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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第二章

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魔王を倒せる力

「同胞ですら、強さを得るため実験に利用する……それを知り、私は確信した。魔王グラーギウスは悲願達成のために動いている。しかし同胞ですら、それを成し遂げるための駒としか見ていない。むしろ媚びへつらう同胞すらも、利用しているくらいだ」


 ――さすがに、人間の王様だって独裁するにしろ周囲の人間くらいは厚遇する。人々は甘い汁を吸うために色々取り入ろうとするし、独裁者はそれに富を与えることで権力の維持に役立てる……わけだが、どうやら魔王グラーギウスは違う。


「魔王は、自分以外の何者も信用していない……全て、悲願達成のための踏み台にしか捉えていない」

「そんな魔王が悲願を達成したら……」

「おそらく同胞ですらまともなことにはならないだろうね……さすがに同胞を根絶やしにするとは思えないけれど……可能性がゼロとも言えない。現時点でも、同胞で実験の犠牲になった存在は数知れず、だからね」

「……現時点で付き従っている魔族は、どう思っているんだ?」

「それが悲願達成のためだと、割り切っているかそれでもなお魔王に従っているか、だね。忠言した者は全て消された」

「強引すぎるね……」


 セレンが感想を漏らす。確かに、世界の支配者……それを目指すにしては、あまりに暴力的だ。

 まるで悲願を達成……つまり世界を統べて、そこから先は何も考えていないようにすら見える。


「これは私の推測だが、魔王には何か目的がある……それこそ、人間も同胞も全てを犠牲にするような何かが」

「だからこそ、人間に与することにしたと」


 俺の言葉にブルーは首肯し、


「理由については、理解してもらえたかな?」

「ある程度は……正直、魔王グラーギウスについてさらに謎が深まったけど」

「あの魔王の目的を解明するときは、それこそ倒した後かもしれないね……さて、ここを訪れた経緯については聞き及んでいる。魔王に通用する技……グラーギウス自体が相当な力を持っている以上、生半可な技術ではおそらく無理だ」


 そう述べた後、ブルーは俺を見据えた。


「君の力の一端は決闘で見させてもらった……具体的にどうする?」

「色々と考えたんだが……魔王に関する情報はあるのか?」

「もちろん。魔王グラーギウスの魔力の質から、様々ある。けれど、それを利用するにしてもかなり厳しい」

「厳しい?」

「非常に特殊な魔力でね。解析はできているけれど、それに応じるだけの技術がない」


 肩をすくめるブルー。そして表情は、厳しい。


「私が研究しているのは、汎用的に魔王へ通用する技術の開発……それを応用して、例えば騎士エルマといった面々に魔王に通用する技術を習得させた実績はある。でも、それを他の騎士などに横展開できていない」

「つまり、現時点では騎士エルマを始め、魔王に通用する人材はごく一部だってことか」

「その通りだ」

「……けど、少なくとも個人個人ならば技法を習得できると」


 俺の言葉により、ブルーはこちらが何を考えているのか理解できたらしい。


「騎士エルマと同じように、魔王へ通用する技術を自分なりに開発すると」

「そうだな……魔王は特殊なんだろ? だったら、それに大きく通用するような技法を生み出すことだって不可能じゃないはずだ」

「確かに……けれど、それには相当な技術が君の体に備わっていなければならないが」

「その点については、心配いらない」


 俺は言う……二千年の修行により、自分のことは何よりもわかっている。


「それとセレンにもその技術を教えてもらえると助かる」

「ん、私も?」

「一緒に戦う以上、当たり前だろ……むしろセレンの方が早期に習得できるかもしれないぞ」

「それは、どうかな?」


 小首を傾げるセレンに対し、ブルーは彼女を見据え、


「彼女も、か……いいだろう。やれることはやっておいた方がいい。決闘を易々と勝利した君からの進言だ。二人に情報を提供しよう」

「修行期間は……」

「魔王との決戦へ赴くよりも前に……相性の問題もあるから、どれだけの速度で習得できるのかはやってみなければわからないけれど、全力でバックアップはするよ――」






 そうして俺とセレンはブルーの指導により色々と技術を教えてもらうことになったのだが、結論から言うと形になるまでは早かった。

 もちろん、技術を体得したからといって練度を高めなければ魔王には通用しないと思うのだが、それでも大枠はつかんだ。そして予想通りだったのだが、セレンの方が覚えは早かった。さすが天才である。


「いやいや、君の方も相当なものだよ」


 と、ブルーは俺に対して言う……まあ俺の方は二千年の修行によるアドバンテージを利用しているだけだからな。彼の言葉に俺は「どうも」とだけ答える。

 とりあえず、魔王に対して有効な技法というのは得た……後はどれだけ決戦までに習熟できるのかどうか。こればかりはどれだけ剣を振るかによって決まるため、とにかく修行あるのみだ。


 修行時間には限りがあるから、覚えの悪さを考えても無駄なことはできない……そんな風に思いつつ、俺は魔王との決戦準備を行う様子を眺め、ひたすら剣を振り続けた。


「うん、そっちは大丈夫そうだな」


 と、時折訓練の様子を見に来るギルジアからはそんな風に言われる――気づけば俺は勇者達の中で一目置かれ、剣を振る間に声を掛けられるようになった。そして決闘の話が城外にも出回り、さらに噂が噂を呼び色々な話が消えては生まれているとのこと。

 正直、そういう話を聞くのは不安になるんだけど……俺は何も言わないことにして剣を振る。ちなみにギルジアが告げた異名についてもしっかり出回っているらしい。なんだか話に尾ひればかりがついていく……別に異名負けしないように頑張るとか、名声に固執する気はないけど、大丈夫かなあなどと思ったりもする。


 もし魔王グラーギウスを倒せたら、さらにとんでもないことに……俺はそこで無理矢理想像を振り払う。夢想するのは、勝ってからだ。

 そんな風に、俺は城内で過ごし、着々と準備が進んでいくのだが……そうした日常に変化が訪れたのは、出陣十日前のことだった。


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