かい火と温かい湯が一部とはいえ体を温める。

その感覚が……気持ちよかった。

俺は体をほぐす様に夜空に向かって伸びをした。

何だか静かで……自由だった。

俺は大きく息を吐きながら夜空を見上げた。

俺の頭の上には、満点の星空が広がっていた。

星は魔界も人間界も変わらない。

そしてこの空は遥か彼方……人類のまだ見ぬ最果ての先まで広がっている。

そう思うと、何だか俺がここでぽつんとしているのが不思議な感じだった。

俺は目をつぶって星空に手を伸ばしてみた。

何もつかめはしない、が、でも、意識だけは無限に触れている……そんな気分だった。


気持ちがよかった。

遥か遠く、遥か遥か彼方の話だと思った。

こうしてあいつらと共に魔界で冒険を……。

俺は大きく息を吐いた。

腐ってただけだったんだな。

俺にもまだ……火は残っていた。

今までは、場所が悪かったんだ……。

いや、俺か……。

俺の心の居場所が悪かったんだ。

今度鏡を見た時は胸を張れるだろうか。

自分を好きになれるんだろうか。

俺は手で湯をすくうと、思いっきり顔面に叩きつけた。

「まだ半ばだ。今日だって油断しただろ」

俺は自分に言い聞かせた。

「落ち着くにはまだ早いぞ」

俺は深呼吸した。

そして、できる限り浴槽に体を入れた。

明日も早い。

浸かりすぎな感じもあるし、そろそろ上がろう。

俺は最後に体を温めると、思いっきり伸びをした。

思いっきり体をのけぞり……体を伸ばした。

そして反り返ったまま大きく息を吐いた。

体全身から力が抜けた。

俺は涼しい風を感じながら……反り返たまま逆さまの世界を見た。

満ちかけた月が、穏やかな水面に映り、周囲を明るく照らしていた。

とても静かで美しい光景だった。

俺はその光景を楽しむと、顔を上げた……時だった。

俺の視界の端に、木が見えた。

明るい川の奥、暗い森の中。

でも確かに見えた。

あの木が……あった。

大きくジグザグに曲がった奇妙な……あの木。

俺は思わず、振り返る。

しかし、そこには何もなかった。

……気のせいか?

