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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第二章

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圧倒する戦い

 ソルフが取り出した物……それはおそらく、自分の魔力を溜めておくための魔石か何か。温存しておいた力を利用し、一時的にではあるが魔力を大幅に増幅。攻撃しようというものだ。

 瞬間的な力ではあるが、その量が多ければ負ける可能性はゼロではない……俺はじっと取り出した物を見据え、構える。


「油断はない。そして、どんな状況であろうとも極めて冷静に、というわけか」


 ソルフは眼光鋭く俺を見据えた後、


「いいだろう、貴様はこの場に立つだけの資格を持っている……しかし」

「今度こそ終わりだ、とでも言いたいのか?」


 問い掛けにソルフは一度言葉を止めた後……取り出した物を、握りつぶした。


 刹那、周囲に魔力が噴出し、ソルフはそれをまとう。周囲の人々からどよめきの声が上がるほどのもの。おそらく相当な年数、魔力を溜めていたのだろう。俺の目から見ても、その魔力量は普通の人間が発するレベルを超えていることがわかる。

 何年という歳月分の魔力を、俺との戦いに投じる……正真正銘の切り札だろう。ソルフはおそらく、最後の最後でこれを使い、ギルジアに勝つ……そういう目論見だったのかもしれない。


 もしこれが二つ、三つと所持していたなら面倒だが……俺は呼吸を整える。敵はいよいよ最後の武器に手を出した。ここしかないと思い、俺は魔力を高めた。


「そちらも応じるか? 言っておくが、この魔力と並ぶなど――」


 ソルフの言葉が止まった。理由は明白だ。俺の発した魔力。それが、ソルフの魔力とぶつかり、並び立とうとするものだったからだ。

 それを認識した瞬間、ソルフは今度こそ驚愕し目を見開いた。自分の力を容易く凌駕する……いや、何かギルジアに仕込まれたかと思ったようで、すぐに表情を戻し、


「……ハッタリもここまでいくと、面白い」


 ソルフは駆けた。それは愚直なまでの突撃でありながら、これまでの最高速度……彼にとって、魔力による強化の最高到達点と呼べるもので間違いなかった。

 接近と共に放たれる剣戟も、速度威力共に今までの中で最高……刀身に秘められた魔力量は、まさしく勇者の一撃と呼ぶべきものであり、この国に招待された人間のどれだけが受けられるのか……周囲の人々が一様に目を丸くし、誰もが俺を倒すソルフの光景を想像したことだろう。


 だが――俺は受け、その魔力を消し飛ばした!


 ザアッ、と音を立ててソルフの握る剣に込められた魔力を完全に相殺する……単に魔力を消し飛ばすだけではない。相殺というのは繊細な技術が求められる。だからこそ、俺とソルフの間にどれだけの差があるのか……それは相手もよくわかったはずだった。

 ここで彼の首筋に汗が流れるのを目に留める。まさか、という顔と共に彼は一度剣を引き戻し俺と距離を置いた。


「終わりか?」


 問い掛けに彼は何も答えず、懐をまさぐった。どうやら魔力をため込んだ物は一つではないらしい。まあ保険としていくつか所持していてもおかしくはないか。

 ソルフはすかさず魔力を解き放ち、それを体に収束させる……その技術は相当なものだ。外部に溜めた魔力を即座に使い、それをきちんと収束させる……この技術もまた、研究の成果と言えるだろう。


 再度高まる魔力。決闘の舞台となったこの場所で荒れ狂い、今度こそ俺を倒そうと突撃しようとした。

 だがその寸前に、俺は自分の魔力をさらに開放した。無論全力ではない……けれど、ソルフが発した魔力を明らかに超える力を、俺は涼しい顔で引き出した。


「……その力、魔王との戦いに使えればと、誰もが思うところだ」


 俺は驚愕し、動きが止まったソルフへ告げる。


「だが、あんたは……その力をギルジアを倒すために使おうとしていた。国にとっても惜しい力だとは思うが、あんたは俺の仲間に怪我を負わせた。その報いを受けてもらう」


 宣告と同時に今度は俺が仕掛けた。ソルフは即座に魔力を噴出し、刀身に集め迎え撃つ構えを見せる。

 そして両者の刃が激突し――俺はソルフの魔力を消し飛ばした。後に残るはなおも魔力を発する俺だけ。


「……は」


 わずかに彼は声を上げた。相殺されたことで、俺の魔力を直に受ける形となる。魔力を浴びているだけでも、あまりに強力なものだと気分を害することもある。百戦錬磨の彼ならば、そんなこと普通起こるはずがないほど体は慣れているはずだが……ソルフの体が震え出す。


「あんたの野望については、理解はしないが野心があるのは認めるさ。とはいえそれは、魔王と戦うために力を費やす、というのが前提条件だけど……悪いがこの戦いは、あんたの踏み台にはできない」


 ソルフは抵抗しようとする。だがそこへ俺がさらに魔力で圧を掛けた。それにより、ソルフはとうとう折れた。

 膝をつき、顔を伏せるソルフ。だがやがて、その体がゆっくりと倒れた。直に魔力を浴び続けたことで、体が耐えきれなくなったというわけだ。


「――勝者――」


 ギルジアが代表して俺の名を呼んだ。直後、圧倒的な存在を目の当たりにしたためなのか、周囲にいる観客が沸騰した。






「正直、あの切り札を魔王に使えれば……と思わなくもなかったけど」

「それは無理な相談だな。どうあれ、ソルフは状況を認識できていなかった以上、どこかで無駄遣いはしていたさ」


 戦いが終わり――ソルフが医務室へ運ばれ、観客達がいなくなった決闘の舞台で、俺とギルジアは会話をする。近くにはセレンもいて、俺達の会話を聞いていた。


「ソルフにくっついていた人間達も、おとなしく従ってくれるそうだから、今後勇者の間で騒動が起きることはなさそうだな」

「だといいけどさ……で、これから――」

「準備も大方できた。いよいよ、魔王との決戦ってことになるだろう」


 いよいよか……。


「ただ、その前に一つだけやっておくべきことがある」

「……何だ?」

「そっちの話だ。魔王を倒すための技……色々と考えているんだろ?」


 お見通しらしい。頷くと彼は、


「その話については、ヒントをくれそうな存在に候補があるぞ」

「……それは?」


 問い掛けにギルジアは笑い、


「魔王を知る――裏切りの魔族だ」


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