予言の意味
「……そちらの主張については、なんとなく理解した」
ソルフは俺達へ言う。とはいえ、その顔は納得などまったくしていないといった様子だ。
「で、そっちとしては解決したいってわけだろ? どうするんだ?」
「それを当事者……騒動を引き起こしたお前が言うのか?」
呆れた風にギルジアが問うと、ソルフは肩をすくめる。
「そんな質問でこちらが動揺するとでも?」
「……はあ、まあいい。わかった。そっちがどういう目論見なのかは、俺もよく理解しているつもりだ。とはいえ、そっちの口車にあっさり乗せられるつもりもない」
ソルフは口の端を歪める。ギルジアは否定的な意見を述べているわけだが、ようやく思惑通りになってきた、などと考えている様子。
「確認だが、お前は自分のやり方に沿わない限り、こうして騒動を起こす気だな?」
「騒動、という言い方も気に入らないな。俺は俺のやり方が正しいと考えている。だからそれを、意見しようとしているだけだ」
仲間になるであろう勇者を傷つけておいてこの言い草である。考えを改める気は一切ないな。
「しかし、交渉次第では態度を軟化させてもいい」
「その交渉内容だが……まあ、俺も色々と考えたんだがシンプルな方法にしようと思う」
「ほう、それは何だ?」
「お前が勇者としての実力を持っていることは、ここに招待された時点でわかりきっている。だが、お前は自分の立ち位置が気に入らないという部分もあるだろう?」
「ふん……功績の多さから、覇王などと呼ばれるお前の方が上というのは、確かに納得がいかないな」
「少なくとも勇者間で誰が強いか……それをはっきりさせておけば、ある程度納得できるわけだ」
ソルフは笑みを浮かべたまま。目論見通りって感じらしい。
「ま、俺としてもそういうことをしなければならない……とは、なんとなく思っていた。元々我の強い勇者達を集めたらどうなるか、予想はできたからな」
「勇者の中で、統率の執れる人間がいればいいという話だな?」
「ああ、そうだ。少なくともソルフ、お前は自分がそうなろうとしているわけだ」
彼は肩をすくめる。返事はしていないが肯定は間違いなくしている。
「それじゃあ具体的にそれをどう決めるか……ま、決闘しかないな」
「俺の意見に賛同し、付き従う人間もいる。国を支持する人間もいるだろう。その他、中立的な勇者を含め……まとめる人間を用意するというわけだ」
「さすがに全員の動きを管理なんてのは無茶苦茶だから、大半は国側に任せていいとは思うが、な……まあ、勇者の中で誰が代表者なのかは、決めておいてもいいだろう」
その選出方法が決闘である……ソルフは笑みをなおも浮かべていることから、これを狙っているのはわかるな。
「それじゃあ、決闘だが――」
「城内でやり、城側の人間も立ち会うということでいいだろう」
ギルジアの言葉にソルフは頷く。うん、想定通りといった様子で機嫌も良い。
「立場を表明していない勇者についても、とりあえず呼ぶか……どういう方針にするのであれ、決闘に勝った人間が国側へ要請する。これなら文句もないだろう?」
「ああ、それでいい……では、日取りは――」
「待てよ、まだ重要なものを決めていない」
ギルジアがソルフの言葉を止める。
「誰と誰が戦うか……代表者については誰にするにしろ、ここで色々取り決めしておいた方がいいだろ」
「そんなもの、愚問極まりない――」
「いいや、重要だと思うけどな」
……ん、こういうやりとりは計画になかったのだが。これ、完全にギルジアのアドリブだな。
「……俺とお前じゃないのか?」
「城側を支持する人間と、それに反対を述べる人間の代表者……というわけだが、これについては一考の余地がある。決闘の話が出た時点で俺達は城へ報告をしに行くわけだが、この場合城側が勇者を制御するべく、代表者を出すと言うかもしれないだろう?」
「ああ、なるほどな」
ソルフは合点がいったように呟いた。
「城側の代表者はコイツではないと難癖をつけられる可能性があるわけだ」
「そういうこと。よって、代表者についてはちゃんと選定する……完全に決め打ちをすると痛い目に遭うぞ?」
「ふん、どういう形であれギルジア、お前以外にいないだろう……この俺が出る以上は」
ずいぶんとまあ、自信を持っているな……よっぽど覇王対策に余念がないのか。
これは確かにまともに戦ったら面倒な展開になるかもしれないな……俺はソルフの能力についてはわかっていない部分が多いし、面と向かって話をしている段階で探っても魔力量などはあまり判別できていない。これは彼の隠蔽能力が高いことを意味する……つまり、他者に魔力の底を見られないように訓練しているということだ。
手の内を明かさないように立ち回り、なおかつ相手のことはしっかりと研究している……ギルジアとしてはやりにくい相手なのは間違いないな。
ソルフはここで立ち去る……で、だ。
「……俺がやるのか?」
「お、気づいたか」
ギルジアが言う。あー、なるほどな。
「俺の能力を見せつけ、従わせるってことか……でも、俺でいいのか?」
「むしろ、君じゃないと駄目だな」
ギルジアは断言する。先ほどの会話で何かわかったのか?
「君としても色々と言いたいことはあるだろうが……少なくとも俺が矢面に立ってもこの問題は解消しない」
「ずいぶんとまあ、自信ありげに言うな……ここへ戻ってくる前に予言をしていたが、こんな展開を予想していたのか?」
「さすがにここまでは、な。一騒動あることは間違いないだろうって感じていただけだ」
彼は肩をすくめながら話をする……ふむ、色々と思うところはあるけれど、ギルジアが戦うというのは確かに、よろしくないとは思う。
彼が負けた時、挽回することができなくなるのもあるが……何より、ソルフの様子からしたら、ギルジアが勝利しても何かしら理由をつけて国に従わないだろう。というより、そのようなプランが練ってある可能性は極めて高い。
「……わかった。なら、準備をしないといけないな」
「少しくらい情報は渡すぜ?」
ギルジアは笑みを浮かべる……俺のことを期待し、また同時にこれからどうなるか予想して面白くなる――そんな雰囲気の笑みだった。