すこし神経質になりすぎか……。

いかんな。

空回りしても、腑抜けすぎてもだめだ。

自然体。

俺はいつでも冷静でいないと……。

俺はため息をつく。

すると冷たい風が俺の体を吹き抜けていった。

「おお、冷えるな」

思わず声が出た。

あれだけ注意しておいて、俺が風を引くわけにはいかない。

俺は風呂から出て、体を拭いて急いで服を着た。

そして急いで風呂を片づけて、テントに戻った。

セーフゾーンに戻る前に俺は再び暗い森を振り返った。

そこには何もいなかった。

「考えすぎだよな」

俺は頭を掻くと、セーフゾーンに戻っていった。



「モリー様!」

俺が戻ると、イヅナがテントから顔を出した。

「うお!お前まだ寝てなかったのかよ」

俺が驚くとイヅナの上からレイシーが顔をだした。

「遅かったですねぇ!どうでした?私達が入った後のお風呂は?甘美でしたやろ~?」

「いや、抜いたし」

「え?!抜いたて!そんな!やっぱりモリー様ヘンタ……」

「風呂の水は捨てた。んで、新しく入れなおした」

「え?そんなもったいないこと……ええんですか?!」

「しょんべん臭くて入れなかったからな」

「んなっ!!」

「女の子に向かって!そんなお下品な言葉!」

「はいはい。あれ?ドクダミちゃんは?」

「寝てます」

「テントは言ってそっこー寝ました」

「まじかよ。疲れてたんだな」

「ちなみに攻略本を抱えて寝ました。全然奪い取れません」

「そうか……」

「どうすればいいですか?!」

「あきらめて寝ろ」

「そんな!」

「寝ろ、寝ろ。俺も寝る。お休み」

俺はそう言うと、引き留めるイヅナの声を無視してテントに入った。



テントの中は狭いが、ま、男からしたら十分な広さだった。

寝転がってみて驚いたが、たぶん自分のベッドよりも寝心地はいいかもしれない。

俺は大きくあくびをすると、拠点からパク……借りてきたブラケットをかけて、目を閉じた。



親父の顔を久しぶりに見た。

工房の中でずっと刃物を研いでいる親父の横顔。

俺はまだ幼くて、その横顔をずっと見ていた。

別に遊んでほしかったわけでもないけど、俺はずっとそうしていた。

でも親父は全然俺には気がつかない。

ずっと黙って仕事をしている。

俺はたった一人、家の庭で空を見ていた。

やることもないから、そのうち俺は大の字になって地面に寝ころんだ。

空は広くて……青くて……俺を押しつぶしそうなくらい大きかった。

その内その気分が……だんだん現実になってくる。

圧迫感が俺を襲う。

熱い。

上からだけじゃない、両側からも、世界が俺に向かって収縮してきているみたいだ。

「う……うう……」

俺は息苦しさにうなされた。

「あっ……ああ……」

俺はいつのまにか成長して今の俺になっていた。

大きな体になったが……動けない。

「親……父……」

だんだん視界が暗くなってくる。

俺は親父に手を伸ばす。

でも、親父は気づかない。

ずっと、俺の方なんか見やしない。

「お……や……」

俺は何もない空間を、もがくように掴んだ。



「ういっ」

俺の手は何か柔らかい物を掴んだ。

「うあ?!」

俺は驚いて目を開けた。



目を開けると、テントの天井が見えた。

黄色い、無機質な天井。

俺は寝汗をびっしょりかいていた。

「あっ?ああ~」

俺はその汗の量に驚いた。

そしてもう一つ驚いたことがある。

それは俺の腹部に感じる重みだ。

夢の中でうなされた原因はこれのようだ。

恐らくは……スライムがくっついているんだろうと思った。

冒険者ならなんてこともないよくあることなんだが、スライムといえば……。

俺の脳裏には嫌な記憶が蘇っていた。

赤いあいつ……。

俺はまだ覚め切っていない頭を上げて、腹部を確認した。



そこにはドクダミちゃんが寝ていた。

攻略本を抱えて、安らかな顔で寝ていた。

「あ?」

なんで?この子が俺の腹の上に?

俺はまだ寝ぼけているのかと思い、ぼやけた目を覚ますために頭を振って深呼吸した。

そしてもう一度見たが、やはりドクダミちゃんが俺の腹の上にいた。

なんならイヅナもレイシーもいた。

レイシーとイヅナは俺の腹の上のドクダミちゃんに抱き着く形で体いっぱい俺の上にのせていた。

こりゃ暑いはずだ。

暑いし、圧迫されるはずだよ。

俺がうなされて掴んだのはどうやらイヅナの頭だったようだ。

俺はおもわずため息をついた。

こいつらと出会って約2か月くらいか?

未だに全然行動が読めないし、行動原理も分からん。

なんでこいつらは自分のテントを抜け出してるんだ?

なんで俺の上に載ってんだ。

それで、なんでこんなに寝苦しい状況なのに、こんなにすやすや眠れるんだ。

不思議すぎる……。

これが若さか?

