滞在場所
様々な話を聞きながら旅を続け……俺達はエルディアト王国の首都へとたどり着いた。名はローズデン。ウィンベル王国の都もかなり大きかったが、この場所も……いや、こちらの方が大きい。
大陸の覇権を握り、とんでもない軍事力を持っているが故なのか……城壁なども存在しない、平原のど真ん中に広大な都が存在していた。
城壁がないのは、この大陸に外敵など存在しないということを暗に語っているのだろうか……目を引くような人混みの中を、馬車はゆっくりと進んでいく。
「城に入るのか?」
俺が尋ねると、フティは首を左右に振った。
「城で会合を行いますが、皆様はあらかじめ用意された屋敷へ入っていただくことになります」
「屋敷?」
「招待した方々は、空きの屋敷を用意しています」
「ずいぶんと用意周到だな……」
「単に空き家を国が買い上げているだけですよ。屋敷内には侍女なども用意しております。ただ、それが面倒というのであれば……あるいは宿で良いと仰るのであれば、別途用意致します」
「そんな人、いるのか?」
ヴィオンが問う。確かに屋敷に住めるのであれば、宿なんて必要ないと思うところだけど……。
「実際、招待した方々の中には侍女など邪魔だし、家も広すぎると主張した人がいましたので」
なるほど……なんというか、勇者といってもタイプは様々だな。
「皆様はいかがしますか? 侍女がいることがご不快であれば、退去致しますが」
「……どうするんだ?」
ヴィオンが俺達へ問い掛ける。そこで俺を含めた三人は互いに顔を見合わせて、
「……別にいいんじゃないか?」
「そうだね」
「こちらも同じく」
俺に続きセレンとカイムも承諾。よってフティは御者へ屋敷へ行くよう指示を出した。
やがて大通りから馬車は逸れて、城にほど近い閑静な場所へ。やがて屋敷へ到着したのだが、
「……綺麗だな」
俺は感想を漏らした。空き家を買い上げたとのことだが、メンテナンスはしているのか外観を見て汚れなどは見当たらなかった。
「中は既に準備が済んでおります。おそらく今から数日後には城へ召集がかかるかと思われますので、それまでの間はご自由にお過ごしください」
馬車から降りるとフティはそう告げた。
「招待した勇者とかは俺達で最後なのか?」
ヴィオンが問うとフティは首を左右に振りながら、
「いえ、まだ最後の一人……その方を待っているところですね」
「有名人なのか?」
「ええ、皆様も名前は聞いたことがありますよ……あの『覇王』ですからね」
覇王――その単語自体が意味をするもの。俺達も聞いて言葉が止まった。
他の人が硬直しているのは、意味を間違いなく知っているから……俺も知っている。単語そのものはありふれた言葉ではあるのだが、現在の世の中で、その言葉が意味しているのはたった一人の人物だ。
「それだけの大物が来るってことか……よっぽど危機感を抱いているみたいだな」
ヴィオンの呟きにフティは頷いた後、話を続ける
「屋敷の敷地は広いので、鍛錬などを行うのも十分でしょう……すぐさま魔王との決戦になるわけではありませんが、油断はなさらぬようお願いします」
最後に一言添えて、フティは馬車の扉を閉めた。そして御者が馬を走らせ、馬車は去って行く。俺達はそれを見送った後、屋敷へ目を向けた。
「それじゃあ、入るか」
「フティさんが言っていたように、訓練するには十分な広さだね」
俺は屋敷内の庭園を見る。草木の手入れは最低限といった様子で、花々が咲き誇っているわけではないのだが、雑草は定期的に掃除でもしているのか伸び放題というわけではない。
剣を振るだけでなく、剣の打ち合いも余裕で可能な広さだった……ただし魔法は無理だな。あと剣の訓練でも周囲の屋敷から音でクレームが入ったりする可能性はありそうだし、防音の魔法くらいは使う必要性がありそうだ。
俺達は門を抜けて屋敷の玄関扉へ。中へ入ると綺麗なエントランスが出迎えてくれた。
「ようこそ」
そして侍女とおぼしき女性が頭を下げながら俺達へ挨拶する光景が。
「ロナ=フィーズと申します。皆様のお世話を仰せつかりました。この国へ滞在する間、よろしくお願い致します」
年齢は二十歳を超えたくらい……かな? 姿勢一つとっても非常に綺麗であり、完璧な侍女といった様子である。
「この屋敷には私を含め五名控えています。ご要望については、気兼ねなくご相談ください」
俺達は頷き、まずは部屋へと案内してもらう。あてがわれた部屋はウィンベル王国の王城と比べれば広くはないが……あっちは終始落ち着かなかったし、俺としてはちょうど良い広さといった感じだった。
そこから屋敷内に関する注意事項などを説明してもらい……ひとまず解散となった。
「剣の訓練とかは明日だな」
長旅で疲れたし、今日くらいはゆっくり休んで明日から剣を振ろう。船の移動に加えて馬車移動だったからな……道中で剣を振るようなことも一応はしていたけど、さすがにセレンと向かい合ってとかはできなかったから、体も相当鈍っているはずだ。
フティは勇者達が共に行動する以上、色々と試すようなことを言っていた。なら、今のうちにベストな状態に戻しておく……うん、それが良いな。
セレンとかに言っておいて、明日剣を一緒に振るとしようか……などと思っていると、部屋の扉からノックの音。
「はい?」
扉が開くとセレンがいた。
「どうした?」
「作戦会議をしたくて。他の二人も呼んでるよ」
「作戦?」
「ほら、勇者達が多数……しかも、世界中から集まっているわけでしょ? そうなると色々と厄介ごとだってあるかもしれないから」
「厄介ごと……?」
どういうことだ? と思っているとセレンは「いいからいいから」と、部屋を出るよう促してくる。それに俺は首を傾げながらも従い……やがて会議室のような場所にたどり着いた。
「お、来たな……それじゃあ、今のうちにどうするか決めておくか」
何を決めるのか……俺が着席すると、ヴィオンは話し始めた。
「カイムはわかっていると思うし、騎士セレンだって同じだろうが、異名を手に入れてまだ日の浅いアシルの方は、たぶんピンと来てないだろ」
「まあ、そうだな……」
「だったら今のうちに話しておいた方がいい……おそらく今回の戦い、相当難儀なものになる」
断定口調だった。俺はその言葉により、口を固く結び話を聞く構えをとった。




