魔界の平和な夜
食後、タジンが冷えるのを待ちつつ、俺はテントの設営をつづけた。
その間にイヅナ達には攻略本を渡して、デスウサギとキラースズメのページを見せていた。
「ほうほう」
「ふむふむ」
「なるほどぉ……」
三人は興味深そうに本を見ていた。
「ねぇ、これってどういう意味?!」
「うん。これはね……」
「なぁるほどー」
「でもこれできる?」
「私がフィジカルでどうにかできると思うよ」
「そ、その隙に弱点を突く……」
「それ危険じゃない?!」
「ま、火があれば大丈夫でしょ」
「う……で、でも生身じゃ流石に危ないかも……。レイシーちゃんも何か装備があるといいかも」
「装備かぁ……そう言うの考えたこともないなぁ……」
三人はそれぞれ話し合っていた。
分からない所はドクダミちゃんが呼んで、レイシーとイヅナで対策を考える。
結構……いいトリオかもな……。
俺はそうして学ぶ三人を見て、こいつらの将来がすこしだけ楽しみになった。
それを見る為にも、頑張らんとな。
俺は密かに決意を新たにした。
「よし、大方準備はできた。お前らはどうだ?」
俺が尋ねると三人は自信満々に立ち上がった。
「完璧です!」
「何万匹でも捕えて見せますよ!」
「じ、じしんあります!」
「そうか、じゃ……狩りに行くか」
「はい!」
俺がそう言うと、三人は嬉しそうに返事した。
「いたぞ。デスウサギだ」
セーフゾーンを抜けて少し歩いたところ、川の分岐点らへんにデスウサギがいた。
「群れで行動することもあるって書いてましたが、今回は一匹だけですね」
「ああ、そのようだな」
「あいつでもさっきの奴と色違いません?なんかピンク色してるような……」
「してるな」
「い、色違いですかぁ?」
「そうだな。なんで色が違うのかは分かってないけど雑食だからな。食い物によって変わるんじゃないかって言われてる」
「そうなんですね!」
「ああ、ちなみに今のところ確認されているのは……7色だ」
「え?!そんなに色って違いあるんですか?!」
「そうだな。赤、青、紫、白、ピンク、黒……そして金」
「き……金!」
「そうだ。ちなみに金色のデスウサギの皮は……レアドロップだ」
「まじですか?!」
「ああ、ま、見つけたらラッキーだな」
「デスウサギは筋肉が発達している!」
「ああ、と、言っても……」
「基本は逃げるだけ。危険性はない……と」
「そうだ進行方向にいなければ、ケガする危険性はほぼない」
「つ、捕まえ方は……」
「ああ……」
「追いかけたら逃げるから!」
「二人組で!」
「一人が脅かして、一人は叩く……!」
「大方は正解だ。だができれば……」
「罠を使う!」
「有効なのは……」
「落とし穴!」
「ない場合は……」
「か、壁等でブロックする!」
「そうだ。そうしたら勝手に自爆する」
「弱い……!」
「まぁな。そういう奴だからな」
「よし、じゃあ……イヅナお前後ろに回れ」
「はい!」
「いいか、音を立てずにゆっくりな。こっちから合図出すから……そしたら襲い掛かれ。できるだけ音をだぃてな」
イヅナは頷くと、姿勢を低くし、大周りにデスウサギの後ろに回った。
デスウサギはちょうどお食事中でやすやすと後ろをとれた。
ラッキーだ。
「よし。俺が合図を出したら、レイシーお前はこれで奴を思いっきり叩け」
俺はそう言うと、ちょうどいい棒をレイシーに渡した。
「あいつ吃驚したら、力溜めて跳躍するから飛び出す瞬間をねらえ。そしたら勝手にぶつかりに来る」
「はい!」
「それじゃ……」
俺は向かい側にいるイヅナに目配せした。
「よし……いけ!」
俺は右手を思いっきり上げて合図した。
瞬間、イヅナが帯電してデスウサギに飛びかかった。
「うおおおおおおお!」
イヅナの叫び声にデスウサギが反応した。
その瞬間、デスウサギは迫りくるイヅナに後ろ足を向け……、思いっきり小石を飛ばした。
「ぐぅえ!」
小石はイヅナの顔面に命中した。
小石をくらったイヅナは思いっきりすっころんだ。
それと同時に棒を持ったレイシーがデスウサギに襲い掛かった。
「どりゃぁあああ!」
レイシーが雄たけびを上げて襲い掛かる。
デスウサギは後ろ脚で思いっきり地面を蹴り、レイシーの腹部に向かって飛び出した。
「ぐぅええ!」