俺はこいつらの適応力の高さに敬意を持った。

敬意をもって……俺は三人を叩き起こすことにした。



「ごあああああああああ!」

俺が叫ぶ。

そして、体を思いっきり、揺らした。

「おばぁ!おばぁ!」

完全に頭を馬鹿にして、叫んだ。

「うぎゃぁあ!」

「おおう?!」

「ふんごぅお!」

三人は目を覚ました。

「おおう!おおおおおおうううう!」

それでも俺はぐらぐらしながら叫び続けた。

「ぎゃあー!」

「なんや!なんや~!」

「おぶぅあああああああ」

しばらくそうやってみんなで狭いテントを揺らした。



体力の全てを出し切って俺は動けなくなっていた。

俺は力なく、死んだ魚のような瞳でテントの天井を見上げた。

「お……おはようございます……」

イヅナも呆然としながらそう言った。

「ああ、おはよう。よく眠れたか?」

「ええ、はい。おかげさまで」

「そうか。レイシーもよく寝れたか?」

「うい。おかげさんでぇ」

「そうか。そりゃよかった」

「う、う、うううう」

「ドクダミちゃん、大丈夫か?」

「う~」

「酔った?」

「うう~」

「そうか寝れたか?」

「お、おかげさまでぇ……」

「そうか。よかった……。で?なんでお前らこっち側にいるんだ?」

「えーなんか。朝方なんか寒くって」

「そうそう」

「それで二人で身を寄せ合ってみたんですけど、逆に隙間ができて……」

「そこから風がなぁ……」

二人はしみじみ言った。

「ブラケット渡したろ?」

「いやー枕がね~」

「無いと眠れんくてねぇ~」

「なるほど、ブラケットを枕にしたのか」

「ええ、それでね?寒くて……」

「こっちに来たと?」

「ええ、ドクダミちゃんは、すやすやしていたので二人で運搬しました。起こさないようにするのは難しかったです」

「そうか……うーん……そ、そうか」

俺の胸にいろんな感情がわき上がったが俺はぐっと抑えた。

「お前ら……次からはこっちのテントで寝る?」

「うーん」

俺の提案にイヅナは顔を曇らせた。

「ほら、私、抱きまくらないと寝れない質じゃないですか?」

「しらねぇよ」

「そう言う観点から見ても……ねぇ?」

「つまり……俺は抱き枕になれと?」

「いえ!ドクダミちゃんを抱くので大丈夫です!モリー様はクッションお願いします」

「わかった。お前ら、次からは寝具はもってこい」

「いいんですか?!」

「自分で持てよ。俺は絶対持たないからな」

「ええ?!それなら……」

「モリー様でええもんな~」

「次俺の上で寝たら承知しないからな」

「承知しない……?!」

「いや!いたいけな私らにお仕置きするなんて!そんな!ええ趣味してはるわ!このロリ……」

「やめろ」

俺はレイシーの頭を掴んだ。

「いたい!」

「冗談でも言うな。あと、二度と俺のテントに入るな」

「うええ~?!」

「ええじゃない」

「そんな殺生な!」

「殺生じゃない」

「うぅぐうぉ~」

「うぐぅお~でもない」

そんな感じで、俺達の魔界の最終日は幕を開けた。

すごく穏やかな朝だった。

この時までは……。



「顔洗ってこい」

テントでのひと騒動の後、俺達はテントから出た。

そして俺は川の方向を指さして、そう言ったのだった。

三人は「はい」と返事して、川に下りて行った。

イヅナは朝から元気はつらつって感じだった。

レイシーは若干眠そうにあくびしていた。

その二人に抱えられて、ドクダミちゃんは引きずられていった。

完全にまだ夢の中って感じだった。

三者三様だな。

とりあえず、ドクダミちゃんは朝にすごく弱いようだ。

と、いうか……日光に弱そうだった。

キノコかあいつは。

俺はあきれながら、三人を見送ると着替えて、朝飯の準備を始めた。


昨日集めた薪に火をつけたところで気が付いた。

向こうの方から、おいしそうな匂いがしてきている。

