同盟成立
「うわー!すごい!」
イヅナが声を上げた。
「や……山盛り!」
ドクダミちゃんが少し引いていた。
「ほあーすげぇ~」
レイシーは目を輝かせていた。
「ま、これが名物だな」
俺とホークは皿をテーブルに置くと、席に着いた。
と、同時ウェイトレスが飲み物を人数分持ってきた。
ちょうどだな。
俺達は飲み物を受け取ると、再び乾杯し、各々が料理に食いついた。
「おっ、うまいなこの焼き飯」
「スパイスが効いてていいですね」
「ああ、暑いのも相まってこういうしょっぱい味付けがすごいうまい」
「このから揚げ、うまいなぁ」
「う、うん……そうだね。でもこれって……」
「ああ、まぎれもなく……奴だね!」
「でも、うまいなぁ」
「う、うん。そうだねぇ……」
「肉は固めだけど、味がすごいね。噛むほどに出てくるよ!」
「そうやねぇ。若鶏とは違うね」
「こんなにおいしいんだね……魔物って」
「うん。こいつには苦労させられたし、なんかひとしおだねぇ……」
「珍しいねイヅナちゃん、しみじみして」
「そ、そうだね」
「うーん。やっぱりねぇなんかそうなるねぇ」
「そうやなぁ」
「そうだね」
「うん、そうそう……。にしても、おいしいなぁ」
「なぁ、多すぎねぇ?このデスウサギの量よ」
「ほんとだね~なんか依然来た時よりも、多いねぇ」
「噂ですけど今デスウサギの個体数が増えてるらしいです」
「あ?そうなの?なんで?」
「なんでって詳しい理由は分かりません。繁殖期と閉鎖が重なった影響とか、最近の魔物の活性化の影響とか言われてますね」
「ふーん。なぁ、それが真実なら、今魔界ってやばいんじゃないか?」
「う~ん、どうだろうねぇ?でもあの禿げ頭の隊長さんは安全って言ってたけどねぇ?」
「ま、確かにな。ここもいつも通りだし……大丈夫か」
「油断した奴から死ぬんですよ。細心の注意を払うべきかもしれません」
「そうだねぇ~」
「モフねぇ、変な匂いとかは?」
「今のところはしないねぇ」
「じゃ、大丈夫かな。ま、さっさと終わらせて……」
「そうだね……」
「ええ、ぬかりなく、行きましょう」
「あっ、ガキども!お前らからあげ食いすぎだろ!」
「仕方ないの。こいつらとは因縁があるから……。ここで決着を付けなきゃいけないの」
「はぁ?何言ってんだよ?」
「浅からぬ因縁があるんですよ……こいつらとは……ね」
「ああ?うん?そうなの?」
「ふごぅふごうう」
「しゃべりながら食うなよ。しかも猫舌って……。お前そんななら、がっつくなよ」
「おいしい……れふぅ」
「そうかい。そりゃよかったな」
「モルド君つっこみ役になるなんて珍しいねぇ」
「ああ、こいつらマジで緊張感がなさすぎるぜ」
「ありますよ!今はしかし、静かな心で……訣別の時なのです……」
「いや違ったわ、モフねぇ。こいつら俺より阿呆なんだ」
「じゃれがぁ!」
「食いながらしゃべるな!」
「あっそうだ。イヅナお前これ食えよ」
モルドはそう言うとドライビーツの皿を差し出した。
「は?!嫌に決まってんでしょ?!馬鹿にしてんの?」
「言っとくけどね。これが名物なのはほんとだし、うまいんだよ」
「嘘!そんな言葉に私は惑わされない!」
「いや、本当だぞ」
俺が横から割って入る。
「え?!モリー様まで!なにを?!私が可愛いからって!悶える私を見たいからって!気持ちは分かり……」
「丸ごと食うもんじゃないんだよ。ペーストにして食うとかスモモと一緒にちょっとずつ食うもんなんだよ」
俺はイヅナの妄言を遮ってそう言った。
「ええ~?本当ですかぁ?」
イヅナは疑いの目を向けた。
「本当だ。潰してソースと一緒に混ぜた奴をだな。ちょうどそこのデスウサギにつけて食うとうまいぞ」
俺はそう言うと小皿を一つ取り、ビーツをスプーンで潰して、ソースと混ぜた。
「ほら、つけすぎるなよ」
「ううう……本当においしいんですよね?」
イヅナはじっとりとした目で俺を見た。
疑り深くなる理由は分かるがな……。
