解決しない問題
ギルジアと話し合いをした後、俺は騎士エルマとも話し合い、動いていい許可を得た。そしてセレンなどとも話し合って段取りを決める……作業に一日も掛からなかった。よって翌日、俺達はすぐさま行動に移す。
まあやることはソルフと話し合うことだけど……ただ彼が普段どこにいるのかわからないので、まずは探す羽目になったのだが……程なくして城の中庭にいるところを発見した。
「お、いたな。相変わらずふてぶてしい奴だ」
そんなことをギルジアが言う……見た目は、ギルジアと変わらない体格。特徴的なのは長い黒髪を後ろで縛っている……無造作という言葉が似合う感じだ。
「願掛けの一種だったかな」
視線に気づいたのだろう。ギルジアは俺へ告げた。
「髪を切ると強くなれない……つまり、髪の長さと強さは直結しているみたいな」
「それ、願掛けっていうのか?」
「まあまあ。そういうことをしているわけだが……さて」
ギルジアが近づいていく。俺はその一歩後方を歩き、相手がどう出るのか推移を見守る。ちなみに今回セレンもシェノンもいない。俺とギルジアだけで相手をする。
直後ソルフは気づき……立ち上がり、ギルジアと対峙した。
「どうした、ギルジア」
人を誘って絶対に逃がさないような、狡猾な声音だった。
「何か用か?」
「まあな……ここに何で俺が来たのか、理由はわかるだろ?」
問い掛けにソルフは肩をすくめ、
「皆目見当がつかないな」
「……冗談の言い合いというのも勘弁して欲しいんだがな」
「ほう、そうか。なら、どういう風の吹き回しだ?」
「交渉だよ」
ギルジアの言葉に。ソルフは腕を組む。
「交渉? 何のだ?」
「とぼけなくてもいい……俺達は魔王討伐という名目でこのエルディアト王国に集まった。そして俺達は全員、この国の食客というような扱いだ。で、当然そこで問題を起こせばどうなるか」
「問題、とまでは言えないな」
……ヴィオンに怪我をさせたのに、どの口が言うのか。
「多少場を乱したことは認めよう。怪我人も出たが、それはあくまで勇者同士のいざこざだ。国は関係ないだろ?」
「騒動が起きたのは、国が色々と場を設けて模擬戦闘をやっている時と聞いたぞ?」
「勇者同士が激突するのはよくあることだろ?」
……あくまではぐらかすということか。いや、ギルジアがどういう用件でここに来ているのかを、探っている感じだろうか。
それを当のギルジアもわかっているらしく、ため息を吐いた。
「俺が言っているのはそういうことじゃない」
「――わかった。ならこちらの意見を言おう。率直に言えば、この国のやり方が気に入らない」
「魔王討伐に対し、十分な準備をしている……では理由にならないのか?」
「魔王グラーギウス……俺も名は知っている。それを踏まえた上で言うが、討伐するのはそう難しくないだろう? ここまでする必要性があるのか?」
彼がどのような情報を持っているのかわからないのだが……少なくともソルフは楽観的なものの見方をしているようだ。
まあ、これだけ勇者がいれば……なおかつ、人間の国家として最大規模の国が動いている現状を考えれば、あっさり倒せそうな気もしてくる。
「だから進言したんだよ。こんなことをする必要はないと。それに対し国側は念のためですと語っていた。色々と理由をつけていたが、俺は別の理由があると踏んでいる」
「別の?」
「この戦いの本質は、魔王討伐の先にあるって話だ。つまり、勇者を囲おうってことさ」
――確かに、これだけの勇者を集めているのだから、端から見れば魔王討伐は楽勝だと言う人がいたっておかしくない。そしてもしエルディアト王国がそれを口実に勇者を集めれば……なんというか、謀略のように言えなくもない。
「模擬戦闘の場を設け、それぞれの能力や役割を判断する……と、国は言っていたが、実際は使えそうな人間を探していたんだろ。つまり手駒になりそうな勇者を選んでいた」
ギルジアは何も答えない。ただ佇みソルフの言葉を聞き続ける。
「それがわかったから、俺の方から作戦を提示した。向こうは実行しても構わないが、やるのならそちらで、という感じだったが」
「もしそれを受け入れたら、納得したのか?」
「どうだろうな。少なくとも、俺の献策を受け入れるだけの頭の良さはあると考えて、見直したかもしれないな」
……なんというか、自分の言うことは間違っていないと信じ切っている感じだな。
ソルフの言う通り、見方を変えればエルディアト王国は結構な無茶をしている。彼の言うように、戦力を集めているだけかもしれないのだ。もしそうであれば、ソルフが不満を言うのも納得……はしないまでも、動機については理解できる。
ただ、実際は……ギルジアが警戒することから考えて、エルディアト王国は脅威だと考えているんだろう。そもそもこの国には魔王から裏切った魔族の協力者がいる。そこを考慮すると、魔王グラーギウスに関する情報をかなり正確に所持している可能性が高い。そして俺やギルジアは同意見……さて、この場合どうするか。
彼の意見を否定しても平行線にしかならない。こちらが説得力のある言及を述べても、彼は納得せず終わるだろう。そもそも俺とギルジアに対し、気配でとげとげしいのが伝わってくる。つまり、最初から説得など不可能だ。
「……そうか、言い分はわかった」
ギルジアがやがて声を上げた。
「とはいえ、だ。こちらとしては、はいそうですかと引き下がるわけにもいかない」
「疑問だが、お前はなぜ城の人間を信用する?」
「この国が魔王を討とうとしているのがはっきりとわかるからだ」
返答にソルフは押し黙った……とはいえそれは論破されたというわけではない。
「正直、お前のように反発する人間が出てくるのは想定内だろう。とはいえ、エルディアト王国は可能な限り波風立てずに魔王討伐を成したいと考えている。俺はそれに賛同した形だ」
「国を、か」
どこかあざ笑うような雰囲気だった。ソルフには自分を信じる根拠がある。それが揺るぎない以上……そこを崩さなければ、この問題は絶対に解決しないだろうと、俺は心の中で確信するのだった。




