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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第一章

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実を結ぶ訓練

 俺達が休息する間にも戦場は刻々と変化していく。とはいえそれは悪化するものではなかった。むしろ騎士達の奮闘ぶりにより、最初と比べ有利に傾いていく。

 戦場を遠くから見ていると、魔族を倒した効果によるものか、理路整然としていた最初の行軍と比べても、魔物の動きにばらつきがあるのがわかる。足並みが乱れたことにより、騎士達にも十分対抗できており、この時点で魔王軍の奇襲作戦は破綻した。


 そして、態勢が整えば人間達が優勢になる……拮抗している状態から俺達が再び活動を開始すれば、勝てる……そんな感想も抱いた。

 とはいえ、魔王側は策を持っている可能性を否定できない。周辺を警戒するため騎馬隊の隊長は斥候を周辺に放った。もし北からの侵攻以外に敵軍が来たのなら、すぐに察知できる……そういう敵が現れないとも限らないし、もしこの状況下で現れたのなら、間違いなく俺達の出番だ。


 だからこちらは体に緊張感を持たせたまま、休憩する……だがそんな予兆もなく、騎士団が魔物を倒していく。数が多いため、均衡状態から優勢に傾けるには時間がかかりそうだが、これなら――


「騎士セレン!」


 そこで、都から騎士が駆けつけてくる。何事かと彼女が視線を移した時、


「しゅ、襲撃です!」


 襲撃……!? 内心で驚愕する間にセレンは聞き返す。


「どこに?」

「町中です! 幸い犠牲者は出ていませんが、負傷者が……」

「魔族が中に入った?」

「いえ、気配は……人間のものです。しかし、所持する武具からは魔物特有の気配が」


 その言葉で、何が起こったのか理解できた。裏切り者……そういう人間が王都に存在していたのだ。

 ならばどうするのか……セレンは戦場を見据え、さらに後方にある城壁へ視線を移した。前か、後ろか……どちらの選択をとるべきなのか――


「俺は、後方を気にするべきだと思う」


 ここでセレンへ提言した。


「戦場は、少しずつ優位になっている。これで後方……足下が崩れたら状況が悪くなる。それに、目前の軍勢に対する援軍……それはまだ出現していないし、もし後方から現れても合流するまでに時間が必要なはずだ」

「さっさと後方を片付けて、ってわけだな」


 勇者ヴィオンが告げる。俺は首肯し、


「騎士団の大半は動けないけど、俺達は幸運にも休憩中だった。なら――」

「そうだね」


 セレンは頷き、俺達へ指示を飛ばす。


「一度後方へ戻り、敵を倒す……それでいい?」


 俺達が全員頷くと、彼女は俺達に改めて指示を下す。そして改めて指示を出し、俺達は町へと馬を走らせた。






 城門を抜け町中に入った瞬間、魔物を発見したため俺は馬上から両断する。魔物を中に入れたのではなく、おそらく召喚魔法の類い……それを察したセレンはすぐさま決断する。


「とにかく、首謀者を探す」


 セレンの言葉に俺達は同意し、魔物を倒しながら進んでいく。町の人は避難を始めており、混乱はあるようだがひとまず問題はなさそうだった。

 その中で、俺は幾度も魔物を発見し倒していく……とはいえ肝心の首謀者が見当たらない。魔物の存在はいるが、駆けつけた兵士によると人間がいるはずだが、


「道にいる人に聞いてみたが、冒険者風の男らしい」


 カイムが告げる。冒険者……もし町中で攻撃をしている姿でなければ、溶け込めるか。


「俺達が来て隠れたって可能性もあるな」


 その言葉にセレンは「そうだね」と賛同し、


「なら、気配を探るしかないね」

「気配?」

「報告した人が言っていたでしょ? 武具に魔族由来の気配がしたと。つまりそれだけ気配を発していたら、気づけそうじゃない?」

「騎士セレンの剣みたいに、鞘に収めたら気配が閉じるっていうなら面倒だな」


 ヴィオンが言う。確かにそれはそうだが、敵が隠れている可能性があるのなら、


「探ってみるか、気配」

「ん、いけそう?」


 セレンの疑問に俺は肩をすくめる。


「わからないけどな……俺はガルザという、魔族由来の武具を使っていた人間と交戦したことがある。もしかすると、感じ取れるかもしれない」


 ――接近しなければわからないほどの脆弱な気配だとしても、一度その力を体感している俺であれば、自身の能力を使って察知できるかもしれない……そんな風に考えて言ったのだが、


「なら、探しながら魔力による索敵お願いできる?」

「いいけど、あんまり期待しないでくれよ」


 その言葉と共に移動を開始。道中で幾度も騎士や兵士と出会い情報をもらうが、やはり姿が見えなくなっているとのこと。

 とはいえ魔物は手続けている……これは時間がかかるかもしれないと考えつつ、俺は気配を探ってみる。


 数多ある人の気配の中から、異質なものを探す……かなりの難事であることは確かなのだが、俺はそれでも精査を試みる。

 以前の俺ならば非常に厳しい状況だったに違いない。だが今は少し違う……というのも、この王都に入ってから色々と訓練したのだ。剣術については鈍らないようセレンと一緒にやっていたわけだが、自室では主に気配探知の強化にいそしんでいた。


 元々、これから厳しい戦いがある以上、少しでも戦いを有利に進めたい……俺の能力ならば魔族でさえも倒せるとしても油断は禁物。相手だって攻め込まれる際に無策というわけではないだろう。だから敵の動きを察知し、罠を読むことができるように……味方の被害を防ぐという意味合いでも、必要だと感じたためだ。

 その訓練が今、実を結ぼうとしている……周囲の気配を探り、俺は一つ確信した。


「セレン……いたぞ」

「どこに?」

「王城の近く……戦士達が集まっていた場所だ!」


 そこを目指し……俺が言い終えるよりも先にセレンは馬を走らせた。残る俺達も追随し、王城へ向け突き進んでいく。

 無論道中にいる魔物は全て倒し……そして到達しようとしていたまさにその時、目的地から爆音が聞こえてきた。交戦している……!


 逸る気持ちを抑えながら俺は気配を探り続ける。まだ敵は動いていない。そして周囲には敵を取り囲むように兵士か戦士の気配がある。彼らが城への侵入を防いでくれたようだ。

 そして、俺達は現場に到着した。倒れる兵士や戦士の姿を確認しながら馬を下り、目前に見える敵を見据え――


 次の瞬間、相手もまた見返し……奇妙な沈黙が訪れた。


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