「あのね。俺はそんなバカなことしないから。ほら、食ってみな。人の好意は無碍にするもんじゃないぜ?」
「おいおい、おっさん。だれがバカだよ。だれがよぉ~」
「おっさんってなぁ!俺はまだ20代だ!」
「嘘こけ!どう見ても40手前だろ!」
「うるせぇ!誰が何と言おうが20代なんだ!」
俺はその時にはっとした。
このやり取り……バカみたいだ。
俺は恐る恐る目線をイヅナ達に移した。
イヅナ達は予想通りにやにやしていた。
「なんだよ?」
「え?い~え~?」
「なんだ……よ?」
「ええ~?いいえ~?」
イヅナはムカつく、にやつき顔を見せた。
「うるせえ、お前はさっさとそれ食え」
俺はそう言うとイヅナの隣に座り、無理やりデスウサギを口に運んだ。
「うわー!これはもう強か……もごぅ!」
「冗談でもそういうこと、言おうとするな!」
俺は危ないこと言いそうになったイヅナの口に特性ソースを付けたデスウサギを放り込んだ。
「う……ん……。あっおいしい」
「だろ?」
「はい。おいしいですこれ!びりっとくる刺激なんにでもあいそう!」
「実際合うぞ。食ってみろ」
俺はそう言うと、イヅナの口にから揚げを放りこんだ。
「あふ!あふ!おいひぃ!」
「そうだろ?」
俺は熱がるイヅナを見て、何だか可笑しくなってしまった。
そうして、から揚げに飽きたらず次々に料理を口に入れていった。
さっきまで、バカするイヅナ達を冷ややかに見ていたが、いやぁ、俺もたいがい阿呆だな。
「ふごふご~」
「ははは、食え、食え」
俺は高らかに笑った。
横目でそのやり取りを見ていたホークは、ずっと苦笑いしていた。
「なぁ、お前ら何で冒険者になったの?」
モルドが不思議そうな感じでそう言った。
テーブルの皿は大体片付き、落ち着いた頃合いだった。
周りの連中も同じような頃合いらしく、さっきまでの喧騒が落ち着いていた。
そういうタイミングであったからか、モルドの声は、すごくはっきりと聞こえた。
「なんでって?」
イヅナは飲みかけのコップを持ちながら言った。
「俺は田舎から出たかったからだ。俺ん家は木工やってて、木切って椅子とかにしてた」
「そうなんだ」
「で、俺の家の近くに住んでたのが、こいつ」
モルドはそう言ってホークを指さした。
「同郷なんですね」
「おうさ、おんなじ東部の田舎同士だ。で、家の隣に住んでたのがここにいるモフねぇ。二個年上でよく勉強とか見てくれてた」
「三人とも知り合い?珍しいな。意外にそう言うPTは少ない印象だが……」
「まぁな冒険者なんて酔狂な者になろうって奴なんかそうはいねぇからな」
「じゃあどうして?」
「俺は長男。田舎で木を切って過ごすなんて嫌だったのさ。そんで、こいつを誘ったの。ホークは猟師だったからさ」
「猟師?」
「ええ、まぁ、少し前までは山で動物を狩ってました」
「そ、そう言うサバイバル知識あるし、冒険者に向いてると思ってな」
「俺がその話を受けたのは、お前ひとりじゃすぐ野垂れ死ぬと思ったからだ」
「ほーそうかよ。初めて聞いたぜ。俺はてっきり一攫千金狙ってんのかと思った」
「そんな軽薄な行動はしないよ」
「ま、何にせよそんな流れだ。モフねぇともう一人ハルカってのがいたんだが、その二人は……何できたんだっけ?」
「ホーク君と同じよ~。あの二人だったらすぐ死にそうねってハルカちゃんと話してね~」
「それでかよ」
「それでよぉ~」
「そのハルカさんってのが、クリス君の?」
「そうさ。姉貴さ。ま、もう結婚して田舎に引っ込んじまったがな」
「クリスとは、彼女の結婚式で出会った。ハルカの勧めでね。初めは拒否したが……本人がどうしてもって言ってそれでね」
「へ~そうなんや!じゃ、クリス君はなんで冒険に出たかったん?」
「僕は……魔術を使いたかったんです。自分の魔術の研鑽の為に冒険に出ました」
「そうなんや!」
「ええ、まぁ僕の魔術は……結構いろいろできると思ってたんです。でも東部の田舎じゃ……そんなに使う機会がなくて」