レイシーは腹部に頭突きを受けてうずくまった。
デスウサギは少しふらついたが、体勢を立て直し……再び力を溜め始めた。
そして、デスウサギは俺達の頭の上をめがけて跳躍した。
うずくまるレイシー、のたうち回るイヅナ、そして宙を舞うデスウサギ。
俺はそれらをただ茫然と見ていた。
デスウサギが俺達の頭上を通過しようとした瞬間だった。
風を切り、一本の矢がデスウサギを貫いた。
デスウサギは苦しそうな声を上げると地面に落下した。
「おしかったですね」
ホークが笑いながら茂みから出てきた。
ホークは手に弓を持っていた。
「まさか……今のあんたがやったのか?」
「ええ、そうです。横取りみたいなことしてすみません」
ホークはそう言うと申し訳なさそうに手を合わせた。
「そうか……、跳躍したデスウサギに当てるなんて、いい腕してるな」
「ありがとうございます」
ホークが恥ずかしそうに言った。
「う、ううううう……」
イヅナが目をこすりながら戻ってきた。
「目に砂がぁ……」
「どれ見せてみろ」
俺はイヅナの目を水筒の水で洗ってあげた。
「もう!あいつ!乙女の顔になんてことを!」
「ああ、災難だったな。でも惜しかったよ」
「うううう……」
「は……話が違う……」
今度はレイシーがふらつきながら戻ってきた。
「逃げるだけや……言うたやないですかぁ……」
「ああ、まぁ逃げようとした時にタイミング悪く脅かしたから、反射的に体が動いてしまったんだろうな」
「なかなか……重いボディブローでしたよ……」
不意打ちを喰らったからなのか、レイシーは見たことないくらい弱弱しかった。
「ははは、災難でしたね。でも、確かにもう少しでしたよ」
ホークがそう言うと、二人はホークの方を見た。
「み……見てたんですかぁ?!」
「のぞき見なんて趣味悪いですよぉ……」
「すみません……。でも、ルールがありましたので、念のため、構えてはいましたが……」
「る……ルール?」
「先に発見したPTが所有権を得る。それが魔界での絶対のルールだ」
「そうです。なので、許可が無かったり明らかにピンチでない限りは成果の横取りになっちゃいますからね
ホークがそう言うと二人は顔を見合わせた。
「と、いうことは?」
「このデスウサギは……私達の物ですか?!」
「いや、違う。先に仕留めたのはホークだから、ホークアイの物だな」
「ええ?!」
「俺達は逃げられてたしな。その時点で優先権は移ってるしな」
「そ……そんなぁ!」
「ははは、でも、私達で頂くことはできませんよ誘導をしてもらったことですし、ここは折半と行きましょう」
「そうだな。じゃ早速捌くか」
「ああ、そうですね。固くなる前に……」
そう言うとホークは茂みの方を向いた。
「モルド!来てくれ!こっちだ」
ホークが叫ぶとその声に反応して茂みの中からモルドが出てきた。
「お?獲物捕れた?」
「ああ、デスウサギを仕留めた。捌いてくれ」
「あいよ。おっ、おっさん達もいたの?」
モルドは俺達に気が付くと、目を赤くしたイヅナと腹を抑えて前かがみになるレイシーを見た。
そして矢が刺さって動けなくなっているデスウサギを見た。
「え?もしかしてお前ら、デスウサギにすらやられたの?」
モルドは噴き出したかと思うと、にやつく口元を手でおさえた。
「あっす、すまん……初めてだもんな?ぷっく……仕方ないよなぁ?!」
「うっうううう……」
「ちくしょお~」
「ま、お子様には少しハードルが高かったかなぁ~」
モルドはそう言いながら、お子様なんて相手じゃねぇぜって感じでデスウサギの方へ歩いて行った。
「あいつぅ~ほんとに口が減りませんねぇ!」
「絶対見返してやる~」
「ははははは、ま、せいぜい励めよぉ~!」
モルドは笑いながらデスウサギを川の方へ持っていった。
モルドが慣れた手つきでデスウサギをさばいてきた。
「ほらよ。仲良く山分けだ」
モルドはそう言うとデスウサギの半身と袋を渡して来た。
「ああ、ありがとう」
俺はそれを受け取るとお礼を言った。
「じゃ、おっさんそれは頼んだぜ」
「ああ」
「おっさんじゃないです。モリー様です」
イヅナがモルドに突っかかった。
「あ~?様ってのはなんだよおっさん。あんたまさか……変なことしてねーだろうな?ガキ相手によ?」
