赤いスライム
俺の目の前でステラが魔物に捕まっている。
しかも、最悪なのは……こいつはおそらく新種だということだ。
形状は普通のスライムだ。しかし色が違う。
スライムは水辺や湿地帯に住む魔物だ。
水中の微細な虫が変容したモノと考えられている。
スライムの色は通常、透明か薄青色。
でも、目の前のこいつは……赤だ。
色違いの魔物は厄介だ。
ただ単に色が違うだけという事では決してない。
色が違うと、俺達が良く知るモノと魔性が異なる可能性が高い。
特にこいつはなんだかヤバそうだ。
スライムは体内に獲物を捕らえ、捕食する。
スライムはジェル状の魔物で、心臓部である透明な核と消化器官をもつ。
その核を破壊しない限りは死ぬことはない。
例え両断されようと再び一つにくっつくのだ。
両断されたスライムは核がある本体に引かれて、元に戻ろうする。
しかし、核は一つしかないので分断された方はずるずる動くだけなのだ。
外傷のほとんどは意味をなさず、現在の主な対処法は「凍らせて、砕く」だ。
スライムは脅威度で言えば正直かなり低い部類とされている。
スライムは体長が大きくても1mほど、とらえる力も弱く、抜け方さえ知っていれば誰でも簡単に抜けれられる。
仮に捕らえられても、人間サイズを消化するまでには20日もかかる。
野営中、朝起きたらスライムが体にくっついてるってことも冒険者ならあるあるだ。
まぁ出会ったら面倒だなって程度の魔物でしかない。
しかし目の前のこいつは……明らかにそれとは違う。
目算で、体長は5mを優に超えている。
ステラの首にはぶよぶよしたからだが触手状になり食い込んでいるようにも見える。
こんな攻撃的な形状の変化は効いたことがない。
対応を間違えれば……少なくともステラの命はないだろう。
そういう状況だった。
ステラの下半身は胸部の真下まで体内に囚われている。
かろうじて頭部と右手のみは外気に晒されているような状態だ。
襲われる瞬間、咄嗟に右腕だけ庇ったのだろう。
最悪の状況は免れたようだ。
しかし、詠唱ができない為、凍らせることはできない。
いや、それどころかこの力……消化力も高いかもしれない。
幸い、スライムはこちらに気がついていないのか、俺達に襲いかかってくる気配はまだない。
早急にステラを救出せねばならない。
「モリー、火を!」
アルが叫んだ。
咄嗟にアルの方を見ると、彼の周りに風が集まっていた。
「風刃」
アルがそう唱えると、彼の纏った風が二本のロングソードの形に固まり、留まった。
アルガートンは剣士だ、しかし彼は剣を持たない。彼は風からそれを作り出す。
形はその時の彼次第だ。今回は……どうやらこいつをぶった切るつもりらしい。
「ガイア・アーマー」
ウーティも両手を地面につき詠唱を始めた。
すぐに大地が彼の体に纏わり、屈強な鎧を形成する。
ウーティも様々な形状を作り上げる術者だ。
基本は、甲冑のような見た目で両手に長方形のシールドを持つ。
俺は懐からマッチを取り出し、火をつけた。
すぐに火を手に移しスライムの頭上高く、思いっきり投げ飛ばした。
それを見たアルが風でナイフを作り炎に向けて投げ飛ばした。
風のナイフは炎と混じり、そして炎を俺達に“拡散”させた。
「よし。モリー下がって援護を頼む」
アルの指令を聞き俺はスライムから距離を取った。
俺は昔から何故か武器だけは使えない。
戦闘時の俺の仕事は、一歩引いて敵の変化などを観察することだ。
偶に石を投げたり、アルが切った木をもって突撃したりが関の山だ。
「ステラ、呼吸はできるか?」
アルが確認する。
「ええ、おかげさまで。だいぶ楽にはなりました」
ステラも炎のおかげで抵抗できているようだった。
「嬢ちゃん、抜けれそうか?」
「それは……無理です。力が強くて」
「そうか。どうする大将」
「僕が真っ二つにする。引っ付かないように引き離してくれ」
「おう」
ウーティがそういうとアルが走り始めた。
「ウーティ!!」
アルが叫ぶとウーティは両手で地面をたたいた。
ウーティから放たれた衝撃はアルの足元まで伸び、瞬間、地面を隆起させた。
その勢いに乗ってアルは高く跳躍する。
スライムの頭上に到達したアルは勢いよく2本の剣を投げ飛ばした。
剣はステラの背面ギリギリを通るようにスライムをきれいに両断した。
それを確認したウーティは再び両手で地面を叩き両断されたスライムの間に壁を作り分断した。
俺は頭上から降ってくる、アルを体で受け止めた。
「ナイスキャッチ!さすがだ」
俺達は体勢をすぐに立て直す。
顔を上げたらステラを捕らえていたスライムが力なく土の壁に引っ付いてるのが見えた。
動く気配はなさそうだった。
ステラは気を失っているのか、力なく地面に倒れていた。
しかし、外傷は無いように見えた。まだ油断はできないが、一安心だ。
「大丈夫かー!」
壁の向こうからウーティの声が聞こえる。
「ああ、大丈夫。そっちはどうだ?」
「大将!こっちのこいつは動かねぇ!気をつけろそっちが本体だ!」
「何?!」
アルと俺が同時にステラに目を向ける。
スライムは相変わらず動く気配がない。
「そっちが本体じゃないのか?」
「違う。こいつ切り離された瞬間からそっち側に行こうと蠢いてやがる。そっちが本体だ」
こいつがまだ何を考えているのかわからないが、不気味さがある。
俺達は危険をさしおいて、彼女をすぐに助けることにした。
その時だった。
スライムが赤く光った。
ステラが小さくあえいだ。
次の瞬間、ステラを包んでいた炎がスライムに吸収されていくのが見えた。
そして、ステラの消化が始まった。




