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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第一章

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魔を滅する

 ジウルードから話を聞いた数日後、俺達はとうとう出陣の日を迎えた。王様の演説を聞いた後、俺は騎乗し騎士や勇者と共に町の外へと進んでいく。

 その道中で、俺のことを呼び立てる人がいた――闘技大会の結果から認知され、また勇者二人に加え騎士セレンと共に戦った人物……あらゆる敵を一撃で倒すことから『魔を滅する者』と誰かが言った。


 新たに増えた異名を携え、俺は町を出る。その行軍は理路整然としており、また同時に奇襲を受けたからなのか、魔王を必ず討伐するという思いを発しているのがしかと伝わってきた。

 街道に出て、進路を北へ向ける。その目的地は魔王の本拠地……まっすぐ進めば山岳地底へと進む。そこを抜けた先にある地下迷宮……そこにレドやジャックもいるのだろう。


 果たして魔王軍はどのように動くのか……現状、そこについては何の情報もない。奇襲による魔王軍をこちらへよこしたわけだが、それ以降の動きはまったくない。

 魔王の本拠地を監視している騎士の報告では、大量の軍勢自体も巧妙に隠されていたらしく、捕捉ができなかったらしい。よって、俺達は場合によるとさらなる軍勢と戦う可能性もあるわけだが――


「それはそれでいい、というのがジウルードさんの見解」


 馬上、俺の横で馬を進めるセレンはそう告げた。


「戦力を減らすことで、こちらへの攻撃をできなくできると」

「なるほど……ひとまず王都などに攻撃を仕掛けてくる可能性は低くなると」

「そういうこと。でも、リスクがあるのは事実。だから可能な限り万全の準備をしているわけだけど……」


 とはいえ、備えはいくらあっても足りないだろう。そもそもどの程度準備をすればいいかもわからないような戦いである。


「魔王軍の戦力がどの程度なのかわからないってところが、最大の問題だよな」

「そうだね。でも、先に奇襲を仕掛けた大軍勢……あれほどの戦力があるのなら、一気に投下しているはず。こちらに動きを悟られないように準備をしていたくらいだし、余剰戦力があれば迷うことなく使っていたはず」


 まあそうだよな……俺達が奮闘していたとはいえ、それはあくまで戦局の一部分。それを戦場全体に波及させ、勝利をもぎ取ったというのが、先の戦いだ。

 しかし、あの場面でさらなる援軍が来ていたら? 例えば横手から攻め立てられていたら、王都の被害は甚大なものになっていただろう。俺やセレンの奮闘で、それを勝利にひっくり返すことができたとしても、俺達が魔王へ攻撃を仕掛ける、という形にもっていくことは不可能なくらい、ウィンベル王国はダメージを負ったはずだ。


 だがそれはしなかった……後詰めの部隊が間に合わなかったため、奇襲作戦そのものを中断したという考えもできなくはない。けれどそうであれば魔王軍は退却していたはずで、それもしなかった。そしてセレン達は巧妙に大部隊を隠していた策士から、魔王が後詰めの部隊を投入し損ねたなどということはしないだろうと判断しているわけだ。


「……俺達が攻撃を仕掛けることはわかっている」


 と、俺はセレンへ言及する。


「よって魔王は迎え撃つために戦力を温存……は、さすがに奇襲した軍勢を見捨てるという選択はとらないか。防備を固めるなら、そうした戦力も戻すべきだし」

「そうだね」

「ということは、魔王軍は今戦力を大いに減らしている」

「なおかつ部隊を指揮する魔族達も数を減らしている……」

「最大の好機だと」


 ジウルードの考えはそういうことだ……悲壮な覚悟の中で彼は、それでも最善を尽くすために戦っている。騎士として国のために……さすがに俺はその境地に至ってはいないな。

 人の役に立ちたいと考える俺ではあるが……いつか、あんな風に考えることができるようになるのだろうか?


「そういえばアシル、ジウルードさんから話を聞いたって小耳に挟んだんだけど」


 ふいにセレンが話題を変えた。


「ん、ああ。そうだな……教えてくれたよ。それだけ信頼してもらったというわけだよな」

「そうだね……どう思った?」

「あの人が国のために尽くす理由についてはわかったけど……それにどうこう言う権利はないさ。ただそういう選択をした……ならば俺は彼の願いを叶えるために、尽力する。少なくとも、それだけの価値がある願いだとは思う」

「そっか」


 セレンはそれで言葉を止めた。返答としては納得のいくものだったのかな?


「ただ……一つ」

「何?」

「俺は人の役に立ちたいと考えているわけだけど……英雄とか、勇者とか、そういう肩書きを得たのであれば、あんな風に戦った方がいいのかな」

「少なくとも神話に出てくる勇者達は、ジウルードさんのように考えているのかもしれないね」


 と、セレンは俺の言葉を肯定するような発言をした。けれど、


「でも、私達はあくまで現実に生きている存在……だから、そんな気持ちまで真似しなくてもいいんじゃないかな」

「そう、かな?」

「肩書きの重圧というのは、確かにあるよ。アシルだって、異名が増えているわけだけど、やましいことはできないな、とか思ったりするでしょ?」

「そりゃあ、まあ……」


 俺の顔を知る人が多くなるわけだし。


「ある意味有名人になるってことだけど……大事なのは、自分が何をやりたいかだと思う。異名を得るだけの力がある……人はそれに憧れ、夢を見る。でも、それに従ってはいけない」

「あくまで俺のしたいことを……」

「そう」

「その助言は異名を持っている先輩の実体験、ってことでいいのか?」

「うん、そう思ってくれて構わないよ」


 肯定するセレン。俺が想像するよりも異名というのは、色々と自分の身を縛ってくるものなのかもしれない。

 でも、俺はそういう生き方を選択した。強くなり、人の役に立ちたいと思った……ならば、覚悟は決めなければならないな。


「……自分を見失わないように、頑張るさ」


 俺の言葉にセレンは頷き、


「何かあったら、遠慮なく相談してね」

「ん、ありがとう」


 俺達は互いに笑い合う……奇妙な縁から始まったセレンとの関係だが、戦友としてそれは確固たるものになった。

 そしてこの戦い……胸中に宿った考えを秘めつつ、俺は進み続けるのだった。


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