「ま、そう言う事。それぞれの目的がちょうど合わさって俺達は冒険してるって訳」
俺達はホークアイの成り立ちを黙って聞いていた。
ホークアイの面々は各々あの時はあーだこうだ、言い合っていた。
「こうやって改めて聞くと……知らなかったこともあるものだな」
「僕はモルドさんの軽薄さに吃驚ですよ。まさか、そんなふわふわした気持ちだったなんて」
「あー?なんだ?ガキ。言っとくけどな、気持ちは本物だぜ。俺はいつか金持ちになるんだよ」
「ふふふ、そうだね。モルド君は小さい時からそう言ってたもんね」
四人は仲良くしゃべっていた。
俺達はただその姿を見ていた。
その内ホークが黙って話を聞いていた俺達に気が付いた。
「あっ、すみません。我々ばかり話してしまって……。ここで会ったのも何かの縁です。差し支えなければ皆さんのお話も聞かせてください」
「ああ……そうですね。俺達の目的は……」
俺はそう言うと、イヅナの方を見た。
イヅナはまっすぐに俺を見た。
「どうする?」
俺はイヅナに耳打ちした。
「別に構いません。でも、馬鹿にされたら私きっと……許せないと思います」
イヅナの顔は真剣だった。
「いやならいいんだ。だが……俺さモルドは悪い奴じゃないと思う。きっと馬鹿になんてしないとは思う」
「そう……ですかね?」
「まぁ言ってもいいことはないだろうからさ。判断は任せるよ。お前の事だしな」
俺はそう言うとイヅナの肩を抱き寄せ、耳打ちした。
「だが、よ。もしもあいつがお前の気持ちを笑うなら……その時は……」
「ゆ、ゆるさないでいいとおもう!」
「おうよ。やってやろうぜ、イヅナちゃん」
「ま、そう言うことだ」
俺はそう言うとイヅナの肩を叩いた。
イヅナは少し考えていた。
その間俺はホークアイの面々を見た。
ホークは心配そうな顔をしていた。
悪いことを聞いたんじゃないかというような顔だった。
モルドは真顔だった。
つまらなそうな顔でイヅナを見ていた。
モフルさんとクリス君は黙って待っていた。
「誰にも言わないでください」
しばらくしてイヅナは顔を上げて言った。
「お母さんを助けるためです」
イヅナはそれだけ言った。
ホークアイの面々はまるで時が止まったかのように固まっていた。
皆、口を少し開けて、ぽかんとしていた。
「は?なに?お母さん病気なの?」
モルドがそう言った。
「そう。多分」
「多分って?」
「未知の病なの」
「未知の?」
「そう」
「そうって、どんな病気なんだ……」
「やめろ、モルド」
ホークはモルドの言葉を遮った。
「すみません。言いにくいことを聞いてしまった」
ホークはそう言うと頭を下げた。
「あ、頭を上げてください!そんな、嫌なら言いませんよ」
イヅナがそう言うとホークは頭を上げた。
「病気……それはつらいですね。それで、どうやって治す気なんですか?」
「ニンフモクって島に万病薬があると聞いて」
「ニンフモク?東部魔界の?バッカベラゴにある妖精島のことぉ?」
「ご存じなんですか?!」
「そりゃあ、あそこは私の地元じゃ有名よぉ」
モフルさんがそう言うと、イヅナは目を見開き、乗り出した。
「お、お、お、教えてください!その島の事!」
「え?ああ~ごめんなさい。知ってるのは名前くらいよ。だって知ってると思うけどあの島は立ち入り禁止区域だから」
「え?立ち入り禁止?」
「ええ、そうよ。あの島には特別な伝説があるの」
「伝説?!」
「魂の還る島」
ホークが言った。
「死者の島ともいう。かつては、そこに住んでいた民族が奉っていた島だそうだ」
「死者の……島?」
「なんでも、幽霊が出るそうだぜ。太古の幽霊がな」
「死んでいった先祖はすべてその島で新たな命に生まれ変わると信じられていたそうだ。だから死者にも会えると言われていた」
「す、すごい!」
「そこに足を踏み入れた者は、死者たちの祝福により……望むものを得られる……と言い伝えられている」
「それって本当なんですか?!」