どうやら向こうさんも目覚めたようだった。

昨日モルドが来た時に、案外近いと言っていたが本当に近いようだ。

道を挟んで隣って感じだ。

確かに川からの風はあるが、ここはいいセーフゾーンのように思えた。

色んな冒険者に使われるんだろうか。

そう思うと、こういう仕事も悪くないなと思えた。


俺は荷物の中から卵を取り出す。

冒険者の初日の朝食と言えば、卵とベーコンが基本だ。

栄養素の高い卵を初日に食うことで力をつける狙いだ。

卵は運搬や保存が難しい。

夏は特にだ。

だから……俺はもってきた卵を全部割って、温めたフライパンに入れた。

「ええ音ですなぁ~」

レイシーがタオルで顔を拭きながら上がってきた。

「朝はこれだけだからすぐできるぞ」

「おっ!そんならさっさと着替えなあきませんねぇ~」

レイシーはそう言うとそそくさとテントに入っていった。

「覗いたらあきませんよぉ!」

テントから顔を出してレイシーがにやにやしながら言った。

俺は、はいはいと返した。

すぐにイヅナとそれに寄りかかりながらドクダミちゃんがふらふら上ってきた。

「目、覚めたか?」

「はい!」

イヅナが元気に返事する。

「ふ、ふぅあい……」

ドクダミちゃんが着の抜けた返事をする。

「お前らも早く着替えろ。飯もうできるぞ」

俺がそう言うと、二人はぎょっとした。

「本当ですか!だめだ!ドクダミちゃん!早くしなきゃ!」

「うえ?!ううううおおお~」

そうして、二人もテントに入っていった。

俺は食事の準備を進めた。



テントから三人が出てくるころには俺はすでに皿に料理を乗せていた。

「うわ!おいしそう!」

イヅナがお気に入りのドレスを着てにっこりと笑った。

「おーすごい!モリー様、流石ですねぇ!」

レイシーはいつも通りのメイド服だった。

「お、おはようございますぅ……」

ドクダミちゃんの服装は……制服のようだった。

「ドクダミちゃん、それ学校の制服?」

「え、は、はい……そうです!」

その制服には見覚えのあるマントがあった。

「なぁ、そのマントって大切な物なの?」

「え?ええ、これは身を隠すローブみたいになるんです」

ドクダミちゃんはそう言って、マントを頭巾のように頭にかぶって見せた。

「ああ、本当だ」

俺はそうなってるんだ、と、単純にそう思った。

「なんで、そんな風になってんの?」

レイシーは疑問を口にした。

「え?ああ、これは……顔を隠すためだよ。これはグランマ・シャリオンが隠れて魔法の研究をするのに使ってたの」

ドクダミちゃんの瞳に色が付いたように見えた。

「ほえー」

「昔は隠れて研究しなきゃだったから。顔を見られないためにね。ついでにこれで危険な薬品からも身を守れるしね。そういう起源です」

「つまり……魔法使いにとっては大切な物なのか」

「ええ、このマントには魔法使いの……シャリオンの意思が残っているんです。魔法の力を恐れず、正しく扱う。利己のためじゃなく、利他の為に魔法はある」

ドクダミちゃんは顔を上げて言った。

「魔法は人類を、この星を侵した毒……。そういう面もあるので、魔法を扱うものは心正しくあらねばならないのです。このマントは……それを教えてくれるんです」

「そうなんや」

「うん。この重みを忘れちゃいけないの」

「あっほんとだ!このマントすごい重い!」

イヅナはドクダミちゃんのマントを掴んでいった。

「お前ね。大切な物にそんな軽々しく触らないの」

「え?あっごめん!ドクダミちゃん!」

「う……ううん!大丈夫だよイヅナちゃん」

そんな会話をしていると、遠くの方からポットが沸く音がした。

ぴーという甲高い音が響いている。

「うん?向こうさんはもう食後のお茶みたいだな」

「え?!はやく食べなきゃ!」

「焦ってもいいことないからゆっくり食え」

「ふんご!ふんご!」

三人は俺の助言なんか聞かずに飯をほおばった。

