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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第二章

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つかの間の休息

 俺達はまず、露店などを見て回ったのだが……それだけでも十分楽しめるくらい、様々な品が立ち並んでいた。


「さすがに武器は売っていないな」

「そっちにも興味ある?」


 セレンが問い掛けてくるのだが、俺は首を左右に振った。


「今ある装備でどうにかするさ……セレンはいいのか?」

「私の方も、装備については問題ないかな……お」


 その時、何か興味を引かれたのかセレンは立ち止まった。そこは装飾品が並んでいる露店。男性の露天商は、明るい口調で俺達へ話しかけてきた。


「お、何かお探しかい?」

「これ、細工はどうやっているの?」


 青色の宝石に対し、ずいぶんと細かい加工の成されたペンダントを指差し問う。そこで男性は色々と話し始めたのだが……こういう物に興味のない俺としては、専門用語ばかりで首を傾げるしかない。


「へえ、あの細工をこの値段で……」

「もしかして、他大陸の人間かい? 勇者様が集まった結果、冒険者でもそういう人が増えているなあ」


 と、雑談という風に男性は話す。


「このエルディアト王国では、結構な数の職人がいるからね。そのおかげで、他大陸と比べて安いってわけだ」

「へえ、なるほど」

「まあ技術についてもピンキリだからな。ここに並んでいる品々は中級品といったところだ。でも、他の大陸で同じ物を手に入れようとするなら、倍くらいの値段は最低でも覚悟しないといけないな」


 そこで俺はセレンがじっとペンダントを見ていることに気づく。欲しそうな顔ではあるが、まあこれから戦地へ赴くわけだし、必要もないかなどと考えている様子。

 ……そこで俺は、露天商へ口を開いた。


「一つもらってもいいですか?」

「お、いいぞ」

「……アシル?」


 少し驚いた様子に構わず、俺は商品を受け取りつつ、


「まあまあ、いいからいいから」


 俺達へ露店を離れる。そこでセレンへとペンダントを差し出した。


「まあ、ほら……今まで組んでくれた……そして、これからも協力してくれるお礼ってことで」

「別にいいのに……でも、もらっとく。ありがとう」


 心底嬉しそうに、セレンは笑う。そんな顔を見れるだけでも金を払った価値がある、などと心の中で呟く間に、彼女はペンダントを身につけた。


「どう?」

「うん、似合ってる」


 俺の言葉にセレンはペンダントを見つめる。なんだか戸惑っている風にも見えるけど……、


「どうした?」

「あ、えっと……実を言うと、こんな風に装飾品を買ってもらうの、初めてで」


 ――彼女の生い立ちを考えると、近寄ってくる男性なんていなさそうだし至極当然の話かもしれない。

 歩きながら幾度もペンダントを見据え、ほのかに笑みを見せる彼女……よほど嬉しかったみたいなので、俺としては買って良かったと思う。


「他に欲しいものはあるか?」

「いやいや、さすがに……あ、それならアシルはどう? 何か欲しい物とかある?」


 問われ、俺は考えてみる。欲しい物か……ダンジョン攻略で資金を手に入れ、それこそなんだって買えるはずなのだが……物欲というものがあんまりないな。

 魔王との戦いに意識が向いていることにより、あまり考えてこなかった……というのものもちろんあるけど、そもそも俺は強くなる前だって修行ばかりで物欲とかが薄かった気がする。


「俺は特にないかな……」

「む、じゃあお返しできないのでは?」

「別に返さなくても……」

「私がなんとなく引っかかるというか……」


 なんだろうな、同僚に対する気遣いみたいなノリだな。あるいは友人から贈り物をもらったので返そうとか、そういう意識だろうか。


「俺の方はいいよ。それと、また何か欲しい物があったら遠慮なく言ってくれ」

「いやでも……」


 と、やりとりをしつつ俺達は大通りの中を歩き続ける……ここでふと、俺は思った。


 修行をする前はあまり余裕がなかったため、こうして観光なんてしなかったことを思い出す。カイムと共に旅をしていたけど、俺はとにかく強くなりたい一心で、自由行動の時も強くなるための修行をしていたり、書籍を漁っていた。必死で強くなろうとしたけど、結果的に思わぬ形で……強くなって以降も、あんまり腰を落ち着けて観光なんて基本なかったので、魔王を倒した後の旅路については、もう少しゆったりとしていいかなと思った。


「そういえば、アシル」


 ふいに、セレンが俺を呼んだ。


「アシルの生い立ちとかあんまり詳しく聞いてないよね」

「……正直、何か特別なものがあるわけじゃないからな。そもそも、簡単に説明できるからな。冒険者に憧れ、剣を学び故郷を飛び出した。終わり」

「本当にそれだけ?」

「そうだな。両親はきっと呆れかえっていることだろうな」

「アシルの噂が届けば、その限りではなくなるんじゃない?」

「噂、か……同姓同名の別人だって思うだろうさ」


 肩をすくめながら俺が話すと、セレンは苦笑した。


「まだまだ自覚はないようだね」

「まあ、な。時間が経てばもっと理解できるのかもしれないけど」

「それならそれでいいよ。この戦いの結果次第では、もっととんでもないことになりそうだけど」

「かも、しれないな」


 会話をしながら俺達は大通りを進んでいくのだが――やがて正午を迎え俺達は食事をする。適当な店に入ったのだが、味もよく当たりだった。


「こうして話をするのは、今日が最初で最後かな」

「かもね」


 俺の言葉にセレンは同意しつつ、スープを飲む。


「ねえねえ、魔王を討伐したらどうするの?」

「別に何か考えているわけじゃないな。元々俺は強さを手に入れたくて……冒険者になった。だから目標というものがあるわけじゃなかった。もし魔王グラーギウスを打倒することができれば、俺は魔王を倒せるだけの力を得たって証明になるし、強さを得るという目的で旅をする必要性はなくなりそうだ」

「なら、どこかの騎士にでもなる?」

「それもどうだかなあ……ま、セレンも知っている通り旅費はあるし、当面は根無し草で世界を回ってみるさ」


 うん、それがよさそうだ……目的もない旅というのは、なんだか面白そうではあった。



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