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はじめての作業

「到着しました!」

晴れ渡る空の下、延々と続いた旅も一つの終点にたどり着いた。

しかし、こここそ俺達の出発点だ。

「おーやっとかよ。寝ちまいそうだったぜ」

モルドはそう言うと、荷台が開くより先に馬車から飛び降りた。

「おい、ちゃんと降りる所があるんだからそこから降りろよ」

モルドはホークの言葉を無視して体操を始めた。

俺達はそれを横目に順番に馬車から降りた。

「ありがとうよ。助かったよ」

俺は最後に馬車を降りると、若い駅員にお礼を言った。

「いえいえ!礼には及びません。また、明日の夕刻にここに迎えに上がりますので!」

若い駅員はそう言うと懐からホイッスルを取り出した。

銀色に輝く美しいホイッスルだった。

若い駅員はそれをくわえると、鋭い高音を空の彼方へ響かせた。

「到着次第僕がこの笛を吹きますので、この音を合図に集合してくださいね」

「ああ、わかった」

「それに、もう一つ」

若い駅員はそう言うと、傍らのポケットから同じホイッスルを2つ取り出した。

「各PTリーダーにひとつずつお渡ししときます。何かあれば吹いてください。そちらに向かいます」

若い駅員はそう言うと俺に笛を二つ渡した。

俺はそれを受け取ると、ホークとイヅナに投げ渡した。

「静かな夜なら、拠点の見張り役にも届くと思いますので、夜になったら吹いてみてください。聞こえたら応答するように言っときますので!」

「ああ、ありがとう。それじゃあな」

「ええ、皆様もどうぞお気を付けて!」

俺達は若い駅員に手を振った。

駅員は馬車を回し、拠点に戻っていった。

俺達はその後姿を見送ると、地図を広げた。

「では、昨夜お話した通り……」

ホークは地図を指さした。

「ああ、お互い一番近くのセーフポイントを終わらせたら次は一番遠いところ……つまり……」

「本日の野営地を設置する。ちょうどいい物を貰いましたし、野営地を設置完了したらこれで報告するってのはどうですか?」

ホークはそう言うともらったばかりのホイッスルを見せた。

「ああ、それで行こうか」

俺が返事をすると、ホークは力強くうなずいた。

「それでは……向こうでお会いしましょう!」

ホークはそう言うと手を振った。

「ああ、気を付けてな」

「それではお気をつけて!」

「い、い、行ってきます」

「お気を付けてぇ~!」

俺達はホークアイの面々に手を振った。

「おう、イヅナ下手こいて死ぬなよ~」

「ドクダミちゃんまたね~」

「レイシーさんもお気をつけて。向こうでお会いしましょう!」

ホークアイの面々はそう言うと、俺達とは逆方向の東に向かった。

「さて、俺達も行くか」

「はい!」

そうして俺達は、西のポイントに向かって歩を進めた。



俺は地図と磁石を見ながら、道を進む。

今回の作業ポイントは三か所だ。

まずは送迎してもらったポイントから歩いて20分ほど行ったところにある場所に向かう。

草木はさほどないが、道という道もない。

広い草原に細く禿げた地面が見える。

俺はその小さな目印と、地図を頼りに歩いていた。

最初のポイントは、今回の作業ポイントで二番目の広さだ。

地図上で確認したところ、恐らく作業時間は2時間ほどと考えられた。

ここを始めの作業ポイントに選んだのは水場が近くにあるからだ。

シャンシャン、シャンシャン。

作業が長引いても、昼休憩できるスポットであるし、ちょうどホークアイの連中の初めのスポットに近いということもあってここを選んだ。

ここが終われば次は今日俺達が野営するスポットに向かう。

これまた歩いて……20分か、30分くらいだろう。

本日の野営場は広さで言うと、さほどだ。

ぷっぷー、ぷっぷー。

俺達四人がテントを張って……ま、ギリギリ宿泊できるくらいだろう。

初めに作業の流れを教えて、広いところを終わらせれば……次の野営地の整備はおそらく一時間もかからないだろう。

「天国のような場所さ~」

だから……うん?

