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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第二章

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平等の立場

「話を進めさせていただきます」


 エルマはさらに告げる。ここまで勇者達はひとまず穏当な雰囲気である。

 ただ、騒動が起きそうな兆候がある……というのも、大柄の男性とか、あるいは足を組み腕組みまでしている女性とか、なんというかこの場で気に入らないことを言ったら何かやってやろう、みたいな人がチラホラ見える。


「皆様は、エルディアト王国の騎士団と共に、魔王の拠点へ攻め込みます……最初の行動は基本、私達の指示に従っていただきますが、拠点へ入り込んだ以降は、各自で活動して構いません」


 意外な言葉だった。てっきり「命令は全て聞け」と言うかと思っていたのに。


「これは私達が熟慮した結果です。皆様の行動について、むやみに制限するよりは自由に動き回ってもらった方が双方良いと判断しました」

「……あー、つまりあれか?」


 テーブルの上で手を合わせる男性が告げる。その容姿はどこか斜に構えている様子であり、エルマに対し敵意に近い視線を向けている。


「魔王の拠点まで案内するから、後はお好きにどーぞってことか?」

「そういう行動をしてもこちらからは特に問題ないと主張したいのです。無論、この場にいる方々の中にはエルディアト王国と連携をとるべきと考える方もいるでしょう。そういう人に対してはこちらも相応に指示を出します。しかし、強制はしないということです」


 そう告げた後、エルマは一つ息をついた。


「……この場で、あらかじめ言っておきましょう。ここにいる方々は、全員が全員天下無双の力を持った方々です。高い実力と相応の名声を得ている方々……私達はあなた方に最大限敬意を払います。魔王グラーギウスを討つために、共に戦う仲間、同志……そのような考えを持って、あなた方に接します」


 エルマは語ったと、俺達を一瞥した。


「さすがにありとあらゆるご要望についてお応えするというのは難しいですが、滞在中については最大限の努力をさせていただきます。しかし、たった一つだけルールを申し上げます」


 室内の空気が、変わった。エルマは別に魔力を発したわけではない。けれどそう感じさせるほどに、この大広間の空気が冷たくなった。


「それは、エルディアト王国の人間および、この場にいる方々に危害を加えること……魔王グラーギウスの恐ろしさについては、ここへ来るまでの道中に案内人がお伝えしたはずです。それをわかった上で、単身行動するのであれば、私達は一向に構いません。魔王など恐るるに足らず、というのであればその武威を示し、成果を上げてください。元々、魔王を倒すために皆様を呼んだ以上、それについて止めるつもりはありません」


 一拍間を置く。何が言いたいのかは理解できた。


「他者を出し抜き、魔王へ到達するといったことも問題はありません。しかし、魔王を倒すべく、功を立てるべく……国の人間や、この場にいる方々に何かあったのならば、残念ながら客人としての扱いを改めなければなりません」

「同士討ちはするなって話だな」


 言ったのはヴィオンだった。エルマはそれにすぐさま頷いた。


「はい。味方同士で争うなど、本末転倒です……この場にいる方々同士で利害関係もあるでしょう。しかし、このエルディアト王国に招待され、なおかつ魔王を倒すべくここに集った以上、皆様の立場は平等です。近いうちに私達はあなた方を見定める場を用意致しますが、どのような役回りを任せるにしても、同等の扱いとなります」

「……もし」


 と、敵意の眼差しを向ける男性が再び口を開く。


「もし、他者に危害を加えたらどうなる?」

「その場合は――」


 さらに空気が変わる……今度こそ、魔力が露出した。その雰囲気は極めて冷厳であり、また恐ろしいほどに洗練されていた。


「エルディアト王国の威信を賭けて、排除致します」

「オーケー、わかったよ」


 ここで男性は矛を収めたかエルマから視線をそらした……エルディアト王国は勇者だからといって好き放題はさせないと。まあこれはごくごく当たり前のことなんだけど……滞在中、自由にできる特権が与えられているとはいえ、無茶はさせないと言いたいわけだ。

 そうした意見をこの場で表明してもらったのはありがたい……何かしら問題が発生したら、遠慮なく国へ言えばいいわけだしな。


 ただ、こんなことを言うってことは放っておけば騒動が起こるというのは想像がついていたってことになる……まあ勇者達のリサーチは済んでいるのだろうし、その結果この場できちんと言い含めておかなければいけなかったという話なのだろう。


「ここまでで、何かご質問はありますか?」


 問い掛けに誰も手を上げなかった。


「では、続きを――」

「その前に、一つ良いか?」


 と、老齢の魔術師が口を開いた。


「はい、何でしょうか?」

「覇王……彼がこの場にいないのは、何か理由があるのか?」


 その言葉で――室内が少しざわついた。覇王……この場にいる人達ならその言葉の意味はわかっているだろう。

 俺はこの中に噂の覇王がいるのだと思っていたんだが……老齢の魔術師が面識があるらしいな。


「――かの方については、ここへお招きするにあたり様々な条件を提示されました」

「ほう、条件?」

「好き勝手にやると。無論、ここでお話をする内容については、別室で話をしています。無論、例え覇王だとしても何もかも許されるわけではない。問題があれば……皆様と同じような結末を迎えるでしょう」


 その言葉にはずいぶんと迫力があった……俺はエルマという人物について良くは知らない。ただ、この場を取り仕切り、勇者達を相手にして話をするだけの胆力と能力を持っていることだけは、明確にわかる。

 実績があれば、多少なりとも耳に入ってくると思うのだが……そういう話が出てこなかったのは、実力に反して功績を挙げる機会がなかったとか? なんというか、高貴な人にも見えるし、エルディアト王国としても迂闊に前線に出せないみたいな感じなのかもしれない。


 彼女についてなんとなく興味を抱きつつ……俺はさらに話を聞き続けることにした。


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