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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第一章

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異様な決戦

 最初に仕掛けたのはジウルード。一番槍は誰にも譲らない……そういう気概が俺にも伝わってきた。魔王がどのような手を仕掛けてくるかわからない以上、非常に危険な役目だったのだが……魔王は真正面から受け、鍔迫り合いとなる。


「ぐっ……!」


 ジウルードはすぐに引き下がった。その力は体格の大きさもあって脅威であることは間違いなく、彼も力勝負は危険だと判断したようだった。

 一方で今度はヴィオンが背後に回る。魔王は大して動いていないため、隙だらけの魔王の背中へ、斬撃を振り下ろす!


「おらっ!」


 雷撃が迸り、魔王の体が一時白い雷光に包まれた。しかし、


『無駄だ、人間よ』

「はっ、わかりきっていたが……硬いな!」


 ヴィオンは一歩引き下がる。続けざまに騎士の攻撃や魔術師の魔法が魔王へ直撃するが、全て効果がないようだった。

 けれど、準備は開始する。魔王の陣地である以上、ウィンベル王国の策が通用するのか不明ではあるが、魔術師達が急ぎ準備を始めた。


『それが切り札か?』


 魔王は告げながらそちらへ向かおうとする。だがそれを――俺が阻んだ。


「させるか」

『ふん』


 嘲笑するような声と共に俺へ斬撃が迫る。そこで俺は魔力を高める。

 俺が自ら作り出した剣……それに魔力を収束させ、まずは受けた。途端、凄まじい魔力が伝わってくる。ジウルードが即座に身を退いたのが明瞭にわかるほどの力。魔王が振り払えば、それだけ人間など吹き飛ばされるであろうことは間違いない。


 だが、俺は……魔王の剣戟を押しとどめた。


『ほう?』


 興味が湧いたのか魔王は小さな呟きを発した……直後、横からセレンの刃が迫る!


「ふっ!」


 わずか呼吸と共に剣戟が魔王へ直撃する。その剣は悪魔さえも両断するわけだが……魔王には、通用しなかった。


『無意味だな』


 切り捨てる声と共に、俺の刃を切り返して弾くとセレンに狙いを定め剣を振ろうとした。

 そこで、


「させないさ――!」


 俺が反撃に転じる。彼女を狙い明確な隙が生まれた魔王へ向け……剣を一閃する!


『……っ!?』


 そこで魔王はわずかな声を漏らした。漆黒の鎧にたたき込んだ刃。見た目上の変化はないが、どうやら俺の魔力により多少なりともダメージを受けたらしい。

 そして、その反応から鎧も魔王の一部なのだと理解する。肉体を鎧が覆っているのではなく、体を鎧のように硬質なものへと変化させているのだ。それによって鎧を着られたことによるダメージが生じたらしい。


 そしてこの反応は、俺の攻撃が通用していることを意味している……内心で笑みを浮かべながら俺は、一度引き下がる。

 どこまで魔王へ攻撃が通用するのか、という疑問についてはおおよそ解消された……で、俺が次に移すべき行動だが、これはひとまず騎士達の策を見て判断するべきだろう。


 俺が本気を出せば倒せるかもしれない状況かもしれないが、いきなり力を発揮して……というのは、魔王も想定外な動きをする危険性がある。雰囲気的に魔王は人間達の策がどのようなものか判断し、それを見極めて俺達の相手をしている。なら人間と魔王……どちらが上回るか、見た上で行動に移しても遅くはないだろう。

 よって俺は剣を構え魔術師達が準備を進める場所を守る……魔王はそれで攻撃を中断した。俺が面倒な相手であることを悟り、別方針に切り替えるようだ。


『ならば――』


 呟き実行に移そうとした矢先、セレンが仕掛けた。横手から斬撃がたたき込まれ、金属音が周囲に響く。


『騎士よ、その攻撃は意味を成さない――』


 だが、魔王は最後まで言えなかった。彼女の剣が光り輝いたかと思うと、勢いよく振り抜かれた。直後、鎧の破片とおぼしき黒い物質が、周囲に舞う。


『ぐっ……!?』


 これも予想外だったか声を上げる。途端、今度は魔王の正面に回ったジウルードの剣が魔王の鎧に直撃した。ここでさらに飛び散る破片。騎士達の研鑽……魔王を討つために訓練した成果が、現れようとしていた。

 とはいえ、俺は油断なく相手を見据える……優位に進めているのは事実だが、魔王の一撃によりどんな風にも戦況は覆る。


 だから俺は相手の動きを見極めるべく、注視する……攻撃が通用することはわかった。しかし、魔王の攻撃について防ぎきれるのか。

 一挙手一投足を見逃さないよう観察するが……ここで、一つ疑問が生じる。魔王の動きは確かに鋭い。なおかつ、その剣筋には確かに殺気が存在している。だが、これは――


「……どういうつもりだ?」


 俺は魔王へあえて尋ねた。答えが返ってくるとは到底思えなかったが……魔王はここで動きを止める。

 無論、ジウルードを始めとして周囲の警戒は怠らないが……、


『ほう、どういうつもりだ、とは?』

「そっちはまだまだ力を隠している様子だが、本気を出そうとしている気概がないな」

『それは逆だな。貴様らごときに……力を出す必要性がない』


 ……違和感だらけだ。そもそも配下がいない中、わざわざ俺達と戦う必要性だってないはずだ。

 一体これは……ここでジウルードが動いた。先ほど以上に鋭い動き。なおかつそれに便乗してヴィオンやカイムも動き出す。


 その動きは、まるで示し合わせたかのように同時だった。魔王は即座に応戦する構えを見せるが、それよりも先にジウルードの刃が入った。

 再び漆黒が砕ける音。それと共にヴィオンとカイムの剣戟がたたき込まれる。それは鎧を砕くには至らない一撃ではあったのだが……ここで、セレンが前に出た。


 懐へ潜り込み、一閃――その鋭さはジウルードを凌駕し、闘技大会で見せた戦いぶりよりも遙かに洗練された、完璧な一撃だった。

 今まで以上の轟音が響き渡る。それと同時に彼女達は一度後方に退いた。そして魔王は、


『やるな』


 ただそれだけ。とはいえ状況は一目瞭然――なぜならば、鎧が大きく砕け中身が見えていた。

 問題は――その中身だった。


「……何も、ない?」


 カイムが呟く。そう、魔王の鎧の奥……そこにはがらんどうな空間だけが存在していた。


「影武者、というわけでもなさそうだ」


 俺は呟きながら剣を構え直す。


「俺達に恐れを成して逃げたのか?」


 問いかけに、最初魔王は反応しなかった。だが少しして……大広間に、魔王の声が響き渡った。


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