俺は前がやけに騒がしいのに気が付いた。

「草木と育ち~風と生きる~」

顔を上げてみると前を歩く三人が童謡を歌っていた。

仲良く肩を組んで……三人並んで……。

「思い出は~、海のしずく~」

イヅナの歌声に合わせて、レイシーがタンバリンを叩いた。

シャンシャンシャンシャンうるさいのはこいつか。

「にばーん!」

イヅナの掛け声に合わせて、ドクダミちゃんが小さなラッパを吹いた。

ぷっぷー、ぷっぷー。

なかなかのリズムだった。


俺はこの冒険に出る前に、口を酸っぱくして言ってたことがあった。

それは……無駄な物は持ってくるな、だ。

「おい」

俺が声をかける。

「たしかに、僕は、生きている~」

イヅナは気持ちよさそうに歌っている。

「ヘ~イ」

レイシーが合いの手入れながらシャンシャンならす。

「だから行くんだぁ~わたしのみちがぁ~」

ぷっぷー!


「おい」

「このみちぃ~……」

「おい!」

「うえ?!」

俺がたまらず、大声を出すと三人は振り返った。

妙な空気が俺達の間に流れた。

「なんですか?!」

「それはこっちのセリフだ。無駄な物は持ってくるなって言っただろ」

「無駄やないですよ!」

「無駄だろ」

「これは味方の士気を上げながら、魔物除けも兼ねた高等戦術です!」

三人はそう言うと胸を張った。

「そうか。うん、まぁ……そうか……?」

確かに言うことは間違いじゃない……けど。

「う~ん、そうか?でも、俺の声は聞いとけよ。あと、周りはちゃんと……」

「はいはい!わかってますよ~!」

イヅナはそう言うと、再び歌い出した。

「帰ろう~故郷へ~かーえーろーおー」

イヅナ達はその後も上機嫌で進んだ。


しばらく平原を歩くと、森が見えてきた。

「おっ見えてきたな。あの森に入った所が目的地だ」

「あ!あれですか!」

「思ったより早かったな~」

「お、おお~」

「よし、それじゃ……」

俺は荷物を下ろし、軟膏を取り出した。

「げっ!」

それを見た、イヅナはいやな顔をした。

「げっじゃない。ほら来い、塗ってやるよ」

「うう~はいぃぃ」

俺は嫌がるイヅナを捕まえて、軟膏を首筋に塗りたくった。

「ぎぃえ~!」

イヅナの肌を露出している部分すべてにおれは軟膏を塗った。

「うう~、すっ……スースーするぅ……」

「よしOK、次はドクダミちゃんだな」

俺がそう言った時だった。

まぶしい日光が俺の目に差し込んだ。

「そろそろ陽も出てきたな。タオルと帽子の用意もしておこう」

俺はそう言うと、荷物の中から以前購入した一式を出し、それぞれに渡した。

三人は帽子をかぶり、タオルを首に巻いた。

「よし、準備は万端だな。じゃ、行くぞ」

俺はそう言うと列の先頭に出た。

「ここからは危険だから俺についてこい」

「はい!」

俺は背後の三人の返事を聞くと、森に向かった。



森の中は静かだった。

風もなく、生き物の気配もなかった。

「静かですね。安全そう……」

イヅナがそう言った。

「ま、そうだな。ここは被害がそんなに出ていないが……この先はすごい被害だからそこから流れてきた魔物がいるかもしれない」

「なるほど……」

「それと静かってことは、逆に危険な事もある。強い魔物は基本的に自分のテリトリーを作る習性がある」

「つまり……」

「ここはすでにそいつの胃袋の中かもな……」

俺がそう言うと、三人に緊張が走ったのが感じた。

「行くぞ」

俺はそう言うと、木々の間を進んだ。



「ここか」

森の中を10分ほど進むと、立て看板が見えた。

立て看板の周りは広場になっていた。

しかし、手入れはされていないようで荒れていた。

「ここ……ですか?」

「そうだな。見ろ」

俺は立て看板の後ろを指さした。

そこには大きな箱が置いてあった。

「あ!あれが!」

「おそらく説明会で言ってたやつだろ。鍵もついてるみたいだしな」

箱には小さな錠が付けられていた。

数字を合わせて開くタイプだ。

教わった情報と照合しても間違いはないだろうと思われた。

