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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第二章

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因果の果て

 俺の剣とレドの刃がかみ合った瞬間、相手の剣にヒビが入った。それにレドは小さく呻く。こちらが魔力を込めたのはわかっただろう。しかし、その量は問題にならないレベルのはず。ではなぜ、こんな状況になったのか――


『……なるほど、魔力量ではなく仕掛けを施したか』


 レドはそう解釈して俺の剣を弾く。力では勝っている。よって、剣の硬度を上げれば問題はないという判断だろう。

 実際は、もっと魔力を収束させれば今のレドには勝てる……現在の相手は、膨大な魔力を少しずつしか扱えず持て余しているような状況だ。もっとも当のレドはそれに気付いていないみたいだが……レドが次の行動に出る間に、片付ける。それが俺の役目だ。


 だから俺は相手の行動に意を介さず踏み込んだ。真っ直ぐ放たれた剣に対しレドは再度防御したが、それもまた剣を損傷させる結果を生む。

 瞬時にレドはそれを修復するのだが……刃にヒビが入るほどの威力だ。まともに食らえばどうなるかという推測はしたらしく、レドは警戒をあらわにして体に収束した魔力をさらに高めた。それはどうやら、魔力を編むようにして構築したもので、単純な防御ではない様子。


『これで、完璧だな』


 果たしてそうか――剣にも同様の措置をしたらしく、レドは自信を覗かせる。一方で俺は相手の様子を見ながら横へ目を向ける。ギルジアや騎士アルマがジャックとなおも戦闘中だが、その人数が少なくなっていた。

 それは負傷した騎士がいることも要因だが、より効率的に、誰が相手をするか自然と決まったらしい。ギルジアとエルマを軸に、複数の騎士と勇者が代わる代わる攻撃を繰り広げている。


 それはジャックにとって不快らしく、またダメージも受けているようで彼が放つ剣筋はずいぶんと荒々しく、また同時に苛立っているようにも見えた。


『周りを気にしている場合か?』


 レドが言うと、俺へ剣を見舞う――が、こちらはそれを回避。


『ジャックは苦戦しているようだな……まあいい、あの調子では人間側も打倒はできないだろう。ならばさっさと終わらせて、あちらの援護に向かおう』


 レドはそう告げた後、魔力を発した。威嚇のようなものであり、俺をさっさと片付ける意思表示でもある。


『終わりにしよう……まさかお前が、この場所で戦う姿を見ることになるとは思わなかったが、な』

「ああ、そうだな」


 それには同意する。無茶苦茶な方法で強くなった結果が、これだ。


 俺をカイムのパーティーから追い出した張本人ではあるが、それをきっかけに魔族とやり合えるようになった……無茶苦茶な因果ではあるが、結果的に人類を助けるだけの力を得た。はっきり言って「これで良かった」などと言うつもりはない。けれど、


「俺としては、色々あったからな……あんたとの因縁を魔王との戦いより前に終わらせられるのは、幸いだ」

『ぬかせっ!』


 レドがとうとう攻撃に出た。その魔力はこれまでと比べものにならないほどであり、単なる体当たりでもこの場にいる勇者や騎士を余裕で跳ね飛ばすほどのものになるだろう。

 いや、それどころか目の前の存在はこの場にいた魔族や魔物を吸収した存在。であるなら、一個の軍勢がまとめて襲いかかってくるに等しいだろうか。


 だが俺は、これまでと変わらない態度で剣を構え、その動きに応じる……レドの姿は、まさしく暴虐の化身だった。魔王から力を得て増長しているのは確かだが、与えられた技術を制御し、まさしく人類の敵へと変貌している……相変わらず取り込んだ全ての魔力を扱うことはできないようだが、現状の能力でも、この国の都を崩壊させるに十分すぎる力であることは間違いない。


 だから俺は……レドと相反するように静かに魔力を込めた。静謐――そんな言葉が似合うほどに。それはギリギリまで力をひた隠し、相手が蹂躙しようと間近に迫ってくるのに備え、カウンターを決めるような動作だった。

 レドのその能力については見極め、なおかつ収束している魔力量についても看破している。ここから俺は、相手がどれほどの力で倒れるのか……それを瞬時に計算。といっても、やっているのは二千年の修行による経験と推測ではあるのだが。


 ただしそれは精度も高く、俺は今完全にレドの能力を把握している――攻撃をするのは一瞬。相手の攻撃を打ち破り、なおかつレドの体にダメージを与えるだけの魔力を刀身に込める。

 それをレドは理解しているのかはわからないが、向こうは問答無用で突っ込んでくる。こちらは望むところであり――俺は、魔力を一気に引き上げる!


 その攻防は、文字通り一瞬だった。こちらが魔力を発した直後、レドの気配が明確に変わる。まだそれだけの力が……という困惑と驚愕であったが、動きは一切変わらなかった。おそらくだが、力に引っ張られて引き下がるタイミングを逸してしまっていたのだろう。もっとも、例え逃げられるタイミングだったとしても、当のレドがそれを実行したかは疑問だが。


 俺の刃とレドの剣。それが激突し……刹那、俺の剣が容易くレドの剣を両断する。ヒビどころか抵抗一つないまま半ばから折れた自分の剣を見たらしいレドは、明らかに魔力に揺らぎがあった。

 そして俺の剣が、勢いそのままにレドの剣へ叩き込まれる! その威力は、体を斬ってさえ抵抗はなく……その瞬間、身の内に存在していた魔力が、蒸気のように噴出した。


『あ……アアアアアア!』


 雄叫び、ではなく絶望的な嘆きだった。力が消える、自分が滅ぶ……そうした事実をまざまざと見せつけられて、その自我があっという間に崩壊し始める。


『何故だ! この力は、陛下の技術は――』

「俺がそれを上回っていた。それだけの話だ」


 決然とした言葉に対し、レドは倒れ伏す。手足の先からパキパキとひび割れ滅んでいく様を見ながら、俺はさらに告げた。


「これで、因縁も終わりだな」

『馬鹿、な……』

「最後まで、自分がやられた理由がわからない……そこが、あんたの敗因だよ」


 そう言った時、レドの体は完全に消えた。膨大な力を抱え、それを活かすことなく……因縁の相手は、とうとう滅んだのだった。


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