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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第二章

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覇王の予言

 そして辿り着いた世界樹は、純白に覆われそれはそれは見事な樹木だった。


「すごいな、これ」

「幻想的だね」


 俺とセレンが相次いで感想を述べる中、ギルジアは粛々と作業を始めた。


「二人はどこか行っていて構わんぞ」

「……もう用無しってことか?」

「おいおい、そんな言い方はないだろ」


 笑いながらギルジアはシェノンと共に作業を始める……さて、俺は世界樹を見上げる。俺にとっても何かしら得るものはないかと調べてみるが……、


「何かあった?」


 セレンが問い掛けてくる。そこで俺は、


「俺も強化できる手法があればなと思ったけど……転用するのは難しそうだな」

「シェノンさんみたいに、技術を持っている人がいないと厳しいかな」

「国側もこういう場所があるなら研究を進めてもいいと思うんだが――」

「当然最初に調べたさ」


 と、ギルジアは述べた。


「現在、騎士団の装備は世界樹の魔力に関連する技術を使われているらしいぞ」

「そうなのか……」

「世界樹そのものを利用するという意見もあったんだが、こいつは無理に力を引き出そうとすれば生態系にも影響するからな。霊脈にまで異常が出てしまったら、さすがに国としてもまずいことになる。よって、研究に留めたってわけだ」

「なるほど……で、そうした情報によりあんたはここに来たと?」

「そういうことだ。もっとも、魔物がいるって情報はきちんと調べた上で、だな」


 準備は入念に、というわけだ。


「おかげで魔物を倒し、なおかつ世界樹の枝も手に入れた……これでまあ、二人と対等に向き合えるくらいには強くなれるかな?」

「アシルはともかく、私はずっとあなたより弱いと思うけど」


 セレンが言う……と、当のギルジアは肩をすくめた。


「見方の問題ではあるが、技量面から言えば相当なレベルだろう……それこそ、俺を凌駕するほどに」

「そうかな?」

「魔族相手でも十二分に対抗できるだけの力は持っているが……懸念点としては、威力が低いことか」


 ――別に、セレンの剣戟が弱いわけじゃない。というよりも、基準がおかしいと言うべきか。

 仮に俺やギルジアしか魔王に攻撃が通用しなかった場合は、相当な苦戦が予想される。なおかつ、人間側にあとどれほど同じような強さを持つ人物がいるのかわからない。


「魔王の能力は過大評価しても、し過ぎることはないってレベルだろうと俺は思っている。その基準に当てはめると、集められた勇者達でも厳しいかもしれん、というのが俺の見立てだ。とはいえ、取り巻きの魔族なんかは十分倒せるだろう」

「露払いみたいな役目を率先してやるような人間はいなさそうだけどな……」


 俺が言うと、まさしくとギルジアは深々と頷いた。


「そうだな……ま、勇者をどうするかはエルディアト王国の手腕に期待するしかないな」

「手腕って……」

「そういう役割を与える意味を込めて、勇者を試す場を設けたんじゃないか?」


 ――あくまでエルディアト王国は試すとだけ言っていた。それぞれがどういう役割を担うのか、また実力のほどはどうか……と、色々理由付けはしているけれど、一番大きな要因は誰が魔王へ挑み、誰が取り巻きを倒すかということに集約されるだろう。

 その過程で、勇者達をある程度制御する必要がある……今頃、もしかすると勇者を試す場が設けられ、色々と始まっているかもしれない。その中でカイムやヴィオンはどうなのか。そして、エルディアト王国はどういう見方をするのか。


「……全員が言うことを聞くと思うか?」


 俺はギルジアに尋ねると、


「いや、無理だろ」


 即答だった。まあ俺も同じ意見だけど。


「我が強い連中ばかりだからな。試す場、という名目でエルディアト王国にとって動かしやすい人間を探しているというのもあるだろ。独断専行で動く勇者に対しては、それに応じた動き方をする。従順な存在であれば、協力を頼む」

「俺達は後者だな」

「ああ、まさしく……俺がいるのもそうだし、俺と対等に戦った騎士エルマや騎士セレンのこともあるからな。そういった人材を使い、従順な人間を多く作っていく方針かもしれん」

「なんというか……魔王との決戦が始まる前から大変だな」

「別になんてことはない。単に戦いはもう始まっているというだけの話だ」


 ギルジアの言葉は重かった。なるほど、準備段階で魔王との決戦はスタートしている、か。確かに。


「よし、終わりだ。帰るとするか」


 ギルジア達は採取を終え、彼が告げる。ここまで来るのは大変だったが、色々と経験もできたし戦力アップにもなった。戦果としては十分だな。


「帰ったら勇者達が良い雰囲気になっていないかな……」

「戦いやすい空気に、ってことか? さすがに無理だろうな。むしろ試す場を設けた結果、一門着ありそうな感じだ」


 俺の意見にギルジアはそう答えた。


「だから覚悟しておいた方がいいかもしれないな」

「覚悟?」

「場合によっては勇者と一戦やらかすかもしれんぞ」


 おいおい……さすがにそれはないだろうとか思っていたのだが、ギルジアはわかっていないな、という顔をした。


「だって勇者だぞ?」

「その言葉に、妙な説得力があるけど……跳ねっ返りが多いにしろ、魔王という存在を目の前にしているわけだろ? そこまでするか?」

「出るんだよ、世の中には理屈では理解できないようなヤツがいてな。とりわけ勇者であればなおさらだ」


 ……なんというか、彼の言葉だけ聞いていると勇者がヤベーやつに聞こえてくるから不思議である。


 ただまあ、その言葉は当たらずとも遠からずという感じなのかもしれない……俺は最初に引き合わされた会議場での出来事を思い出す。なんというか、騎士アルマがきちんと進行していたからなんとかなったけど、放っておけば剣を抜いてバトルなんて可能性も決してゼロではなかった。

 む、なんだか嫌な予感がしてきた……そんな胸中の考えを読むかのように、ギルジアは笑みを浮かべた。


「わかってきたか?」

「……何を?」

「君はそれだけの力を有していて、まだまだ勇者、英雄と呼ばれる経験としては浅い……が、もしかすると、早いうちに矢面に立つ時がくるかもしれん」


 なんだその予言は。俺がじっと彼を見据えていると、


「ま、今はまだわからなくてもいい……が、もし王都へ戻った時、一騒動起きていたら……その時は、君も色々と覚悟しなければいけないかもしれないぞ――」


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