勇者の騒動
ギルジアの予言……勇者が騒動を引き起こしているなんてさすがに、と思ったし嫌な予感はしたけど国側が止めているだろう、などと考えたのだが……結果から言うと、俺の見立ては甘かった。
俺達は王都へ戻り、ギルジアと別れて屋敷に戻ってくる。世話役のロナに何かあったか尋ねると、
「勇者ヴィオン様が――」
その言葉を聞いて俺とセレンは一目散に彼の部屋を訪ねた。
「よう」
そして、軽快な挨拶をされたのだが……腕や足、そして額の部分に包帯が巻かれていた。
「予定通り帰ってきたってことでいいんだよな?」
「あ、ああ……その、大丈夫なのか?」
「まあな。怪我そのものは治療魔法のかいもあって数日で治る見込みだ。今包帯を巻いているのは念のためだな。いやあ、結構ヤバかったんだぜ? 何せ、腕の傷は一歩間違ったら剣が振れなくなっていたかもしれないからな」
「おいおい……」
「ま、この程度で済んで良かったってことだ……詳細は聞いていないようだな?」
俺とセレンは同時に頷き、話を聞くことにする。カイムも部屋にやってきて、俺達は勇者二人と対面する形で話を聞き始める。
「えっと、だな。二人が『覇王』と旅をしている間に、勇者を精査する試練……みたいなものをやった。具体的には王都近くにある演習場で、擬似的な魔物を生み出して、それと戦うって感じだったんだが……」
「そこで問題が?」
「ああ、しかも出だしからだよ。やることを聞いて、とある勇者がこんな風に言い出した……俺達の実力を疑っているのかと」
「疑って……いやいや、実力を認めているからこそ呼んだわけで。試練というのも、動きなどを観察してどういう役割を担ってもらうか決めるためのものだろ?」
「国側はキッチリそういう説明をしたし、俺もカイムも聞いていたんだが、それでも納得しないヤツがいたわけだ」
「絶対わざとだろ……」
俺のコメントにヴィオンすらも「だろうな」と応じた。
「まあ、国のやり方が気に入らなかったんだろ。そいつらは――」
「待った。ら、ってことは複数になのか?」
「ああ。どうやら試練が始まる前の段階で、徒党を組んだらしい」
面倒くさい……心の内が俺の顔に出たらしく、ヴィオンは苦笑した。
「まあまあ……で、国側はまず意見を聞いた。すると彼らは魔王を倒せる手段が存在する。よって、自分達が主導で動けばいいと言い出した」
「いや、いくらなんでも……」
「俺は詳細を聞いていないが、国側としては意見の一つとして参考にしたらしい……が、さすがにそれでわかりました、とは言えない。何せエルディアト王国は国の威信を賭け、多数の騎士を率いて攻撃を仕掛けるわけだ。勇者の策にそのまま乗っかるというのは、いくらなんでも危険すぎる」
俺は小さく頷いた。勇者達が述べた内容は、説得力があるものなのかもしれない。だが、騎士団として動くエルディアト王国としては、さすがにそれを無条件で採用、というのは難しいわけだ。
「で、そこで揉めに揉めた」
「その流れで、なぜヴィオンが?」
「俺とカイムは城と繋がりがあったから……なんというか、過激な連中で、お前も連中に与するのかって言い出したわけだ。無茶苦茶だよな。お前らが滞在する費用は誰が出しているんだって話だ」
なんというか……ギルジアは確かに懸念を言っていたが、ここまでひどいとは思わなかった。
「それ、実は敵の謀略という可能性はないの?」
セレンが問う。さすがに勇者がそんなことを言い出すとは思わなかった……よって、そういう疑い方をしたわけだ。
「その可能性もゼロじゃないんだが……ここの真相は不明だな。結果として無用な混乱を招いただけで、エルディアト王国側は基本的に揺らぎはしなかった。で、俺なんかを怪我させたということで、試練からもご退場になった」
「……納得していないだろ」
「さすがにな。実力行使に打って出たわけだし、何かの罪で捕まえるというやり方もありなわけだが……現在、城側も協議している最中というわけだ。ただ」
と、ヴィオンは険しい顔をした。
「何せ相手は勇者だからな。下手にここで騒ぎになると、逃亡してエルディアト王国を逆恨みする可能性もある。そういう事態を避けたいという思惑もあるみたいだしな。だから対応に慎重なんだよ」
「……状況はわかった。ヴィオンとしてはどうしたい?」
「まあムカつくけど、それでこっちも打って出たら相手と同じになるからな」
頭をかきながらヴィオンは言う。
「もし言うことを聞かせるのであれば、何かしら正当な決闘でもしなければ無理じゃないか?」
「決闘か……それで従うと思うか?」
「完全に言うことを聞くって状態にはならないだろうとは思うが……おとなしくはなってくれるだろ」
……ギルジアなんかを利用して、上手いことはなしを持っていけたら、よさそうだけどな。ただそれで本当におとなしくなるかというと――
「ああ、ついでに」
と、ヴィオンは付け加えるように俺へと話す。
「複数人いるが、そのリーダー格はあの『覇王』とは、因縁の相手らしい」
「……あー、そうきたか」
だとすれば、ここでギルジアを引き合いに出すと……。
「これ、もし彼と接触すれば……」
「どう出るかわからないな。例えば『覇王』がよしわかったと。俺が責任をとって果たし合いをしようなんて提案した場合、どうなるか……とりあえず『覇王』が勝つとは思うけどさ。でもそれで相手が納得するかと言われると、微妙なところではあるよな」
確かに……どういう形にしろ、禍根を残す可能性はあるな。
「解決は難しそうだね」
セレンがため息混じりに呟く。うん、俺も同じように思うのだが、
「……方法が、ないわけじゃないな」
その発言に、仲間達は全員驚いた。
「方法? 何があるんだ?」
「いや、解決するかはわからないけど……そういうことなら、ひとまずおとなしくさせればいいんだろ?」
「おとなしく、って言うのは簡単だが……」
「相手の能力などにもよるから、確実とは言えないけど……とはいえ、これは色々と確認をとる必要があるな。とりあえず、相談しに行くか――」




