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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第一章

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始まり

 ジウルードに案内された部屋は、大きめの客室だった。そこに、女性が一人いた。


「どうも」


 魔法使いみたいなローブ姿の、黒髪女性だった。なんというか、捉えどころのない雰囲気を持っており、俺達は神妙な顔つきとなる。


「えっと……?」

「用件は手短に終わりますよ」


 そう言って彼女は立ち上がる。


「私の名はフティ=ガーネット。エルディアト王国からの使者であり、また魔王について観察を行っていた監視員です」

「……監視員?」

「ええ」


 俺はジウルードを見た。外国の人間が監視をするなんて、国が許可していないと思うのだが、


「……初耳なのだが」

「話していませんからね。あ、王族の方々には許可を取っているそうですよ。ただ、混乱するだろうから内密にとは伝えてあるそうです」


 そりゃそうだろう……というか、騎士団長であるジウルードの通り越してそういうことをしているというのは、心象に悪いのではなかろうか。


「……何が目的だ?」


 さすがにジウルードが尋ねた。そこで女性は笑みを浮かべ、


「魔王グラーギウス……あの存在は、ウィンベル王国以外にも脅威をもたらしています。そして魔王の活動を監視するために、私が派遣されました。我がエルディアト王国に対する影響などを見定めるために」

「……そうして活動しているということは、やむを得ない事情があったのだろう。とはいえ、無断で活動しているとなったら、騎士団としては良い顔をしないぞ」

「ええ、そうですね。それについて謝罪致します」


 頭を下げるフティ。なんだかやりにくい……ここで彼女は顔を上げると笑みを消し、


「本題に入りましょう……そうですね、ここにいる皆様は、魔王グラーギウスを追おうとしていますか?」

「当然だ」


 勇者ヴィオンが先んじて話す。次いでカイムもまた賛同する。

 フティは俺のことを見た。こちらが頷くと彼女はにっこりと笑みを浮かべ、


「あなたのことは伺っていますよ。確か『魔王を破りし者』でしたか」


 ――そういえば、新たな異名が増えたんだった。結局魔王を打ち破ったあの力は何なのかとセレンとか、ジウルードとかに尋ねられたりはしていないのだが……俺が魔王を打倒したという事実は広まっているらしく、そういう異名が加わった。


「あなたの方はどうですか?」

「……そうだな、追っているのは確かだ」


 フティはゆっくりと頷く。次いでジウルードへ首を向け、


「騎士団は……国外で活動する場合、さすがに騎士団長であるあなたは行けませんね?」

「ああ、部隊のこともある。魔王が戦争を仕掛けたことで大なり小なりダメージも被っているため、当面は内政に注力すべきだろう」

「では騎士団で誰か……人を派遣してくれと要請した場合、誰が来ますか?」

「その前提ならばセレンだ。というより、セレンには外へ出て活動してもらうつもりでいた」


 ジウルードの言葉に、当のセレンは困惑するような顔を示す。


「ジウルードさん……!?」

「適任だろう。大臣などにも既に伝えているため、正式に通達が来る。君もそうしたいだろうからな。それに、情報を聞けばそちらへ無断で行ってしまいかねないからな。だったら、公的に動いてもらった方がいい」


 セレンは言葉をなくす。図星だったらしい。


「騎士団についてはそのような形になるだろう。セレンは優秀な騎士だ。他の騎士の百倍は仕事をするぞ」

「彼女のことも把握しています。ならば心強いですね……では、そうですね。まずは魔王グラーギウスの行動について説明しましょう」


 と、彼女は前置きをした。その口ぶりは――


「ただ私達にとっても、推測した部分が多いのはご了承ください……まず、王都へ攻撃を仕掛けたこと。これはあなた方が魔王討伐へ赴くカウンターとしては、非常に有効な攻撃方法でしたが……偽の魔王しかいないと判明した今では、何であのようなことをしたのか不可解でしょう」

「そうだな」


 ジウルードは同意する。うん、確かに今では疑問点にしかならない。


「そこについての理由ですが……これは選別を行っていたのです」

「選別?」

「魔王グラーギウスは、他大陸にも拠点を構えています……ただ、その場合はグラーギウスの関連ではないという風にカモフラージュしている……しかし各拠点がかの魔王のものであると私達は調査で調べ、また同時に選別を行っていることを知りました」

「何の目的で?」

「弱肉強食……配下もまた精鋭のみを引き連れ、魔王グラーギウスはこの大陸を離れた。残った者達は、選ばれるために攻撃を仕掛けたのです。王都を落とすことができれば、認められると」


 そんな理由で……などと考えるところだが、見捨てられたという状況であれば、ああして戦いを仕掛けるのも当然、なのだろうか?


「ともあれ、そういう経緯で彼らは襲撃しました……無論、魔王的にタイミングなどを見計らった上で、でしょう」

「当の魔王は?」

「現在、魔王グラーギウスはとある場所に居を構え、さらに他の拠点からも精鋭を招集し準備をしています」

「準備……?」


 俺が聞き返すとフティは深々と頷いた。


「それこそ、魔王グラーギウスの本当の目的です……この世界にいる魔族達を束ね、支配下に置く……そしてその目的を、今まさに果たそうとしています」

「……そのために、ウィンベル王国に拠点を、というわけか?」


 ジウルードが問うとフティは首肯し、


「この国にいた魔族などを取り込むために、拠点を置いていたのでしょう……ただし分身を置いていた以上、他に目的があるでしょうが……そして、私達エルディアト王国はその動きをいち早く察知し、世界中から勇者や騎士を招き寄せ、対抗するための軍勢を準備しています」


 それはまさに――人間と魔族の総力戦、ということか。


「皆様の能力は、私も聞き及んでいます……ここにいる方々は一騎当千の強者ばかり。騎士ジウルードが帯同できないことは悔やまれますが……それ以外の方々、是非とも力をお貸しください」


 その言葉と共にフティは頭を下げる。

 返答は――必要なかった。全員が沈黙し、次の戦いに思いをはせる。


 魔王との戦い……一つの終わりを迎えたが、これは始まりに過ぎなかった。いよいよ、本当の戦いが……待っているようだった。


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