表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/152

強くなるために

 陶酔のように強くなろうと動き始めて、十年……合計二十年経過した時、俺は修行のやり方にもう一つ幅をつけることにした。この空間内の壁や床は傷を付けることができない。しかし、魔力を使って何かを描くことはできる。

 よって俺は、魔法陣を描き始めた……それは召喚術。召喚、といっても世界のどこかから招くものではなく、自分の魔力を使い、魔法陣に仕込んだ術式通りに魔物などを生み出すものである。魔物を作る姿が召喚に見えることから、召喚術と名付けられただけである。


 俺はこの召喚術についても、ある程度扱える……というのも、一時期自分は強くなれないけど、召喚する魔物が強ければ……などと考えたことがあったのだ。結局はこの召喚術も純粋に魔力が高くなければ効果を発揮しないものだったため、俺の知識が利用されることはなかった。

 で、今回それが活用される……魔法陣から生まれる魔物は、純粋に魔力量に比例して強くなる。なおかつ魔法陣の魔力は描いた内容によって溜めることができる。よって、魔力を数日間溜めに溜めて発動すれば、強い魔物ができるというわけだ。


 俺は五日ほど掛けて魔物を生み出す。敵の見た目は漆黒の騎士。剣と盾を持ち、以前の俺ならば萎縮してしまうほどの魔力……さて、感触はどうか。

 騎士は一瞬で間合いを詰め、俺の脳天へ剣を振り下ろす。


「――ふっ!」


 だが俺はあらん限りの魔力を込め、まず剣を弾いた。騎士は体勢を崩し、明確な隙が生じる。二十年――それだけ剣を振れば魔力をどう動かしどう斬ればいいのかはっきりとわかった。だから俺は本能に従うが如く、横薙ぎを叩き込む!

 それによって、騎士はあまりにあっけなく……体が上下に分離した。勝負は驚くほどあっさりと決まり、俺が生成した魔物は消滅した。


「これでは足りないか……」


 呟きつつ、天井を見上げる。二十年という歳月を経て強くなれた……のだが、今の段階で一流の戦士……とまではいかないであろうレベルだ。

 むしろ二十年でこれだけしか強くなれないというのは、俺に助言をくれた人達の意見は正しかったわけだ……ま、今はそれを埋めるために時間がある。


 俺は再度魔物の作成に入る。実戦と修行を繰り返し、魔力の器を高め強くなる……とはいえこれだけでこの空間を脱することができるとは思えない。逃げるにしてもさらに強くならなければ……そういう思いを胸に、魔法陣作成に没頭し続けた。






 ――そこから先は、とにかく実戦と鍛錬を繰り返すだけの日々。精神が摩耗することなく淡々と年単位の歳月が流れ、時間の感覚がこれまで以上に消え失せる。奇妙な話ではあるし、俺の精神はこの異空間に捕らわれてから何一つ変わっていないが……幸運だと考え、修行を続ける。俺を捕まえた悪魔からしたら、不幸以外の何者でもないだろう。



 まず、合計五十年ほど経過した時、俺は知識で得た技法や魔法をこの身に体得した。とはいえ勇者や一流の戦士、魔法使いが使う強力な技や魔法は習得できていないし知識もない。今後は所持している理論などに基づいて、自ら魔法や技を開発していくしかない。

 ならば、と俺は今後の方針を決める。特に強化するのは剣術。理由は俺にとって一番なじみがあり、もっとも得意なものだからだ。技などを多数習得は厳しくても、強力無比な一撃を相手にたたき込むといった技法は体得できるはず。だから今後は、より自らの魔力を高め、剣の威力を上げていくことを優先にする。


 魔法については、ひとまず使える魔法の範囲に留めておくことにする。自分の理論で下手に魔法を構築すると、暴発するとかいうオチになりかねない。上級魔法を使えないため、魔法についての能力は頭打ちになるけど……剣術を優先し、それを極めるという方針に決めた。

 よって魔法については今以上に魔力を練り上げ、自在に操作できるようにして、元の世界へ戻った際に色々と体得できるように準備をしておくくらいにする……魔力を操作する鍛錬は、剣術の方にも必ず恩恵がいくのでこれでいい。


 結論を出してからは、修練のペースも速まった……剣を振り、自分が生み出した魔物と戦う日々。手を止めることもなければ、あきらめることもしなかった。俺だって時間があれば強くなれるという自負が、この上なく存在していた。



 そうして百年が経過した。人の寿命を超えた時間を費やし、俺は剣術も魔法も一流の戦士を超える力を身につけた。

 だが、まだだ……そもそも魔力の器もいまだに大きくなり続けている。だから限界を求めなおも剣を振る。この段階に至り、成長の速度は緩やかなものではあったが、一年二年と立てば成果が現れる。牛歩ではあったが、着実に強くなっている。


 そして俺はこの時に至り、さらに強くなる術を見出す。それは武器防具の開発。自分の魔力を練り上げて武具を作ってみようというわけだ。

 ただ、これはかなり無謀な挑戦である。魔力を用いて武具を生み出す魔法剣などは存在するが、それは剣に注いだ魔力がなくなれば自然と消え去るものだ。魔法で鉄の剣を模倣しても、魔力がなくなれば消滅する……だが、この世界には魔力のみで形作られた強力な武器や兵器がある。それは先人が残した遺産や、あるいは魔王とか天使なんかが研究の果てに生み出した物。つまり前例があるのだ。


 とはいえ、天使なんかが研究した結果と同等の物を作るなんて、無謀にも程があるのだが……やる価値はあるとして、研究に意識を傾けた。もちろん修行は続けるが、剣を振りながら考えることはできる。

 例えば武器という器の中で魔力を循環させれば、魔力を維持できるか……? そんな風に思案しながら、魔力を高め続けた。



 具体的な成果が出たのは、研究開始から百年経過した時……つまり合計二百年この空間に閉じ込められてからだった。魔力を自在に操作できるようになったため、おおよそどういうことをすれば魔力が変わるか理解していた。それを応用し、武器を作成する……まあ俺にデザインセンスはないから、今まで冒険者として見た勇者の姿を参考にさせてもらい、剣と武具を作成することにする。


 ここまで来たのだから、時間を掛けるだけ掛けてやろうじゃないか……などと思いながら本命の武器作りを開始。とはいえ単純に魔力を込めればいいというわけではない。生み出した素材には必ず注ぎ込める限界が存在する。それを調整し、自分と同じように器を大きくして……と、たった一人の空間で作業をこなす。この作成の果てに強くなれる未来が待っていると思うと、ワクワクしてくる。二百年も閉じ込められて無茶苦茶ではあったが、どうやらこれが俺の性というものらしかった。


 それと同時に、引き続き剣と魔法も極めるべく修練を続ける……抱えている魔力量から、眠らずとも活動できるようなっていた。

 たぶんだが、次元の悪魔と相対しても逃げられるレベルにはなっているだろう。けれど俺は修行と開発を止めなかった。まだ成長の余地がある……それを認識することで、この異空間に何百年も留まり続けることとなった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