モルドの目つきが鋭くなった。
「あー、こいつらアルガートンのファンなんだよ。それで俺が、ほら、一緒のPTだったからな。それでそう呼ばれてるんだよ」
「あ?おっさん、あいつらの仲間だったの?ほ~ん、すげーじゃん」
「ま、追放されちまったがね」
俺は苦笑いした。
「おっと、すみません。そろそろ私達は……まだ準備が残っているので」
「あっそうか。すまなかった。ありがとう」
「おう、じゃーな処理は任せたぜ。モリー様」
モルドとホークはそう言うと、手を振って帰っていった。
「う、うううう、次こそはぁ~」
「モリー様!次!次探しに行きましょ?!」
「いやいや、今日はもう宿泊準備だ。まだテントも立ててないしな。これ処理して戻るぞ」
俺はそう言うとモルドから受け取った袋を掲げた。
「うわ!くさい!」
「そ、それ……何ですかぁ?」
「ああ、内臓だ。デスウサギの」
「な……ないぞお?!」
俺がそう言うとレイシーとイヅナが叫んだ。
「な……ないぞぉ……」
ドクダミちゃんはなんだか興味があるようだった。
「な、なんでそんなものを?!」
「うん?ああ、魔物って言っても生き物だからな。命を奪ったら、できる限りで供養する。それが流儀だ」
俺がそう言うと三人は真剣な顔をした。
「何をするんですか?」
「ああ、ま、地面に埋めるだけだ。埋める場所は、セーフゾーンから離れた木のそばだ」
「決められてるんですか?!」
「ああ、野生の魔物は鼻が利く奴もいるからな。地面から掘り返して食う奴もいる」
「そんなのもいるんですか?!」
「ああ、北部魔界にもいるぞ。ここいらではあんまり見ないけどな」
「セーフゾーンから離すのはそういう類を寄せないためですね?!」
「そうだな。できるだけ見晴らしのいい場所がいい。掘り返しに来る奴を遠くから観察できる場所がベストだな」
「なるほどぉ……」
「遊んでる暇はないぞ。やることはいっぱいある。もう、俺達は魔界にいるんだからな」
俺がそう言うと三人は顔を上げた。
「はい!」
「うん。じゃ、戻ろう」
そうして俺達もその場を後にした。
セーフゾーンに戻り俺達はまずみんなで内臓の処理をした。
目の前の川は幅はあるが浅かったので、俺の頭の上に三人を乗せて俺は川を渡った。
「水の中でも、燃えてるんですね」
「ほんまや~、ふっしぎ~」
「ほ、本物の炎じゃないんですね……」
「あーそうだな。なんか魔力の塊?だから本物じゃないはず。よくは分からんがな。でも水の中だとやっぱすぐに消える」
そんな感じで、俺達は川の向こうに渡り、ちょうど正面にある一番立派な木の根元に袋を埋めることにした。
「次、産まれ来る時は……私達が仕留めてあげるからね」
イヅナは手を合わせながらそう言った。
「こいつは来世もデスウサギかよ」
「デスウサギいいじゃないですか!私も生まれ変わったらデスウサギがいいです!」
「そうか……いい夢ができたな……」
「はい!」
セーフゾーンに戻ると、俺達は残りの作業を分担して進めた。
俺とドクダミちゃんはテントの設営。
イヅナとレイシーで薪を集めに行って貰った。
ドクダミちゃんは不器用だったが、一生懸命手伝ってくれた。
驚いたのは二つ目の設営をする時は、説明もほとんどいらなかったところだ。
一度言うだけで、覚えたのを見ると……やっぱり、頭のいい子なんだなって思った。
設営を終えると、イヅナ達が薪をいっぱい持ってきた。
二人とも頭にも体にもいっぱい葉っぱを付けていた。
でもなんだかすごい楽しそうに笑っていた。
俺はそれを受け取ると焚火を作った。
昼飯の時とは違う本格的な奴だ。
それができると、俺はデスウサギの調理を始めた。
料理ができる頃には……すっかり暗くなっていた。
「いい匂いすんなぁ……!」
料理ができそうな頃合いで、俺達のセーフゾーンにモルドが侵入してきた。
「あっ!あんた!何しに来たのよ?!」
「おーう。いい匂いしたから来たぜ。それにほら、これ」
モルドはそう言うと手に持っていた小さなワインの瓶をみせた。
「おっ!それワインか?」
「おう、うちのリーダーからな。横取りしちまったお詫びだそうだ」
モルドはそう言うと、俺の隣に腰かけた。
「どうせ、おっさん一人じゃ飲み切れねーだろうから付き合ってやるよ」
