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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第二章

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研究の果て

 火を噴くように攻め立てるソルフに対し、俺は極めて冷静に剣を防ぎ続ける。


 刃が交わるたびに、相手から放たれる斬撃の速度が増していく……それは一目見てわかるようなものではない。おそらく長時間剣を合わせていても、察知することが難しい程度の変化。これはおそらくギルジア対策に考案されたものなのだろう。ほんの少しずつ、変化させて相手の意表を突く……無論、これだけでギルジアを欺けるとは彼も思っていないだろう。

 ソルフの剣戟からは魔力を通し様々な仕込みが伝わってくる。一撃一撃に、様々な特性の魔力を乗せているようだ。


「これは、すごいな……」


 俺は相手に聞こえない程度の声量で呟いた。ギルジアを倒すために修練を重ね続けたのがわかる……それはもはや、執念という言葉が当てはまってもおかしくないもの。

 例えばセレンは、剣筋や用いる技術が異質であったため、到底真似することができるような領域を超えていた。しかし、ソルフの場合は違う。修練の果てに、色々な特性を剣にいくつも付与している……一つや二つくらいなら、決して難しくない。けれどそれが五つ、十個とくれば話は別だ。


 俺はソルフの能力が剣術とは異なる領域に位置し、かなり特殊なものであると理解する。これは単に剣を振るだけではたどり着けない……言ってみれば、魔力の研究の果てにたどり着いたものだ。

 二千年修行した俺にとっても異質で、新たな戦法を見て感動すらしているのだが……目の前の相手は倒すべき存在。すぐさま思考を変え、相手の剣を弾いた。


「ちぃ……!」


 舌打ちをしながらソルフは一度引き下がった。単純な力押しが通用しない……それどころか、策がまったく効いていないことから苛立ったのだろう。


「どうした?」


 俺はそんな彼へ向け挑発するように声を上げた。するとソルフは顔をしかめる。

 自分がこんな剣士に苦戦するはずがない……そんな風に思っているようだ。


「……なるほど、ギルジアに指示されてこの舞台に立っているのがわかる」


 と、ソルフは剣を握り直しながら言った。


「つまり、相応の対策を立てていると」

「……言っておくが、あんたの作戦とか何も知らないぞ。そもそも、調べられるようなことじゃない」


 彼の言葉に対し、俺はそう答えた。


「だから全部、この場で判断して対応しているだけだ。そっちが策を巡らせているのはわかる。でも、俺はその全てを無為にできる」

「ずいぶんと舐められたものだな……貴様を倒す術など、いくらでもある」


 返答した直後、ソルフは間合いを詰めた。決して速いとは言えない動き。まあ比較対象が世界樹の守護者とかだから、そう感じるだけだろうけど……とにかく、洗練されている。訓練によって培われた動きにより、見た目以上に俊敏だと感じられる。

 これが全てギルジアを倒すために鍛錬したのだとしたら……俺が出てきたことで怒るのも理解はできる。乾坤一擲の戦いだと考えていたのだろう。勇者を超える存在……そんな目標を掲げているにしても、彼はたゆまぬ努力で作戦を遂行しようとしているのはわかる。


 正直なところその努力の方向性は微妙なところだけど……結局、彼は自分が望むように事を動かしたいからこそ努力しているわけだ。それについては、迷惑を掛けなければとやかく言うつもりはないが、彼は俺の仲間を傷つけた。それで、彼を否定するだけの理由にはなる。

 ソルフが再三にわたり攻撃を仕掛けてくるが、俺はその全てを防ぎきる。ここに至り、相手も様子がおかしいことに気づいたらしい。剣を打ち合う度に、その表情に変化が起きる。


 ならば、どうするのか……ソルフの攻撃はさらに鋭さを増した。ここまでは魔力を付与してじわじわと削っていくような雰囲気だったが、そうではなく一気に仕留めるように……おそらくだが、彼はギルジアを倒すための手段として二段構えだったのだろう。

 まずは魔力付与によって彼のパフォーマンスを落とす。確実に仕留めるべく、まずは能力を押し下げることから始めたわけだ。そして相手の能力が下がった時、改めてトドメを刺すべく全力を出す……そんな流れだろう。それが果たして成功したかどうかも微妙ではあるけど……とにかく、彼はそういう戦術を組み立てた。


 けれど俺に対しては一段階目の策が何もかも通用せず、全力を出す必要に迫られた。彼の作戦そのものは既に破綻している。もし最初から全力でやっていたら……いや、彼はそんな作戦は採らなかっただろう。全力を出す際の手の内をギルジアに知られたくなかったというのもあるだろうけど、俺を動けなくしてギルジアをあおるくらいのことは考えていそうだ。


 で、ソルフの全力だが……その全てが空振りに終わる。動きは勇者としての実力通り鋭い。このエルディアト王国に招待されるだけの実力は持っている。だが――

 俺はソルフの剣を大きく弾いた。全力も効かないという意思表示だったのだが、それは相手に伝わったらしい。


「貴様……!」


 何か声を発しようとしたが、口が止まった。何を言っても負け惜しみにしかならないとか、そういう心情なのかもしれない。

 そしてここに至り、周囲にいる観客も異変に気づく。ソルフは苦戦している。何をしているのか理解できないまでも、俺に対し策が通用していないことは伝わっているようで、ザワザワと話し声が聞こえ始める。


 そういった様子をソルフもまた感じ取り、このままではまずいといった顔を見せる。とはいえ、これを打開する方法はたった一つだけ。すなわち、俺を圧倒することだけだ。


「どうする?」


 俺は問い掛ける……この時点でソルフはまだ戦意を失っていない。それどころか、まだ挑む気概を見せている。

 状況は不利であっても、ここはさすが勇者か……放たれる気配は不屈のそれ。ただ圧倒するだけでは心を折るのは無理そうだ。


 ならば……俺が思考し始めた時、ソルフは動き出す。何か手があってのことか、それとも苦戦しているという状況を悟られたくなかったためか。

 剣を合わせた時、最初と同じ戦法……つまり、魔力を付与して動きを止める戦い方になった。つまり、これ以上の手立てがないのか。ならば……俺は次の一手を考え、剣を握る腕に力を込めた。


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