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手の内

 俺にしか気づかない程度の魔力しか発露していない剣……しかしその中に、膨大な力を俺は察した。


 だから俺は、相殺するべく瞬間的に剣へと魔力を集める。俺の方も魔力を隠蔽する技術は鍛錬している。下手に力を見せれば面倒なことになるのは自明の理であったし、何より勇者がたくさんいるような環境なら、力を誇示することで面倒なことになりかねない。だからこそ、俺は他者に魔力量を気づかれないような訓練を行った。


 その成果は……この戦いで現れた。ギルジアの剣と俺の剣がかみ合う。ギィン! とシンプルな金属音が生じると、一時せめぎ合いとなる。

 ギリギリと刃が触れ合う中で、ギルジアはさらに魔力を込める。それに対抗するべく俺もまた同量の魔力を……刹那、その魔力がわずかに弾け、衝撃となって俺の体を打った。ダメージは皆無だが、今度は後方に退いた。


「ふむ……」


 そしてギルジアは俺を見て何か確信した様子だった。


「そういうことか……わかった、すまないな。わざわざ賭けなんて形で戦ってしまい」


 そしてあっさりと引き下がった。俺はそれで剣を鞘に収め、周囲は今の戦いは何だと話が始まる。

 周囲の目からすれば消化不良感の残る戦いだろう。エメナやセレンのように、全力をぶつけ合う感じではない。賭けなんてことをやっておいて微妙だな、とか思われても仕方がない。


 俺とギルジアはしばし視線を合わせていたが……先にこちらが目をそらし、


「とりあえず、いいですか?」

「ああ、そうだな。なあ、良かったらもう少しばかり話をしないか? 今日のところはあてがわれた屋敷とかに帰るんだろうが……昼飯くらいは一緒に食えるだろ?」

「……どうする、セレン」

「私はいいよ」


 彼女はあっさりと答える。次いでギルジアは、


「騎士エルマ、そちらはどうだ? よければ一緒に」

「……覇王の誘いですし、受けない理由はありませんね」

「よーし、それなら部屋にでも戻って食おうじゃないか」


 なんだか上機嫌なギルジア。その顔は、全てを理解しどこか爽快とさえ感じられるくらいだった。






 俺達はギルジアの部屋へ戻り、彼が昼食の準備をするようにメイドへお願いする。そして来るのを待つ間に、話をすることになったのだが――


「詳細について、話をする気はないか?」

「……そんなに興味あるんですか?」

「まあな」


 ニヤニヤとするギルジア。なんだか楽しそうな雰囲気で、エルマやセレンなんかは困惑するくらいだ。


「あの場所で戦った内容を理解できているのは俺と君だけだ。俺だって全容をつかんだわけじゃないが……それでも、わかることはあった。そうであれば、興味を抱くのは当然だろ?」

「話が見えないのですが」


 エルマが首を傾げる。そこでギルジアは、


「単純な話だ……先ほど俺と彼は戦ったわけだが――」


 ん、あれこれ話を止めた方がいいのか? とか思ったのだが、一歩遅かった。


「それで確信した……俺よりも、彼は遙かに強い」


 セレンとエルマは、同時に俺のことを見た。対する俺は、黙ったままギルジアを見据える。


「むしろ君が陣頭に立った方が良くないか?」

「俺にそんな能力はありませんよ」

「あくまで一兵卒で、ということか」

「そもそも実績がない。例えばの話、覇王の異名を持つあなたなら、他の勇者だって話を聞くかもしれません。それに対し反発だってあるかもしれませんが、少なくとも聞く耳を持とうとする。しかし、俺の場合は無視されるだけです」

「ああなるほど、そういうことか」

「あの、話が見えてこないのですが」


 エルマが小さく手を上げながら告げる。


「その、何かの比喩ではなく?」

「わざわざそんなこと言う必要がないだろ。実力だ実力だ。普通に戦ったら、間違いなく俺がボロ負けだ」

「言い過ぎですよ」

「そう思うか?」


 聞き返してきた。俺はそれに肩をすくめる。

 まあ……普通に戦ったら圧勝なんだろうな、という予感はなんとなくしている。こんなことを言うとうぬぼれていると思われるかもしれないが……覇王が持つ何かしらの力についても真正面から打ち破れると強く思う。


「で、その力の源泉について興味を持ったから、話をしようと思ったわけだ」

「……にわかに、信じがたいのですが」


 さらにエルマが言う。一方で俺の実力について一端を知っているセレンはなんだか不満そうな顔。エルマは悪気があるわけじゃないんだろうけど、俺の能力を過小評価している風な言い回しだからな。


「本当に、この方が?」

「ふむ、なるほど。騎士エルマの現状における態度が、君の主張を正しいものとする根拠になるな」


 納得したようにギルジアは俺へ言う。


「とはいえ、その状態で話をするのも……という感じだな。しかし今更訓練場に戻る気はないし、どうしたものか」

「俺の能力を示す、ということですか?」

「そうだ……と、これならいいか。おーい、シェノン」


 名を呼ぶと従者の女性がギルジアへ近寄ってきた。


「この部屋に結界を。魔力を遮断するやつ」

「はい」


 線の細い声で応じると彼女はいくらか詠唱をした後、魔法を行使した。部屋に結界が張られ、それを感じ取ることができる。


「魔力を遮断する結界だ。これなら魔力を発露させるだけで力の証明になるだろ?」


 そう言った後、ギルジアはシェノンへ目配せをする。


「やってくれ」

「いいんですか?」

「先にこちらの手の内を明かした方が、話してもらえると思うからな」


 そこまで……と思いつつ黙って見守っていると、シェノンは視線をギルジアへ……刹那、魔力があふれ出す。

「これは……」

「俺自身、人並みに魔力は持っているんだが、それでは魔族に勝てなかった……さっき言ったはずだ。人間は魔族に力では勝てないと。だから俺は、色々と試した。試し続けて……シェノンと組むことで、補うことにした」


 と、その魔力がさらに高まる。部屋の中には魔力を遮断する結界があるとはいえ、ビリビリとくるようなその気配は漏れ出ないのか不安になる。


「別にシェノンに魔力を合わせているわけじゃない。大気中に存在する魔力をシェノンが集め、それを付与している。シェノンの魔力が移動すれば速攻でバレるからな。しかし、周囲に存在する魔力を取り込んで力を発揮すれば、大抵の人間……魔族を含め、ごまかすことができる。実際、気づかなかっただろ?」

「はい」


 エルマは即座に頷き、またセレンもコクコクと首肯する。


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