モルドはそう言うと、ワインのコルクを開けた。
「お前が飲みたいだけだろ」
俺はコップを荷物から取り出して、モルドに渡した。
「へっ、おっさん野暮な事いうなよな」
「おっさん~?!」
イヅナがモルドを睨んだ。
「ああ、そうか。すみません、モリー様」
モルドはそう言うと丁寧にお辞儀した。
「やめろ、やめろ」
俺は笑いながらコップにワインを注いだ。
「変な形の鍋だな。こんなんで料理できんの?」
「は~!知りませんか?この鍋はすごいんですよ!」
「へ~そうかよ。じゃ……期待させてもらおうかな?」
モルドはその後も居座り、ちゃっかりデスウサギも食うつものようだった。
「もうできたぞ。ま、味わってみてくれ」
俺はそう言うと各々のさらに料理を盛った。
デスウサギと少しの野菜とポテトを一緒に鍋に入れただけの簡単な料理だった。
「うまそうじゃん」
モルドはそれだけ言うと誰よりも先に料理を口に運んだ。
そして一口料理を食べると……驚いたような顔をした。
「うまいじゃん!やるな、おっさん」
「だろ?少ない特技の内の一つだ」
「すげーな、おっさん。うちの奴らは全く料理できねーからよ。焼いただけとかそんなんばっかで嫌になってたんだよな~」
モルドは本当に嫌そうにそう言った。
「おっさん。こんなちんけなPTじゃなくて、こっち来ない?」
「ははは、ありがたいが今はこっちでやることあるからな」
「でも、子供ばかりじゃできねー楽しみもあるだろ?こっちならそう言うのもあるぜ?」
モルドはそう言うと俺のコップにワインを注いだ。
「あー、そうだなぁ……んー」
俺はコップをもって悩んだ。
「モリー様?!ダメですよ!そんな退廃の液体に流されてはいけませんよ!」
「いや~でもなー」
「ガキには分かんねーよな。大人のたしなみって奴がよ」
そういうとモルドは懐から煙草を取り出した。
「おっさん。こっちのPTならこれもやり放題だぜ?」
「あ、ああ……」
俺は差し出された煙草に手を伸ばした。
「だめ!」
イヅナが俺の腕に飛びついてきた。
「気をしっかり持ってください!モリー様!」
「お、おお……」
「そんなの体に悪いだけですよ!」
「我慢すんなって、ほら、我慢の方が体にわりーぜ?」
「だめー!!」
イヅナの悲痛な叫びが夜のセーフゾーンにこだました。
食事の後モルドは自分の巣に戻っていった。
イヅナは終始流されてしまいそうな俺を見て、不機嫌そうな顔をしていた。
「さて、食ったな。お前たちは寝る準備しとけ。俺は洗い物と……風呂の準備してくる」
俺はそう言うと食器と簡易の風呂をもって、川に下りて行った。
川は静かだった。
暗い川に月が映りぼんやりと輝いていた。
そこからセーフゾーンを振り返って見てみると、魔力の輝きが仄かに灯った茂みが見えた。
すごく、きれいだった。
耳を澄ませば、川のせせらぎと鈴の音が聞こえてくる。
実にいいロケーションだった。
俺は荒い物を手早く終わらせて、風呂の準備をした。
以前の物よりも小さくて真四角な枡のような風呂だ。
ま、でもないよりかはマシか。
準備が終わると、俺は洗い物をもってセーフゾーンに戻った。
遠くの方から子供たちがはしゃぐ声が聞こえてくる。
そんなに風呂が面白いかね。
俺はあきれながら寝る準備を進めた。
しばらくした後、三人が戻ってきた。
「いいお湯でした!」
イヅナはつるつるした顔で言った。
「いやー楽しかったなぁ!」
レイシーもつるつるしていた。
「う、うううう……もう、お嫁にいけない……」
ドクダミちゃんが暗い顔をしていた。
「おまえら……なにしたの?」
「え?!なんにもしてませんよ!」
「そうそう、ただみんなで洗いっこしただけですよぉ!ねっ!」
「う、うううううう……」
「う、うん……そうか……」
俺はそれ以上何も聞かなかった。
「じゃ、俺も入ってくるから、お前たちはもうテントに入って先に寝とけ」
「はい!」
「りょーかーい」
二人が返事した。
「あっ!モリー様!あの……できれば攻略本をお借りしたいです」
「おう、いいぞ」
俺はそう言うと荷物から攻略本を取り出しドクダミちゃんに渡した。
「あんまり夜更かしはするなよ」
俺はそう言うとひとり川に下りていった。




