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無限の時間

 異空間における修行を開始し半年ほど経過して、半日魔力を使っても平気な体になった。このペースだと一日中魔力を扱える……なんて体になるには一年掛かっても無理そうだったので、少しやり方を変えてみることにする。頭の中に叩き込んだ知識を利用し、剣術の型に乗せて剣を振り、少し等級の高い魔法を使う。


 魔法や武術はより位の高い……言い換えれば威力の高いものを使えば、それだけ疲労がたまる分、魔力も鍛えられるということになる。

 その結果から言うと、消費が激しくなった分だけ、魔力の器が大きくなるペースが速くなったような……気がする。感覚的なものではあるが、これで良いと判断した。


 よって、俺は強力な武術と技を用いて鍛錬を行う……といっても、さすがに限界はある。知識があるにしても、例えば剣術で言う奥義とかの知識があるわけではない。魔法だって最上級クラスの魔法についてはさすがに調べていない。だから俺ができることとしては、習得できる魔法や技法を上手くアレンジして、どれだけ威力を高められるか、ということに掛かっている。

 ただこれを完成したとしても、次元の悪魔を打倒できるかは望み薄……それ以前に魔力の器が大きくなって、ようやくスタートラインだ。とはいえ悲観的な感情はない。こんな異常事態ではあるが、俺は強くなれる可能性を見出したのだ。なら、


「やれるだけやってみようじゃないか」


 何一つ代わり映えのない空間の中で俺は呟く。ひとまず精神も安定しており、おかしくなる心配もない……悪魔にとっては無駄な抵抗と愉悦する話かもしれないが、今の俺にとってはありがたい。それを活用し、ひたすら剣を振り続けるのだった。






 異空間に入り込み、一年ほどが経過した時、俺の鍛錬が功を奏したか基礎的な技術や魔法であれば、一日使い続けても問題がないようになった。ただひたすら魔力の器を大きくするための作業……それだけに一年を費やすというのは、馬鹿げているし現実世界でそれが成功するとは思えない。ここが異常な空間であるからこそ成り立つ、訓練だった。

 そもそも起きてからただ剣を振り続けるとか無理だからな……現実世界では食事など、訓練以外に費やす時間が多すぎる。なおかつ生活費を稼ぐ必要だってある。それを踏まえると、この異空間では効率的に魔力の器を大きくできた……ということなのだろう。


 とはいえこれで一段落といったレベルで、魔力の器はこれからの訓練でもさらに高めていく……強くなるために最低限の器を確保したに過ぎない。

 一年経過してようやく最低限、というのもどうなのかと思うところではあるが、そこはそれ。ここからどれほど強くなれるのか……期待が胸中で生じる中、俺は改めて修行を開始することに。


 俺がまず着手したのは、身体強化の訓練。魔力によって全身を強化し、身体能力を向上させる。剣など武術をメインにして戦うのであれば必須の能力だ。次に今度はオリジナルの技や魔法を生み出す……と、言うだけなら簡単だが大変な作業なのは確実だ。しかし精神の均衡がいつまでも保つこの空間であれば、困難でも作業は続けられるだろう。

 一年という歳月を経ても、まったく意識が変わらないのはすごいことではあるのだが……次元の悪魔は扉の奥で何をやっているんだと憤慨していることだろう。しかし俺には関係ない。扉に背を向けひたすら強くなるため剣を振ることにする。


 基礎的な訓練であれば一日大丈夫になった……とはいえ、応用をやり始めると途端に魔力が底をつくようになった。まだまだ修行が足らない……これが例えば俺と一緒にいた勇者だったら、一年で結果を出しそうだな。

 けど俺は途方もない時間がいる……なら、俺が名だたる勇者と肩を並べるに至るまでにどれほどの歳月が掛かるのか……体感してやろうじゃないかと、俺は決意を新たにした。






 最初の一年で魔力の器を拡大したが、二年目はそれをさらに拡大させ、応用技術についても発展させていく。けれどどれもこれもまだまだ使いものにならない。さらに一年を掛けて器を大きくしていくが……この頃から既に、時間の感覚がずいぶんと早く感じるようになった。

 それは異空間に慣れたためか、それとも魔力を鍛えたことによる恩恵か……たぶんこの空間特有のものなので、現実世界に出れば時間感覚は元通りになるだろう。


 そこからさらに二年を掛けて技術を洗練させていく……魔力の器は少しずつ大きくなっていくが、それでもまだまだ足りない。俺には足らないものが多すぎる、と今更ながら実感する。

 技術の応用を形にするまでに、さらに五年……つまり合計十年の歳月を要した。十年、という日数は人間にとって恐ろしい時間のはずだ。けれど精神が摩耗することがない俺は、淡々と受け入れる。そんな風に処置をする悪魔に俺は感謝するくらいだった。


 これなら次の十年……さらに、百年経過してもさして変わりがないだろう。そんなことを考えながら鍛錬を繰り返す。着実に高まっていく魔力に、俺はどれだけ時間が経過しても落ち込むことはなかった。希望を見出して、剣を振ることができた。

 この段階に至り、俺は所持していた剣ではなく、魔法剣を使うことにした。魔法で武具を作成するのはかなり大変――というより、魔力を消費する。よってそんなことをしている人間は非常に少ない。とはいえ、次元の悪魔を所持しているただの鉄の剣で斬れるとは思えない。よって、より強力な武器が必要だった。


 だからこそ、俺は魔法剣を行使する……十年の歳月を経て生み出したその剣は、確かに強力であり、下級の魔物ならば瞬殺できるだろうと悟るには十分なものができた。ようやく俺もそのくらいには――けれどそれが十年という歳月の結果である。やはり俺に才能はないのだ。

 だが、今は無限の時間がある……そう悟り、魔法剣を振り始める。同時に魔法を行使すると、さらに魔力を大きく消費する。これまで徐々に増やしていた魔力量など、軽く消し飛ぶほどだった。


 だがそれも、時間が解決する……いつのまにか、何かに取り憑かれたように修行していた。悪魔の存在を忘れ、ただひたすらに強くなることに没頭している。

 自分の思考が全て、強くなるために費やされる。どうすれば器をもっと大きくできるのか。どうすればより強力な技や魔法を放てるのか……少しずつ強くなる度に悩み事は多くなり、それを考えるために時間の感覚はさらに失せた。日数の経過を告げる魔法は、俺にとってどれぐらいの期間、この異空間に留まっているのか……それをただカウントするだけのものに成り下がった。


 出口のことなど一切無視し、ひたすら剣を振る。この段階で千年経とうと構わないと思い始め、その衝動のまま、修行に明け暮れることとなった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 考察が長過ぎ。ストーリーが良くても飽きる。頭の良い作者が自己満足に陥るパターン。
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