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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第二章

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激動

 そうして、ギルジアと夜の内に打ち合わせをした後、その日はようやく就寝となった。ただ訓練をする人は異なる、なんだか長い一日だった。

 そして翌朝、魔王との決戦まで差し迫る中で、俺は自室で朝食をとっていた。最初は落ち着かなかった部屋の広さも今では見慣れた光景に変わり、食事内容についても相当高級なわけだが、それを当たり前のように受け入れている。


 これ、根無し草として旅をする場合、尾を引くかもなあ……毎日美味い朝食が出てくるとは限らないし。


「ま、その辺りは旅を続ければ元に戻るか」


 以前の、強くなる前の俺みたいに……思えば、次元の悪魔に捕らわれてからは激動だった。二千年という歳月がどこか絵空事のように感じられるのは今もそうだが、それ以上に気の遠くなる歳月修行していたことを忘れるくらいに、ここまでの旅路はとんでもなかった。

 セレンと出会い、闘技大会に出て、魔王へ挑み……今は世界の名だたる英雄と肩を並べているような状況。なおかつ今では異名が数え切れないくらい生まれているらしい。そこは少し頭が痛いけど。


 ただ、これらの過程が魔王を倒すための道筋であるとしたなら……そもそも俺にそれが果たせるのかなんてわからない。セレンやギルジアは高評価だし、エルディアト王国側も期待している節があるけど。


「……ともあれ、俺は全力を尽くすだけか」


 もし、魔王に挑んで勝てなかったら……あるいは、俺が犠牲になる必要があるなら、とか色々と考えてしまうけど……そんなヒロイックな話にはきっとならないんだろうな。

 魔王グラーギウスについてはまだまだわからないことが多い。この王城には裏切りの魔族もいるが、彼だってそれほど情報を保有しているわけではない……いや、そもそもグラーギウスは何かをやろうとしている。その過程でさらなる強さを得るかもしれない。


 もしかすると、その強さを得るということこそ、目的かもしれないし……ただ、最終地点がわからない。魔王グラーギウスは、今以上に強くなるとしたら、何をするつもりだ?

 俺は偽物としか出会っていないが、魔族の悲願とやらを成し遂げることが目的とは思えない。そうした考えを抱く根拠については勘でしかないのだが――


 そこまで考えた時、朝食を終えて俺は部屋を出る支度をする……その時だった。ずいぶんと力強いノックの音が舞い込んだのは。


「はい?」


 返事と共に俺は応対する。相手はギルジアだった。


「どうした?」

「悪いが、すぐに来てくれないか」


 表情がいつになく硬い。そればかりか、どこか焦っているようにも見える……何かあったのか。


「わかった」


 返事をすると俺は支度を手早く済ませて部屋を出る。廊下を歩き、ギルジアに案内されたのは小さな会議室。そこには騎士エルマとセレンがいた。


「おはようございます」

「……おはようございます」


 俺の挨拶に対しエルマはやや間を置いた後、硬質な声で応じた。どうしたのか……テーブルには既に地図が広げられており、なおかつ立ったまま話をするらしい。

 その地図は、どうやらエルディアト王国の地図……俺とギルジアがそれへ視線を落とした時、エルマが口を開いた。


「朝早く申し訳ありません。緊急事態が発生したため、その対処のために集まっていただきました」

「……ギルジアはわかるんだが、俺やセレンも?」

「決闘のことを鑑みれば、お二方にも話すべきかと」


 ……セレンについては別に何か信頼を得るような出来事があったのかな? 疑問に思ったが話の本筋ではないため、黙っておく。


「簡潔にいいます。今朝報告が入りました……この場所に」


 エルマは指を差す。そこは王都から北に位置する山脈地帯。ただ標高はそれほどない山々だったはずだが。


「魔物に加え、魔族が多数確認できました」

「魔族が?」


 眉をひそめつつ俺が問い返すと、エルマは表情を変えないまま頷いた。


「私達が発見したという事実について、敵が気づいているかどうかは現在不明です。問題は魔物の数で、それこそ軍隊と言って差し支えないほどの規模とのこと」

「つまり、だ」


 ギルジアは腕を組み、地図に目を落としながら述べる。


「勇者達が集い、今まさに魔王攻略のために動こうとしている中で……目と鼻の先に敵がいたというわけだ」

「敵の狙いは……?」


 セレンが疑問を呈した……が、彼女自身答えは得たらしく、


「私達が都を離れた時、攻撃を?」

「おそらく、そういうことなのでしょう。精鋭……それも、魔王を討つための戦力を出した後、王都を襲撃する……敵側も、こちらに対する反撃は用意していたというわけです」

「現状、襲ってくることはないよね?」

「そこは間違いないでしょう。魔族が多数いるにしても、こちらには名だたる勇者や、裏切りの魔族さえいます。それを狙って攻撃するという可能性もゼロではありませんが……魔王討伐に際しこちらを動揺させるために……あるいは、反撃として王都を攻め滅ぼすという方が納得できます」


 まあ確かに……しかしそうなると放置はできない。


「現在、討伐隊を編成するかどうか協議中です」


 そしてエルマは言う……ふむ、魔王討伐のために準備をしているわけだが、そうではなく北にいる軍勢を叩くために……というのが筋だとは思う。

 ただそうなると、当然魔王討伐に赴くにはさらに時間を要することになる。招待された俺達なんかは単に時期が延びるだけと解釈もできるが、さすがにエルディアト王国としては厳しいだろうな……魔王討伐の準備に相当なリソースを消費している。いかに大国とはいえ、現状からさらに時間を要するとなれば、国内に混乱が起きてもおかしくない。


「放置はできない以上私達は戦わなければなりません。しかし当然、それは魔王討伐を一時的にとはいえ諦める必要が出てくる……かといって、魔王討伐を予定通り行うべく戦力を小出しにするというのも危険です」

「その中で俺達は何故呼ばれたんだ?」


 ギルジアが問う。うん、魔王討伐の是非についてはあくまでエルディアト王国の判断だ。現在協議中であるなら、その判断によって動くのが普通だと思うのだが――


「決戦が差し迫る中で、無茶なお願いだとは思います」


 そして騎士エルマは俺達へ言う。


「北に存在する魔の軍勢……それを打倒するために、お三方の協力を願いたい。それこそ、軍勢を倒す大きな鍵であると私達は考えています――」


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