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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第二章

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協力関係

 そこからは、特段重要な話は……こう言うと少し語弊があるのだが、エルディアト王国内に滞在するに当たっての注意事項などをエルマは語った。

 そこから発展して俺達をどのように見定めるか……それについて準備をしているとのことで、いずれ話をすることになると。


 肝心の『覇王』の異名を持つ人物については……この話し合いに結局来ることはなく、エルマが終了の呼びかけをして解散となった。

 勇者達がそれぞれ広間から出て行く時、俺はエルマへ視線を移す。大役をなし終えたからなのか、その表情には少しばかり安堵の雰囲気が見て取れた。


「話をしてみようか」


 と、セレンが俺に声を掛けてくる。こちらはそれに頷き、


「俺達は、国側と上手く付き合っていきたいわけだし……彼女へ近づくのは効果的だな」

「よし、それなら――」


 セレンは立ち上がりエルマへと近づいていく。その後方で俺がついていこうとするが、


「カイムとヴィオンは――」

「俺は少し気になることがあるから別行動ってことで」


 まずヴィオンが表明。次いで、


「俺も同じく」


 カイムが同調し、二人は広間を出て行く。その後ろ姿を見たから、俺はセレン達へ近づいた。


「あなた方は……ウィンベル王国から招待された方ですね」

「わかるの?」

「事前に聞いていた特徴と一致していますので」


 エルマはあっさりと俺達に答えた……ふむ、この様子だとあの場にいた勇者達については全員見分けがついていたということなのか。


「そしてこのように話しかけてきたということは……少なからずエルディアト王国に対し友好的と考えてよろしいでしょうか?」

「そう解釈してもらってもいいよ……まあ、なんというか同じような立場だったから、親近感を持ったのが理由だけど」


 セレンが嘘偽りない理由を挙げると、エルマはクスリと笑った。先ほどまでの硬質かつ冷徹な雰囲気とは裏腹に、見る者を和ませるかわいいと形容できる表情だった。


「なるほど、魔王討伐……影とはいえ魔王グラーギウスと戦った準備をしていた方々ですからね」

「そういうこと。私達は少なくともエルディアト王国に対して友好的に接しようと考えているのだけれど……」

「それはあなただけですか? それともあなたを含め、ウィンベル王国から招かれた四人全員ですが?」

「四人全員だよ」


 と、俺がセレンの隣へ来て告げる。


「この場所へ来て最初に決めたことがそれだ」

「なるほど……私達としては大変ありがたい話です。勇者とは本来万夫不当でありながら個というものを重視する存在。冒険者同士で連携するのとは異なり、国が主導でという場合、意を介さない人も多いですからね……あなた方のように協力的なのは、私達としても喜ばしい」

「最初から敵意むき出しの人間もいたよな……」


 俺は広間で話し合いをしていたことを思い出しながら言及。すると、


「それはこちらも予想していたことですから」

「予想……でも、あんな調子だとトラブル続きにならないか?」

「それも想定していますが……人類の精鋭が集っているような状況です。何が起こるにしても、私達の想定を超える事態が発生する可能性も高いですが」


 懸念を告げるエルマ。なんというか、彼女の気苦労が垣間見れるな。


「……そうですね、勇者達の出方を窺い、誰かにお願いをしようとしていた案件でもあります。それをあなた方に頼んでも構いませんか?」

「何をするの?」


 セレンの問い掛けにエルマは一拍間を置いて、


「そう難しい話ではありません。もし騒動が起きれば、手を貸して欲しい……これだけです」

「うん、それは問題ないけれど……エルディアト王国だけでは対応できない?」

「無論、私達が率先して動くことは間違いありません。けれど、こちらの予想外の事態に陥ってしまった場合……力を貸して欲しい。あなた方の口ぶりから、ウィンベル王国から招かれた皆様はどうやら大丈夫そうだと判断し、こうしてお話をさせていただきました」


 ふむ……俺達にとって悪い話ではないな。

 元々何かあったらエルディアト王国側へ連絡しようと考えていたわけだし、友好的なことを意思表示していれば意見も通しやすい。それに何かトラブルがあって、もしそれに協力したならば貸しも作れる。


「わかった」


 そしてセレンはあっさりと承諾。そこでエルマは「ありがとうございます」と礼を述べ、


「戦士アシル……あなたはそれで良いのですか?」

「ああ、問題ないよ。他の二人も……俺達四人でリーダーとか決めたわけじゃないが、騎士で活動していたセレンの意見なら誰も反発はしないし大丈夫だよ」

「わかりました。ならばそういう形でお願いします」


 うん、ひとまず国に対し一定の協力関係を結べたな……内心で喜んでいると、エルマはここで思わぬ提案をしてきた。


「そうですね……勇者であるお二方は離れてしまって残念ですが……今からとある方へお会いします。もしよければ同行しますか?」

「会う?」

「はい。実は話し合いが終わった後に誘われていまして。まだお昼には時間はありますが、茶でも飲みながら話がしないと。私に対し純然たる興味を持ったようでして」

「それは……私達が行ってもいいの?」

「仲間や友人は連れてきて構わないと仰っていました。エルディアト王国に協力してくれる人材、というのであれば相手方も納得するでしょう」

「……その相手とは?」


 セレンの問い掛けに対しエルマは、


「話し合いの時にも異名が出ていた……覇王です」


 ここで会えるのか……内心で少し緊張しつつ、


「あなたに興味を持ったというのは?」


 質問をしてみる。そこでエルマは苦笑し、


「私は……それほど武功を立てているわけではありません。しかしそれでも今回のような大役を任されたのは、少なくとも実力を評価されているから……覇王様はどうやら、その辺りについて興味を持って話を聞かせてくれと」


 覇王自身、エルマについて話を聞いて実力を確かめたいとか、そういうことだろうか。ふむ、俺としても興味はあるし……。

 セレンは俺を一瞥。こちらは断る理由もないので頷くと彼女は、


「わかった。なら一緒に」

「はい、では参りましょう」


 立ち上がり、エルマは俺達の先導を始めた。


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