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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第二章

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勇者を超える存在

「いいんじゃないか」


 まず、手始めにギルジアへ相談したのだが……彼はあっさりと同意した。


「君の能力であれば、たぶん望むようなかったいにもっていくことができるはずだ」

「……確認だけど、今回の相手は――」

「名はソルフ=ジェミニ。因縁……と言えば聞こえはいいが、実際のところは向こうが勝手に突っかかってきている感じだな」

「腐れ縁とか?」

「まあな。とはいえ、この場所に呼ばれるだけの実力はあるし、ヤツなら俺を倒すような手段だって持っているかもしれない」

「……本当か?」

「あくまで俺専用だが、な。結構したたかなヤツだから、むしろ仲裁役として俺が出てくるのを待っている……いや、それが狙いかもしれない」

「つまり……ギルジアを倒すことで、勇者全体の主導権を握る?」

「ああ」


 そう考えると、かなり練り込まれた動きなのかもしれない……であれば、放置するのも得策ではない。


「結構策略とか得意なヤツだからなあ。たぶん国がどうすべきか迷っているのも、ある程度は見越しているはずだ」

「そこまで……待て、ということはもしかして――」

「反旗を翻すのは予定の内ってことだ。ただ取り巻きについてはおそらく、純粋に誘われたんだろ。まずは味方を作り、計画を行うわけだ」

「その目的は、何だ?」


 魔王を倒すために集められた状況で、一体何をしようというのか。


「ソルフの真意についてはまあ、本人から直接聞かなきゃわからんが、大体予想はつく。俺に対し敵愾心を抱いているのと、何より主導権……勇者を超える存在になるための下準備だろ」

「……は?」


 意味がわからず聞き返す。俺の反応は予想の内だったか、ギルジアは笑い始めた。


「まあそうだろうな」

「勇者を超える存在……?」

「凡百の勇者を超える存在、と言いたいわけだ。勇者の時点で他とは隔絶とした強さを持っているわけだが、ソルフはそれに飽き足らずさらに高みに昇ろうとしている」

「……相応の力を持っているなら、別にこんな計画をしなくても望むような存在になれるんじゃないのか?」


 ピンとこない……実力があるなら、魔王を討伐すれば他の勇者以上になれるのでは?


「まず、ソルフは自分の実力を疑うこともしない……それだけの実力があるからな。勇者としてここに呼ばれるくらいの武勇は示している。そこについては嘘偽りがない」


 肩をすくめながら話すギルジア。


「これは、ヤツにとってどう完璧に演出するか……という問題なんだよ。多数の勇者がいて、その中で戦っても自分が勇者を超える存在だと証明するのは難しい。だが例えば、エルディアト王国の騎士団を掌握し、勇者達も率い、その上で魔王を倒せたなら……」

「ソルフという人物が考える、勇者を超える存在になると?」

「人一倍名声欲の強い男だからな……ほら、一口に勇者と言っても、全員が歴史に名を残すわけじゃないだろ? ヤツの郷里なら歴史に刻まれるだろうが、ソルフはそれを世界全土でやりたいわけだ」


 ずいぶんとまあ……俺は頭をかきつつ考える。なんというか、自己顕示欲によって突き動かされているわけか。


「俺が会議に出なかったのは、ソルフがいたからという意味合いもある。まず間違いなく、突っかかってくるだろうから、無用な混乱を招きたくなかった」

「なるほど……で、俺の考えに乗っかるってことでいいんだな?」

「具体的にどうするかは今からじっくりと話をすればいいだろう。ま、俺が絡めばソルフの行動は読みやすくなる。俺も色々と予想がつく」

「……なんというか、魔王討伐の前に騒動が生じて大丈夫なのかと思いたくなるな」

「俺は逆だと思うが」

「逆?」

「むしろソルフが関与して、上手いことを見せしめにできれば、今度勇者達が何かを起こすことはなくなるだろ」

「見せしめ、か」

「それでいいのか、という顔をしているな。とはいえ、勇者をこれだけ集めて騒動がない方がおかしいくらいだ。それをソルフの行動だけで抑制できるなら、かなりうまい話だと思うぞ」


 ……ギルジアとしては、ソルフのことを知っているため、そう言ったのかもしれない。


「確認だけど」

「ああ」

「勇者としての実力はあるんだよな?」

「まあな。俺と比べてどうかと言われれば……たぶん下だな。しかし、アイツは俺を超えるために色々とやっているはず」

「シェノンさんの技法についてとか、その辺りのことは……」

「魔力の探知能力なんかは人並みだから、そこまで看破しているわけではないと思うが……俺の戦いぶりを幾度か見ていることを踏まえれば、ある程度の対応策は持っていると考えられる。表層部分だけでも理解しているなら、ソルフは俺に対抗できる手法を用意するだろ」

「少なくともそういうことができるくらいには器用だと」

「まあな」


 厄介な相手だな。これが味方であれば心強いのだが、あいにく今回は敵だ。

 もちろん説得するという選択肢もある。魔王との決戦が差し迫っている中で、人間同士争う必要性はどこにもない……ただ、彼はヴィオンに攻撃をした。その一事で、少なくとも思い知らさなければという考えが俺にはある。


 仲間を守るためには、ここで行動しておかなければ……勇者達の暴走を止めなければいけない。


「騎士エルマには、俺から言っておく」


 こちらが沈黙していると、ギルジアが話し始めた。


「勇者のいざこざだ。さらに言えば、ソルフの狙いはわかりやすい……よって、俺達に任せて国側は干渉しないようにする。その方がいいだろ」

「確かに……それじゃあ、話し合うとしようか」


 ――そこから、俺とギルジアは策を行うために打ち合わせをした。相手の動向次第でもあるため、臨機応変に対応する必要性はあるが、その辺りのことは上手いことギルジアがやってくれるらしい。


「なんだかそちらの負担が大きいけど」

「一番重要な役目を担ってもらうんだ。このくらいはやるさ」


 彼は俺へそう告げる……なんだか、企んでいそうな気配がするんだけど。

 とはいえ、それを追求してもはぐらかされるだけで終わるだろう。俺が彼から真意を聞き出すのは無理だ。剣の実力で上回っていても、トークスキルについては全然だからな。


 よって、会話を終えると俺達は動き出す……ソルフについてはすぐにでも解決すべき案件。そう判断してのことだった。


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