「伝説だって言ってんだろ。それに……いいことだけじゃない」
「と、言うと?」
「霊の中には悪い霊もいる。その悪霊が島をうろついていて……」
「島に不用意に入る者を狩っている……って言われてる」
「悪霊……」
「こ、こ、こ、怖いこと言わんといてぇ……」
レイシーが珍しく怖がっていた。
こいつ……そうなのか。
「伝説の悪霊だ。大きな鎌をもって……魂を吸い取る!」
モルドが声のトーンを落とした。
「闇に紛れて近づき襲った人間の声をまねる……。仲間の助けを求める声に誘われていけば……そこには!」
「そ……そこには?!」
「鋭い牙と、鋭い爪。そして血なまぐさいボロを着た恐ろしい幽霊が赤い目を光らせている!そいつに騙されたら……この世から消えることになる。一人……また一人と……」
モルドは声を震わせた。
「ごああああああああ!」
モルドが叫んだ。
「ぎ、ぎゃあああああ!」
すると、レイシーが悲鳴をあげて、イヅナに飛びついた。
「やめよ!イヅナちゃん!行くのやめよ!」
「だ、大丈夫だよ!レイシーちゃん。ただの伝説だから!」
「で、で、で、でもぉ……」
レイシーはぶるぶる震えていた。
「お前、幽霊怖いのかよ」
「そりゃそうですよ!やつら殴れないんですよ?!」
怖がる基準そこかよ……。
「まぁ何にせよ……あの島はそう簡単に入れる島じゃありません」
「そうなのか……ただのイエローゾーンの島かと思っていた。渡航許可は下りないか?」
「普通では無理だと思います。調査の為に上陸したと聞いたこともありますが……私がまだ5歳くらいの事でした。それ以降は……話も聞きません」
「乗り込んだ調査隊が謎の失踪を遂げたんだ。だーれも帰ってこなかったらしいぜ?」
「ひぇぇぇ!」
「怖がらせるな!と言っても、何か事件があったみたいですね。それ以降は……もうちょうど20年くらいになりますが誰も近づこうともしません」
「行きたいって冒険者もいるんじゃないか?」
「いるかもしれませんが、引き受ける船頭はいませんよ」
「そうか……」
俺は思案した。
まさか、資格を得るのも無理目なのに、渡航することも無理ときた……。
「こりゃ一筋縄とは行かないな……」
俺はそう言って頭を抱えた。
だけど、なんでか、俺は笑っていた。
事態が進めば進むほど……悪化していく。
もう笑うしかなかった。
ま、もう覚悟の上だ。
「とにかく、あなた方の冒険は困難の連続になるでしょう。ですが、ここで東部出身の我々と出会ったのも何かの縁かもしれません。応援しますよ。我々にできる事なら、なんでも」
「い、いいんですか?!」
「うん。お姉さんも、イヅナちゃんたちを応援するわぁ!」
「ぼ、僕もです!ニンフモクならそう遠くありません。僕たちなら有事に備えて待機もできると思います」
「そ、そんな……!」
「おう、ま、いいぜ。その代わり土産は持って帰って来てくれよな」
ホークアイの面々は優しかった。
「子供のころから聞かされてきたお伽噺ですから。我々も興味はあるんですよ」
ホークは、はにかみながらそう言った。
照れ隠しにしては、かわいい笑顔だった。
「あ、あ、あ……」
イヅナはそれを見て、感極まった感じで立ち上がった。
「ありがとうございます!」
そして丁寧にお辞儀をした。
それを見て、俺も立ち上がった。
「俺からも、頼む。どうか、力を貸してくれ」
頭を下げる俺達を見て、レイシーとドクダミちゃんも続いて立ち上がり頭を下げた。
「みなさん、頭を上げてください。こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします」
ホークはそう言うと、手を差し伸べた。
イヅナは顔を上げると、その手を取った。
「イナホとホークアイの同盟成立って奴だな」
モルドが笑った。
「ああ、よろしく頼む」
「ええ、私達の友情の始まりですね」
俺達はそう言うと、運ばれてきた新しい酒を受け取り、友情の乾杯をかわした。