「開けるか」

俺は箱の前で屈んだ。

「8931ですね!」

「ああ、そうだな」

俺はダイヤルを回し8931に合わせる。

すると錠はかちっと音を立てた。

俺は錠前を外し、箱を開いた。

中には、ロープに、いくつかのパーツのような物に指示書、そして鈴が入っていた。

「どれどれ」

俺は指示書を取り出し中身を確認した。

「何が書いてるんですか?」

イヅナが覗き込む。

「ああ、どうやら作業範囲と……物品の組み立て指示書のようだ」

俺はそう言うと箱中から、鉄の棒のような部品を取り出した。

「なんですか?それ?」

「これ地面に挿して、そこにこのロープを張るみたいだ。それで敷地を作る」

「え?これとロープだけですか?!」

イヅナが驚いたようだった。

「なんや、えらい愛想無いですねぇ。そんなん危険なんちゃいますの?」

レイシーが当然の疑問を口にした。

「そうだな。俺もそう思う。多分だからこれは仮組なんだと思う。俺達が作業した後に本格的に作業員が来るんじゃないかな?」

「あ、安全の確保……が、目的ということですね?」

ドクダミちゃんがそう言った。

「ああ、その通りだ。俺達は下準備するだけのようだな」

「なーんだ!それならすぐ終わりますね!」

「そうだな。あっでも、これあれだな」

俺は周囲を見渡した。

「あっちょうどあそこだ。あの枝が伸びてる木。それとそこの近くのまだ若い木があるだろ?あれは伐採するみたいだ」

俺はそう言って、ちょうど俺達が入ってきた対面を指をさした。

俺達がいる広場は手入れされてないとはいえ、おおざっぱには敷地が分かるようにはなっていた。

その一角に明らかに木が飛び出しているところがあった。

「ああー確かにあれは邪魔そうですね」

イヅナはそう言った。

「あれ、切れるか?」

俺はイヅナにそう尋ねた。

「もちろんですよ!あれくらい!いつも切ってる丸太よりも薄いですからね!余裕です!」

「そうか……じゃ、まずはあいつを片づけるか」

俺はそう言うと、懐からマッチを取り出した。

「お!来ましたね!」

「待ってましたよぉ~!」

「や……やりましょう!」

「ああ、やるか」

俺はそう言うと、みんなに火をつけた。



「俺とレイシーとイヅナで伐採を行おう。その間にドクダミちゃんはその鈴に魔力を込めておいてくれ」

「はい!」

俺の指示に三人は返事した。

そして、俺は箱の中から鈴の入った袋を取り出し、ドクダミちゃんに渡すと、木の前まで行った。

「よし、じゃ……」

「切りますね!」

イヅナは俺の言葉を聞く前に刀を抜き、構えを取った。

「無敵剣法……」

イヅナはそう言うと体に電気を集めた。

「電光……!」

イヅナは力を溜めた。

イヅナの体が青白く輝く、そして……イヅナが踏み込んだ。

「一気に切るなよ」

俺はそのタイミングでそう言った。

イヅナは、大きく体勢を崩し、前につんのめった。

「ちょっと!集中してるのに話しかけないでくださいよ!」

「まず、説明を聞け」

「それなら!刀を抜く前に言ってくださいよ!」

「言う前にもう抜いてたろ」

「まぁ、それは、そうですけど……」

「あえて言わなかったんだよ。そう言うのはやめよう何か行動を起こすときは……まずは全員の意識合わせからだ」

俺はできるだけ説教にならないように、あくまで注意する感じを意識して話した。

「いいか、木を一息に切るとどっちに倒れるか分からないだろ?」

俺は木に手をついて話始めた。

「ええ、そう言えばそうですね」

「そうなると危ないだろ?俺達は良いが、向こうで集中してるドクダミちゃんの方に倒れてみろ。それは事故だ」

俺がそう言うと、イヅナは俺達の後ろで鈴を磨いているドクダミちゃんを見た。

「鈴をきれいにして、魔力を込める。結構集中力のいる作業だから、とっさに行動はとれない。そう言う仲間がいるってことは頭に入れて行動しないとな」

俺がそう言うとイヅナとレイシーは頷いた。

「何か行動する際は味方の事をまずは考えるんだ。わかったな」

「はい!」

