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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第一章

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一つの戦いが終結し――

 こちらが終わりにすべく剣に魔力を高めた矢先、魔王は大きく退こうとした。体内に秘められた魔力はほとんどない。俺の一撃を受ければそれで終わりを迎えるだろう。

 動きも鈍く、捉えることは容易い……大きく前に出る。先ほどの攻撃で偽魔王の全力さえも防げるとわかった。であれば、もう恐れるものは何もない。


 たとえ偽物であっても、ここで決着を……そう考えながら迫る。それに対し相手はなおも逃げの一手で振り切ろうとした。

 だが、その動きは俺の予想すらも下回るほどだった。


『オオ――』


 それはこちらに対する恐怖か、あるいは驚愕なのか――しかし変化はあった。声がした瞬間、退避する速度が増した。残存している魔力を引き出し、どうにか虎口を逃れようとする。そこへ、


「させるか!」


 背後に回ったヴィオンだった。俺を注視していた偽魔王の背後へ回ることに成功し、背中に雷撃を叩きつけた。それにより偽魔王は動きを一時止めた。

 そして俺は魔王を間合いへ入れる。それと共に、魔力を高め渾身の一撃を繰り出した。


 決めたのは横薙ぎ。それがしっかり魔王へ入った矢先、


『……憶えておけ、人間ども』


 捨て台詞のような声が、俺の耳に入る。


『貴様らは恐怖しろ……我が存在は消えていない。いずれ、貴様らの下に刃を突き立てる』


 偽物が、消滅する。それにより、存在していた魔王の気配が、消えた。

 俺はふう、と息をつき……戦いが終わったことを認識する。とはいえ、決して納得のいく終わりではない。なぜなら魔王はまだ生きているのだから。


「……偽物、か」


 ジウルードが近づいてきて、魔王のいた場所を見据えながら呟く。


「目的は……果たしたとは、言えないだろうな」

「さすがに所在は、わかりませんよね?」

「そうだな……とはいえ、この周囲にはいないだろう。魔王……奴がどこへ行ったのか、調査しなければならないな」


 悲願を遂げたとは言えない状況……それどころかまだ戦いは終わっていない。

 これから新たな苦難の道が待っている……そんな予感さえ感じられるが、ジウルードは決して暗い表情ではない。やり遂げてみせるという気概が備わっていた。


 勇者二人についても、ならばとことん付き合ってやろう、などと考えている様子。そしてセレンもまた――


「……そして戦士アシル、君は礼を言わなければならない」


 ジウルードが、俺へ告げる。


「あの圧倒的な力を、真正面から砕いた」

「……手持ちに防ぐ方法があっただけですよ」


 この返答は苦しいかな、などと思ったのだがジウルードは追求しなかった。代わりに、


「そういうことにしておこうか……では、戻るとしよう。少なくとも、この場所に魔王の脅威はなくなった。今はひとまず、それでよしとしよう――」






 凱旋は、ひどく静かなものだった。結局ジウルードは「魔王は逃げた」という形にして、兵士達にもそれを伝えた。ウィンベル王国に平和が訪れた……それについては事実だと思うのだが、本当の戦いがこれから待っていると思ったか、誰もが歓声を上げることなく次の戦いを見据えていた。

 そして王城へ戻った際も、祝福はされど騎士達の表情は一様に厳しかった。その後俺は元いた城内の部屋へ入り、これからどうするのか沙汰を待つことにした。


 魔王と戦い続けるのであれば、俺もそれに付き合おうかと考えたが……居所がわからないのであれば、単独で動きようがない。だからまあ、あんまりやりたくないけど国から情報をもらって仕事をするのも一つかな、と考えたりしている。

 俺が滞在する間に、ウィンベル王国がどのように動くのか結論を出すつもりらしいのだが……そうして城へ戻っておよそ三日ほどしてから、セレンが部屋を訪ねてきた。


「ジウルードさんは追うつもりらしいけど、まずは調査ということになった。北の本拠地を調べ、手がかりを探すって」

「そっか……なら、それが終わるまで俺の仕事はなさそうだな」

「これからどうするの?」

「特に予定はないよ。人の役に立ちたい……魔王を倒すことは間違いなくその目標に沿っているし、今後もそうするつもりではあるけど、敵の居所がないんじゃどうしようもないな」

「……私達と一緒に仕事をしない?」

「それは騎士になるってことか? それとも、今まで通り冒険者という立場で活動するのか?」

「本音を言えば騎士に……と、言いたいところだけど無理強いはできないし」

「悪いな……ちなみに、勇者ヴィオンやカイムはどうするつもりなんだ?」

「まだ何も……二人も、どうするか悩んでいるみたい」


 さすがに、今回の状況は想定外だし、どうすべきなのか誰もが結論を出せずにいるか。

 その中で、俺は……思案している時、コンコンとノックの音が。


「急にすまない」


 ジウルードの声だった。俺はすぐに部屋へ招き入れる。そこで彼はセレンを見て、


「ああ、セレンもいるのか。ならちょうど良かった」

「はい……どうしたんですか?」

「実は、君達と話をしたいという人間が現れてね」


 話? セレンはともかく俺も?


「勇者ヴィオン、勇者カイムにも話を通してくれと言われ、呼んでいるところなのだが……どうする?」

「相手は誰なんですか?」

「……エルディアト王国からの使者だ」


 俺は眉をひそめた。それは……隣国どころか、海を渡った先にある大陸の国だ。


「えっと、なぜそんな国の人が?」

「それについては人が集まったら説明すると言われた」


 話しているジウルードからも困惑の様子が伝わってくる。ふむ、どうやら彼にとっても首を傾げる事態らしい。


「その人物は、闘技大会も観戦していて、戦士アシルが城にいることも知っている……元々エルディアト王国はこの国と親交もあるため、人の行き来はあるのだが……どういう意図でここを訪ねてきたのかを含め、まだ何も説明はしてもらっていない」

「えっと、それ本当にエルディアト王国の人間なんですか?」

「そこは保証する」


 断言だったので、王城とも関わりのある人間ということなのだろう。よって、


「わかりました……疑問ばかりですが、会いましょう」

「わかった。セレンもついてきてくれ」

「はい」


 頷き、俺とセレンはジウルードの先導に従い部屋を出ることとなった。


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