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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第二章

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世界樹

 そして――結果的に想定よりも早いペースで俺達は目的地へ到着した。シャーベイル……そう呼ばれる霊峰は、自然発生する魔力がずいぶんと濃密な森に囲まれた場所だった。白い頂を持つその山において、世界樹の姿はまだ見えないのだが……、


「どこにあるかはわかるのか?」

「無論だ。じゃないとここへは来ないだろ」


 俺の質問にギルジアは冷静に答えた後、


「さて、チンタラ歩いていたら期日までには帰れない。魔物が出ても即座に撃滅して、ダッシュで世界樹の所まで行く。いいな?」


 俺とセレンが同時に頷くと同時、ギルジアは従者であるシェノンへ目を移した後、


「それじゃあ――いくぜ!」


 彼は走り始めた。即座に俺とセレンは追随。そして一番後方にシェノンがついてくる。

 驚いたのは、シェノンもまたついてこれているという点。当然と言えば当然かもしれないが……魔法を使って効率的に強化しているのだろうけど、そんな気配をみじんも感じさせないところは、強化魔法の練度が相当な領域に達していることを物語っている。


「おっと、早速だな!」


 と、ギルジアが声を発する。前方に魔物の姿が見えた。

 俺達は即座に臨戦態勢を整える――が、ギルジアはブレーキを掛けることなく魔物へ突撃する。敵は熊のような形をした魔物。体当たりをすれば人間は吹っ飛ぶくらいの巨体だが、俺達にとってはさしたる脅威ではなかった。


 俺やセレンが交戦するより先に、ギルジアが剣を魔物へ放つ。敵はそれに反応したが――魔物は完全に受けきれず、防ごうと構えた腕ごと両断された。

 巨体が半分に分かれ、下半身は地面に倒れ上半身は吹き飛ぶ。そして動かなくなった。で、塵とならないってことは、肉体を所持する魔物だな。


「魔族の眷属についてはさすがにいない」


 と、ギルジアは魔物へ目を向けた後、言った。


「霊峰で、ここには魔族が嫌う魔力があるらしいからな……とはいえ、世界樹のような豊富な魔力資源があるため魔物は強い。俺達なら楽勝レベルかもしれんが、油断はしないことだ」

「当然」

「うん、そうだね」


 俺とセレンは同時に頷く。気を引き締める俺達の様子を見て、ギルジアは笑う。


「他の勇者とかが二人のように素直ならなあ……」

「……俺達と会話をして以降、勇者達と話をしたのか?」

「まあな。しっかし、どいつもこいつも癖が強い。中には二人のように礼儀正しい人間もいたが、むしろ少数派だった」

「何でだろうな……」

「勇者になって性格も傲慢になったか、あるいは元々そうだったか……まあ、これはあくまで経験則だが、元々そういう人間の方が勇者という存在になるケースが多いな」

「経験則……?」

「これは別に自分勝手な人間が勇者になりやすいという話じゃなくて、もっと単純だ。真面目で礼儀正しい性格の人間……誰かに教育を受けたか元々かは知らないが、そういう人間は大抵騎士を目指すケースが多いって話だ」


 ああなるほど……そりゃあ真面目だったら勉強とかもできるだろうし、騎士学校とかに通いそうなものだよな。


「まあこれはあくまで俺が経験した範囲内での話だから、話半分に聞いてくれ」

「わかったよ……しかし、そうだとしたら、今回エルディアト王国が集めたのは偉業と呼べるのかもしれないな」

「だろうな。まあこの国の情報収集能力を含め、説得能力などかなりレベルが高いってのもあるが……お、また魔物だな」


 前方に再び魔物の姿。俺が迎撃しようかと思ったが、それよりも先にギルジアが前に出て仕留めた。


「俺達の出番はないか?」

「まだ必要ないな。もう少し世界樹へ近づいてから活躍してもらうとするさ」


 ギルジアは立ち止まると、木々の間から見える山を見上げる。


「世界樹の場所はわかっているし、山登りだって魔力強化を施せばなんとかなるだろ? ま、生存能力を含めて見させてもらうとするか」


 ……生き延びる能力を含め、見定めるってことか。俺はセレンへ目を移す。望むところという雰囲気を発している。

 俺とセレンならまあ大丈夫かな……こちらが頷くと、ギルジアは笑みを見せ、


「それじゃあ少しスピードアップするぞ。ついてこれるか?」


 こちらが返答するよりも早く、ギルジアは走り始めた。一歩遅れて俺とセレンが。そしてシェノンが追随する。

 先頭をひた走るギルジアがひたすら見つけた魔物を屠っていくくらいだが……出番は本当にあるのかなどと心の中で呟きながら、俺達は彼の後を追い続けた。






 森に入っておよそ一時間ほど経過した時、休憩を取ることにした。といっても体力的にはまだまだ余裕だし、そもそもギルジアが魔物の大半を倒してきたので、こちらとしてはこれで良いのかと思うくらいだった。

 で、まだ山の麓にも到達していないのだが……俺はじっと山を見据える。この距離からでも――


「気づいたか」


 ギルジアが言う。俺はセレンを見ると彼女も感じたようで、


「魔力があるね」

「それこそ、世界樹の魔力だ」

「まだ目視できないけど、この時点で魔力がわかるのか……」

「それだけ膨大な力を含んでいるってことだ。大地から直接……しかも霊脈から直に魔力を得ているわけだから、その力の大きさが想像できるって話だ」

「枝を拝借するって話だが」


 俺はギルジアへ尋ねる。


「ここまで来て今更だけど……それ、勝手にとっていいのか?」

「世界樹は誰かの所有権があるわけじゃないからなあ。まあ強いて言うと世界樹はこの霊峰にいる全てのもの……世界樹を荒そうとする輩を追い払うシステムを独自に形成しているわけだが、それさえはね除ければ自由にできる」


 ただし、とギルジアは付け加える。


「世界樹そのものを害そうとすれば、それこそ大地から制裁が待っているな」

「大地……?」

「より具体的に言えば、世界樹の幹や根に干渉しようとすれば、大地に存在する霊脈が襲いかかってくるということだ。さすがに大地に内在する魔力と力比べをしてどうにかするなんて無茶にもほどがあるだろ」


 と言いつつ彼は俺へ視線を向け、


「君はどうにかできそうか?」

「無茶言うなよ……」

「ははは。まあそんな必要性もないから、枝だけ拝借して帰ろう。そのくらいなら世界樹だって何もしてこないだろ」

「何も……か。世界樹を守る存在とかいたりしないのか?」


 俺の言葉に対し、ギルジアは小さく肩をすくめながら口を開いた。


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