二人はまっすぐにそう答えた。

その瞳を見て、俺は安心した。

こいつら結構真剣なんだなってのがうかがえたからだ。

「よしそれじゃ……向こうに倒そう。向こうは広いし、切り込みを入れやすい角度だ。切り込みを入れて倒れそうになったら俺とレイシーで力ずくで倒す。これで行くぞ」

「はい!」

「あと木は半分ずつ斜めに切れ込み入れる感じでな。片側だけ切ったら自分の方向に倒れてきちゃえから」

「あっ、そうですね!分かりました!」

「よし、じゃ始めよう」

俺達は相談を終え、作業に取り掛かった。



「無敵……剣法」

イヅナが再び構える。

そして帯電し……踏み込んだ!

瞬間、青白い閃光が走ったかと思うと木にはきれいな切れ込みが入っていた。

「反対側もいきますよ!」

イヅナはそういうと反対側も一閃、切れ込みを入れた。

「おお、いい具合だ。お前やるな」

いくら木がまだ若いものとはいえ……一振りで決めるとは……。

やはりこいつは結構すごい。

無敵剣法……名前はあれだが……腕は信用していいみたいだ。

「へへん!そうでしょう!」

イヅナは誇らしげだった。

それをみて俺は横にいるレイシーを見た。

「じゃ、そうだな……。うん、広場の方向に倒す感じで……。位置は俺が見るからレイシー頼んでいいか?」

「はいよ!ほんじゃ行きますね~」

「ああ、気を付けてな」

俺はそう言うと、広場側から切れ込みの入った木を見た。

レイシーは俺の向かいに来るように森の中に位置を取った。

「ここらへんだな」

俺が位置を指示する。

「ここですかぁ~?」

「ああ、いい位置だ。ドクダミちゃん、イヅナ、危ないから向こう離れてて」

俺がそう言うと二人は作業を一旦やめて、木の倒れる方向と逆方向に逃げた。

それを見て、俺も逆方向に移動し、レイシーに合図を送った。

「うっす~。ほんじゃ行きますよ~」

レイシーはそう言うとメイド服のスカートの端をつまみ、片足を上げた。

「よいっ……しょお!」

そして、レイシーが気合と共に、木を軽く前蹴りした。



衝撃が空気を揺らす。

噴火で飛び出した大岩が地面に打ち付けられたような……そんな鈍い音と共に。

俺達はその衝撃に思わず後ずさった。

木は音を上げて、広場に倒れた。

その時の衝撃もさることながらだが、レイシーの放った衝撃波それ以上だった。

「おっ!うまくいきましたねぇ!」

レイシーは倒れた木を見てそう言った。

俺達は呆然と立ち尽くしていた。

「に、してもすごい衝撃でしたね~!」

レイシーは笑いながら、森の中から出てきた。

俺達はまださっきの衝撃で動けずにいた。

レイシーはそんな俺達の前まで来ると……泣き始めた。

「え?!」

「ど、どうした?!」

「れ、レイシーちゃん?!」

俺達は明らかに動揺した。

「だってぇ……みんながぁ……」

「ごめん!びっくりしちゃって!」

「ご、ご、ご、ごめんねぇ……」

イヅナとドクダミちゃんはレイシーをハグして言った。

「レイシーちゃんすごい!」

「レイシーちゃん……すごいよ」

「うえええええん」

イヅナとドクダミちゃんはその後も泣くレイシーを慰め続けた。

しばらくすると、二人の慰めの甲斐もあってか、落ち着いたようだった。

「大丈夫か?」

「ええ、すいません……ちょっと昔いろいろあって」

「いや、すまない。あまりにすごかったんでビビった」

俺がそう言った。

別にほめるつもりもなくって本心だった。


「え?そんなにですか?」

レイシーは急ににやついた。

「そんなにすごいですかぁ?!私ぃ!」

「ああ、すごいよ」

俺はそう言って、レイシーの頭を撫でた。

「お前はすごい。頼りにしてるよ」

「レイシーちゃんはすごいよ!最強だ!」

「レイシーちゃんはヒーローだよ」

俺達は口々にレイシーをほめた。

「ええ~!そぉんなこと……あるかもしれませんねぇぇ!」

レイシーはご機嫌そうに照れ笑いした。


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