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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第二章

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負けられない戦い

 決闘の準備そのものは、ソルフ側からずいぶん支援が入ったため、あっさりと終わった。むしろ嬉々としてやっていたくらいなので、計画通りだということだろう。

 で、こちらは……まあ、相手が進んで準備しているものだから、ほとんど出番はなかった。よってギルジアからいくらか指導を受けただけで済み……決闘の日を迎える。


「それじゃあ頼むぜ」


 決戦の朝、ギルジアからそう言われた。こちらは肩をすくめたのだが……近くにいたセレンなんかは当然とばかりに意味ありげな笑みを浮かべる始末。

 また立ち会いにはヴィオンやカイムもいる……ヴィオンの怪我は治ってきたがまだ完全というわけじゃない。事の顛末を見たいため、赴くようだ。


 で、決闘の舞台だが……そこは城の中庭。騎士や勇者に加え、城内で仕事をする文官など、色々な人が観戦に来ている……俺達が意図して観客を集めたわけではない。これはソルフ達が進んでやったことだ。

 つまり、観客を増やし自分達こそ魔王討伐にふさわしい存在である……そんな風に主張しようとしているわけだ。


 まあ、これは勝つ自信があるからこそできるわけで……ソルフがどうやってギルジアに勝つのか、策を練り上げている証拠だな。


「正直、どうなんだ?」


 会場へ向かう前、最後の打ち合わせの時に、俺はギルジアに尋ねてみた。場所は彼の部屋。セレンなんかは一足先に会場へ足を運んでいる。


「ソルフはギルジアの実力はわかっているはずだろ? ここまでやって負ければとんだ赤っ恥だ。よって、確実に勝てるような策があるんだろうけど……それがどういったものか――」

「どういう作戦のなのかはわからんが……もしかするとシェノンの援護に気づいているのかもしれないな」


 と、彼は言う。


「ただ、だからといって奴はシェノンの力を借り受けている故に強い……なんて主張はしない。そもそも勇者としての実績があるからな。そのカラクリにシェノンが入っていたとしても、だからどうしたって話だ」

「どういう経緯であれ、強いのは変わらないからな」

「そういうことだ。それに、公表することに対しソルフはデメリットしかないからな」

「何故だ?」

「批判材料に使えなければわざわざ言う必要はない……俺がどういった仕組みで強いのか、わかっているのに秘匿しておけば、こういう対決の際に有効に扱えるからな」


 それはそうか……というより、こんな決戦に備えて、何も言ってこないということなのかもしれない。


「ま、どこまで看破しているのか不明だが、こっちを倒すだけの手札が揃っているってことだろ」

「……今日もし負けたら、大層面倒なことになるよな」

「騎士エルマは俺や君の実力を考慮して、いけると判断しているわけだが……負けたら、制御はまともにできなくなる。場合によっては、ソルフと共にいる一団全員を追放する可能性もあるな」


 そうなったら、内部で分裂することになる。ソルフ達は恨むだろうし、下手すれば魔王討伐の際に邪魔立てするなんて危険性もありそうだ。


「だから今日勝つのは当然で、そこからさらに今後の禍根を断つために動く……そこまでが作戦だ」

「でも、俺でいいのか?」

「ああ、大丈夫だろ」


 自信ありげにギルジアは言う。俺が力を出せば大丈夫……問題は禍根を断つまでのことができるかどうか……不安はあるが、やるしかなさそうだ。

 時間も迫ってきたため、俺達は中庭へ足を向ける。噂が噂を呼んでいるのか、決闘場所は人でごった返していた。こんな状況下で全力を出せばどうなるのか。


「そう心配はいらないさ」


 と、ギルジアは言うのだが……ま、いいや。まずはとにかくソルフをどうにかする。これを優先しよう。

 ギルジアが来たことで、観客は道を空けてくれた。そして中庭に辿り着き……その中央で今か今かと待ちわびているソルフがいた。


 既に剣を抜き放ち、臨戦態勢に入っている……俺達を見た途端、彼は笑みを浮かべた。


「ようやく来たか。これほど人が集まっている。言い訳はできないからな」

「こっちの台詞だ」


 ギルジアは言いながら肩をすくめる。まだソルフとは距離のある場所で口を開く。


「確認だが、この決闘で勝者を決め……今後、勇者同士の争いをなくす。これはいいな?」

「ああ、構わない。そもそも、どちらが上か決した時点で魔王討伐にふさわしい人間が誰なのかは決定する。であれば、これ以上争う必要はない」


 周囲は歓声とは違うざわつきが生じる。決闘があると聞いてここまでやってきたが、その趣旨を知らないという人が多いようだ。


「わかった……もし俺達が勝てば」


 と、ギルジアは続ける。まるで、周囲にいる人々に訴えかけるように


「エルディアト王国と共に戦う……つまり、元々この国が考えていた方針に沿う形で戦う」

「そして俺が勝ったなら……よりよい献策を行い、魔王と戦う」


 どちらが良いのか――異名や知名度を考慮すればギルジアの考えを支持する者が多いだろう。その状況をソルフはこの戦いで打破し、自らが主導的な存在となる……それが勇者を超える存在になるための一歩というわけだ。

 結局のところどっちの勇者が強いのかを白黒つけて、勇者達の中で方針を決めるというだけの話なのだが……ともあれ、周囲の人が固唾をのんで見守るくらいには、重要な戦いだ。


「よし、それじゃあ始めるか」


 軽く素振りをしてソルフは言う。ギルジアは頷き、やがて静寂が訪れる。

 闘技場で歓声が響き渡る戦いとは違う。俺達のことを見守り、魔王を倒す勇者がどちらなのか……それを決める戦いとして、見届ける気概を大いに含んでいた。


 俺は闘技大会を経験しているわけだが、それとは大きく違う雰囲気……失敗はできない作戦。負けられない戦い。尻込みしているわけではないのだが、やはり体に緊張が生まれる。

 そういえば、ギルジアが語っていた……覚悟をしておかなければならないと。彼自身が舞台を用意したということもあるのでほとんど強引にだけれど、今まさにその覚悟が必要な時なのだろう。


 そしてこの戦いは、人類の存亡を賭けたものになるかもしれない……そんな考えにまで至った時、ギルジアは口を開いた。


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