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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第二章

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魔物の襲来

 魔王との戦い方を思いつくと、いてもたってもいられなくなり俺は早速作業を開始した。とはいえ、あんまり下手なことをやると仲間が起きる可能性もあるし、何より結界に支障が出るのもまずい。よって、身の内で検証を始めた。

 魔王に関する情報は分身と戦ったことしかないため、現時点でやれることはそう多くないが……俺は意識を集中させる。魔王の能力……分身が一部だとしても、あれほどの力を保有していたということは、少なくとも魔王本来の力があったはず。


「感触を思い出して……それを魔力に乗せて……」


 また、この情報をエルディアト王国に提供してもいい。今まで思いつかなかったので、ちょっと申し訳ないけど……魔王決戦までそう時間もないので、どこまで貢献できるかわからないが、役立ててはくれるはずだ。

 そうして静寂の中、俺は黙々と検証を続ける。その作業をやり始めてから時間の流れが早くなったような気がして……気づけば、ギルジアが起きてきた。


「交代の時間だな」

「ああ、わかった」

「うん? 何かやっていたのか?」

「ちょっとな」


 椅子から立ち上がる俺に対しギルジアは肩をすくめ、


「精神統一とかの修行か? こんな状況でずいぶんと殊勝だな」

「こういう時だからできることもある」

「そういうものか……とはいえ、今は休むことも肝心だ」


 俺は頷き、部屋へと入る。


「さて、明日は本格的な戦闘だな」


 このペースでいけば明日中には世界樹へ辿り着く。そうなったら、いよいよ決戦だが……、


「魔王の分身と比べて、強いわけじゃないよな……?」


 あの範疇であれば、俺達は勝てるけど……色々と思考しつつ、俺は就寝することとなった。






 結局魔物が襲撃してくるようなこともなく、俺達は無事に朝を迎えることができた。支度を済ませ、建物の外に出て、シェノンが結界を解除。何もなかったかのようになり、俺達は出発した。


「お、相変わらず威嚇してくるな」


 ギルジアがいの一番に告げる。確かに……俺達へ向け明確な敵意がどこからか感じ取れる。


「威嚇をしても俺達が来るのに、どういう意味があるんだろうな?」

「ふむ、威嚇だけじゃないかもしれん……とはいえ、だ。夜襲なんてものをしていない以上、奇襲攻撃というわけではない……ま、人間には理解できない何かがあるとしようじゃないか」


 ……彼の言うとおり、俺達の尺度で魔物を測るのは無理か。納得し、変わらず進み続ける。

 少しして、俺達は真正面に別の魔力を感じ取ることができた。それはまるで……大地から空へ昇るような、暖かい魔力。


「世界樹、かな」

「だな。いよいよゴールは近いぞ」


 気づけば歩むペースも早くなる……が、それと同時に威圧的な魔力も濃くなってくる。


「世界樹の手前にいそうだな」

「魔物の姿を捉えることができればいいんだけど――」


 その時、俺達の真正面に現れた……それは白銀の毛並みを持った、四足歩行の獣だった。

 体格的には鹿のようなものをイメージすればいいだろうか? 綺麗な角が二本存在しており、高貴な……美麗という言葉が似合う美しさがあった。まるで、絵画のような……魔物を含めた景色全てが一枚の絵画のようであり、また幻想的だった。


「……あれが」


 小さく呟くと、俺は魔物から威圧的な気配を感じ取った。表情は別に怒っているとか、そういうわけではない。しかし、それ以上近づけば命はない……そんな風に、俺達へ魔力を通して警告しているのが明瞭にわかった。


「俺が持っている魔力が原因かな?」


 ギルジアは呟くと、剣を静かに抜いた。


「俺とシェノンは自衛することを優先するぞ」

「わかった」


 俺は頷き、セレンへ目配せする。彼女は小さく頷き、双方同時に剣を抜いた。

 臨戦態勢――それが魔物にも伝わったらしく、感じられる魔力がさらに鋭くなった。普通の戦士ならばへたり込み祈ることしかできないような暴力的な魔力……それが俺達に向けられている。


 だが、こちらは動じることなく足を前に出す。その瞬間、魔物の威圧的な気配が変わった……いや、完全に消えた。


「ほう?」


 声を上げたのはギルジアだった。これまでの態度を一変させた……というわけでは決してない。むしろ、今からが本番――そう感じさせる事態だった。

 よって俺とセレンは剣を構え、魔物が地を蹴った。とはいえそれは、力に任せたものではない。まるで舞踏でもするかのように、華麗な跳躍だった。


 なおかつ、その速度は俺達の目を見張るものだった。ステップを踏んだとしか思えないような軽い動作。けれどその動きで……俺達の間近まで一瞬で迫った。


「お、っと……!」


 俺とセレンは同時に剣を振った。狙いは頭部だったのが、角に阻まれた。瞬間的に引き上げた力により、角を削り取ることには成功したが、肝心の本体へ斬撃は当たらなかった。

 魔物はなおも突っ込んでくるか……そう予想し切り返しの一閃を決めようとした。けれど魔物は再びトンと軽やかな足音を発して、大きく後退していた。


「ありゃあ、厄介だな」

 

 ギルジアが呟く。剣を構えながら、魔物を注視している。


「動き方が特殊なのは、どうやら普通に足を動かしているわけじゃないからなのはわかるんだが……それ以外も、ずいぶんと無茶苦茶なことをやっている」

「わかるのか?」

「今の攻防で判断できたのは一部分だが……場合によっては、そこいらの魔族なんかよりも遙かに面倒な相手かもしれんぞ」


 俺は魔物へ目を向けた。今まで遭遇した敵とは文字通り桁が違うような強さを持っていると考えてよさそうだった。

 では、どう戦うか……呼吸を整える。先ほどの動き、異様でありまた同時に捉えることが非常に難しそうではあるが、あれを突破できない限り、倒すことはできない。


「セレン、やれるか?」

「もちろん」


 返事に俺は小さく頷き、


「そっちは動き、読めたか?」

「なんとなくだけど……アシルは?」

「感覚的に、というレベルだな。言語化するのが難しいけど……」


 ギルジアに尋ねてみようか……などと思ったが、それよりも先に魔物が動き始める。俺は会話を中断し、軽やかに動き始める魔物を見据え……魔力を高めた。


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