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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第二章

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勇者達が集う場所

 屋敷へ滞在してからおよそ三日後、俺達は城へ赴くように召集がかかった。

 迎えの馬車は来たのだが、フティについてはいなかった。俺達は無言で乗り込み、窓から景色を見ながら到着するのを待つ。


 この三日で、少なくともベスト……とまではいかないが、十分なくらいに体の動きを戻すことはできた。とりあえず城側が何かしら言ってきても対応できるくらいには……他の三人も同じような感じだし、戦闘面で問題はないだろう。

 勇者達と接する際の方針も決めているし、こちらがもめ事を起こさなければ……ただ、勇者とはいえ立場も違う。厄介ごとだけは避けたいと思いつつも、不安もあり……そうした心情を抱えているし、やがて俺達は城へたどり着いた。


 そこは純白の城……太陽光に照らされ輝いているとさえ感じられるほどに、綺麗な城だった。まるで建てられたばかりにも見えるそこへ俺達は馬車から降りると徒歩で入っていく。

 長い廊下を抜け、案内された先には……ずいぶんと長いテーブルが置かれた場所。食堂……いや、会食にでも使うような、そんな広い空間だった。とはいえ、その規模は見上げるくらいに大きいこの城相応の規模であり、なおかつずいぶんな人数の勇者達が座っていた。


 男女の比率としては、男性が多い……けれど六対四くらいだろうか? そんなに差はない感じだ。魔法技術を駆使すれば男女の差はなくなるのだが、基礎的な身体能力は体の構造上どうしたって男性が有利になるため、戦士というカテゴリーでは男性の方がかなり多くなる。とはいえ、勇者という存在は男女関わらず突出した存在……だからなのか、男女の人数差は減ってくる、ということなのかもしれない。


「どうぞ、座ってください」


 そして俺達に呼びかけたのも女性だった。入り口から全員が横向き……机を挟んで左右に座っているような状況だが、唯一俺達と向かい合う形で座る人物が一人。それこそ今回の話し合いにおいて進行役を務める人物だろう。

 その女性は、白銀……そんな髪色を持っており、その美しさも際立っていた。遠目から見てもわかるくらい、異様な気配に包まれている……出で立ちは騎士のそれなので、エルディアト王国の騎士であることはわかるのだが……、


「アシル」


 横にいるセレンに小突かれる。気づけばちょっと呆然としてしまったようだ。俺は小さく頷くと空いている席に座る。俺達は全員並んで座る形となり、俺の真正面には全身を赤色の装備で固めた男性勇者らしき人物がいた。


「仲良くやろうぜ」


 ニコニコしながら語りかけてくる男性。身なりは整っているが、その目つきはどこか獰猛で……これはこちらを警戒しているのではなく、おそらく生来の顔つきの問題なのだろう。投げてくる視線は穏やか……なんというか、こちらを安心させようとしているのがわかる。

 俺は「どうも」と小さく応じて――その直後、進行役の女性騎士が口を開いた。


「お待たせ致しました。それでは、魔王グラーギウス……かの存在を倒すための話し合いを始めさせていただきます。司会および議事進行役はこの私、エルディアト王国騎士団副団長、エルマ=リューゲルが行います」


 名を告げた女性騎士――エルマは、まず俺達を一瞥した。


「話し合いを始めるより前に、一つお願いを。集った人数は非常に多く、各自自己紹介を行っても名を憶えることは難しいでしょう。皆様同士の交流については、自由に行っていただいて構いませんし、これから是非親睦を深めていただければと思いますが……この場においては、名乗りなどを行わず、説明を中心に話をさせていただきます」


 全員が沈黙し、彼女の話を聞き続ける……なんというか、有無も言わさないような迫力がそこにはある。

 体格だってそれほど恵まれているとはいえない……座っていてもわかるが、セレンの方がむしろ背格好も良いと言えるし、線が細いと言い切ってしまってもいい。しかし、そうであっても……彼女がこの場所を任されるほどの存在であるのだと、なんとなく納得できてしまうのは、その異様な気配のためだろうか?


「皆様はここへたどり着く前に話を聞いているはずですが、今一度この場で情報共有をさせていただきます。魔王グラーギウス……現在この存在は、世界の果てにある島を拠点に活動を行っています。他の魔族達……言わば魔王の配下についてはその島へ向かっており、また配下以外の存在も、服従した者から順次島へと向かっています」

「世界中の魔族達が、その島とやらに集中している……というわけじゃな?」


 老齢の男性の声だった。見れば、エルマが座る位置にほど近い場所、そこに黒いローブを着た魔術師がいた。白髪で、頼りなさそうにも見える人物だが……、


「ええ、そういう認識で間違いないかと」

「であれば、戦力を結集されるより前に仕掛けるのも手だと思うのじゃが、それはせんのか?」

「それについても無論考慮に入れました。しかし、現状でこちらも準備が整っていない……そう遠くないうちに、私達は決戦を仕掛けることになりますが、こちらの準備と相手側の戦力結集……その釣り合いにおいて、私達が利すると判断した時、動くことになります」

「なるほどのう、あいわかった」

「では、具体的な策ですが……皆様も聞いているはずですが、今回の戦いにおいては魔王グラーギウスに反旗を翻した者達が味方にいます。彼らの助力により、島に近い場所に拠点を築いている。そこへ転移魔法で移動し、攻撃を開始……そして魔王を打倒する。これが基本です」

「この国の人間はどのくらい動員するんだ?」


 次に口を開いたのは、鉄製の鎧を着た戦士風の男性。顔にはいくつもの傷が走り、歴戦の勇者という雰囲気をひしひしと感じさせられる。


「転移魔法の規模などを考えて、先遣隊として数千人を。その後、順次兵力を送ることになります。諸外国からの協力も得られるため、皆様が想定するより大規模な戦いになるでしょう」


 エルディアト王国を中心にして戦うというわけか……この国の有り様を考えれば、その軍の力も相当なもの。さらに諸外国からの援助もある……だがそれでも足りない……だからこそ、俺達が呼ばれた。そういうことなのだと俺は頭の中で納得した。


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