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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第二章

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手並み

「端的に言うと、だ……魔王グラーギウスは相当強大な相手であり、人間が倒そうという場合は間違いなく死闘になる……そこはまだいい。問題は身内だ」


 ヴィオンは語るわけだが……身内。つまり、味方ってことか。


「勇者なんて我の強い奴らばっかりだからな。多大な名声を得ている勇者なんかは、その影響で尊大になっているようなパターンも多い。で、そんな自分の意見ばっかり押し通しそうな人間ばっか集まったら、どうなるか……」

「最悪なパターンは、意見がまとまらなくて仲間同士で争いが生じることかな」


 セレンは困った顔をしながら言う……なるほど、そういうことか。


「この場にいる四人はそんなことも考えず、魔王を倒すために動くことはわかっているけれど……」

「本当なら派閥とか組んで味方を増やすように動けばいいんだろうが、さすがにそんなことをするとさらに混乱する可能性もあるからなあ」


 と、ヴィオンがさらに続ける。うん、確かにそうだろうな。


「少なくとも俺達四人は結束して……というくらいはこの場で話し合いはできるが、問題は他の連中だな」


 現時点でどういう人物がいるのかすらわかっていない状況だ。そこで話し合っても……とは思うのだが、ひとまず基本方針とかくらいは決めておくべき――ということで今回の席が設けられたみたいだな。


「アシルはどう思う?」

「俺は……そうだなあ、もし因縁とかつけられても、エルディアト王国側に報告して対処してもらえばいいんじゃないか?」

「国側に丸投げするってことか?」

「俺達はあくまで客人だ。食客とは言わないけれど、この国の要請に従って動く身だ。だからまあ、何かあれば国へ話をするってことにしておけば、いいんじゃないか。後は、この四人で情報を共有してもめ事とかを避けることか」

「それが無難かな」


 カイムがため息混じりに呟く。ふむ、この様子だと勇者として因縁とかつけられたことがあるのかもしれない。

 有名人だから、色々と面倒ごとがあってもおかしくはない……のだが、相手もまた有名人だとさらに輪を掛けて面倒なことになる、ってことか。どちらが上の存在か、あるいは功績でマウントをとってくるとか……可能性は色々とありそうだな。


「エルディアト王国は、魔王を倒すために戦力を集結させた」


 俺はさらに話を続ける。


「ということは……勇者がどういう存在なのかをリサーチくらいはしているはずだ。俺のことまで彼らが知っているとなったら、その身辺くらいは調べるはず。尊大な性格とかだったら、対策の一つくらいは立てていると思うんだけど」

「まあ、一癖も二癖もある人を迎え入れるわけだから、相応の準備はしていると考えるのが妥当か」


 ヴィオンはどこか納得したように呟くと、


「なら、もめ事が発生しそうだったら国側へ連絡して対処をお願いする……で、いいか」

「そうだな」


 結論が決まったために話し合いは終了した。俺は今日一日くらいはと再び考えた後、とりあえず屋敷の構造くらいはしっておくかと建物の中を歩き始めた。

 広い廊下に、壁には絵画……と、結構高そうな調度品もある。これらをまるごと売りに出したのだから、ずいぶんと豪快だな。あるいは、よほど金に困っていたのか。


 窓の外を見る。剣を振るには十分すぎる庭園。ここが当面の拠点になるとしたら、結構贅沢だなと心のどこかで思ったりする。

 屋敷内の構造については比較的短時間で理解することができた。次はどうしようか……と考えているところで、セレンが近寄ってきた。


「アシルも見回り?」

「どこに何があるのか、くらいは知っておこうかと」

「そうだね」

「明日の朝、訓練に付き合ってくれないか?」

「うん、いいよ」


 あっさりと了承をもらったので、頭の中にあるスケジュールにその旨を書き込んでおく。


「……しかし、この国も思い切ったことをするよね」


 と、セレンが口を開く。思い切ったというのは、


「勇者とかを集める……ということか?」

「うん、ヴィオンも言っていたとおり、勇者というのは扱いが大変なんだよ。カイムのような人ばかりなら良いけれど……」

「そうはならないよな」

「だよね……私は騎士の立場として考えるけど……なんというか、勇者をとりまとめる人は胃に穴が開くんじゃないかな……」

「それは……同じ事をして魔王を討伐しようとしたウィンベル王国にも同じ事が言えるのか?」

「そうだね。実際、彼らをとりまとめていた人の心労は……」


 と、言葉を濁すように尻すぼみとなった。たぶん机にでも突っ伏している担当者の姿でも浮かんでいるのだろう。


「ただ、ウィンベル王国については幸運もあって、上手いことまとめられた」

「幸運?」

「魔王グラーギウスを倒すときの作戦で、私達ウィンベル王国はアシル、ヴィオン、カイムの三人に白羽の矢を立てた。闘技大会の実績を買った形だね。で、三人ともこちらの話をしっかりと聞いてくれるし、なおかつ勇者ヴィオンなんかは顔も広く国とも協力的だったから、問題児がいても話ができたしまとめることができた」

「なるほど」

「カイムについても、真面目な気質があったから制御できたし、アシルなんかはどちらかというとこちら側に立っている節もあったし」


 まあ……俺はどういう形であれ人の役にっていう心情があったから、国側と衝突するなんてこともなかったな。


「ウィンベル王国の場合は、実力的に上の人が協力的だったから、上手くまとめることができた。でもエルディアト王国の場合はどうかというと……」

「覇王なんて出てきたら、実力的に国側の戦力よりも上になりそうだよな」

「なおかつ多数の実力者だからね……これを押さえ込み制御する手立ては、エルディアト王国側で相当な実力者……つまり、勇者達を押さえ込むだけの力を有する人なんかがいればあるいは……」

「俺はこの国の有名人とか知らないんだけど、覇王とかに対抗できる人はいるのか?」

「私も噂程度しか知らないけど……国をまたがって有名な人はいる。そうした人が制御できるかどうかは……」


 なんだか不安になるけれど……ここはエルディアト王国の手腕に期待するしかないな。まずは国側のお手並み拝見――そんな感想を抱きつつ、俺は屋敷の中でゆっくりと過ごすことにした。


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