完璧な一撃
今まで慣れた戦い方とは少し違うやり方……剣の速度を完璧に維持したまま『神魔一閃』を放つ……実際にやってみるとかなりの難易度だった。それでも魔力を収束させ、どうにか斬撃をたたき込むことには成功した。
とはいえ、まだ足りない。剣速を重視するあまり、まだ本来の剣戟には至っていない。そして魔物に刃は入れど手応えがほとんどなかった。
「無茶苦茶だな……!」
魔物は再び消える。戦い方を徹底しており、一度攻撃しては退避するを繰り返している。
ヒットアンドウェイと言えばいいのだろうけど、本当にやりにくい……ただ行動は読みやすいし、俺とセレンは動きに適応し始めているため、対処はできる。
ただ、感触的に果たして斬るだけで終わるのか……もしこちらの剣戟が通用しなければ、この魔物に対して効く何かを見いださなければならない。
それは、もしかすると魔王との戦いに通じるかもしれない……俺は再び距離を置いた魔物を見据える。向こうは体毛を黒くして本気モードだが、あいにく攻撃方法が同じ。それしかできないのか、あえてしないのかは不明だが……とにかく、つけいる隙は間違いなくある。
俺達は反撃による攻撃しかできていないので、こちらから能動的に仕掛けたいところではあるのだが……俺はセレンへ視線を移す。彼女もどうやらどうやって斬るのか思案している様子だった。
刹那、魔物が再び消える。俺はそのタイミングに合わせて魔力を収束させた……今度は、確かな手応えがあった。剣の速度を緩めることなく、剣を振れる自信があった。
守護者の動きに合わせて対応しきった……魔族の中には、こうして高速移動を行う敵だっているかもしれない。それを踏まえれば、ここで経験を積んだこと……そして『神魔一閃』そのものにまだまだ改良の余地があることに気づけたのは、良かったかもしれない。
「これで――」
俺は完全に魔力を収束させ、紛うことなき『神魔一閃』を魔物へたたき込むことに成功した。圧倒的な魔力収束と、完璧な速度。分身とはいえ魔王を両断したその力に対し、守護者はどう反応するか。
俺が剣を振り切った矢先、守護者は明らかに反応を示した。鳴き声……悲鳴にも似た声を発すると同時、俺の剣戟から避けるような動きを見せたのだ。
しかしそれは軽やかなステップを踏むようなものではなく、完全に苦し紛れ……そこへ、追撃の斬撃がセレンからもたらされた。完璧な魔力収束により放たれた一撃。それは守護者の身をえぐり、それもまた悲鳴をもたらすものとなる。
次の瞬間、魔物の姿が消え再び距離を置いた。しかし明らかに動揺しているのが魔力を介し伝わってくる。
「……いけそうだな」
「あのままいければ、だけどね」
セレンは警戒を緩めることなく呟く。一方の守護者は動きを止めた。何かしている様子はないが、こちらの動向を観察しているのか。
「セレン、さっきの攻撃は一体?」
「アシルみたいに純粋な力押しでは通用しないと思って、魔物の魔力に合わせて上手いこと斬れるように調整した、というか」
「調整って……そんなことできるのか?」
「あ、みんなと同じ反応だね。そこについてはジウルードさんも驚いていたし、アシルも驚くんだね」
……なんというか、彼女も彼女で無茶苦茶である。そんなあっさり言われても……。
「えっと、つまるところ魔力の質を相手によって変えているのか?」
「そんなところ。といっても私達が戦うのは基本的に魔物か魔族でしょ? そういう相手は基本的に退魔仕様の魔力に変えればいいだけだから、それほど種類はないんだけど、さすがにあの相手にはそうもいかなかったみたい」
なるほど……ともあれ、相手に合わせて攻撃が効くようにできるというのはさすがである。むしろ技術的な面を考えればギルジアにとって俺よりもセレンの評価の方が高そうまであるな。
で、肝心の魔物……もとい守護者はまだ佇んでいる。俺とセレン双方から手痛い一撃をもらったためか、気配を発し威嚇をしてくるが、攻め込んでくる様子はない。
「……こちらから、仕掛けるか?」
俺はセレンに提案するが、
「まだ、やめておいた方がいいと思う」
「力の底が見えないからか」
「うん。こっちを警戒しつつも、どうするか次の手を考えているように見える」
俺は彼女の言葉に小さく頷く……であれば、このままどっしり構えて長期戦か。
ジリジリというヒリつくような状況だが、俺とセレンは集中力を切らせるようなことはない。むしろ腰を据えて戦えるのだから、ありがたいかもしれない。
ただ、もし他に似たような魔物が現れたら……という可能性も一瞬危惧したが、少なくともそういった気配は皆無。ギルジアの話から考えると、何体いるかもわからない感じなのだが、どうやら守護者は目の前にいるアイツだけだと考えてよさそうだ。
では、守護者が次にどのような攻撃を仕掛けてくるのか? さすがに魔物の心理を読み解くなんて無理なわけだが……決して、不可能じゃない。
「どう来ると思う?」
「私は……さらに力を高めて押し切ろうとするかな」
「押し切る? 俺達の反撃を食らったのに?」
「まだまだ全力という感じじゃないし……私達の能力を測りかねているのかもしれない。本気モードの力は出したけど、それでもダメージを受けた……なら、さらに力を高める以外にないと思う。そういうアシルはどう?」
「……そうだな、世界樹からの魔力を受けているということは、外部から魔力供給をして能力を高くしているんだろ。だとしたら、大気中の魔力を取り込んで傷を癒やすとか――」
その言葉と同時だった。突然守護者の魔力が高まったかと思うと、周囲に風が生まれる。乱気流、とでも呼べばいいだろうか。守護者を中心に風が舞い、それに合わせて魔力が渦巻く。
そうして引き寄せた魔力が、守護者に注がれる。加え、体毛はより黒くなり、その魔力の大きさが、先ほどと比べても異様なほど肥大化した。
「……俺とセレンの説、両方だったな」
「そうだね……」
「あの大きさ、さすがにセレンは受け止めるの無理だろ?」
「だと思う。受け流すのも――」
会話を中断。理由は守護者が身じろぎをしたためだ。来る――そう直感した俺とセレンは、同じタイミングで動き出した。