「人の言うことは聞きなさいよ……」

俺はその姿を見ながら軟膏を取り出した。

そして、俺は自分の腕に軟膏を塗った。

「ちょっと!食事中にやめてくださいよ!」

「油断するな。食事中が一番狙われるって話もあるからな。それにここ川沿いだし」

俺はそう言うと、今度はイヅナの方に向かった。

「あー!やめてください!私には必要ないですよぉ~!」

「蚊に対しては人類みな平等なんだ。受け入れろ」

「え~でも、蚊なんていませんよ?昨日もいませんでしたし、今日も見かけてないですよ!」

「はいはい。目に入ってないだけで……」

俺は言い訳するイヅナに軟膏を塗ろうと……した。

が、しかし俺は手を止めた。

確かに……イヅナの言う通りだ。


俺も以前、川沿いのセーフゾーンに宿泊したことはあったが、蚊がすごくて寝れないほどだった。

あんまりひどいんで火をつけて退治してたら、仲間に山に火をつけようとしてると勘違いされたこともあった。

あの時は気まずかったな。

そう思った時だった……俺の背中に悪寒が走った。

俺は耳を澄ませてみる。

静かだ。

そう言えば昨日風呂に入ってるときも虫の声がしなかった。

それだけじゃない。

野鳥の声もしない。

今聞こえるのはポットの音だけだ。

湯が沸いて、ぴーと鳴るポットの音だけ……。

「どうしたんですか?」

三人はこの異様さに気が付いていないようだった。

「魔界の朝ってのはもう少し騒がしい物なんだ。虫とか鳥とかの声が聞こえるはずだ。今朝はやけに静かすぎる」

「向こうさんのポットの音で聞こえないだけなんじゃにゃいですか?」

「いや、少しも鳴いていない。それに……おかしい」

「そ、そんなに鳥の声がしないのがおかしいんですか?」

「いや、そうじゃない」

俺は、セーフゾーンの向こう側を見た。

「なんで、誰もポットを取らないんだ?」

「え?」

三人もセーフゾーンの向こうを見た。

茂みの奥からは……ポットが沸く音だけが聞こえてくる。

ぴーという甲高い音だけが……。

俺達は顔を見合わせた。

「確かに……」

「気が付いて……」

「ないわけ……ないですよね?」

悪寒が走った。

「様子を見に行こう」

俺はそう言い終わらないうちに駆け出していた。

「はい!」

三人は遅れて俺の後に続いた。



隣のセーフゾーンは近かった。

道を挟んで向こう正面。

間に木が2、3本あるくらいだった。

俺はセーフゾーンの前で立ち止まった。

後ろを見ると三人が血相を変えて走って来ていた。

「おーい!俺だ!おはよう!ポットなってるぞー!」

俺はお隣のセーフゾーンの入り口から叫んだ。

「おーい!朝飯あまったんだ!少し食ってくれないかー!昨日のお礼だー!」

俺は叫んだ。

「おーい!誰かー!」

しかし返事はなかった。

俺の疑念は確信に変わった。

瞬間、俺はマッチを取り出し全員に火をつけた。

「俺が中に入って様子を見る。もしも、俺が1分経っても出てこなかったら……拠点まで走れ」

「え?!そ……そんな事……」

「わかりました」

驚くレイシーを抑えてイヅナがそう言った。

「え?そんな!イヅナちゃん?!」

「レイシー、ドクダミちゃん。イヅナの決断に従ってくれ」

俺はレイシーを真っすぐ見てそう言った。

レイシーは珍しく不安そうな顔をしていた。

「あと、何かあったらすぐに逃げろ。迷うなよ」

俺はそう言うと返事も聞かずにセーフゾーンに入っていった。



セーフゾーンの中は綺麗だった。

綺麗に片付いていて、いい匂いがしていた。

そこには魔物の影はなかった。


しかし、木があった。

間違いない。あの木だ。

初めの作業場で見た、ジグザグの奇妙な木。


その木に……。

ホークアイの四人はきれいに並んで首を吊っていた。

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